独裁体制はキヅケナイ 覚悟編

山田 華とドナタに、鹿山先生の事を聞いたその日…。

土曜日の午後。

勇人とアインの二人はそれぞれのやり方で覚悟を決める行動に出た。

アインは…。


「えっと…。確か電話番号は……。」


ぷるるるっ…ぷるるるっ…


「ハイっ、高松です。」


ソナタの母親、高松紗英の声だった。

アインはソナタへと電話をかけて、話しをする事で覚悟を固める事にした。


「あっ…。

もしもし矢城アインと申しますが…。」


「只今留守にしております。

ケータイへ掛け直すか。

ご用の方は発信音の後に、メッセージをお入れ下さい…。」


ピーーーーッ


機械的な発信音が鳴る。

どうやら留守電モードになっているようだった。

ソナタはおそらく部屋に居るだろう。

アインはそう自らに言い聞かせながら、電話越しのソナタに語りかけるように語りだした。


「ソッ君…。矢城アインだけど…。

話したい事があるんだ。

出来れば電話に出て欲しいよ…。

録音時間が終わるまで待つから……………………。」


アインは沈黙のまま待ち続ける。

録音時間も、切れるか切れないかの間際…。


カチャ…


受話器の外れる音がした!

留守電モードから通話モードに切り替わったようだ。

しばしの沈黙の後、ソナタがおそるおそる話し始めた。


「アイちゃん…?

どうしたの…?急に…?」


「ソッ君…。その…。

謝りたい事があって…。

ゴメンね…ソッ君。鹿山先生の事で、今まで気づかなくてゴメン…。

もっと早く気づいてたら…。」


ソナタはしばし熟考の後…。


「…………。

アイちゃん………。

アイちゃんだから、ちょっと聞きたいんだけど…。」


ソナタへの謝罪と、覚悟を決める為に電話をかけたつもりが…。

その話しは、妙な方向へと進むのだった。


一方、勇人は対鹿山先生用の作戦を考えた後に、緊急連絡網で調べ物をしだした…。


「え~と…。

あいつの電話番号はっと…。

あった!」


ぷるるるっ…ぷるるるっ…


「はいっ。もしもしっ。」


電話に出たのは、野太く低い大人の男性の声だった。


「もしもし。土那高マキさんのお宅でしょうか?

僕はクラスメイトの矢城勇人と申しますが。

マキさんはご在宅でしょうか?」


勇人は、例のホームページのクラス写真を貰う事で、鹿山先生を討つ覚悟を決めようとしていた。


だが、そんな勇人の思惑とは別に…。


「おっ!?男っ!?

…えっ?………男っ!?!?

かっ!母ちゃ~~~ん。お赤飯っ!

お赤飯炊いて~!!

緊急警報っ!緊急警報~!!

マキに男から電話ばかかってきよったぞ~~!!

皆の者!!マキに、男から電話ば来たど~!!」


『えっ!?何っ!?

なんなの?この反応…?』


世間一般とはかなり違う電話の応対に、勇人は戸惑いながらも、ドナタが電話に出るのをただ黙って待ち続けた。

受話器の遠くの方からかすかにドナタの声が聞こえる。


「も~っ!!お父さん、勝手に騒がんでよっ!!

恥ずかしいやんっ!!」


「いいかマキ…。

ヤジロだが、ヤシオだがそんな男から電話ばいっ!!」


「えっ!?矢城君っから!?」


「マキ~。とりあえず落ち、オチ、おち、落ち着けよ…。

落ち着いて話せばお前の良か所ば…。

いいか!!とにかくオチ、おち、オチ、おち…。落ち着キャット…。」


『オヤジ、とりあえず今はあんたが落ち着け…。』


勇人が心の中でツッコムと、ようやくドナタが電話に出た…。


「は、は、はいっ!お、お、お電話代わりました~~。」


緊張したのか、女の子特有の電話声を作ろうとしてか…。

妙なテンションの甲高い声になっていた。


「あっ。土那高さん。矢城勇人だけど…。」


「なんだ…。矢城君のお兄さんの方か…。」


ドナタのテンションが一気にドンと下がるのが、声から丸分かりだ。

声も普通に戻る。


「えっ!?なんなの?その反応も…?

