ほんの少しの悪2

二人がハブられた次の日、学校へと登校すると…。

アインに対するイジメは、綺麗さっぱりなくなっていた。

だがそれは、単にイジメの対象が変わっただけでしかなかった。

勇人と、ヒナタに…。


朝一で目にしたのは…。

黒板にデかく荒っぽい文字で、勇人と志摩本ヒナタ二人の相合い傘の落書きと…。

その周りには、複数の人が書いただろう筆跡の違う罵詈雑言。


「こ、コレは…!?」


「いやはや、こいつは僕にはありがたい落書きだね。

志摩本さん可愛いし。

けど、志摩本さんには酷だ。

あい君消すのを手伝ってくれ。

志摩本さんが来る前に消そう。」


「う、うん。」


勇人は、これ位のイジメには慣れてるのか軽く流す。

勇人はまだ良かったのだ。

女子から無視されるだけで…。

側に、アインにソナタにカナタ。

他の男子もいる。

それにこの程度のイジメは、前回の人生で慣れていたので、耐える事など楽勝だった。


だが…ヒナタは…。


まだ教室や、音楽室の掃除区域等は良い方。

他の男子の目があるのだから。

だが、女子トイレや更衣室では何があったのか…。

完全に孤立無援となる状況。

教室で、背中を震わせ。

必死に涙をこらえ声もあげず泣く彼女の姿が、それを物語っていた。


次の日の放課後。

クラス全員が教室に居残りをさせられた。


「君達…。

この状況はどうしたんです!?

何でウチのクラスで、イジメが起こってるのっ!?

昨日より状況が酷くなってる説明を、誰かしなさいっ!!」


バンッ!!!

 

机を平手で叩きつけ。

若林先生は語尾を出来るだけ荒げ、強気でクラス全員に説明を求めた。

どうやら、1日だけ様子を見て止まらないようなら、学級裁判を開こうと若林先生は考えていたらしい。

時の流れは人を変える。

1年生の頃に比べて、先生という立場が板についてきたようだ。


皆が静かに沈黙を守るのを見て、勇人が説明しようと、手をあげかけた時である。


「先生、私が説明します。」


山田 華が手をスッと上げ、立ち上がり、若林先生に向かって説明しだした。


「全ては志摩本さんが原因なんです。

実は志摩本さん。

川沿いの駄菓子屋であめ玉を盗んで、数人の女子に配ってました。

それを食べた子は同罪だって…。

そう言われて私達、無理やり口止めされてたんです。」


山田はそう出だしを進めると、ここまでの状況を説明しだす。


「それで、この前の放課後。

志摩本さんが矢城君に、あめ玉を盗んでくるよう言ったら。

矢城君は断ったんです。

志摩本さんはそれが気に入らかったみたいで、矢城君を仲間ハズレにしたいと言って、

矢城君に対して無視が始まったんです。」


「ならどうして、今日は志摩本さんが無視されてイジメにあってるの…?」


若林先生は、自分が疑問に思った事を素直に聞いてきた。

山田は動じる事無く説明する。


「一昨日の放課後、みんなで話しあったら。

やっぱり矢城君の事を無視するの良くないよねって女子の中で話しになって。

みんなで志摩本さんにやり返す事になったらやりすぎました。

お騒がせして、スミマセン。

若林先生。」


山田 華は、ほんの幾ばくか感情を込め、強調する所は強調し分かり易いように若林先生に説明した。

若林先生に頭を深々と下げる山田 華の姿に、若林先生も少し感心してるようだった。


「山田さんの説明がありましたが…。

まずは確認しなきゃならない事がありますね。

志摩本さん、立ちなさい。」


ヒナタがそう言われておずおずと立つ姿を見て、勇人はとっさにヤバいと感じたっ!!

