真実の真相
勇人は夢を見ていた。
鈴木勇人としてではなく、矢城勇人として…。
夢だという事はありありと分かるのだが…。
どうにも奇妙な感じがして仕方ない。
「ココは…。
ドコだっけ…?
初めて来る場所なのに初めてな気がしない。」
しばらくだだっ広い空間を道なりに進んでいると…。
大富豪が住んでいそうな大きな洋館が見えてきた。
「あっ!そうだった。
俺はココへ呼ばれたんだったな。」
思い出せはしないが何となく分かる。
導かれるように、その屋敷へと近づくと、門の前に一人のメイドが立っていた。
メガネっ子ロリ顔巨乳のそのメイドは、勇人に軽く会釈をすると…。
「お待ちしておりました勇人様。
わざわざご足労頂き、ありがとうございます。
ご主人様がお待ちですよ。
さっ!こちらへどうぞ…。
案内致します。」
そう言って、館の中へと案内されていく。長い廊下を歩き回って、勇人は大型テレビのある大きな部屋へと通される。
とりあえず、ソファーへと腰掛けた。
「しばらくお待ち下さい。
只今、ご主人様をお呼びして参ります。」
メイドはそう言って出ていこうとしたが…。
足を止めると勇人に向き直り。
「勇人様。
あの子の事…。
よろしくお願いしますね。」
「えっ!?
あっ…ハイ…。」
誰の事をよろしく頼まれたのか分からないが…。
勇人はとりあえず、気の抜けた返事を返しておいた。
そのメイドは嬉しそうに、深々と丁寧にまた頭を下げ、部屋から出て行く。
じっくり考えていくと、思い当たる節が見えてきた。
しばらくすると、見た目が矢城勇人と同年代らしい少年がやって来た。
いかにもこのお屋敷の主人らしく、金持ちそうなお高い服装をしている。
「やあっ!ゴメンゴメン。
パンツ一丁で寝てて、着替えてたら遅くなっちゃって…。
とりあえず、格ゲーで対戦やろうぜ~。」
その人はそう気楽に言うと、勇人と某有名対戦格闘ゲームをし始める。
なかなかのゲーマーらしいがかなり弱い。
しばらく遊んでいると、その人は不意に質問してきた。
「でさっ…。
どうよ…アイツは…?
元気にしてる?」
アイツとしか言われなかったが、勇人にはそれが誰なのかは、なんとなく分かりだした。
ゲームを続けながら気の抜けた返事で…。
「ええまあ、元気にしてますよ。
アイツ。」
言葉少なめに答える…。
「君も気づいてるんだろ…?
アイツの変化に…。
この一戦が終わったら、少し見てもらいたいモノがあるんだ。」
そうその人が真顔で言い終わる前に、既に勝負は決まっていた。
「あの、もう終わってるんだけど…。」
「…。
えっと…今のはな。
無しだから…。
次のが本当にラストだから…。」
同じセリフを十数回聞かされる事になるが、勇人は容赦しない。
いい加減諦めたか。
「お前つっよいなぁ。
今度来た時はモンハンやろうぜ。
あっ!?
俺、片手剣使いだから、それ以外でなるべくお願いね。
それじゃ待ってて、今取って来るから!」
まるで他のゲームを持ってくるかのように、その人は一旦退室した。
ほどなくして大きさも見た目もガラスの金魚鉢のようなモノを持って来た。
その中には、ソフトボール大の水晶球みたいな物が、水も無いのにプカプカと浮いている。
金魚鉢を勇人の前へと置くと…。
「その玉の、中の方を覗いて見なよ。
なかなかの絶景だぞ。」
その人がそう促してきた。
勇人は言われるがまま覗いて見る。
すると水晶玉の中では、闇夜よりもなお暗い中空に、塩粒のようなキラキラと光る物体が、幾千幾億と無数にクルクルと廻りながら眩い光りを輝き放ち、涙が自然と出てくる程の愛おしい美しさを見せている。
勇人は美しい物を見た感動か、ポロポロと涙が出てくるのが分かった。
「コレは…!?もしかして…!?」
「そっ!君たちがいる宇宙そのモノだ。
そして、アイツの命。
魂そのモノとも言える代物だ。」
「っ!?……………。」
勇人はそれを聞くとある事を思い出した。
「そうか…。それでアインのヤツ。
あんなに必死に…。
しっかし…、ドコがメガネっ子ロリ顔巨乳の女子高生の余命少しの宇宙さんだよ!!