ちょっとおかしく無い…?

まあ、いいか…。

土那高さん、悪いんだけどさ。

もう一度あのクラスの写真を印刷して、見せてくれないかな?

居なくなった子の顔を確認しときたいんだ…。」


「ハイ。構いませんよ。

あっ!?

どうせなら、今すぐにでもプリントアウトしてお渡ししましょうか?

まだ5時半前ですし…。

矢城君の家って、確か近かったですよね?

ウチ時計台公園の近く何ですよ。」


「えっ!?そうなの!?」


昼間、勇人達が集まっていた公園だった。

ドナタがノートパソコンを持って来るのに都合が良かったのだろう。

それ以上に驚いたのが、電話越しのドナタは、全くどもる事もなく流暢に話している事が勇人には驚きだった。


「土那高さん…。

だったら今から、時計台公園のすぐ近くにコンビニあるだろ?

そこで待ち合わせって事で…。」


それから35分後…。

勇人はコンビニで待ちぼうけを食らっていた。立ち読みして時間を潰すのにも、多少居心地が悪くなってきた。

勇人の家からコンビニまで、徒歩で10分もかからないが…。

ドナタの言葉が確かなら、とうに来ても良いものの、かなり待たされている。

勇人が、4冊目の週刊マンガ誌を立ち読みしていると、背後から声がした。


「…あ、あの…。矢城君のお兄さん……。お、お待たせ…。し、ました…。」


か細い声で恥ずかしそうにドナタが声をかけて来た。

またいつもの、どもり気味の話し方だ…。

勇人は、いつの間に入ってきたのか疑問に思いつつ振り返ると…。


「ようやく来たかぁ……って…。

土那高さんっ!?

何かさっきと服が………!?

えっ!?どっか出かける予定だった?」


そこには普段のアニメ柄の服とは違う、明らかによそ行き用に着飾った格好したドナタが顔を赤らめ立っていた。


「イヤ………その…。お、お父さんが…。

ど、どうしても、良い服着ていけって…。

う、ウルサくって…。」


どうやら着ていく服を選んでいて遅くなったようだった。

恥ずかしさからどもり気味に戻ったのだろう。

二人は、プリントの受け渡しで万引きと誤解されないよう、一旦時計台公園へと向かった。


「それで土那高さん?写真のプリントは?」


「あっ…えと…。こ、コレです…。」


ドナタがバックの中から、例のクラス写真のプリントを出し、勇人に手渡した瞬間だった!!。


カシャッ!カシャッ!カシャッ!!


かすかにカメラのシャッター音が、夕焼けで赤くなった公園の物陰から、聞こえたような気がした。


「んっ?気のせいかな…?

まあ、いっか……。

ところで土那高さん。ちょっと聞きたい事があるんだけど、もう少し時間貰って良いかな…?。」


「あっ…。か、構いませんよ。」


ドナタは首を縦に降ると共に、一つ提案してきた。


「あの…それと…矢城君のお兄さん…。私の事、名字で呼ばれるのは…。ちょっと…。

あ、あだ名か名前で呼んでくれると…。

た、助かるんですが…。」


「そっか…。じゃあマキさん。

あの例のクラスのサイトのアドレスも、教えてくれないかな?

居なくなった生徒がどうなったか、僕なりに調べてみたいんだ。」


それを聞いたドナタは、暗く悲しげな顔になっていく。

カシャッ!カシャッ!カシャッ!!