このままでは自白で、冤罪が確定しかね無いのだ。

勇人は必死に手を振り上げ立ち上がり。

若林先生に自らの存在をアピールしだす。


「先生。

僕も言いたい事があるんですが!!」


「待ちなさい、矢城ゆうくん。

志摩本さんに話しを聞いてからにして下さい。

志摩本さん、山田さんの言った事は本当ですか…?

アナタは駄菓子屋であめ玉を盗んだの?」


そう若林先生に質問され、しばし考えた志摩本は意を決したように…。

自らの罪を…。


「………………。

本当です…。

すみません…先生…。

盗みました。」


認めた。

認めてしまった。


どう弁解した所で、自分で皆にそう言いふらしてる以上…。

盗んでいないと言っても信じられる事は無い。

そう踏んだのだろう。


真実は時に全く価値をなさない事がある…。


だが、そんなヒナタを見て…。


「何でそんな嘘をつくのさ…!!

若林先生、志摩本さんはウソをついてます!!」


アインがいきなり立ち上がり。

若林先生にヒナタの冤罪を訴えた。

その姿を見た勇人は、更にマズいと思い焦る。

冷や汗を垂らし、心の中で大きく叫ぶ。


『アインのバカ…!!

いくら真実を知ってるとはいえ、根拠の無い事を言ってもダメなんだよ!!

聞いてる第三者からしたら、それは全てウソにしか聞こえない!!

信用されない真実に価値は無く。

信用されるウソに価値が生まれるんだぞ!

いい加減、人の世の仕組みを、理解しろよな!!』


そう勇人が心の中で大声でツッコミを入れていると、若林先生がアインを制した。


「まあ、待って。

矢城あい君。

矢城ゆう君が先に発言したいようです。

アナタの話しは後で聞きます。

で、矢城ゆう君…、君は何が言いたいの?」


勇人は不敵な笑みを携え静かに立ち上がる。


「先ずは若林先生。

発言の機会を下さりありがとうございます。」


そう言って勇人は、アメリカの裁判ドラマのような出だしで手を胸に当て頭をペコリと下げた。


『法廷ドラマの見過ぎです!!矢城君!!』


若林先生がそう心の中でツッコミを入れていると、勇人は決め顔のまま発言を続ける。


「山田さんの説明では矛盾する所があります。

それは、何故か僕までがアイ君と一緒に除け者にされた事です!!

アイ君が飴を盗むよう言われた放課後の時。

僕はソナタ君の家に遊びに行ってたのに…。」


「言われて見るとおかしいですね。

ですが、兄弟だからとばっちりで巻き込まれたんじゃないの…?」


若林先生はそう仮定して勇人に聞いてきた。


「僕も最初はそう思いました…。

ですがそれだと、僕だけ今も無視され続けた事に矛盾します。

アイ君は普通に女の子に話しかけられているのに…。」


「普通に女子全員アンタの事を嫌ってるからでしょっ!!」

 

グッサーーーーーーーーー!!


『ぐふぅぅぅぅっ!?』


山田 華の言葉の刃が勇人の心をえぐる。

その口撃にひるみながらも勇人は話しを続けた。


「そ、そこで僕は、もう一つ仮定を立てたんです。

もしかしたら、イジメの首謀者が出した指示は…。

「 矢城君 が、志摩本さんを、泣かせたから、ハブにする。」

この指令だと、矢城という名字が、僕とあい君のどちらを差しているのか分からない。

だから両名の僕ら矢城がハブにされたのでは無いか?

他の男子に詳しく聞いたら、やはりそうだった。

そして、僕の事はアンタ、アイ君を矢城と言っている人物は…。」


勇人はじっくりタメを入れ、思いきり指差し大声で熱く言い放つ!!


「君だっ!!山田 華っ!

首謀者は志摩本さんじゃ無い。

お前がこのイジメの全ての首謀者だっ!!

初日はアイ君をターゲットにしようとしたが…。

お前はその指令をいつもの呼び方の名字で出してしまい。

僕ら二人がイジメられるミスをしてしまった!!

