独裁体制はキヅケナイ 決戦編

ソナタが登校拒否になるキッカケから一週間目の朝。

作戦決行当日。

月曜日。

昨日の今日ではあったが、山田 華が前もって作戦を立て、準備を着々と進めていたので、決行する事が出来ていた。

何より、作戦を即時決行しなければならない理由もあった。

勇人とアインは、珍しく早起きして天美母さんを驚かせる。


「あらっ!?

珍しいじゃない二人共。

起こさないで、一人でに起きて来るなんて…。

まだ6時よ…。

お父さんより早いじゃない。

どうしたの?

ソナタ君を迎えに行くのに、いつもより早く出かけるの?」


「ちょっとね。」


「うん、ちょっと…。

お母さん。朝ご飯食べたいんだけど…。」


「分かったわ。

お父さんはもう少し寝かせといて、先に食べてましょうか。

ちょっと待ってなさい。」


天美母さんが台所に向かい、朝食のご飯をよそっていると、勇人とアインは何気なくテレビのニュースを眺め出した。

何か大きな事をする朝は、どうにも普段とは少し違った雰囲気と空気が、二人の周りにまとわりついていた。


その時!!


勇人に予期せぬ事が起きる。

何気なく見ていたニュースで、ある事件が流されたのだ。

その事件は、家の中でガスを発生させ、自殺をしたニュースであった。

巻き添えとして家族まで巻き込まれ、大々的にニュースを流している。

そしてその被害者であり、また加害者でもある名前は、どこかで見た事があると思った瞬間に勇人は思い出した。


『っ!?この名前は…!!』


件のクラスの、不登校になったであろう子供の名前と逆算した年齢が同じだった。


勿論、同一人物とは限らないと、勇人は思った。

思いたかった。


ただこの段階では、名前と年齢と地域が酷似しているだけとしか分からない…。

だが、おそらくは……。

イヤ、間違いなく……。


このニュースは、勇人の心を動揺させるには十分だった。


「どしたの?ゆう君?」


「な、何でもないよ…。

あい君…。

ちょっと顔を洗って来る…。」


どうやら、アインは気づいてはいないようだ。

勇人にはそれだけが幸いだった。

また、一人で背負い込む事になる。


そして、この後。

ソナタを迎えに行き、カナタと出会った場面へと回帰する。


勇人、アイン、カナタの3人が小学校へと向かっていると、しまぽんと出会い明るく挨拶して来た。


「オッハー、ゆうあいコンビ。

それとカナタん。」


「おはよう。しまぽんさん。」


「よッす。」


「オッハー、しまぽんは元気だな…。

緊張して無いの?」


勇人がそう聞くとしまぽんは…。


「失礼ね…。

私だって緊張してるわよ。

手のひらに汗かいてるんだよ。

ホラっ!」


「……………、ほ、ホントだ…。」


そう言ってしまぽんは、勇人達の眼前に手のひらを見せたが…。

確かにしっとり汗ばんでいるようだ。

勇人にはそのしまぽんの何気ない行為が、なぜかいやらしく見えドキドキした。

そんなやりとりをして進んでいると…。

学校の近くの公園で、山田 華と土那高マキが勇人達が来るのを待っていた。


「おはよう、みんな。

岩倉君、もう耳は大丈夫なの?」


「電話で言っただろ、大丈夫だって。

もう気にしてないよ、オレがやらかした事なんだし。

そう何度も謝らなくて良いよ山田。」


「べ、別に謝ってないじゃない…。」


山田 華の以外な一面を、カナタの言葉から垣間見た気がする。


トントン…。


山田 華とカナタが言いあってる最中、土那高マキが勇人の肩を指で叩いて来た。

何か話しがあるようだ。

みんなには聞こえ無いように小声で会話した。


「どした?マキちゃん?」


「あ…、あの…。や、矢城君のお兄さん…。

ニュース…。

その…見ました…か?」


「ああ、見た…。

マキちゃんも気づいたか。」


マキはコクリと小さく頷いた。


「ど、どうしましょう…?

み、皆さんに知らせた方が…。

い、いいんでしょう…か?」


どうやら、その事で勇人に相談してきたようだ。勇人は冷静に答える。


「イヤ、今は止めとこう…。

大事な作戦の前に余計な動揺はさせたく無い…。」


「そ、そですね…。」


「それよりもマキちゃん。みんなに朝の挨拶しなよ…。

人とのコミュニケーションに慣れるには、まずは挨拶からだよ。」


「は、はい…!?

あ、あの、えと…み、皆さん…!」


勇人にそう促されて、マキはみんなに挨拶する事にした。

したのは良かったのだが…。

みんなに注目されると…。


「お、お、お、おは、おは、おはようごさ…、い…、ます…。」


やはり慣れないのか、どもって声も小さくなり変な挨拶になってしまった。


マキはそんな挨拶しか出来なかった情けなさに、少し泣きが入った

それを見たしまぽんが真っ先に…。


「ドナちゃん。オッハー!!

オッハーで良いんだよ、オッハーっでっ。

こういう時はさ。

クラスメートなんだから。

気楽に行こうよ。

ねっ?」


そう言ってフォローに入る。

こういうフォローはしまぽんらしい。


「は、ハイ…。お、お、オッハー…。」


「うん、おはよう土那高さん。」


「おはよう。土那高。」


アインとカナタがそう挨拶をする中、勇人だけ…。


「ふっ…おはようっマキちゃん!!」


親指を立てキラリと光る白い歯。

親しさを勇人なりに表現してみた。


「っ!?」


ゴッ!!


「ぐおっ!?」


が、マキが恥ずかしながらイヤな顔をしたので、すかさず山田が勇人の肩をパンチで殴る。

どうやら、まだ早過ぎたらしい。

挨拶が終わった所で、みんなで作戦の最終確認をし出す。

するとカナタが山田 華にお願いをしてきた。


「なあ、山田…。

勇人とアインからどんな事をするのか、ここに来るまでに大まかに聞いたよ。

オレに、カステラ作戦までは、手伝わせてくれないか?

頼む…!!」


「それは構わないけど…。

良いの?

昨日作ってみたけど、本当にキツいわよ。

みんながドン引く位ね。

後々で何を噂されても、私は知らないわよ。

それでも良いなら構わないけど…。」


山田の許可が下りると、カナタは嬉しそうにニッと笑い…。


「あの日から一週間。

バ鹿山に一矢報いる絶好のチャンスなんだ構わん!!

むしろオレは喜んでやるよ。

嬉しいくらいだ。」


そう言った。

その笑顔を見たアインは…。


「えっ!?

カっ君て、まさかそんな趣味がっ!?

だ、ダメだよ!

ゆう君みたいに変態になっちゃ。

真面目なカッ君まで変態になったら、誰がゆう君を止めるの?」


「ち、違げぇよっ。アイン。

そんな趣味はねえよっ!!

勇人みたいな変態になった訳じゃねえって!!

仕方なくだよっ仕方なくっ!!

仕方なくやるんだよ!!」


「本当に知らないわよ私はっ…。

全くバカ勇人に毒されて、岩倉君まで下品になっちゃって…。」


「それは確かに否定出来ないな。」


「えっ!?

否定しろよカっ君…。

てか、あらゆる事を否定してよカッ君。」


あっさり肯定したカナタに、勇人はツッコミを入れる。

そんな所で学校の予鈴がなった。

残り5分で遅刻となってしまう。


勇人が一言仕切りを入れる。


「みんな…。

コレが成功するかしないかで、僕達の運命は大きく変わるだろう。

それは紛れも無い事実だ。

バ鹿山までの壁は4枚。

財力の金の壁。

有力者の口添えの壁。

学校組織の守りの壁。

教師として権威の壁。

厚い壁だが破れなくは無い、全て破ってバ鹿山を討つ!!

上手くいったらさ…。

ソッ君引っ張り出して、みんなで一緒にメシでも食ってお祝いしようぜ。」


勇人がみんなの顔を見ると、みなそれぞれ静かにコクリと頷いた。

そして勇人は力強く断言する!


「よしっ!

あすの給食のプリンでっ!

お祝いだっ!!!」


「「「給食かよっ!!!!!」」」


みんなから絶妙なタイミングで総ツッコミを入れられた。


『流石は勇人様…。

皆さんに緊張感を持たせつつ、その緊張を一瞬でほぐすなんて…。

勇人様…。恐ろしい子…。』


みなからツッコミで、はたかれる勇人を見ながら…。

アインはそう心の中で、少女マンガ風のボケツッコミを入れるのだった。


時は刻々と流れる。

鹿山先生の授業を聞き流しつつ、作戦決行のその時が来るのを静かに待つ…。


体育の時間直前。

しまぽんとマキが行動に出だす。

鹿山先生に訴え出た。


「先生。

土那高さんが気分が悪いそうです。

保健室へ連れて行って良いですか?」


「ちょっと待て…。志摩本、土那高。」


懐疑的な鹿山先生が、土那高の額に触ると、確かに熱があるようだった。

少しばかり熱い。


「確かに熱があるな…。

保健室へ連れてってやれ…。」


こうしてしまぽんとマキは教室を離脱した。

勿論ウソである。

古典的ではあるが、カイロを額に当てて熱を上げた。

カイロとは無縁の、今の時期だからこそ騙しやすい手である。

しまぽんとマキが教室を出る寸前に…。

二人は勇人達に目でモノを伝えてきた。


『『頑張って…。』』


勇人にはそう感じた。

多分そうなのだろう。

勇人達もそれにコクリと答える。


やはり今回の体育も、体育館でのマット運動であった。

ジメジメした体育館内で児童達は、来週からの水泳の授業に思いはせ始めている。

鹿山先生がやって来て体育の授業が始まった。


「よ~しじゃあ早速。

準備運動から始め…。」


その鹿山先生のセリフで、児童達が適当な間隔あけ、準備体操を始めようとした時である。


勇人がスッと手を上げ、鹿山先生にある事を訴えてきた。


「先生~~~~~~。

オシッコ~~~~~~~~~~。」


「おい…。

どうして今頃になって言うんだ。

前もってトイレくらい行っ…。」


トイレを訴えた勇人は、そう鹿山先生が言い終わる前に…。


「漏らしました~~~~~~~~。」


「「「っ!!!!!?????」」」


そう告白して、周囲の生徒と鹿山先生をドン引きさせた。

勇人の足元からは、確かに液体がしたたり落ち、ちょっとした水溜まりを作っていた。

すると、アインとカナタもまた、勇人に続くようにスッと手上げ…。


「先生~~~~~~~!!

僕も~~~~~~~!!」


「オレも~~~~~~~~!!」


「「サンハイ…、漏らしました~~~~!!!」」


「「「な、なに~~~っ!!!???」」」


『小さくサンハイ言うた…。』


まるで卒業式時のような、小学校での思い出を語るハモりのように、二人はハモっていた。

クラスの児童一堂驚愕の声を上げる。

心の中でツッコミを入れたのは、勿論勇人だ。


二人の股関もまた、液体で濡れ湿っている。

周囲はドン引き!!

だが、鹿山先生は違ったようだ…。

怒りにワナワナと身を打ち震わせ。

眉間にシワを寄せ3人に怒鳴り散らしたっ!!


「バ、バッカ野郎~~~~~!!

矢城兄弟…!!岩倉!!!

先週に続いて

お前らまで何だっ!!

漏らすまで何も言いやがらないでっ!!

オレに対するあてつけかっ!?

ふざけんなっ!!

罰としてそのまま校内走らせっぞ!!」


それを聞いた勇人らは…。


「あっ!?