それと呼応するように、又かすかに風に乗ってカメラのシャッター音が聞こえた気がした。


「その…わ、私も調べたんです。

一人だけ…、ざ、残念な事に…分かってしまいました…。」


ドナタはそう言うと、悲しげな表情を一層深める。

勇人はその表情を見ると、イヤな予感がもたげながらも静かに聞き入る事にした…。


「あ、あのホームページには、「みんなの言葉」ってページがあるんです…。

卒業の際にクラスの皆さんに向けたメッセージで…。

そ、その中で4つ、明らかに定型文のメッセージがありました。

「みんな今までありがとう。」ってだけの…。

その定型文の名前で、検索をかけたら…。

…昔のニュースサイトが引っかかったんです…。」


ドナタの口振りから勇人は…。


「そのニュース。

あんまり良いニュースじゃ…なさそうだな。」


そう簡単に予想出来た。

ドナタは静かにコクリと頷く。


「ええ…。

中学校内での自殺を取り扱ったニュースでした。

名前と年齢と地域と年代まで同じでしたから。

お、おそらくは同一人物だと思います…。」


「そうか…。」


勇人がそう悲しくやるせなく思ってた時である。


「マキ~~助けてくれ~~~!!」


どこかで聞いた事ある声で、助けを求める声した。


「何だっ?

このオヤジ狩りにでもあってるような。

救いを求める声はっ?」


勇人がそう怪訝そうに辺りを見回すと…。

確かに、やたらデカいカメラをぶら下げた怪しげな男性が、タチの悪い連中に絡まれていた…。

警官からの職質として…。


「お、お父さんっ!?

また、お巡りさんから職質かけられちゃったのっ!?」


ドナタがそう大きな声で驚く。


『『またっ!?職質っ!?!?』』


勇人と警官達は、ドナタの「また」という言葉に、一瞬疑問符と驚きを覚えたが…。

その人物の風貌を見直して見ると、妙に納得してしまうのだった…。


「ウチの父が何かスイマセンっ!」


「ねっ?お巡りさん!

ただ娘を写真に撮ってただけって言ったじゃなかですかっ!」


「だからといって君…盗撮は…。」


「もう、その辺でよせよ柴田…。

娘を盗撮したい気持ち…。

俺には分かるぜ…。」


『分かっちゃダメだろっ!!』


クールにキメセリフのように同意した警官に、勇人の心のツッコミが入る。


「前々から先輩とは、良い酒が飲めると思ってましたっ!」


「アンタも分かってるのかよっ!!!」


思わず二人の警官へ、勇人のツッコミが鋭く入るのだった。


その後、警官から少しばかり注意された。


「次からは見つからないように、気をつけて下さいねっ!!」


どうにもズレた方向に…。


「「スイマセン。スイマセン。」」


二人で平謝りする土那高親子を見て、警官もその場を後にする。

端から見たら明らかに不審者だが、父親らしき人物にドナタは問いただした。


「もう、お父さん!!何やってんのっ!!」


「…ゴメン、マキ。

お父ちゃん、お前がデートしよる所、邪魔しちゃいけん思って…。」


『デートじゃねぇ~~~!!

むしろ殺伐とした話しだったわ!!』


ドナタ親子の会話に、勇人が心のツッコミを入れていると、ドナタが父親を非難する。


「もう、隠れてコソコソ写真とらんでって何回も言ったやんっ。

そういう態度が、みんなから誤解をされるんやし。」


「イヤ…。だってなぁ~マキ…。

お前に始めて男から電話ばあって、そん上呼び出されたんぞ。

こんなメモリアルな日ば、写真にとらんでどうすっとや?」


「もう余計な事せんでよ!

こん人は、タダのクラスメート!!