ジャロに訴えても良いレベルだぞ。
自分を助けて欲しいなら、そう言えば良いのに…。」
「まあ、そう言うな。
アイツも必死だったんだ。
あの時の君の精神状態で、正しい説明をしたとして、助けようと思い経ったかい?」
「…………………それは…。」
勇人はそう言われると、しかめっ面をして悩むのだった。
それを見たその人は、フッと笑いながら話しを振ってきた。
「本題に入ろう。
君もアイツの変化には気づいているんだろう。
良い変化と悪い変化に…。」
勇人はそう言われて、頭の中にパッとあの時の事を思い出す。
アインが、ソナタを部屋から連れだし学校に向かっている時の事である。
サンドイッチをほうばりながら、アインが昨日の事をソナタに説明し出す。
「えっ!?
昨日、鹿山先生とそんな事をやらかしてたのっ!?
それで、今日からは教頭先生がしばらく臨時担任になるのっ!?
ウソっ!?えっ!?
ゆうちゃん?それって本当!?」
どうやらソナタは何もかも、知らされ無いで連れ出されたらしい。
「へっ!?アイ君。
ソッ君に何も言って無いの…!?
僕はてっきり、鹿山先生がいない事を知らせたのかと思った。」
アインは口の中のサンドイッチを一気に飲み込み、勇人に説明した。
「イヤ…。………………んっん!
ソッ君に、鹿山先生が居なくなった事をキッカケにして、学校には戻って欲しくなかったんだ。
だってさ…。だって…。
そんな理由でソッ君が学校に戻ったら…。
ソッ君は鹿山先生に負けた事になっちゃうじゃん。
そんなのイヤだよ。
鹿山先生がいると分かってても、学校に行こうと決心して欲しかったんだ。
鹿山先生の存在を乗り越えて欲しかったんだ。」
「アイちゃん。」
ソナタは少し感動しているようだった。
勇人は勇人でアインの変化に驚いた。
アインは、ソナタの事を考え、自ら判断を下し、行動に出たのだ。
勇人に頼る事も、判断を仰ぐ事もなく。
まるで、成長を目の当たりにした驚きに近かった。
それが良い変化だと分かった。
勇人は悪い変化も考えたが、思い当たるふしが無かった。
「良い変化は分かるが…。
悪い変化というのは、ちょっと思い浮かばないな。」
「そうか…?
アイツの方は薄々感づいているよ。
その心の変化に…。
君も分かってるハズなんだが。
認識したくなくて、見て見ぬ振りをしてるだけなんじゃないかい?」
勇人はそれを聞いて少しカチンと頭にきた。
それを感じたその人は、勇人に諭すように語りだした。
「君がどう思おうと構わないが。
時にほんの少しの変化を見過ごす事で、取り返しのつかない状態にまでなってしまう事は、君も分かってるハズだ。
気をつけた方が良いよ。」
勇人は納得出来ないような、ぶ然とした態度でその人に質問してみた。
「あの…。
そんな事を言いたくて、僕を呼んだんですか?」
「イヤ。
もう一つ大切なお願いがしたくてね…。
ここから先は、アイツには秘密にしてもらいたいが…。
聞いてくれるかい?」
勇人はそこまで言われると、断るわけにもいかず静かに頷く。
その人はそれを見ると嬉しそうに微笑んだ。
「少し喉が渇いたね。
お茶でも入れさせよう。
誰かっ!?誰かあるっ!?」
ドアに向けて声を掛けると、今度は小さな可愛らしい女の子のメイドが、ペコリと会釈して入って来た。
「お呼びですかマスちゃん?」
「ノコ、お茶を頼む。
日本茶でもコーヒーでも何でも構わん。
一番上等なヤツを頼む。
後それに合う茶菓子もな。
それと…。
僕の事は、マイ マスターもしくはご主人様と呼ぶように…。」
「はい、まい・マスちゃん!!」
小さな女の子はそう大きな声で手を上げて返事をすると…。
ドアも開けっ放しでドタバタと走ってドコかへ行ってしまった。
「たくっ、しょうが無いな!」
その人は、何も気にして無いようだ。
勇人は少し気になったので質問してみた。
「あのもしかして…。
あの女の子も宇宙さん、なんですか?」
「ああ。
正確に答えるならあの子の魂が宇宙そのモノだな。
ココには他にもたくさんいるぞ。」
その人はそう言うと、庭の方へ目をやった。
勇人は窓際に移動し庭を眺めると、そこには様々な年齢の執事やメイドが、それぞれ仕事をしていた。
庭仕事、洗濯、掃除、窓拭き、中にはサボって昼寝をしている者もいた。
「この人達が全て宇宙…。」
「宇宙にも個性がある。
中には変わったヤツも出てくるさ。
アイツもまたその一人でね。」
その人がそう言った所で、先程の女の子が飲み物を銀のお盆に乗せて持ってきた。
コップやらがグラグラと左右に小刻みに揺れて危なっかしい。
「ま、まい・マスちゃ~ん…。
も、持ってきまし…うわっあぶっ!?