そりゃあ都合が良いや…。

鹿山先生からそう言ってくれるなんて…。

なあっ?アイ君。カッ君。」


「そ、そ、そだね…。ゆう君…。

やっぱり、は、恥ずかしいなぁ…。」


「仕方ねえなぁ…。

オレも鹿山先生の言う通りにするかなぁ。

先生の言いつけじゃあしょうがねぇもんなぁ。」


3人はそうしゃべりながら、体操服の下の短パンをおもむろに脱ぎ出し、上半身体操服で下半身は濡れたパンツ姿になりだす。

勇人の隣りにいた須藤カズヤが、ドン引きながらも勇人に質問してきた。


「な、何やってんだよ…!?お前ら…?」


「何って?そりゃあ決まってる…。

こうするのさっ!!」


勇人はそう答えるが早いが、アインとカナタをまくし立てる。


「アイ君!カッ君!行くぞっ!。

バ鹿山にジェットストリームパンツアタックをかける!!」


「オウっ!任せろっ!!」


「こうなりゃヤケですっ!はっちゃけますっ!!

三位一体根性友情合体必殺技~~~!!」


「「「パンツッ!!!

ジェットストリ~~~ム!!!

アタッ~~~~~~ク!!!」」」


3人はそう叫びながら、オシッコで濡れた体操服の短パン片手に、縦列状態で鹿山先生に走って向かって行く。


「なんっ!?だと…。」


鹿山先生は勇人達が何をして来るか一瞬で判断した。


「食らえ!!バ鹿山~~~!!

ソッ君の敵~~~~!!」


びゅっ!!


そう言って勇人は、鹿山先生に短パンを投げた!

第一濡れ短パンが、鹿山の顔前へと迫る。


「くっ!?」


しかし、鹿山先生の反応が思いの他よく、寸ででかわされてしまう。

だがっ!?


「今だアイ君!!カッ君!!」


「分かってる!!勇人!」


「大丈夫!!当てるっ!!」


勇人のその合図と共に勇人の後ろをチューチュートレインの如く、アインとカナタが鹿山先生の顔に立て続けに第2、第3濡れ短パンを投げ…。


べしゃっ!!

ばちゃっ!!


「っ!」


今度の攻撃はクリーンヒット!

見事に鹿山先生の顔面を、濡れ短パンがブチ当たった。


そう!


勇人の最初の攻撃は相手にワザとかわさせ、上体が不安定になりバランスを崩した所で…。

第2第3攻撃をかわされないように確実に当てる。

これが!!

初代ガンダムの、ガイア、オルテガ、マッシュの黒い三連星からヒントを得て編み出した必殺技。

パンツジェットストリームアタックの正体だった!!


「ヤッフ~~~~!!

やったぜアイ君。カッ君。

見事顔面にクリーンヒットだ!

ざまぁ見ろ!!バ鹿山!!」


「よっしゃっ!!こうも上手くいくなんて案外バ鹿山も対した事無かったな。

チョロいチョロい。」


「あ、あれ~。おかしいなぁ…。

は、恥ずかしいけど…。

恥ずかしいんだけど…。

な、何だろこの感覚…。

い、イエイっ!!やったねっ!!」


オシッコで濡れた体操服の短パンをブチ当てられ、鹿山先生は怒りの凄い形相になっていた。


「お…お前ら…。

こんな事して…。

タダで済むと思ってんのか…。

あっ!?」


「いや、思って無いよ。だからさ…。」


3人は目配せし、合図を送り合うと…。


「「「逃げるっ!!!」」」


同時にそう言うと3人は、下半身パンツ姿のままで一斉に体育館から校舎内へと逃げ出して行く。

まさか校舎内へと逃げるとは、鹿山先生は思いもしなかったので、つい見逃してしまた。


「にっ、逃がすかよ…!!」


一瞬遅れて鹿山先生は、怒気のある表情を見せながら、3人を追いかけ出した。

鹿山先生が完全に居なくなった所で、山田 華がクラスのみんなに対し、説明しだす。


「みんな、ちょっと聞いて欲しいんだけど…。」


一方、3人は校舎内の廊下を、鹿山先生からそれこそ必死に逃げていた。


「待てっ!!ぐるぁ~~~~~!!

クソガキ共~~~~~~~~!!!

止まらんとぶっ殺すぞ~~!!!」


「やっべ~~~~~。ハッ

バ鹿山ハッ、思ったハッ、以上にハッ、

やたらハッ、足ハッ、はえーぞ。」


全速力で逃げながらしゃべってるので、勇人の息が切れかかっている。

アインも同様のようだ。


「ゆう君。ハッちょっとハッ遠いけどハッ…。

…ンクッ…

もうハッ、やってハッ、良いかな?」


「カッ君っハッ!?

先にハッ、行ってハッ、

しまぽん達からハッ、

横っ腹イッテ~!

例の物ハッうぉ…。」


「任せろっ!取って来る!!」


カナタはそう言うと同時に、速力をグンっと上げ二人を追い越していった。

それと同時にアインと勇人は走りながら…。

腰に巻きつけていた小さなビニール袋を指で破き。

廊下の辺り一面に何か小さな物を…。


バラバラ~


ブチ撒けて広げた。

全速力で走っていた鹿山先生は、それに足を捕られ…。


「うおっ!?」


バッタ~~~ンッ!!


思いっきりスッ転んでしまう。

鹿山先生が足元に無数に転がるそれを、一粒つまみ上げると、それは…。


「いって~~~。

ビ…、BB弾だと…?」


そう…。

廊下には無数のBB弾が撒き散らかされていた。


「あのクソガキ共~~~~~!!

なめた事しやがって~~~~~!!」


益々怒りがこみ上げ、怒髪天を付きそうな形相の鹿山先生。

そんな鹿山先生が立ち上がろうとした時である。


ヒュッ!!


「っ!?」


鹿山先生の顔の横を何かが通り過ぎた。

廊下の先の方から来たそれは…。

カナタが大きめの木製スプーンで出来た簡易投石木で、タッパーの中に入っている何かを、鹿山先生に当てようと投げたようだ。


「チッ!!

カッ君惜しい。もう少しだったのに…。

やっぱり遠すぎたんだ。」


「大丈夫っ!カッ君なら次は当てる事が出来るっ!!」


「ああ、こんな距離位…。なんとでも…。

もう一丁~~!!当たれ~~~!!」


ヒュッ!!


カナタはまた何かを鹿山先生に向かって投げた。


「ぬっ!?」


カナタが投げ付けて来たそれを、鹿山先生はよけようとした瞬間っ!

思わずBB弾に足を取られバランスを崩しこけそうになる。

それが運よく…。


バシャン


鹿山先生の顔面にクリティカルヒット。

ある意味ウンが良かった。

鹿山先生の顔面に非常に柔らかい。

何かがくっついた。

鹿山先生はまだそれが何かは分からない。

あまりにも廊下が騒がしいので、授業中だった他の教師が、何事かとドアを開け様子を見に来た。


「ど、どうしたんですか鹿山先生…!?

コレはいったい…!?

うおっっわっぷ!?

クッサっ!!!何これ?

クッさー!!鹿山先生クッサっ!?」


鹿山先生もあまりの臭さにえずいていた…。


「う゛うおぇっ!?

な、なんだ?…?なんだコレは…?

う゛っ!?ヴォーえぇぇ!!

くっ!!クッセー!!

ウンコだ!?

ウンコじゃねえかっ!!

あいつ等クソ投げてきやがった!!」


鹿山先生は、顔についたそれを手に取って確認すると、ウンコだと断定してしまった。


見た目はウンコ。

匂いは生ゴミ。

つまりはニセウンコ。


もはやウンコだと断定しても良いのだろうが、実は違う!!

カステラの薄紙の方に付着するおこげを集め。

そこにすりつぶした果物のドリアンと、具材を叩き潰したレトルトカレー。

更に少量の牛乳にカラメルソースを混ぜ合わせ、ウンコのような形状に見せかけた物体。

それがこの物体、ニセウンコの正体だった。

潰れたニンジンやジャガイモ、肉の欠片がまさしくウンコに見せかけた。

食べればおそらくは美味しいのだろうが…。

ウンコだと思い込んだそれを、口に運ぶ事など出来る訳がなかった。


「やッた~~~!!

あたった~~~~~~~!!

凄い!凄いよカっ君!!」


「流石はカッ君、こんな距離でも…。

何ともないぜっ!!」


「うっしっ!!

ざまぁ~~~~~~~!!

悔しかったら捕まえて見ろ~~~!!

ばーか、バ~カ。

バ・か・や・ま~~~~~~!!」


勇人達3人はことさら鹿山先生に煽りを入れ、自らの教室の方へ逃げていくのだった。


ブチッ…!!


この瞬間、鹿山先生は完全にキレた。


5分程して、鹿山先生は自らのクラスの教室の前にいた。

鹿山先生が教室のドアを開けると…。


ガラッ


「きゃ~~~~~~!?

今になって来やがった~!?」


そこには勇人が、パンツを脱ごうとする一歩手前にばったり鉢合わせてしまった。

教室の中にアインとカナタの姿はない。

慌ててパンツをはき戻す。


勇人は濡れたパンツ姿のまま、鹿山先生を待っていたのだが…。

やはりどうにも着心地が悪い。

待てど暮らせど、なかなか来ないので…。

パンツだけでもはき替えようとした寸でで…。

鹿山先生が来てしまったのだ。


「よ、よう遅かったな…。」


勇人の子供チンコが、ブリーフの横からコンニチハをしながらも、勇人は体裁を整えカッコつける。

そんな面白状態にも関わらず。

鹿山先生はクスリともせず、落ち着いた雰囲気でしゃべりだした。

ブチ切れてたはずの先ほどとは、随分と雰囲気が違う。


「少々ね…。

顔を洗って匂いを落とそうとしたら…。

トイレに隠れてた、ゴミを一匹見つけてね。

多少きつめにお仕置きをしてたら…。

遅くなってしまったよ。」


「ま、まさか…?

お前が行ったトイレって…。」


勇人の額に冷たい汗が流れる。

悪い予感が、じわりじわりと心臓を押し上げるように溢れ出る。


「岩倉に感謝しろよ矢城…。

随分とスッキリした。

おかげさまで、少し気が晴れた。」


「…………っ……!?」


勇人の完全な誤算だった。

カステラ攻撃の後、鹿山先生はすぐさま勇人達を探し、教室に来るだろうと踏んでいた。

故にトイレの個室なら大丈夫だろうと思い。

急きょ参加する事になったカナタを、そこに隠れさせたのが裏目に出てしまった。


だが、勇人はひるむ訳にはいかなかった。

賽は既に投げられている。

だが、勇人は自らの最大の疑問。

これだけは、鹿山先生に聞かずにはおられなかった。


「見た目にダメージがなさそうだな。

カッ君は…抵抗しなかったのかよ…?」


「ふっ…。

やり返す間を、やるわけねえだろ~。

一方的にボコってやったさ。

安心しろ矢城、次はお前だ。

顔面ボッコボコにへこませてやる。

その次にお前の弟だ。」


「そうか…。」『ありがとうカナタ…。』


鹿山先生から状況を聞いた勇人は、カナタの意志を受けとる事が出来た。

心を鬼にして気持ちを切り替え、勇人は冷静に鹿山先生に煽りを入れる。


「ボコボコにされる前に、既にお前が臭くてダメージを食らってるさ。

まだ、匂うぞバ鹿山。

あっ!?

この匂いはお前の口臭だったか!!」


ブチッ!!


勇人はやたらと煽る。

その煽り言葉と、チンコが見えた状態が、鹿山先生を更にムカつかせた。

落ち着いていた鹿山先生も、少しずつ化けの皮が剥がれていく。


「矢城…お前…。

本気でボコボコにされてぇみたいだなぁ…。

チンコ引きちぎっぞ!!

泣きながら土下座して謝まるまで許さねぇ。」


鹿山先生は怒りの形相で睨みつけてくると、指をバキポキと鳴らしだす。

セリフが不気味だ。

だが、勇人はそれを軽く受け流す…。


「チンコ引きちぎるって…。

そいつは怖いな。

土下座しても許す気なんて無いくせに…。

ならそうなる前に、一つあんたに聞いとこうか…。鹿山先生…。

なぜ、あんたはソっ君をイジメた…?」


「あっ?イジメ…?