お父さんが想像しよるような人じゃ無いのっ!!」


「分かっちゅう。分かっちゅう。

お父ちゃん空気の読める男ばい。

そういう事にしちゃる。」


「も~。お父さん~!!」


ドナタに少し泣きが入る。

普段の恥ずかしながら、どもり気味の話し方とは打って変わって、流暢にドナタは話す。

おそらくは、こっちが普段の家庭内でのドナタなのだ。

口では怒ってはいるが、どうにも形だけの怒り方に勇人は思えた。願望だろうか?。


「ゴメンね。

矢城君のお兄さん…。

変な所見せちゃって…。」


ドナタからどもりが消えている。身内との会話からの流れで、普通に話す事が出来たのだろう。


「イヤ、良いよ…。

しかし、お前の父ちゃんのカメラ凄えデケぇな…。

何やってる人なの?」


「うん…ウチのお父さん、一応写真家で写真屋だから…。

私の事をよく隠れて写真を撮ろうとしてて、職質食らってるの…。」


「っ!?」


「自慢じゃ無かが、さっきの職質で、両手両足の指の数じゃ足らんようになったぞ。

イヤ~今日はスゴか事が起きる日ばい!!」


『ホントに自慢出来る事じゃね~!』


二人の会話に、さも当然にドナタの父親も入ってくる。

勇人はツッコミを入れながらも、クラスメートの見てはいけない物を見た気がして…。

なんとなく…いたたまれ無い気持ちになった。


そうこうしているウチに、日もだいぶ暮れ、辺りは暗くなりかけていた…。


「ヤバい…。急いで帰らないと…。」


「あっ!?ごめんなさい。矢城君のお兄さん。

時間取らせちゃって…。

ホムペの検索ワード、今メモに書きますね…。」


そう言ってドナタがメモ用紙に、メモしている間に、ドナタの父親が勇人に話しかけて来た。


「あ~ほんのちょっと良いかね?

ヤジロ君?」


「やしろです…。」


「あ~スマン。

それでやしろ君。

マキの事ば、学校で仲良くしてやってくれんか?

娘ば見ての通りシャイで、人見知り激しくて…。

向こうの学校じゃ友達が全く出来んかった。

変わった子だとイジメられとった。

もし、こっちでイジメられとったら、守ってやってくれんか?

頼む。」


「っ!?」


父親のその言葉と頭を深々と下げる態度で、メモを書くドナタの手が少しばかり止まった。

それに気づいた勇人は、何となくドナタ親子がこっちに引っ越してきた理由を察する。


「ええっ。分かりました。

マキさんはクラスメートですから仲良くします。

安心して下さい。」


勇人は本来の、ドナタを男なれさせる目的の為にも、これ幸いと心よく引き受けたが…。

ドコか心の奥底で良心が疼く。


「おおっそうかっ~!!

マキさんやて!?マキさん!!