お前はこのイジメの主犯だと僕に図星を突かれムカついた。

だから今度は僕と志摩本さんをイジメの標的にしたんだろ。」


勇人は山田 華を指差しながら更に続ける。


「志摩本さんに標的を替えたのは、志摩本さんがお前を裏切ったからだ。

一昨日の昼休みの事、見ていた男子から聞いたぞ。

余った牛乳を飲もうとした志摩本さんを、アイ君の席の近くにいた山田が呼び。

志摩本さんに牛乳をこぼさせてたと…。

その事を志摩本さんは、アインに弁解しようとした!!

その裏切り行為にムカついたお前は…。

僕と志摩本さんをターゲットに変更した。

そうだなっ!?」


勇人は山田 華に対してそう指摘したが…。

だが、当の山田は全く意にも介していなかった。


「それはアンタの勝手な憶測でしょ。

人体模型の局部で遊ぶ変態が…。

女の子に嫌われて無いとでも本気で思ってんの?

アンタは普通に女子に嫌われてるだけだから…。

女子から少しでも好かれてる何て、微塵に考えてたなら…。

自意識過剰なんじゃ無いの…!?

自分の顔を鏡で見てみたら?」


グッサーーーーーーーー!!!!!

 

山田の辛辣なツッコミ…。

二本目の冷たい言葉の刃が、またもや勇人の心をえぐるえぐる!

グリグリえぐる!!

山田の言葉に頭にきた勇人はついにキレる。


「やっ…。やっべ~よ…。

これだけは武士の情けで、言わんとこうと思ってたが…。

仕方が無い…!!

そ、そこまで言うのなら山田…。

お前のそもそもの目的は…!!」


核心中の核心。

山田 華の動機を口にしようとした。

だがっ!!

勇人はフと我に帰った。

 

『確かに今の状態では、オレ自身に分が悪い。

このままじゃ確実に言い負かされる。

だが、流石にコレを言ってしまったら…。

山田はどうなるんだ…?

過去の色恋沙汰を掘り返して…。

本当にそれで良いのか?

これは男がして本当に良い事なのか…?』


フッと我に帰った瞬間に、勇人はそう一気に思考を巡らせた。

勇人には、山田 華の一連の行為の動機に確信があった。

アインと山田 華の関係を考えたら、おのずと動機は簡単に予想出来るのだ。


アインは過去、幼稚園と小学1年の頃。

山田 華のお誕生日会に呼ばれている。

更にその時「 好き 」だと告白され、キスまでされている。

もともと山田 華は、アインに好意を抱いていた事を、勇人は知っていた。


勇人が分かっている全ての情報を踏まえ、山田 華の動機の予想はこうだ。


『アインに好意を今でも持っている山田 華は、女子に対して誰にでも優しいアインが許せなかった。

キスまでした相手が、自分を見てくれない事に鬱憤が溜まっていく。

少しばかり復讐をする為、目をつけたのが志摩本。

アインが志摩本の頼みを聞いたら、それを先生にチクってハブにする。

聞かなかったら一昨日のイジメの状況を作り出す。

山田には分の良い戦だ。

だがオレに指摘され、志摩本が勝手にアインに謝った事で、目的と標的を大幅に変更。

今に至る。』


勇人は知っていた。


人は時として自己保身や組織保身を考えた時…。

フラフラと訳も分からず。

目的と手段を見失う事を…。

目的の為の手段が、手段を行使する為に目的を選んでしまう事を…。

手段と目的が、まるっきり途中で入れ替わる事も…。

勇人は知っていた。


『山田 華の動機をぶちまけたらどうなる…?

アインは…?山田は…?

クラスは…?

オレ自身は…?

そもそもオレは、言い負けそうだから…。

山田をギャフンと言わせたくて言おうとしてないか?

オレ自身が目的と手段を…。

…見誤ってしまってないか…?」


動機を言いかけた勇人は、ひとしきり悩んだ結果。


「あっ…以上です…。」


そう言って勇人は机へと腰かける。

辛辣なツッコミがよほど堪えたのか、自身の思考から凹んだのか?