ウチのクラスにイジメなどあるか?

まして教師の俺が、生徒をイジメるわけ無いだろ。

あれがイジメに見えたなら…、タダの甘えだ。

ゆとり世代はコレだから…。

イジメの判断も付かんとはな。

あんなの躾の内だ。

社会に出たらもっといびつだぞ。

むしろ今のウチに慣れなければ、ドコに行ってもヤツの結果は同じだ。」


勇人はそれ聞くと、鹿山先生に紙の束をポンと投げ渡した。

鹿山先生は片手で軽々と受け止める。


「あくまで、イジメてはないって言い張るか。

ならソレはどう説明する?」


「なんだコレは…!?」


「その写真に、見覚えあるだろ?。」


鹿山先生はイラつきながらも、ざっとそれを見渡す…。

それは、例の生徒達の写真をプリントアウトしホッチキスでまとめた物だ。


「何だ…。

何かと思えば、俺の元生徒の写真じゃないか…。

あのホームページ。

まだ残ってたか…。」


「その中の、田所 天気って生徒…。

あんたはどうなったか知ってるのか…?

その生徒は…。」


「自殺したんだろ?中学に入って…。」


勇人がそれを説明しようとする前に、鹿山先生はまるで他人事のようにあっけなく答えた。


鹿山先生は知っていた。


あんまりにもあっさり答えられたので、鹿山先生の動揺を誘うつもりが、勇人は逆に動揺する。

勇人第2の誤算であった。


「あんたの元教え子だろっ…?

どうしてそんなに…。

あっけなく言えるんだ…?」


「あいつはすぐにヘタれて学校に来なくなったからな。

特に思い入れも無い…。

だが、如何せん俺の一応元教え子だからな。

自殺した時に連絡は来たがそれだけだ。」


他人事…。

イヤ、ソレよりもタチが悪い。


最初から関係すら無いかの口振り。

それを聞いた勇人は、思わず大声で…。


「その子が学校に来なくなったのは、あんたのせいだろうがっ!

お前がソッ君にやったようにっ!!

委員長に任命して、その子をいびる事で、クラスをまとめあげた。

そうだろう!?

学校裏サイトに、貴様のやった事が詳細に書かれてたぞっ!!」


鹿山先生に感情的に言い放つ。

だが、鹿山先生は勇人を蔑んだ哀れみの目で見ていた。


頭の弱いバカなサルを見るような見下した瞳だ。


「ネットで見た?

はぁっ!?

バカかお前は?

そんな根拠で判断したのか?

本当のバカだな…。

証拠という物を見ないガキの発想だ。

ネットに書かれてた事を鵜呑みにして、何も考えないとは…。

田所は中学でイジメにあったから、自殺したんだろうと考え無いのか?

オレのせいにするな。

そんなバカ、先生は大嫌いだな…。」


鹿山先生は勇人に同情をするような眼差しで…。

あくまでも、何も無かったかのような振る舞いで話し続ける。

イニシアチブを握るつもりが、逆手を取られ振り回されているようだ。

その状況が勇人をイラだたせる。

だが、落ち着いて自らが仕入れた情報を手札として切っていく。


「田所って人が何で自殺したのか、具体的な根拠はあるかと聞かれたら…。

そりゃあないよ。

だが、お前の今の行動と、過去の行動から間接的にでも原因になってるだろ?

田所って生徒だけじゃない。

他にもまだまだいるな、お前が今まで受け持ってきたクラスで、不登校になったヤツが。」


「お前が担任やってる時に、自殺未遂した女の子の事はどうだ?

河原って子だ。

お前の過去を遡っていったらなぁ。

そう断定出来るモンを、色々と見つける事が出来るんだよっ!!」


それを聞いた鹿山先生は、しばらく沈黙し…。

まるで子供がちょっとしたイタズラがバレた時のような振る舞いを見せる。


「………ありゃぁ…。

そうか、そこまで調べたか。

あれだけが、唯一の俺の汚点であり失敗だ。

言っとくが、俺は誤解され無い為にあえて言わなかったんだ。

隠してた訳じゃ無い。

綾乃の事はしっかり示談した。

それに、あの女を追い詰めたのは俺じゃ無いぞ。

最近のガキは、イジメに手加減と容赦が無くてイカン。」


「アレだけが…?アレだけがだと!?

アンタに人生を壊されたヤツらに、責任感じて悪いとは思わないのか?」


鹿山先生のその態度が勇人をついに激昂に追いやる。

だが、やはり鹿山先生はひるまない。

のらりくらりと交わして行く。


「お前はこの日本での責任って物を、よく理解してないようだ。

お前のようなバカでも、簡単に理解出来るシステムなんだがな。


この国の責任ってのは…。

トランプのババ抜きその物だ。

分かりやすいだろ?

最後に厄介者のババを押し付けてでも、ババを持ってたヤツが責任と罰を取らされる。

そんなシステムだぞ。」


「ウソだっ!!!!!!!!」


激昂の流れで勇人は、握り拳に力を入れ大声で否定するのだが、やはり鹿山先生は止まらない。


「ウソなもんか…。

世の中それで上手いこと回ってんだ。実例を上げてやろう。


とある高校で、入学して1ヶ月の新入生が強盗事件を起こした。

するとその高校の校長がテレビ取材で、謝罪会見を開き謝罪し。

責任を取らされるハメになった。

1ヶ月間で生徒の心根と性根を、劇的にまるごと変えろとは、ムチャ振りにも程があるが…。」


「それが世の中の責任の取らせ方だ。

一旦手元から離れた人材は、次にそれを一瞬でも拾ったヤツが責任を追う。


まさしく、ババ抜きだ。


ゆえに、オレが責任を負い悪いと思うのは自殺未遂をやらかしたバカ女一人分だし、ちゃんと示談もした。

それとも何か…?

償った罪すら、一切許さずに永遠と責任を問い詰めると言うのかお前はっ?

寛容という許す心の無い無慈悲なヤツだな。」


「………っ………。」


現実の言葉が、勇人自身を全てを押し流すかのように襲う。

勇人は反論したかったが、確かにそんな事件があった事を知っていた。

現実を知っているゆえに、その事について反論が出来なかった。

歯噛みするしかなかった。

だが、心から絞り出すように勇人は反論する。


「そ、それでも…。

アンタは教師かよっ!?

お前に人生壊されて、自殺で家族まで巻き込んでるヤツだっているんだぞ。

それが教師の言う事か…。」


「言ったハズだ、綾乃以外は知った事かと…。

貴様こそ教師を何だと思ってるんだ?

教師の仕事ってのは…。

ガキの模試と入試のテストの点を上げさせる手伝いをするだけさ。

教師はサービス業じゃ無い。

お前の両親でもなけりゃ。

友達でも、良き理解者でもねぇ。

教師にテストの点上げ以上を、望むなよ。

何でもかんでも、教師に求め過ぎだ。

欲張りにもほどがある。」


「………っ………。」


勇人はもはや何も言えなかった。

鹿山先生は続け様に言う。


「俺だって教師に成り立ての頃はな。

子供達を立派な人間に育てようとしたさ。

イジメをしない優しい良い子にな。

だがな…。

生徒も親も、そんな事は一切!!

望んじゃいねぇんだよ。

子供がお受験のテストで、点を取れるように育てた教師。

それが親と学校、教育委員会にとっても、最良の教師なんだ。」


「俺は考えたよ

どうやれば生徒の模試の点を上げられるか。

だがな、最近のガキは授業はまともに聞きやしないは、宿題もまともにやって来ない。

そのくせ模試の点が悪いと教え方が悪いと人のせいだ。

俺だけが努力しても模試の点は上がらねぇんだよ。

テストを受ける本人が努力しない限りな。

最近のクソガキは猿以下だ。

そんな猿に効率よく宿題をやらせ、劇的にテストの点を上げさせるには…。

無理にでも押し付け、無理やりにでもやらせるのが一番なんだ。」


「だからこそ、俺のこの教育の仕方が、生徒達を幸せにする。

みんなそれを望んでいる。

お前の言う、その過去の実績がそれを証明してるぞ。

ガキ共の全国学力テストは、良い結果を残してやった。」


「進学校にも何人も送った。

親や生徒からも感謝され、教育委員会からも評価されてる。

不登校になったヤツらは、クラスに馴染もうともしない厄介者ばかり…。

だから、クラスのヤツらからイジメられたんだろ?

俺は何もしちゃいないさ。

不登校になったのも自殺したのも、

本人の自己責任と、そこの親の責任だ。」


「…………………。」


勇人は反論する気力をすら失った。

鹿山先生の口振りに…。

鹿山先生の行動は実は正しいのでは、とさえ思えて来たのだ。


「なのに…矢城…。

お前はそれを否定しようとするのか?

お前のようなクソガキは、本当に久しぶりだ。

俺をコケにした罰…。

覚悟しろよ…。

矢城…。」


「………っ…………。」


鹿山先生は、自らが受けた恥辱を勇人に何倍にもして返す為。

握り拳に必要以上に力を入れ、勇人へとじわりじわりと距離を詰めてくる。


勇人の反論すらしようてしない姿に、我慢の限界を超えて耐えかねたのか…。


バ~~~~~~~~ン!!


「「っ!?」」


アインが、掃除用具入れから、デジタルハンディカメラを持って、思わず出てきてしまった。

勿論、未だパンツ姿だ。


「ゆう君!!反論してよ!ゆう君!!

何で黙ったままなんだよ!?

これじゃあ鹿山先生が全て正しいみたいじゃ無いかっ!!

ゆう君なら出来るはすだっ!!」


勇人はアインのその言葉で…。

気力を取り戻した!!


「あ、当たり前じゃ無いかアイ君。

ちょうど今から反論する所だったんだよ。

って、アイ君!?

出て来ちゃ作戦が台無しじゃ無いかっ!!」


鹿山先生は二人のやりとりと、今までの行動から、二人の作戦を見透かした!。


「ははぁ~~~~~ん…。

なるほど~、良い作戦だ。

過剰に俺を煽って…。

怒りに身を任せ、俺がお前をボコボコにしてる姿を、バカ弟が撮影する。

覚悟ある良い作戦だが…。

途中でバレたらオジャンだな。

残念だなぁバカ兄弟。」


作戦を見抜かれたであろう勇人だったが、動じず落ち着いて反論しだす。

アインの期待に少しは答えたいのだ。


「お前も残念な事になってるぞ、バ鹿山先生。

流暢に喋り過ぎて、ボロが出てるぜ。」


勇人は先程とは変わって、自信気にそう言いだした。

鹿山先生も、人を見下す不敵な笑みを見せる…。

勇人達の作戦を見透かして、余裕なのだろう。


アインがハンディカメラで撮影してる事もあり。

ブリーフ姿に、未だにチンコがパンツの横からコンニチハしてるガキが…。

どんな事を言うのか、適当な机の上に腰をかけて聞く事にした。


「ほう…。言ってみろよ矢城。

俺にどんなボロが出てるんだ?」


「確かにこの国の責任の取り方は…。

いつの間にかババ抜きに代わってるんだろうよ。

だがあんたのやり口は、人を強制的にババに仕立て上げるって事だ。

ソッ君は頭が良いし、あんたが来るまで、みんなとも仲良くやってた。

だが、お前にクラス委員長にされた事でイジメられ始めた。」


「高松に、人をまとめる力が無かったからだろうが…。

元々高松は、役に立たないババだったんだ。

それが委員長になって露呈し嫌われた。」


「違うっ!!

お前がそうなるように仕向けたんだろっ!!