人が出来とうなぁ…。

マキ~。お前に二人目の友達が出来たなぁ。

こっちに引っ越して来て良かったな~。」


「も~。お父さん止めてよ~。

余計な事言わんで、恥ずかしい~。」


ドナタ親子二人共、少し泣きが入っていた。

何に対するどんな泣きなのかは、勇人には判断出来なかった。

おそらくそれは、本人達にも分からないだろう。

感情があまりにも混ざり過ぎている。

その涙の意味が分かるのはおそらく…。

二人のそんな姿を見るに、勇人は心の奥底に何か、モヤモヤとした罪悪感がある事が分かっている。


『オレは…。オレの存在は…。

この二人にとって…。

みんなにとって…。

何なんだ…?』


答えはまだ出そうには無い…。

勇人は例のクラス写真と、ホームページアドレスの検索ワードのメモを貰い、家へと帰った。

既に暗くなっていたので、天美母さんから少し怒られはした。

だが、価値のある時間が過ごせたと勇人は思えた。

覚悟の意味でも…。

疑問の意味でも…。


夕飯を食べおえた後。

勇人は家族兼用パソコンで、件のホームページを見ていると、アインが話しかけて来た。


「ゆう君。

例のホームページを見てるの…?」


「うん…。「みんなの言葉」ってページを見てたんだけどさ…。

このクラスの子達が書いた文書、読んでよアイ君。コレ…。」


「え~と何々?「みんなと出会えた事で、楽しい思い出をたくさん作る事が出来嬉しかった……。」ふ~ん…。

どの人の文書も、何だか楽しい嬉しいって言葉に出してるだけで、ホントに楽しそうに感じ無い文書だね。」


「アイ君でも分かったか…。

そうなんだ、本当に楽しいって時は、感想自体の文体が踊るもんなんだ。

文書を書くのが下手な男子なら、こんな文書でも分かるけど…。

女子にまでのっぺりとした、思いが伝わらない文書しか見られない。

このクラスで、どんな思いをしたのか、何となく想像がつくよ。」


勇人がそう言った所で、海心父さんがお風呂から上がってビール片手に、お風呂に入るよう促してきた。

二人が風呂場で湯船に浸かっていると、不意に勇人の目から涙が出てきた…。


「どっ!?どうしたのゆう君?

どっか痛いの!?」


「あれっ?おかしいな…。何でだろ?何で…?

…何でこんな当たり前の日常すらもう…?」


「っ?」


勇人の頭の中には、不登校に陥ったであろう3人の写真が、頭から離れなかった。やはり、どの子もソナタとダブって見えた。

どれも最初の写真では、口元の優しげな笑顔の写真であったが、改めて写真を見直すと、少しずつ笑顔がくすんでいくのが分かった。

そして一人ずつクラスから存在が消えていった。

その内の一人は確実に死んでいる。

この世にはもういない。

日常すら無い。

美味しい料理で、家族とのやりとりで、そして湯船で、それを実感したのだ。


「チ、ちくしょう…。

何で俺は…もっと早く…。」


「っ?」


アインには、勇人のその言葉の意味する所が分からなかった。

勇人は、件のクラスの一人が既に自殺している事は、アインに話していない。

余計な情報で、アインの純粋さが暴走するのを恐れたのだ。

結果、一人で全てを背負う形になった。


「アイ君…。

イヤ、アイン!!

やるぞ鹿山討ちっ!!」


「ハイッ!勇人様っ!!!!!」


勇人とアイン。

二人の覚悟が完全に固まった瞬間だった。

お風呂から上がると勇人は、着替えもせずに真っ先に山田 華へと電話した。


時計台公園から勇人達と別れ家に帰りついた後しまぽんは…。

自室で音楽を聴きながら、軽い気持ちで覚悟について考えていた…。


「覚悟か…。

覚悟ってどうすれば出来るんだろ?