…たよ~…。
うわっとっと…。」
「ご苦労。
って…。
ノコ、これはお茶じゃなくて牛乳じゃ無いか…。
で、お茶請けがクッキーか…?」
「ちんすこうですっ!!
沖縄土産の定番商品ちんすこうです。
キャラメル味と塩味を持って来ました。コレほど最強にマッチングした組合せもそうそう無いですよ~。
夢の共演です。
悟空とピッコロがタッグを組んだ時のような衝撃物ですよ~。
最強なんです~。」
その子はそう言ってエッヘンと得意げに胸を張る。
どことなくズレた所が、アインに似ていると勇人は感じた。
「まあ、良い。
下がってノコも、みんなに見つからないようにコッソリ食べてよろしい。
ご苦労。」
「ヤッた~~~~~~!!
ありがとっ!!まい・マスちゃん!!」
女の子は喜ぶと、駆け足で今度はドアをバタンと閉めてに出て行った。
その人がコップに牛乳を注ぎ、勇人に勧める。
お互いひと口ずつ、牛乳とちんすこうを食べた所で、その人が話しを始めようとしたその時。
不意に先程の女の子が、またもバタンと勢いよく扉を開け、ドタバタと帰ってきた。
勇人の前へとズイっと顔を近づけると…。
「あのっ!?頑張って下さいねっ!?
アイ君の事、絶対っ絶対っ助けて下さい。
お願いっすっ!!」
「っ!?えっ!?あっ…。
ああ…。」
勇人がそうあっけに取られながら答えると…。
ノコという女の子はニッと笑顔になり、嬉しそうにドタバタと走りながら出て行くのだった。
その人はそれを見ながら、少し疲れた表情で勇人に言ってきた。
「ウチのメイドの無礼をスマナイ。
あの子もアイツを心配していてね。
実は僕からもお願いしたくって、君を呼んだんだ。
頼む、アイツを救ってやって欲しい。」
その人はそう言うと、勇人に対して頭を深々と下げる。
勇人は疑問に思った。
「じゃあ、何で地球を滅ぼそうとするんですか?
それさえあなたがしなけりゃ、簡単な事じゃ無いですか…」
その人は一つため息をつくと、勇人に真相を語りだす。
「それがそうもイカン。
元々の原因は、ほっといたら200年も保たずに、勝手に地球が人類によって滅びてしまう事が分かった事だ。
そこで当人と君を使って、地球圏内でバタフライ効果を起こす事にしたんだ。
隕石落としとソドムとゴモラの話しは、そのカモフラージュさ。
君とアイツに対するね。」
「あなたってぶっちゃけ、アインの言ってた神様って存在なんでしょ?
だったらチョチョイっと、何とかならなかったんですか?
宇宙戦争自体を、起こさせないとか。」
その人は勇人からそう言われると、悲しそうなやるせない表情を見せる。
「僕も万能じゃ無いんだ。
地球程の小ささになると、災害レベルを起こしたり救ったりするので手いっぱいだ。
まして人体位の人間関係になると…。
小さ過ぎて微調整をするには、僕には難しいんだよ。
宇宙戦争を起こさせないようにするには、様々な星へ同時に介入しなきゃならなくなる…。
投薬治療と似たようなモノさ。
病状の初期段階で原因をピンポイントで治療するのと…。
末期段階で様々な薬を使って治すのとでは、体に対する副作用の影響が違うだろ?
その時点で同時介入するにはアイツ自身が保たん。」
その人は、自らの無力さを実感しているようだ。
余りにもやるせない辛く悔しい表情を勇人に見せる。
その人は牛乳をもう一口飲み、心を落ち着かせて勇人に質問してきた。
「君は、前の人生でさ…。
心がかきむしられる程、悶える程に心を痛めた事はあるか…?」
「失恋とかでなら、1回だけそんな状態になった事がありますけど…。
それが何か?」
「もしもそんな状態が、延々と治る事なく続くとしたら…?
君ならどうなる?」
勇人はそう問われるとしばらく考え、少しずつ答えを返していった。
「それは…!