クラスでテストの点を上げたように見せかけるには、元から良い点を取ってたヤツより。

悪い点を取ってたヤツの点を上げれば良いんだからな。

だからこそ、お前はソッ君を委員長へと選び学校へ来させ無いように仕向けたんだ。

いびつな連帯責任というシステムを使ってな。」


「連帯責任ってのは本来、功績や名声。

良いも悪いも仲間で分かち合い。

共同体として共に進むシステムだ。

リスク分散して安全に皆で進む、ローリスクローリターンが連帯責任の本質だ。

決して罪や罰のみに連帯で責任が派生するだけの悪いもんじゃ無い。


だがアンタのやり方は、罪を無理やり作り出し。

罰をクラス単位にまで拡大し…。

その責任を委員長になすりつけてただけだ。

こんなの連帯責任ですら無い。

マッチポンプも良いトコだ。」


「委員長という立場を、見せしめと生徒のストレスのはけ口とする事で、自分への恨みと不満を委員長へと向けさせる。

同時に体罰とパワハラと恐怖でクラスを屈伏し服従しやすくする。

あんたにとってクラス委員長はその為の道具だ。」


鹿山先生は、勇人の口振りに腹が立ちだしたか、眉毛がピクピクと痙攣し引きつりだしていた。


「矢城…。

だからどうした?

それの何が悪い?

人を利用し使う事など誰でもやってる事だろ。

ゆとり世代が甘えてんじゃねえっ!

クソガキがっ!!」


「甘えだとっ!?

ゆとりっ!甘えっ!当たり前!

そうやって、さも一般常識だと押し切って…。

真実を覆い隠そうとしちゃいるが、隠せやしないっ!

アンタよりソッ君の方が万倍も立派だ。

ソッ君はいつも、笑顔で耐えていたっ!!

僕達に心配を…。

皆に迷惑をかけたく無かいからだっ!!


僕らはソッ君がそこまで追い詰められてるとは、気づいてやれなかった。

僕らが甘えていたとしたら、そんなソッ君に甘えていたんだ。


イヤ、ソッ君だけじゃ無い、他のアンタの犠牲になった子達もそうだ。

アンタより精神的に大人だったんだ。

何が悪いか必死に考え。

どうにか皆に迷惑をかけないよう。


責任を抱え…。

一人で頑張って…。

人知れず壊れた…。

僕らもアンタも、そんな優しい子らに甘えてたんだ。

優しい子ばかり犠牲にしたから、問題を簡単に隠せてきたんだ!!

そんな優しい子供を利用する事で…。

アンタは教師としての面子と…。

クラスの秩序をなんとか保てたんだ。

いったいどっちが大人なんだよっ!?

アンタかっ!?

アンタが盾にしてきた生徒達かっ!?」


勇人のその言葉を聞いて鹿山先生は、怒りを抑え。

まだ小馬鹿にしたように、ヘラヘラと笑っている。

だが、顔が真っ赤になっていて、その怒りを隠せてはいなかった。


「フッ…。

別にテメェに何を言われても屁でもねえよ~。

痛くもかゆくも無い。

タダのゴミに何を言われた所で、意味なんて無ぇんだよ…。」


そんな鹿山先生の口振りだが、その言葉の端々には動揺が垣間見える。

呂律が怪しくなる。

今までの口撃のお返しとばかりに、勇人は反論を続け、たたみかけた。


「あんたが最良で優秀な教師だと?

そんな事は絶対に有り得無い。

あんたは、教師はサービス業じゃ無いと…。

父親でも、友達でも、良き理解者でもないと言った。


だが、あんたは大人だ。

教師で大人だ。


子供の身近に居る大人は、子供に大人の見本を見せるのも大人の責務だ。

子供達に接する時間の長い教師が、大人の見本にもなれなくてどうするっ!?

教師の仕事はやってても、大人の義務を放棄してるだけじゃないか。


あんたは児童に反抗され自分の思い通りにならないのが我慢出来ないんだ!

絶対的支配下に置かなきゃ、安心も出来ない臆病者なんだ!!

学力テストの過去問を宿題として使わなきゃ。

生徒と向き合う事も、学力を上げる事も出来ない無能だっ!!!


それらを隠したいから、お前はあのいびつな支配システムを作りだしたんだ。


アンタのやってる事は、ただの体がデカいだけのガキと同じなんだよ。

それがアンタの正体だっ!!」


「黙れっ!!!!!!!!!」


鹿山先生は勇人の言葉を全てかき消すかのように、大きな声で叫び勇人を否定した。

まるで先程とは、立場がまるっきり逆転したようなやりとりだった。

アインはそれを、デジタルハンディカメラで黙々と撮影し続ける。


「…………っ…………。」


今度は鹿山先生のほうがうつむいて黙り込んでしまった。

だが、それは黙っているように見えていただけで…。

何事か独り言をブツブツとつぶやいている。それは徐々に大きく、ハッキリと声に出始めた。


「……………れ………まれ…だまれ………黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ~~!!!

お前にオレの何が分かるっ!!

オレの苦労の何が分かるっ!!!」


そう叫ぶが早いか…。


ドガッ!!!!!!!!!!


「ぐふぁっ!?」


「えっ!?アイ君っ!?」


鹿山先生は勇人では無く、アインを思いっきり蹴り飛ばす。

突然の事だったので、アインは盛大に吹っ飛ばされ。

ハンディカメラも手離し床へと落とし転がっていく。


そして、鹿山先生はその転がり落ちたハンディカメラを…。


グシャッ!!グシャッ!!ガシャン!!


何度も何度も踏み潰し、砕き。

おおよそどうやっても修理は不可能な程に壊した。

ゆっくりと勇人のほうを振り向き、息を荒げながらニタリと笑う。

鹿山先生は言うのだった。


「はぁ…。はぁ…。

さて…、矢城勇人君…。

コレでようやく、君のお仕置きを始める事が出来るなぁ…。」


その鹿山先生の表情から勇人は気づいた。

尋常では無い雰囲気を漂わせている。

勇人は経験から身の危険を…。

命に関わる危険を察した。


『ヤバい、目が完全にイってやがる…。』


「お、オイ、バ鹿山…。

教師がそんな事やって良いのかよ…?

後々問題に…。」


勇人のその言葉も、鹿山先生には届かず…。


「安心しろ…。

お前ら以外誰も見てない…。

コレから起こる事は、お前らがイタズラをした罰だ。

ビデオカメラは没収した時に落として壊れた。

そういう事になる。

安心しろ…。

そういう事に、必ずなるんだよ。」


そうヘラヘラ笑顔のまま、勇人との距離を一気に縮め、胸ぐらを掴むとヒョイと軽々と持ち上げた。

そして加減の無い右拳を、力の限り何度も…。


バグッ!ダンッ!ガンッ!ドスッ!ゴンッ!


勇人の頭に、顔に、体に、腕に、足に、あらゆる所に飽きる事無く叩き込んでいく…。

静かな教室に殴られる音が大きく響いていく。

だが、勇人は痛がる所か…。


「ふはっ……………ふへへっ。

はははっ……………。」


鹿山先生が拳を叩き込めば叩き込む程、笑い出すのだった。


「っ?なんだっ!?

こ、コイツ変態マゾか…!?

この年で…。

目覚めてやがる。」


「…へ、変態じゃあねえよ。

バ鹿山。

お前が今、完全に僕達に…。

踊らされてんのを見て、笑いが止まらねえんだっ!!

まだ気づかねえのかよっ!?

バ鹿山…せんせい…。」


勇人はニヤリと笑い息も絶え絶え、そう答えた。

鹿山先生はまさかと思い廊下の方へと目をやるが、やはり見られてる気配はどこにも無い。

窓の方を見るがやはり誰もいない。

鹿山先生がホッとしたその時であるっ!!


吹っ飛ばされていたアインが、すくっと立ち上がり…。


「校長先生保健室の先生っ!!

今までのやりとりを見てたんでしょっ!?

鹿山先生はこんな先生なんだっ!!」


天井の中央の照明に向かって大きな声で呼びかけた。

そしてその声は確かに、体育館にいるクラスのみんな。

校長室にいる校長と山田 華。

保健室の先生としまぽんと土那高マキ達に確実に届いていた。

受信機に繋がった携帯型液晶モニターが、今までの光景を写し出しているのだ。


「なにっ!?まさかっ!?お前らっ!?」


「ふはっ…。

お前が教室の照明に仕掛けた隠しカメラを、逆に使わせて貰った…。

ざまあみろだっ!!」


勇人のその言葉が耳に入ると同時。

鹿山先生は一目で、困惑してるのが丸分かりな表情を見せ。

冷や汗が一気に吹き出し、動揺しだした。


『な、なぜだ…。

なぜ気づいた?

こんなパンツ丸出しの…。

チンコ出したバカな連中が…。

こんな変態共が…。

アレの存在になぜ気づけたんだ?』


鹿山先生の頭の中では、その疑問がグルグル目まぐるしく廻る。

それを察した勇人は一つヒントを出した。


「不思議に思ってるようだなぁ…バ鹿山…。

お前の…。誤算は…。

このクラスの一人に…。

熱狂的なストーカーが付いてた事に…。

気づかなかった事だ…。」


「な…?なんだそれは…!?!」


鹿山先生はますます困惑する。

勇人が言うように、あの変質者が真っ先に気づいてしまっていたのだ。

隠しカメラの存在に…。


少し時を遡って見てみよう。

土那高マキが転校してくる前の日…。


夕暮れの薄暗い中、その変質者は大きな荷物を抱えながら何とか、彼女を盗撮出来ないか、撮影ポイントを色々と物色していた…。


「ココばい!!

なんとかこの場所ならマキに邪魔ならんごと、教室を撮影出来るばい。

やっぱ転校初日のメモリアルな日くらい、ちゃんと撮影してやらんばねぇ。」


そう、土那高マキの父親であった。

彼は「マキ初めての転校…。登校記念その日…。」を、

マキに邪魔にならないよう見つからないように撮影せんが為に、校舎から離れた場所で撮影ポイントを見つけだしたのだ。

彼が双眼鏡で、試しに勇人達の教室を覗いたその時である。

人気の全く無い教室に人影が見えた。


「おりょ?

あの先生ば何ばしょっとやろ…?」


そう思い双眼鏡越しにずっと眺めていると、その先生は教室の中央の照明に、何か細工をし始めたのだった。


「照明の交換?

えっ!?違う。

そんなまさか…イヤ、でもなぁ…ありゃまさしく…。

ラッキー~~!!

コレで写真だけで無く、動画でも見れるばいっ!!

早速、押し入れん中から受信機ば出さんと。」


そうやって鹿山先生の隠しカメラはバレたのだった。

しばらくして、山田 華が土那高マキと共に鹿山先生の事を調べている時…。

マキの父親からそのカメラの存在を聞き、受信機でその存在を確認した。

だが、山田はその存在を黙認し、逆に利用する事を考える。

そして、確信が欲しかった。

カメラを仕掛けたその先生が、鹿山先生であるという確信が…。

そこで山田 華はある行動に出て確かめてみたのだ。

例の、宿題をクラスみんなで手分けしてやる作業である。


そもそも臨時職員会議が開かれるよう、土那高の母親に匿名の電話を入れさせたのは山田 華だった。

更に土曜・日曜を挟み宿題を完全に終わらせるタイミングを計る。

月曜日1時間目算数の時間に算数の宿題を提出を狙っての、計画的行動だった。

あの時、教科事に班分けされたが、班分けには細工がしてあった。

他の班は、それぞれ得意な教科の人を集めて班を作らせたが。

算数班だけ、算数が一番苦手な子ばかりを集め。

山田が教室で教えながらやったのだ。

2人ほど、算数が苦手な生徒を別の班に入れて…。

鹿山先生は、その唯一の生徒に当て山田は確信を得た。

隠しカメラを仕掛けたのは、間違いなく鹿山先生だと…。


仕掛けた理由は、生徒同士の動向を確認する為、宿題の写しあいをさせない為。

宿題の写し合いをされては、学力テストで点を上げるのは困難になるからだ。


そう山田 華は考えた。


勇人とアインは、鹿山先生に対して、完全に勝利を確信する。


「どうだ…。

バ鹿山…。

独裁者ごっこのしたい、お山の大将は惨めだな…。

教室に隠しカメラまで仕掛けて、自分の評価と悪口を録画したかったのかよ。

そんなに、生徒を監視し束縛したいなら、潔く教師を辞めて、某国で独裁者にでもなっちまえよ。」


どうやら勇人の方は、盗聴器は陰口と生徒の懐柔対策だと判断したようだ。

この勇人の言葉で、山田 華にある疑念が浮ぶ。


「鹿山先生…。

こんなに証人と証拠があったら、言い逃れはもう出来ないですよ。

せめてあなたが教師を自覚してる大人なら、素直に教職を辞めて下さい。

お願いします。」


アインはそう深々と頭を下げてお願いしてみた。

鹿山先生はおもむろに笑いだす。


「ふふ…。ふははっ…。

はっはっはっはっ…!!