そもそも覚悟って何だろね…?」


そう呟いた所で分かるはずもなく、マンガを読みお菓子を食べながら、何となく時間を過ごしていると…。

不意に部屋をノックする音と共に、しまぽんの兄が顔を覗かせた。


「オイ、ひな…。ちょっと音大きくないか?少し音量下げろよ。」


「ゴメン…。ちぃ兄。

そだっ!!ねぇ、ちぃ兄。

覚悟ってどんな事?。」


「覚悟~?覚悟ってお前…。

そりゃあ…そだな…。」


しまぽんの兄は答えようとしたが、一先ず退散し、とあるマンガを持ってきた。


「とりあえず、このマンガでも読んどけ…。」


山口貴由の「覚悟のススメ」である…。

しまぽんはひとしきり読み終えた後、兄の元へとマンガを返しに行った。


「ちぃ兄ちゃん…。このマンガ。

グロいし、キモいし、面白いけど、覚悟についてまるで分からなかったんだけど…。」


「あっ!やっぱり!?そりゃそうだよなぁ…。」


ただ単にそのマンガを読ませたかっただけのようだ。

律儀にも全巻読み終えたしまぽんは、無為な時間を更に費やしただけであった。

しまぽんの兄は、少しばかり考えて、妹の悩みに真面目に答え出す。

ググッたりウィキったりする時間稼ぎは、成功したのだ。


「そうだな…。

覚悟って簡単に言えば、決意にプラスして考える何かだな。」


「何かってなんなの?」


「何かってのはあれさ…。

メリットとか…。デメリットとか…。

要は何かの行動する時にだ…。

後の事をなんも考え無かったら、無鉄砲で無謀ってだけだ。

良い事しか考え無かったら、決意だけで十分だ。

全てを考えつくして、最悪なデメリットな部分すら受け入れてでも、やらなきゃならない時に、心掛けるのが覚悟さ。」


「ふ~ん…。そっか。

ありがとうちぃ兄ちゃん。」


しまぽんは納得したのか笑顔で礼を告げると、又自らの部屋で考え出した。

兄の面子は保たれたのだ。


『そっか…最悪なデメリットか…。

考えても無かったな…。

もし失敗したら、私達が真っ先に鹿山先生のいびられるターゲットになるんだよね…。

多分…。

それで、残りの小学校時代を過ごすか…?

ソナタ君みたいに不登校になるか…?

でも…。

それだけが、最悪なデメリットなのかな…?」


しまぽんは別な何かを掴みかけていた…。


「あっ!?そっか…!!」


しまぽんはフと何かを思いついた。

大切な何かだ。


「成功した時のデメリットも考えなきゃダメなんだ…。

社会的に殺すって位だから…。

もし成功したら、鹿山先生は学校を辞める事になるんだよね…。

多分…。

そしたら鹿山先生のその後の人生は…。

どうなるんだろ…?」


しまぽんはそれを思いつき、深く深く考えだしたら自らが参加し、やろうとする事の重さを実感し始めた。

そして怖さすら感じ始めるのだった。


『だったら何も私がやらなくても…。

華ちゃん達に任せてれば…。

イヤ、ダメだ…。

それって…。

自分がイヤな事を、華ちゃん達に押し付けただけなんだよね…。

解決にすらならない…、多分…。

それに華ちゃん達がやらなかったら…。

ソナタ君が学校に来れない…。

そしたらソナタ君の人生はどうなるんだろ…?』


夕飯やら、お風呂やら、ながら思考で考え尽くし。

結論が出てフと気づいたら9時を過ぎていた。


『私がやらなきゃ…。ダメ…なんだよね。』


「あっ!?コレが覚悟ってヤツなのかな…?」


しまぽんは「覚悟」について、何かを掴みかけていると実感した…。

というよりも…。

しまぽんは既に、覚悟その物を掴んでいるが、本人は気づいていなかった。

その時である、山田 華から電話がかかってきたのは。


「はいはい、華ちゃんどうしたの?

こんな夜中に?」


「実は明日、朝から矢城君達がウチに来て、鹿山先生の事で作戦を練る事になったんだけど…。

あなたはどうする…?

参加する?

イヤなら、やらなくても…。」


しまぽんは自信を持って、声に力強さを見せながらその問いに答えた。


「うん。私も参加するよっ!!

当然じゃないっ!!」


しまぽんが覚悟を口にした瞬間だった。


翌日の日曜日、朝早くから勇人とアインは山田 華の家へ向かっていた。

二人が山田の家に着くと勇人はその外観に少し驚いていた。


「アイン…。

あいつん家って、良い所のお嬢さんだったんだな…。」


山田 華の家は一般家庭と比べたら、庭もかなりに広く、お値段も5倍は高そうな結構な邸宅だった。


「アレっ!?

勇人様は山田様の自宅に来るのは初めてでしたっけ?