そうですね……。
睡眠と摂食障害になって精神不安定に…。
しばらくすると肉体と言動に変化が生じて…。
攻撃的、感情的、情緒的に不安定に変化し、異常行動と奇行が目立つようになり…。
しまいには…自殺もあるかと思いますが。」
それを聞いたその人は、どこか達観したような表情で呟くように言った。
「それがアイツの最後の姿だよ。
人類滅亡を阻止出来なければね…。
自殺って所を、僕がコイツを叩き壊すってのに替えたら…。
まんまその通りの筋道を通る事になる。」
その人はそう言って、金魚鉢を指でコンと弾く。
キーーーーーーーン…
静寂する部屋の中。
金魚鉢の共鳴音が甲高い音を、いつまでも耳の中で響かせていく。
「………そんな……。
何でそんな事に…。」
勇人は身を乗り出し、神様という存在であろう少年へと詰め寄った。
「君のいるうつつよでも、時に精神が肉体に変化をもたらすだろ?
この世界でもそれは起きる。
心が肉体に影響を与えやすいんだ。
コイツの中の宇宙で起こる事象が、肉体に影響を与えていくのさ。
憎しみ恨みつのり、負の感情が止めどなく溢れる宇宙戦争を…。
いつまでもドンパチやらかされたら、あいつには悶える程の精神的な苦痛となってしまう。
ある事で心を病んで変貌してしまうのだよアイツは…。
変わってしまうんだ。
他の宇宙にまで、最悪の悪影響を与えるようになるので…やむを得ず。
僕がコイツを壊さざる負えなくなる。」
その人の声は冷淡に冷静な声ではあったが…。
明らかに無理に感情を押し殺しているのが、勇人には分かった。
「その事はアインには…?」
「アイツはこの事は知らないよ。
あくまでも僕が、ウルサくて癇癪を起こし叩き割るモノだと思い込んでる。
だが、それで良いんだ。
何も全てを知る必要は無い。
知る事は時に、取り返しのつかぬ事だからな。」
その人は残った牛乳を一気にグイッと飲み机に置くと、勇人に向かって真剣な眼差しでお願いしてきた。
「最良の策は、君が阻止する事だ。
それ以外では、アイツには不幸な結末しか残されていない。
宇宙が壊れかねない時を戻すという、最大の無茶までしたんだ。
君以外で最良の人物と、最良なタイミングはあの時しかなかった。
頼む。
アインを助けてやってくれ…。」
その人は、その時になって始めてアインの名前を出した。
深々と頭を下げる姿は小刻みに震え、その人の真剣な気持ちが勇人には伝わってくる。
その思いに勇人は答えた。
「勿論、当たり前じゃないですか…。
任せて下さいよ…。
だってアイツは…。
あれ…?」
自らの心の素直な思いを出そうとしたその時!!
そこで勇人の視界が思わずぼやけてきた。
目を覚ますのかと思ったが…。
その気配は無い。
何事かと目をこすると、それは…。
涙だった。
いつの間にか勝手に溢れ出ていたようだ。
感情から自然と出てくる。
腕で涙を拭うと、その人に言い直そうと向き直った。
「当たり前です…。
だってアインはオレの…。
あれっ~…!?」
またも視界がぼやけたと思ったら、今度は本当に目を覚ますようだった。
その人は最後に、勇人に向かって…。
「とりあえず、頼んだよ~。
ちんすこうお土産に持たせてやるから~…。
本当に頼んだよ~…。」
勇人が目を覚ますと、そこは勇人とアインの部屋だった。
アインはまだいびきをかきながら、健やかに眠っているようだ。
勇人にとってのちょっと変わった、当たり前の日常に戻ったのだ。
朝も完全に明け。
日差しも強く少しばかり蒸し暑くなった部屋で、少し長めに伸びてきた髪に寝汗が煌めく。
ふと右手を見て見ると…。
一つのちんすこうが、その手にしっかりと握られていた。
それは勇人が今まで見た夢が、タダの夢ではない事の証明でもあったが。
しっかりと握られていたので、粉々に砕け、汗で湿気て食えたモンでなくなっていた…。
「嫌がらせかよ。」
勇人は思わず、その人に適切なツッコミを入れ。
粗末にするのも勿体ないので口に入れた。
ふとアインの顔を覗き込んで見る。
正直、よだれを垂らしニヤケ顔のその寝姿は、いつもと変わらない間抜けな寝姿だ。
「悪い変化なんて本当に起こってるのか…?」
一抹の不安が、胸の中でモヤモヤとした不快感を放っているが。
ふやけたちんすこうが、口の中で放っている不快感の方が勝っていたので…。
とりあえず、牛乳を求め台所へと向かう勇人だった。
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