世間知らずの甘ちゃんのガキ共がっ…。

そこいらの普通の教師なら、辞職モノだろうな。

だがオレは違うっ!!オレは特別だっ!!

たかだかこれくらいで、校長如きがオレをどうこう出来ると、本気で思ってたのか!?

断言してやろう、はっはっ、出来ないさ。

そんな事はな!!

出来ないんだよ。」


勇人とアインの勝利の確信も、鹿山先生にはチャチな下らない物でしかなかった。


「なっ…!?」


「なんだって…!?」


驚きを隠せない勇人とアインをしり目に、鹿山先生は、不適な笑みでニヤニヤと笑いながら二人を見下す。

その自信は本物のようだ。


「いいかお前ら、知ってるか?

校長の立場ってのはな。

一般の会社で例えたら、たかだか部長クラスなんだ。

そして大人の事情と人とのしがらみってのは、職場の立場すら逆転出来るのさ。

権力とコネ、強力な後ろ盾がある社員にはな。

社長ですら物が言え無くなるのが世の中だ!!

見て見ぬ振りで丸く収まるんだ。

それが高々、校長の立場じゃ逆立ちしても何も出来やしないさ。

勉強になって良かったなお前らっ!!」


鹿山先生のその発言を、校長室で聴いていた山田 華は不安げな顔で校長先生を見つめていた。

校長先生は静かに沈黙を続ける。


「………………。」


「校長先生!!そんな事…。

そんな事無いですよね!?

鹿山先生を辞めさせる事は出来ますよねっ!?」


山田 華がそう問いただすと校長先生は…。


「………………スマン…。」


そう一言、誰に言うでもなく節目がちに一言つぶやくのだった。


「ほ、保健の山崎先生…。

先生だったら助けてもらえ…。」


しまぽんと土那高マキが保健の先生に目を向けるも…。

保健の先生も、二人に目を合わせようとはしなかった。


「そんな…まさか…。

ここまでやってきて…。

そこまで、大人は……。」


しまぽんと土那高マキは、涙を零した。

頼りにした大人に対する、

裏切られた悲しみか悔しさか。

それとも…。


教室にいる勇人とアインは、もはや気力さえ湧かず落ち込んでいる。

後もう少し…。

後もう一歩という所まで鹿山先生を追い込んだのに、それをかわされたのだ。

その落ち込み方は絶望に近かった。

鹿山先生は、またも勇人の胸ぐらを掴み持ち上げると…。

絶望に打ちひしがれた勇人とアインに、嬉しそうにトドメとばかりの笑顔で口撃を仕掛けてきた。


「しっかし、お前らダメじゃ無いか。

こんな大掛かりなイタズラをしちゃあ。

隠しカメラまで仕掛けるなんて…。

何て悪い子達だ。

素直に全て認めて謝れば、手心を加えてやらんでもないぞ。」


そう…。

鹿山先生はまだ、隠しカメラを仕掛けた事で自白はしていないし認めてもいない。

現行今の段階では、教室に隠しカメラがあったというだけであり、誰が仕掛けたのかは断定出来ない。

鹿山先生はこの状況を逆手に取って、一連のイタズラを一貫して、勇人達に罪をなすりつけ。

隠しカメラの件をもみ消しにかかっていた。

その言動に、勇人は何か違和感を覚える。


『っ!?待てよ。

バ鹿山はなんで隠しカメラの事を否定したがってるんだ?

俺達に隠しカメラの冤罪被せて、それを携帯レコーダーに記録しておきたいんだ?

優越感の自己満足?

校長に聞かせる?

イヤ、どれも違う。

万が一の時の保険…?

アッ!?

もしかしてコレは…!?

だとするとバ鹿山は…。

隠しカメラのデータは何に記録を残し…?

そうだっ!!』


その時!!

勇人の脳裏に、鹿山先生を討つ圧倒的逆転の作戦が思いつく!!

鹿山先生の発した、その不用意な発言と行動が、勇人に希望を見いださせたのだ!!


勇人はバッと天井に顔を向けると、彼女に向かって大声で叫ぶのだった。


「山田っ!!

鹿山のパソコンだっ!!

ノートパソコンを抑えろっ!!

その中には、隠しカメラでとられたデータが入ってるはずだっ!!

そいつをっ証拠に盗撮として警察に…。」


鹿山先生は、勇人のその言葉を聞くや否や。


「っ!!?なっ!!

このクソガキがっ!!」


ガスッ!!ガッサャ~ン!!


勇人を思いっきり力のままに殴りつけ、ほうり投げた。

数個の教室の机が、勇人の体を打ち付け重なる。

鹿山先生は職員室へと駆け出した。


「アイ君っ!!頼むっ!!」


体中に激痛が走る。

気が遠くなるような痛みに耐え。

折り重なった机の下から、勇人はアインに指示を出す。

だがその言葉が無くても、アインにはやるべき事は既に分かっていた。


「行かせないっ!!行かせるもんかっ!!」


鹿山先生の進路にアインは素早く立ちはだかる。

だがっ!!


「邪魔だっ!どけよっ!!!!

ボケカス!!」


ドガッ!!


「ぅわっ!!」


鹿山先生のためらいの無い跳び蹴りが、アインの胸に入り再び吹っ飛ばす…。

そのまま駆け去って行った。

一方、山田 華は…。


「パソコンを…。

鹿山先生のノートパソコンを…。

こっちで抑えて…。

警察沙汰にすれば…。

まだ逆転出来る。」


勇人に言われるよりも前に、既に職員室へと向かっていた。

結果、勇人の取った行動は、山田 華を危険へと晒す裏目になった…。


山田 華が鹿山先生のノートパソコンを手に入れ、職員室から出たその時である。

数メートル先の廊下で鹿山先生が、息を荒げ立っていた。


『えっ!?

やったら早く来たわね。

感がいいわ、この先生。

怖いくらいに…。』


山田はまだ、コレが勇人のせいだとは思いもしない。

山田 華に取って救いなのは、職員室への廊下が袋小路状になっていない事だった。

鹿山先生が居ない方へ走れはするが…。

鹿山先生は息を整え、ニコッと笑顔になると山田に優しく語りかけだした。


「山田くん…。

そのパソコンは先生のノートパソコンだろ?

君のような優しい頭の良い子が、盗みを働く何てしないだろ?

先生のノートパソコンを、渡しに来ただけだろ?

さあ、先生が預かろう。

こっちに渡しなさい。」


山田 華へと手を差し伸べる。


「……っ…。」ふるっふるっ


山田はノートパソコンをギュッと胸に抱え込むと…。

イヤイヤと顔を横に降り、鹿山先生との距離を、後ずさりであけていく。

こんな状況で、後ろを振り向き逃げ出そうとしたなら、一気に距離を詰められ捕まるのは明白だ…。

距離は6メートル程の微妙な距離…。

あくまでも山田 華は顔を鹿山先生に見据え、警戒を怠らない。

鹿山先生も少しずつ山田 華との距離を詰めてくる。

確実に捕まえられる距離を見定めている。


『ど…、どうしようかしら…?

あいつだったら…。

あのバカならどうきり抜けるんだろ…?』


山田はそう心の中で自問するのだが答えは出ない。

そんな時フと頭に思い浮かんだのが…。

勇人の人体模型の局部を使ったギャグ…。


『カチンコチンコ~の…、

ちょん!まげっ!!』


『やっぱりあのバカ、下品で大嫌いだわ。』


脳内での映像付きで繰り返されるギャグ。

山田は冷静過ぎる程、勇人の事を大嫌いの再確認してしまった。

そんな山田の珍妙な心の葛藤には気づく事もなく。

鹿山先生は呆れたようにため息をつく…。


「フウ…。

山田君…。

君はなぜこんな事をするんだね?

君はもう少し世渡りの上手い賢い生徒だと、値踏みしてたんだがね。

私は、君には直接何もしていないだろう?」


「直接何もしていない?

先生…。

あなたは私にとって、最大のタブーを犯したんですよ。

よりにもよって、私が恩師と慕っている教師を無能呼ばわり。

その人がいなかったら私…。

不登校になってたかもしれませんのに…。」


「はっ?なんの事だ?」


山田の言う人物とは、若林先生の事であった。


ここで一旦時間をかなり巻き戻してみよう…。


山田 華がアインとしまぽんを、ハブにしようと画策したのがバレた次の日へと…。


その日、山田 華は学校を休んだ。

自らの企みがバレた昨日の今日である。

山田 華のプライドがあっても、流石にその足はなかなか学校へと向こうとしない。

その日の夕方…。

若林先生が山田 華の家を訪ねて来た。

母親が応対してしまった為、居留守を使う事も出来ず。

しぶしぶ自室で会う事になる。


「体調の方はどうですか?

山田さん。

風邪は良くなりましたか?」


「ええ、今朝は少し気分が悪かっただけですから。

今は良くなりました。」


もちろんウソである。

精神的に落ち込んで、実際気分は悪かったが休まなければならない程では無い。

若林先生はそれを見透かしているのだろうが。

今は話しを合わせ、山田 華に語りかけ出した。


「今日はお見舞いついでに、他に聞きたい事があってココに来ました。

山田さん、小学1年の頃の矢城君兄弟と岩倉君のケンカを覚えてますか?」


山田 華は面倒くさそうに返事をする。


「それが何か…?」


「男の子は良いですよね。

あんなに大変なケンカをしたのに、今ではすっかり仲良しになって…。

たまに羨ましく感じる時もあります。

あんなに簡単に仲直り出来て…。」


若林先生はしみじみと語る。

何か思う事があるのだろう。


「昨日までの一件。

志摩本さんは、もう気にしていないと言ってましたよ。

後はあなたが仲直りをしようとすれば…。」


「出来る訳無いじゃないっ!!!!」


その言葉は志摩本に掛かるのか、山田自身に掛かるのか…?

どちらにしても若林先生は、山田 華の突然の大声に動揺もせず。

ただ何とも言えない寂しい表情を見せる。


「イジメをやり返されるのが怖いんですか?

山田さん?

志摩本さんは、そんな事をする子では無いでしょう?」


山田 華は、若林先生のその楽観的な発言にイラっとした。

子供ながらに若林先生の考えが甘いと感じたのだ。


「先生は何も分かって無い。

彼女はただのお調子者な馬鹿なだけ。

これからどうするか何て、本人にも分かってませんよ。

それに…。

先生…。

人はそんな簡単に仲直り出来る程、単純じゃありません。

恨みや妬みが…。

イジメが…。

簡単に無かった事に出来る物では無いんですよ。

嫉妬は特に…。

例え…本当に…。

志摩本さんが、私を許していたとしても…。

クラスの他の女子が男子が、私をどう見るか。

若林先生…。

あなたは甘過ぎるんですよ!