私はお誕生日会とかで何度も来てましたが…。」


心なしか得意気なアインに勇人は少しイラっとした。


「何でお前が得意気になってんだよ…。

何か幼稚園の頃から、あいつに嫌われてんだよなぁ。

なんでだ?」


「勇人様…。

山田様は、勇人様が保母さんの乳房を揉まれた事に不快感を覚えたのでは?」


「イヤ、その前から嫌われてたぞ確か…。

でも、そういえばそんな事あったな…。」


「時の流れは早いですね…。

でも、あの時の勇人様の凹みっぷりときたら…。」


お互いにクスッと笑いあうと、山田の家へと入っていった。


「いらっしゃい。矢城君、バカ勇人。

もうみんな来てるわよ。」


家の中へと招かれると、内装も広々としたなかなかの作り。

山田 華の部屋へと通されると…。

あまり物も置いて無い、さっぱりとした部屋の内装で、ドナタとしまぽんが既に来ていた。

しまぽんはしまぽんなりに、覚悟を決めたようだ。


早速、本題へと入る。

この時になって、山田 華がある秘密を暴露した。

勇人にも寝耳に水の情報である。


「それは本当なのか山田っ!?」


「ええ、確認済みよ。だから危険だと言ったのよ…。」


「鹿山先生…。そこまでやってた何て…。」


「間違いなく発想が独裁者そのものね。

それで…。

それを踏まえた作戦なんだけど…。」


山田が立案し、着々と準備していた作戦と…。


「お前もそう作戦を立ててたか…。」


勇人が立てた作戦は近い物があった…。

なので、二人の作戦を掛け合わせ、段取りと役回りは簡単に決まった。

一通りみんなで話し合い。

必要な物を書き出してる最中である。

女子3人組が素っ頓狂な驚きの声を上げた。


「へっ!?カステラ??

そんな物で何を作るの勇人君!?」


「あ、あの…それにこの果物ってたしか…。

と、とっても…。その……。」


「あっ!!

何となく分かったわ…。バカ勇人。

あんた相変わらず下品よね…。

本当にっ!最低だわっ!!」


山田 華だけその意図が分かったのか、勇人を軽く軽蔑しだした。


「ほらゆう君…。コレは学校のみんなにも凄く迷惑だよ…。

コレだけは止めとこうよ…。

みんなに誤解されるよ。

ねっ?」


「イヤ、バ鹿山を煽るにはコレ位した方が良い。

それとこっちの方は、少なくとも僕はリアルでやる。

気が引けるならアイ君は、CCレモンで代用しても良いよ…。」


「まったく…!

言ったら聞かないんだよなゆう君は…。

変に頑固というか…。

分かったよ僕も付き合うよ…。」


アインは仕方ないテイで勇人に賛同した。

だが、山田はおろか他の女子二人すらそれに断固反対しだす。


「お願い矢城君。

バカ勇人の身はどうなっても良いけど…。

矢城君はそれだけは止めてっ!!」


「うわぁ…。

勇人君がそれをやっても、なんか仕方ないかなって思えるけど…。

アイン君までそれをやるのは、ちょっと引くなぁ…。」


「あ、あの…。

そ、それって…。

やり過ぎなのでは…。

矢城君のお兄さん…。」


勇人は3人のその反応を予想してはいたが…。


「山田はともかく、仕方ないってしまぽん…?

しまぽんまで僕の事どう見てんだよ…。」


「間違いなく変態…。」


ズガ~~~~~~~~~ん!!


しまぽんはそうきっぱりと勇人の印象を答えた。

その言葉に凹む勇人。

だが、勇人とアインがやろうとしてる行動は、間違いなく変態であるので、否定しようも無かった。


「ああ、そうさ…。

ああ、変態さ…。

だが、正義の為の変態さっ…!!」


ショックから逆ギレ的に開き直る事にしたようだ。


「ゴメン心配かけて…。

多分、ソッ君の事を考えると、コレが一番良い選択肢何だと思う。

僕達がコレをやらなきゃダメなんだよ…。

絶対…。」


アインにそう言われると、もはや女子3人に止める手段は無かった。

アインはアインなりに、昨日のソナタとの会話から覚悟を固めているようだ。


全ての段取りが決まると、勇人はみんなをまくし立てた。


「さて、話しもまとまった所で…。

じゃあ早速、みんなで買い物にでも行きますか!!

バ鹿山討ちっ!!やるぞっ!!

みんなっ!!」


皆がそれぞれコクリと頷いていく。

そして最後に山田 華が…。


「仕方ないわね。それで行きましょう。」


そう仕方ないテイで賛同した…。

全員がそれぞれの「 覚悟 」を胸に秘め、作戦は今から始まる。

0から1への間の時間…。

それが今だった。

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