大人でも出来ないもしない事を、子供に求め無いで下さいっ!!」


大人になって、社会にでてもイジメは有る。

耳年増な山田 華は、それを知っていた。

知識がある故に、全てが詭弁に聞こえ、ウソにしか感じ取れ無い状態。

山田 華に、表面だけ着飾った言葉は、全て言い訳にしか聞こえず、意味を成さなかった。


「そうですね。

確かにそうですよね…。」


若林先生はそれを察したのか、そう小さく呟くと、何を思ったかジャケットを脱ぎ始めた。

そして何故か、左腕のワイシャツの袖を二の腕あたりまでたくし上げ、山田 華にある物を見せる。


「あんまり。

人に見せたくは無いんですが…。」


「……えっ!?」


若林先生の二の腕の内側には、明らかに人為的な火傷が複数付けられている。


「な…、何ですか…先生…その火傷…?

何でそんな物を見せるんですか…?」


「タバコを押し付けられた、根性焼きというものです。

人に見せられる部分のは、これ位ですんでますが。

私…。

中学時代から、ずっとイジメられてて…。

どれ程イジメられてたかは、この火傷で察して下さい。」


「…っ!?…。」


その言葉の意味する事を、山田 華は気づいた。

若林先生は更に語る。


「山田さん。

あなたの言う通りイジメられてた側は、イジメっ子を簡単に許せる程。

人は優しくありません。

過去の私に対するイジメの、今の私の気持ちがその証拠です。

ですが、山田さん。

あなたはイジメっ子として、運が良い方なんですよ。

私がされたように、体と心に傷跡として残る程のイジメをするまでになってたら…。

仲直りなんて到底、出来ませんでしたよ。」


「私はそんな酷い事、絶対にしませんっ!!

するわけ無いじゃないですかっ!!」


山田 華は力強く全力で否定した。

自らがイジメをエスカレートさせると決めつけられたような、そんな侮辱された感覚を覚える。

だが、若林先生は達観した様子で山田に話す。

自らの経験を…。


「誰しもがそう断言する事は出来ます。

誰もがイジメは良くない事だと習いますし。

そして誰しもが、イジメを良くない事だと理解もしてます。

ですが山田さん。

イジメには不思議な魅力が有るんです。

私をイジメた子達も、小学生の時は気さくで元気な子でしかありませんでした。

ですが、少しずつ言動が残酷に変わっていきました。

人として、イジメの誘惑に抗う事は、なかなか出来ないのかもしれません。

何故ならイジメは…。

人にとってストレス発散の最高の娯楽ですから…。」


「…っ!?」


若林先生のまさかの爆弾発言。

聞かれる所に聞かれれば、確実に教師としてのクビが飛びかねない発言に山田は驚く。


「せ、先生…。

教師がそんな事を言って良いんですか?

私が一言…。

教育委員会にでも告げ口したら、問題発言として確実にクビになりますよ。」


「そうでしょうね。

ですからみなさん、なかなか本音を言えません。

問題になるのが分かってて、本音を言える人間なんてめったにいませんから。

ですが、あなたにうわべだけの言葉では意味が無いでしょう?」


若林先生は達観した様子で、疲れた表情ながらに微笑んでいる。

ある意味…。

相手は違うにしろ、イジメられていた側として…。

イジメをする側に対し、自らの本音をぶちまけたかったのかもしれない。


「イジメられる側から、イジメっ子達を見ていて思いました。

イジメのキッカケや原因がどんな物にしろ…。

イジメをしていると、とある境界線があり。

それを少しでも越えると…。

残酷なイジメでも極端なまでに面白く感じだしてしまう。

後はもうお互いに不幸な道を歩くだけです。


イジメられる側は身も心もボロボロに疲れ果て…。

イジメっ子は、人を傷つける事でストレス発散し自らの心の平安を保ち。

他人との関係性をイジメで保つようになる。

そして、少しずつ行動が下品に残酷にエスカレートしていくんです。

私はそのイジメっ子の持つ境界線をゲス境界線と名付けていますが…。

そんな物が在るんですよ。」


「げ、ゲス境界線っ!?」


奇妙な発言に思わず山田 華は若林先生の言葉を繰り返す。

確かにそんな精神的な境目があるのだろうが。


耳年増な山田 華でも、その言葉には流石にピンと来なく実感をもてなかった。。

何より、若林先生のネーミングセンスがイマイチ過ぎる。

だが、若林先生に見せられた火傷の跡が、その境目が在るのだと、ギリギリ認識できた。


「イジメは病気ではありません。

される側には拷問ですが、する側からしたら娯楽です。

子供の未熟な心には、余りにも魅力的な娯楽です。

ですが、相手と自分を不幸にしかしない麻薬のような物です。

その本能にも似た衝動を、抑えるよう教育するのが、大人の責任でもあります。

山田さん…。

志摩本さんと仲直りしたく無いなら、無理にする必要はありません。

人には抗いようの無い程。

相性という物がありますから…。

そりが合わないのに、無理に合わせ続けると必ずどこか心が歪みます。」


「………。」


山田 華は若林先生の言葉を素直に聞いていた。

むしろどう反応して良いのか分からない故に、黙って聞くしか無いようだ。


「ですが、相性が悪い。

ムカつくからと言って、イジメや無視をするのは許しません。

あくまでも、お互いを傷つけ無いように折り合いをつけ。

必要最低限の接触に留めるだけの大人の対応を取って下さい。

もし、またイジメたいという衝動に駆られたなら…。

貴女は自らの誇りを用いて、その衝動をコントロールして下さい。

それが貴女には、一番向いた方法になるでしょうから…。」


若林先生はそう言うと帰っていった。

次の日。

山田 華はまた学校に行くのをためらっていた。

今朝方は玄関まで足が進んだが、そこから先にどうしても足が進まない。

山田 華のそのプライドが、恥と相まって学校に行く事をためらわせる。

結局…。

その日も学校を休んでしまった。


その日の放課後。

今日はアインがパインパンとプリントを届けに来た。


「何でよりによって…。

アンタが届けに来るのよ…!!」


液晶インターフォン越しにアインの姿を確認した山田は、イラついた表情でそう呟く。

普段、山田が休んだ時は別の子が届けに来るのに…。

山田 華はこの時、先生を恨み憎んだ。


若林先生からの自らに対する当てつけだと考えての直情的な感情だった。

とりあえず、パンとプリントを受け取る為、玄関へと招き入れる。

アインに対しても、イヤミでも言ってやろうとも思っていた。

そんなアインが、玄関で山田 華を一目見るなり。


「良かった会ってくれて…。

心配してたんだ。」


「っ!?」


笑顔でそう言われた。


「な…。

何であんたが届けに…。」


山田 華の頭の中に浮かんでいた、アインに言おうとしたイヤミの数々が、一辺に消し飛んだ。

最初に呟いた言葉を、何とか出すのがやっとだった。


「えっ?

心配だったから、三村さんに頼んで変わってもらったんだ。

この前ちょっとストレートに言い過ぎたから…。

山田さん傷つけたなって思って…。

謝りたくて来…。」


「あっ…!?

あんたのせいな訳無いでしょっ!!

単に偶然、風邪を引いただけなんだから…。」


謝罪の言葉は言わせないよう、遮るように否定した。

言われていれば、自分が辛くなるのは分かっていた。


「そっか…。

もう良くなった?」


「当たり前でしょ。

良くなったから会ってるんじゃない。」


「なら良かった。

これ、パンとプリント。」


手渡されると同時に、自らの小ささ、心の弱さを認識してしまう。

そこに恥を感じてしまう。

そして何より山田 華にとって嬉しく恥ずかしかった。

例えアインが、自らに好意を抱いての行動ではないと気づいていても…。

やはり、嬉しかった。


次の日から…。

山田 華は普通に学校へと向かう事が出来た。

語る事は他にもあるが…。

これ以上は蛇足。

ここら辺で、時間を鹿山先生との対峙している時間へと戻ろう。


山田 華と鹿山先生は、お互いギリギリの距離感を探り合う。

山田 華は時間を稼ぐ為に。

先程、頭によぎったある疑念に対しカマをかける。


「鹿山先生…。

私、気づいたんです。

なぜあなたが教室に隠しカメラを設置したのか?」


鹿山先生は動じる事もなく、少しずつ距離を詰めてくる。


「疑問が二つありました。

一つは卒業ホームページ。

あれを見て違和感がありました。

無気力になった児童達は、常に受け身。

誰かの指示待ち状態になります。

児童が率先して行動を起こし、ホームページを作ろうとしたとは考えられない。

なら、今まで卒業ホームページを作っていなかった学校が、ホームページを作ろうと言いだしたのは誰か?

あなたしかありえないわ。

ならなぜそれを作ろうと思ったのか?

もう一つは、隠しカメラ。

この学校には男女別に更衣室もありますし。

児童の着替えを盗撮したかったのが、隠しカメラを取り付けた動機とは考えられません。

なら設置した目的は?


この二つの疑問を結びつけると、ある答えが頭をよぎりました。


目的は記録そのもの…。

人の人生を壊していく記録を残したかったのではないか。

なぜならあなたは子供の人生。

未来を台無しにする事に喜びを覚えてしまった。

ゲス境界線を遥かに越えたゲス人間。

私はそう結論を出しました。」


「なんだそりゃ?下らん妄想だ!」


「そうかしら?

ならなぜ?

このパソコン内のデータを表に出したがらないのです?

隠しカメラでの盗撮は許される行為ではないけど…。

あなたの口振りだと、性倒錯していない盗撮でしたら楽にもみ消せそうよね。

このパソコンを盗撮された物証として警察に渡し調べてもらえば…。

子供の未来を壊していく願望とその記録。

そんな証拠が出てくるから、あなたは焦っているんじゃないですか?

先生…。」


鹿山先生は一瞬ピタリと止まった。

やはり図星?山田 華の脳裏にそんな言葉がよぎる。

この瞬間、パソコンの重要度が一段と上がった。

何としても警察へと渡さなければ、そんな使命感を考え、鹿山先生から視線を離しパソコンへと見いる。

その刹那。

そのスキを見逃さなかった。

一気に山田 華との距離をグンと詰め!

拳を目一杯の力を込め大きく振りかぶる。

山田が胸に抱えたノートパソコン事、拳を叩き込み壊そうとしているのだ。


まさかの凶行で山田は、反応が遅れ足がすくみ逃げ出せない。


『もうダメっ!!』


最後の無駄な抵抗に、自らの体でパソコンを守ろうとしたその時!?


Σドゴッ…!!


山田 華に叩き込まれようとした拳を、その身を挺して庇った人物がいた!!


「……………………。」


「………こっ?……!?なっ!?」


「??…えっ…校長……?先生…!?」


校長先生が山田 華を庇い、鹿山先生の拳をその体で受け止め。

苦痛に顔を歪ませ立ちはだかっていた。

鹿山先生にはその校長の行動は、理解出来ないでいる。


「なっ…!!

校長!?

事が大きくなったら、あんたが詰め腹で、辞めなきゃならなくなるって事…。

それ位あんた理解してるだろっ!?

それが何やってんのっ!?!

なぁっ!?何やってんのっ!?」


校長先生は鹿山先生を見つめると、苦痛の顔から苦笑いに変え、鹿山先生を諭し始めた。

役職上の立場としてではなく、一人の大人として…。


「正直…。

出世と辞職を天秤にかけたら、大概出世を選ぶのが普通ですよ。

それが普通なんだと…。

自分に言い聞かせましたよ。

でもね。

コレだけはダメなんですよ。

子供が誰かに襲われそうになってるのを見かけたら…。

大人は守らなきゃいかん。

どんなに、やりたくなくても…。

意志や恐怖とは無関係に、そう体を無理やり動かさんといかん。

それが、大人の責務の一つなんですよ。

鹿山先生。」


役職上肩書きだけは上だが、立場上明らかに自らより下の人間から、暴漢のように言われた事に、鹿山先生は激怒する。

まさか校長先生が、自らの思い通りにならなくなるとは思いもしなかった。


「オレは暴漢じゃねえっだろっ!?

生徒に盗まれたパソコンを、取り返そうとしてただけだっ!!

問い詰める相手が違うだろうがっ!

アンタ俺の後ろに、誰がいるか知ってるだろ!?

アンタの代わり何て、幾らでもいんだよっ!!

校長如きが俺の邪魔するなっ!!」


それを聞いた校長先生は、また子供を諭すように語る。


「鹿山先生、もうやめましょう。

私達の…。

教師という仕事はね。

子供達に、大人としてどう考え、どう語り、どう行動し、どう振る舞い、どう決断するのか。

何が正しく、何が悪い事なのか。

それらを子供が判断出来るよう教える。

大人としての当たり前の事を、当たり前のように手本として、やって見せる事でもあるんですよ。

そんな大人の責任をまっとうしても、社会評価、学内評価には繋がらないし。

年を取れば守らなきゃならないモノも増えていく。

人とのしがらみも纏わりついて絡みついて、大それた行動もとれなくなる。」


「私自身、校長としての職を失いたく無い事を言い訳に…。

その大人として当たり前の責任を、まるごと放り出してしまってた。

正直な話し、めんどくさくて厄介なモノですよ。

大人の責任なんて…。

ですが、その評価は必ず現れるんです。

その子供が大人になった時に…。

この国の、社会に、現実に、未来に、反映され露になるんですよ。

だから…。

鹿山先生……。

……もう………。

もう一緒に…辞めましょう……。

我々に子供を教育する資格は無い………。

我々は大人ですら無かった。」


それを聞いた鹿山先生は、意味を理解出来なかったのか更に困惑しだした。


「はっ!?

教師の仕事はそんなもんじゃねえだろっ!?

そんなモノが仕事な訳ねえだろ!!

バカかっ!?

綺麗事言って誤魔化せると思ってんのか?

ガキのテストの点数上げて評価してるあんたが…。

評価されねえもんを、さも当然のごとく語ってんじゃねよ。

このっ!小汚い偽善者がっ!!」


Σドゴッ!!!!!!!!!


鹿山先生は感情的になったのか、校長先生の腹を思いっきり、膝で蹴り上げる。


「っぉ!!!」


あまりの痛さに校長先生はうずくまり。

鹿山先生は、三度、山田 華に近づこうと山田 華へと振り返ろうとするが…。

今度は背後から羽交い締めされた。

保健室の山崎先生が、女だてらに鹿山先生を取り押さえようとしてた。


「鹿山先生…。

あなた今、興奮状態で正常な判断が出来ない状態なんですよ。

とりあえず、落ち着いて冷静になって下さい。

冷静になれば、自分が今、何をやらかしてるか分かります。

とりあえず落ち着いて下さい!!」


「離せっ!!なにしやがるクソ女っ!!

俺は間違った事はしちゃいねえっ!!

教育として間違えてねえっ!

うぉおおおおおおおおっ!!」


鹿山先生はもう何もかも、我を見失ったのか、暴れに暴れその拘束を振りほどこうとする。

だが、保健室の山崎先生も取り押さえようとそれこそ必死だ。

歯を食いしばり何とか組み伏せようとするが、やはりそこに力の差がある。

羽交い締めが解けるのも時間の問題だった。

山田 華はノートパソコンを持ってその場を離れようとしたが、しまぽんと土那高マキがそれを制止し、ある事を告げるのだった。


「華ちゃん…。もう大丈夫だよ。

大丈夫だから。

一人で頑張らなくて良いんだよ。

ホラっ!!」


しまぽんがスッと後ろを指差すと、その先には、アインとカナタが駆け寄って来る姿があった。


アインとカナタは一気に山田 華達を追い抜くと…。

鹿山先生へと猛烈な勢いで向かっていく。


「カッ君!!一発で鹿山先生を黙らせるっ!!

やり方は分かるねっ!?」


「ああ、トイレでの倍返しっ。

アノやり方が一番だっ!!

勇人の必殺技を借りるっ!

行くぞっ!!」


「ダブルッ!!」「稲妻!!!」


「「スーパー黄金球体破壊掌~~~~~!!」」


Σドズンッ!!!!!!!!!

共に二人が放った渾身の平手打ちが、鹿山先生の下腹部…。

金的を的確に捕らえ、鈍い音を廊下中に轟かせた。

と、同時に鹿山先生は…。


「ぐぅっ!!?ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!」


膝をゆっくり落としていき、目に涙を浮かべおとなしくなっていく。


「山崎先生っ!!今ですっ!!」


しまぽんがそう叫ぶと、山崎先生は自らの白衣を使い鹿山先生を拘束していく。

鹿山先生が完全に動けなくなった所で、ようやく勇人が息も絶え絶え、壁に手をつきつつゆっくりと追いついてきた。


「お…。終わったか…?大丈夫か山田…?

カッ君…?」


「遅いわよっ!!バカっ!!

あんたこそ大丈夫なの?

って…!?

あなたまだパンツ姿なのっ!?

は、早く着替えなさいよっ!!

…って!?。

見えてるっ!!見えてるわよっ!!

この変態っ!!」


顔を赤らめ片手で顔を隠す山田から、そう叱責される。

だが、山田を助けに行く為に急いで来た勇人に、着替えている時間など、どこにも無かったので無理からぬ事であるが…。

良く見て見ると山田 華だけでなく、しまぽんとドナタまでもキャーキャー言って顔を隠し騒いでる。

どうにもみんなの反応が少し違う…。


「パンツが見えてるのは…。

アイ君とカッ君も…。

同じだろ…!?

あっ!?

チンコ見えてたんだ…。」


勇人はすっかり自らがパンツの横からハミチンしてる事をうっかり忘れていた。

片足で隠しつつ慌てて入れる。

同時によく見て見るとアインとカナタの腰には、白いハンドタオルがしっかりと巻かれ、パンツ姿を隠していた。


「えっ!?

ど、どして…!?えっ!?

いつの間にそんな…?

いったいどこで、そんなタオル手に入れたんだよっ?二人共っ!?」


勇人の率直な疑問であった。


「あの…ゆう君…。

コレは…その…さっきしまぽんが…。」


アインはなぜか、この件について言いにくそうにしているが…。


「しまぽんが用意してくれてたんだよ。

さっき貰った。」


カナタがあっけなくネタばれをしてしまい、しまぽんが説明しだす。


「昨日さ…。

勇人君が、そういう事するって言ってたから…。

多分、必要になるかなって思ってタオル用意してたんだ。」


「しまぽん偉い!!

で、僕の分のタオルはっドコっ?」


「カナタ君の分が急に必要になったから…。その…。

もう無いの…。」


「なっ!?」


思わずカナタを見る勇人。

と同時に、必死に体操服の上着を引っ張り、パンツを隠そうとしだした。

人間面白いもので、ハミチンを見られても、あんまり恥ずかしくなかったが。

自分一人だけがパンツ姿なのを自覚したとたん、急に羞恥心が沸き起こってきたのだった。

そんな勇人を見たカナタは…。


「別にいいじゃん勇人。

俺なんて、ボコボコにされたんだんぞ。

これ位の役得くらい。

それに勇人は見せたがってたろ?」


「僕だってボコボコにされたよっ。

そんな変態じゃねえよっ!!

カッ君は僕の事どんな目で見てんだよっ!!」


「えっ?おっぱい星人…。」


「そう言われたら否定出来ないけど…。」


『『『否定はしないんだ…。』』』


みんなの心の中のツッコミが勇人に入る。勇人も何か吹っ切れたのか。


「え~い!!

どうせ見られるなら、見せてやれだっ!!」


そう言うと同時に体操服の上着で隠そうとするのを止めてしまった。


「きゃあ~~。勇人君のえっち~…。」


「ちょ、ちょっと変なもん見せないでよ。

バカ勇人。

外国だったら絶対訴えられてるわよあんた!!」


「こ、こういうのも…露出症に…なるんで…しょうか?」


女子3人組からの非難は轟々。

それと同時程に…。


てってれって~てれって~ててて~…


スマホの着信音のような音が、どこからともなく鳴り始める。

学校にスマホの持ち込みは禁止だが、おもむろに土那高マキが、ポケットからスマホを取り出し、誰かと話しはじめた。


「うん…。

…目の前にいるけど大丈夫みたい…。

うん…。もう終わった…。

そう…。分かった。

あ、アノ…矢城君の…。お兄さん…。

お、お父さんが…。どうしても…。

お話ししたいって…。」


マキは目のやりばに困るのか?

ただ単に普段からの恥ずかしがりか?

そっぽ向きどもりながらスマホを渡してきた。


「へっ!?あのおじさんが…?」


電話の相手はアノ、土那高マキの父親らしい。

勇人はマキからケータイを受け取り話しをしてみた。


「あっ!お電話代わりましたっ…。」


パンツ姿のままだがなぜか様になる…。


「あ~、やしろ君かね…?

わしゃストーカーちゃうばい。

マキの熱狂的なファンなだけったいっ!!

そこんとこ間違えんちゃいかんよ。

よかねっ?」


ブツッ!!ツーツーツー…。


マキの父親はそう言い残し、電話を切ってしまった。


「えっ?

何であのおじさんが、あのセリフを知ってんだ?」


勇人はそうドナタに質問してみた。


「その…。一応…。念の為に…。

私達に…。何かあったら…。

写真で撮るように…。お父さんに頼んどいたの…。

多分その…。撮影ポイントで、隠しカメラの電波を拾ってを聞いてたんだと思う…。

矢城君のお兄さんが、教室で殴られる所はちゃんと写真に、撮れたって言ってたから…。」


山田 華はそれを聞くと…。


「マキ…。あんた偉いわ…。」


そう言いながらマキを抱きしめるのだった。

土那高マキはマキで…。

しまぽんはしまぽんで、今回の行為を真剣に考えて、それぞれやれる範囲で行動に出ていたのだ。

勇人は、山田とマキが抱き合ってる姿を見ながら思った。


『あのおっさんの場所からココが見えてたら…。

今頃感涙しながら撮影したんだろなぁ…。

って、そんな事よりも…。』


勇人は鹿山先生に近づくと、鹿山先生のジャージのポケットからICボイスレコーダを取り出した。


「コレであらかた…。

証拠は揃ったよ…。

今日のやりとりはこのボイスレコーダに…。今日までのやりとりのデータはパソコンに…。

殴られた証拠は写真に収められてる…。

コレだけ証拠があれば…。

裁判沙汰をチラつかせたら、幾ら大きな後ろ盾があったとしても、トカゲの尻尾切りだ。

どんなヤツらも、手のひら返したように冷たくなる。


今度は責任のなすりつけ合いだ。

大概、個人とその直属の上司が責任取って落ち着くだろうけど。

鹿山先生はよく知ってるだろ?

どこまでが絶対に守られる基準で、どこからがあっさり切られる基準かくらいは…。」


「……………………………。」


鹿山先生は、押し黙ったまま何も答えなかったが…。

勇人を睨んで一言、呟くように質問してきた。


「お前…………何者だ?

小学生じゃねえだろ?

お前っ?」


「さあな…。

僕も何だか最近分からなくなってきたよ。」


勇人もまた、みなに聞こえないように呟くように答えるのだった。

校長先生が勇人達に近づき、深々と頭を下げて謝罪してきた。


「今回の件はスマナイ…。

君達…。」


それを見たアインは、悲しい目で校長を見ながら辛辣な一言を投げかけた。


「校長先生…。

あなたが謝っても意味が無い事は、鹿山先生の言葉から分かります。

中身の無い謝罪に意味も無い事も…。

でも。

でもね、校長先生…。

大人達には、もっと早くに動いて欲しかった。」


校長先生は頭を下げたまま言った。


「スマン…。

私は怖かった。

無職になるのが怖かった。

築き上げた物が壊れるのが怖かった。

色々大切な人をモノを、失う事が怖かった。

絶望で自殺しなきゃならなくなるかもと考えたら怖かった。

本当に怖かったんだ。

怖かったから、大人の責任を放り出して逃げてしまった…。

私が一番、逃げてはいけない立場の大人なのに…。」


アインが柄にもなく声を荒げる。


「大人達がその責任から逃げたから…。

ソッ君は今苦しんでる…。

ソッ君だけじゃ無いよっ!!

鹿山先生が壊していった児童達が、今でも…。」


勇人は、アインのその言葉を聞いて大声で止めた。


「アイ君止めろ!!!!!!!

その事で校長先生に当たるのは、タダの八つ当たりだ。

個人と全体を、ごっちゃに捉えて本質を見誤るな。

ババ抜きは終わったんだよ。

本来ババを持たなきゃならない人間が、ババを持つ事になる。

今はそれで良いだろう…?

校長先生…。

鹿山先生の処分は、責任を持ってやって下さい。

せめてそれが、あなたが出来る償いです。

お願いします。」


勇人のその言葉に、校長先生は静かにしっかり頷いた。


「今まで苦労をかけさせた…。

本当にスマナイ。

大人の一人として謝る。」


校長先生はそう謝罪すると、行動に出始めた。


校長先生は緊急職員会議を召集。

校長自らが事の顛末を全て説明した。

警察に盗撮の被害届けを出し。

証拠として鹿山先生のパソコンは押収された。

パソコンの中身は調べられ…。

風の噂では鹿山先生は、観察日誌としてある記録を残していた。

どうやら将来性のありそうな児童の未来を壊す事に、鹿山先生は喜びを見出だし、自己の心の健康を保っていたようだ。

彼の心の、その歪な欲望や願望は、ドコからイツから湧いてきたのだろうか?


その後、校長先生は責任をとって辞職。

鹿山先生は懲戒免職になる事が決まった。

その決定は数日後の、教育委員会の裁定待ちとなるが…。

既に関係者全員の段取りと役回り。

表向きの辞職理由と免職理由が、決定事項として決まった………。

簡単に言ってデキレースの茶番となるが、社会として必要な行為であった。


後日…。

この事を知った勇人とアインは、色々と話しあう。


「勇人様…。

鹿山先生が私達の学校に来て2ケ月半。

2ケ月半の人間がそれ以前にやらかした罪を、今まで見て見ぬフリを決め込んだ人間が罪に問われず。

校長先生に、全て責任をとらせるのはおかしく無いのでしょうか?

人を見極められず雇った事が罪だと言うのなら…。

人は自己保身をトコトンまで貫き。

ババ抜きをし続けるしか、道が無い証明になってしまうのでは無いのでしょうか?」


「まあな…。

校長先生の罪はせいぜい。

俺達のクラスを見捨てようとし、自己保身を図ろうとした事だ。

確かにこれも辞職ものの行動だろうけど…。

だけど、目の前に出世と将来の安泰をぶら下げられれば誰でも一瞬、気は迷うさ。

清廉潔白な人間なんてめったにいない。

だが、校長先生は自らのそんなダメな弱い部分を分かりつつ、それを見つめ。

最後には自己保身の心を押し殺して、行動に出た。

有能とは言えないが…。

まだ無能じゃない部類に入ると思う…。


完璧を求めるあまりに、責任の取れる人材から詰め腹を切らされるなら…。

本当に無能な人間しか残らなくなってしまう。

トコトン今回の件で、人の責任って物が分からなくなってしまったよ。」


「人は本質や原因や結果なんて、どうでも良いのでしょうか?

謝罪という行為があれば満足するのでしょうか…?

謝罪という行為に満足し。

罪と罰を…。

本質と原因を…。

真実と結果を…。

見誤っているのではないのでしょうか?

ならば謝罪をし辞めるという一連の行為は、無能な人間を残すシステムに成り下がっているのでは…?

勇人様…。人は…。

中身の無い、形だけの物を求めているのでしょうか?」


「改善の無い責任の取り方は、衰退にしかならない。

だがなアイン…。

謝罪そのモノを否定しだしたら、人は謝る事を一切しなくなる。

謝ったら負けな世界になっちまう。

人に譲る事も、人を敬いいつくしむ事も…。

まるっきり心にゆとりの無い世界になる。

要は、何が原因で、誰が本当に責任を取り、何を改善し、何をしなきゃならないのか…。

真に謝罪しなきゃならないのは誰なのか?

それらを見極める事が俺達を含め他のヤツらも出来るかどうかだ。

そうだろ?」


「ならば…。

本当に無能な人間とは…。

本当に責任をとらなきゃならない人間は……。

意味のある罰とは…。

謝罪とは責任とは…?」


罪と罰。責任と謝罪。

勇人とアインはその後も色々と話しあった。


話しと時間を少し戻す。


鹿山先生との一騒動があった翌日。


勇人達と鹿山先生との闘いは、終わったかに見えたが。

もう一つ、絶対に解決しなければならない問題が残っていた。

鹿山先生の置き土産と言っても良い問題を解決する為。

今朝も早くから勇人とアインは、学校とは反対方向へと向かっていた。


「「ソッおっくん!!

学校行こ~~~~!!」」


昨日と同じようになるべく明るくソナタを誘う。

しばらくして、高松紗英がまたも昨日と同じように出て来た。


「ゴメンナサイね二人とも、毎日来てくれてるのに…。

今日もソナタの体調が…。」


ソナタの母親がそう言いかけた、その時…。

アインが上目使いで紗英に向かって言った。


「あの、ソッ君のお母さん…。

今日一日、家に入れてもらえませんか?

学校をサボる訳じゃありません。

ですから…。

信じてもらえますか?」


アインが紗英の目を真剣に見つめる。

紗英はニコッと笑うと…。


「ええ、構わないわ。

本当にありがとう二人共…。

さあ、上がってちょうだい。」


アインの言う事をすんなり聞き入れてくれた。

二人の事を信頼しての行為だった。

勇人とアインがソナタの部屋の前へと行くと、アインが急に勇人に向き直った。


「ゆう君。

ちょっとココで待っててくれない?

ソッ君と内緒の話しがあるんだ。」


何でもオープンに話すアインには珍しい提案だった。

それゆえに、その行為が必要な事なんだと勇人は理解した。


「うん、分かった。

ココで待ってるよ…。

ソッ君の事頼むよ…。」


アインは勇人に微笑むと、ドアへと向き直り静かに開け中へと入って行く。


ソナタの部屋の中はカーテンが引かれ明かりすらつけていなかった。

薄暗い部屋でホコリっぽく淀んだ空気になっている。


「ソッ君…?」


「アイちゃん…?」


ソナタはパジャマのままベッドの上で膝を抱えこんで佇んでいた。

アインはソナタの側まで行くと、ベッドの上に腰掛け。

しばらく黙ったままソナタと同じ時を過ごす。

10分程過ぎた頃だろうか、ソナタがアインに話しかけて来た。


「アイちゃん…。元気だった?」


「うん。ソッ君は?」


「あんまし…。かな…。

やっぱりまだ、恥ずかしくて心が痛いよ。

学校に行きたくても、どうしても行けないんだ。」


「そっか…。そうだよね…。

好きな人の前でやっちゃったんだもんね。」


アインにそう指摘され、ソナタはますます暗く落ち込んでいく。

アインは、不用意な発言でマズい所に触ったと感じとり、慌てて取り繕ろおうとした。


「で、でも意外だなぁ…。

この前の電話で聞いて驚いたよ…。

僕はてっきり、ソッ君はしまぽんの事が好き何だとばかり思ってた…。」


「しまぽんは確かに好きだよ…。

可愛いと思うし…。優しいし…。

でもその好きって、友達としての好きに近いから…。」


「好きって感情も複雑だね…。

僕はまだ、よくわかんないや…。

それで、どんな所で好きになったの?ソッ君。」


「一見ちょっとキツそうに見えて優しい所が…。

お母さんに…。似てるかなって…。

そう思ったら…。なんか…。」


アインは恋バナをする事で、ソナタの緊張をほぐしたいようだ。

ソナタもまた、自らの胸の内を喋る事で、気持ちを整理し落ち着けたいようだった。


「僕どうしたら良いのかな…?

アイちゃん…?。

僕も学校に行きたいんだ。

鹿山先生が怖いとかそんなのでも無いんだ。

でも…。

学校であの子と会った時、どんな顔をすれば良いのか分からないんだ。

怖いんだ…恥ずかしいんだ。

怖くて怖くて…。

どうやって学校行けば良いのか、分からなくなったんだ。」


ソナタは目に涙を浮かべていた。

ソナタのお漏らしは、トラウマになりかかっている。

おそらくその記憶が、肉体と精神にまで影響を及ぼすのは時間の問題だろう。

アインにもそれ位は分かりだした。


「だから僕が来たんだよ。」


「っ?」


そう言うとアインは、ベッドからぴょんと立ち上がると、ソナタと向き合い手を差し伸べる。


「ソッ君、学校行こ…。

タダそれだけだ。

顔なんてあった時に決めれば良いんだよ。

それだけの事何だソッ君…。」


「アイちゃん…。」


ソナタはおずおずと手を出し始める。

あともう少し…。

そんな距離で一瞬その手が止まる。

…恐怖…。


だが、アインはその手を強引に握ると、一気にソナタを引っ張り立ち上がらせ…。


「それにさソッ君…。

今日の給食はパインパンとプリンだ!

一緒に食べよう!」


ニッと笑いながら笑顔でそう言う。

ソナタも微笑みを浮かべアインに答えた。


「アイちゃん…。

…………。

僕、パインパンは苦手なんだ…。」


「えっ!?そうなの?

僕、結構好き何だけど…。」


一瞬アインの心にヒヤリとした風が流れる。


「じゃあ半分あげるね…。」


ソナタは微笑むと、身支度を始めるのだった。

アインとソナタが部屋から出ると、そこに勇人は居ない。

どこに居るかと探して見たら…。


「ゆ、ゆう君…?何してんの?」


「イヤ、ソッ君のお母さんがどうせだからって食べてけって…。

朝食を…。」


勇人はリビングで、サンドイッチを食べながら、テレビを見てくつろいでいた。


「ゆう君きっちり食べたよね朝食…?

何でまた食べてるのっ?」


「えっ!?ゆうちゃん…?

それ僕の分のサンドイッチじゃ…?」


「安心しろソッ君。

お昼に作り置きしてた分を、貰ってるだけだよ。

たまにパン食も良いもんだな。

あっ!?それとソッ君。

鍵はちゃんと掛けて行ってねって、おばさんが言ってたよ。」


勇人はソナタの指摘を聞き流しつつ、重要な伝言をソナタに伝える。

どうやら高松紗英は、もう仕事に出かけたようだった。

勇人とアインを信頼しての言づてだった。

勇人がひとしきり食べ終わると、おもむろに立ち上がり…。


「ごちそうさまでした。

さっ!じゃあ学校行こうかソッ君…。

これ以上ココに居たら遅刻しちゃう。」


「あの…。ゆうちゃん…。

僕まだ朝ご飯食べて無いんだけど…。」


「のん気に座って食べてたら遅刻しちゃうって…。

サンドイッチ何だから、行きながら食べれば良いだろ?アイ君もっ!!」


「そだね…。行こうソッ君。」


「ふぅ…。

行儀が悪いけど…。

たまにはいっか歩きながら食べても…。

僕初めてだよこんな事するの…。」


そう言うとソナタとアインは、残ったサンドイッチを持てるだけ持ち、学校へと向かうのだった。


時は静かに流れて行く。

人は時として教師の影響で変わって行く。

恩師を見つけ出会えた人と…。

見つけられず出会えなかった人の差は大きい…。

良くも悪くも、子供に身近な大人の一人なのだから…。

世界はほんの少し明るくなったはずなのに…。

何故か陰りは大きくなった…。

そんな気がしてならなかった…。


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