山田の言葉で凹んだと思い見かねた若林先生が、勇人のフォローに入る。


「山田さん…。

仮にアナタの言う通り矢城ゆう君の行動がセクハラ的だから女子から嫌われていたとして…。」

 

『セクハラ的っ!?』

 

勇人微妙に傷つく。

 

「昨日の黒板の落書き…。

アレはどう説明するの?」

 

「どういう?…意味ですか?」

 

山田が意味を問い直すと、更に若林先生はクラス中にある質問をした。

 

「昨日、一番最初に教室に来た人。

聞きたい事があります。

手を上げて下さい。」


一人の男子児童が恐る恐る手を上げた。

怒られるんじゃないかと、不安に感じているのだろう。


「葉山君、昨日教室に来た時…。

黒板に落書きはありましたか?

それと、消されるまでにどんな事がありましたか?」


「えっと…。その…。

僕が来た時には、名前の書かれた相合い傘の落書きだけがありました。

それで、ランドセル置いて、生物係りなんでウサギの世話に行って…。

帰って来たら、…。

他の人も色々落書きしだしてて…。

最後には酷い落書きになりました。

相合い傘は昨日の放課後のウチに、書かれてたんじゃないでしょうか?」


若林先生はそれを聞くとある事実を語る。


「一昨日、私が帰る時に戸締まりを確認しに教室を見ました。

ですが、黒板に落書きはありませんでした。

この事から分かるのは…。

落書きを書かれたのは、葉山君が来る前になります。」

 

今朝一番に来た児童が必死に弁解する。


「僕は書いてませんっ!!

教室に入った直後に浅田さんも入って来たから、アリバイもあります。」


「ええ、確かに葉山君じゃないでしょう。

先生独自に色々調べてみました。

山田さん。

昨日はアナタが一番に登校して来たそうですね…?」


山田は、そう若林先生に言われ、初めて動揺した。


「え…!?違います。

私が来た時には、教室に数人いました…。

それに、アレは私が書いた訳じゃありません!!筆跡も違います。」


「山田さん、人の目はどこにでもありますよ。

先生達だって何も見ていないって事は無いんです。

例えば、向かいの校舎とか…。」


そこには、用務員室があり。

人がいたら、この教室にどんな服装の人物が何をしているかは分かるだろう。


「用務員の渡辺さんに確認しました。

入ってきたのは女の子っぽくて、服装も分かってます。

やたらと早く来た生徒だから印象に残ってましたよ。」


そもそも山田がしたのは、相合傘を男子っぽい筆跡で書き…。

教室に数人集まった所で、自分の筆跡で追加落書きをしたのだ。

これでカタチ的には二人が落書きしたことになる。

人は不思議なもので…。

一人だけが落書きしていても、次に落書きをする人間はなかなか現れない。

だが、コレが複数の人間になると…。

呼び水となって次々に落書きが追加されていく。

「割れ窓効果」の発展系に近い。


山田 華の工作は自らのアリバイと、他の児童が落書きを書き易くなるよう呼び水となれる。

一石二鳥の基本的な自作自演術だった。


若林先生が山田 華に釘を刺す。

山田 華の顔色と場の流れが明らかにかわった。

アインが手を上げて発言を求める…。


「では、矢城あい君…。

君は何を言いたいの…?」


「志摩本さんが、あめ玉を盗んだと言ったのは、ウソだという事…。

それを証明したいと思います。」


「「えっ!?」」


そうアインが言うと同時に、志摩本と山田 華が同時に驚きの表情を見せる。

しかも何故か山田 華の方が、動揺は大きく。

大声で反論しだしたのだ。

 

「ウソよっ!!!!!

証明出来るはず無いじゃないっ!!

本人が盗んで来たって言ってるのにっ!!」


山田 華は志摩本が偽装万引きしかしていないと、薄々気づいてたのだろう。

だが山田にとっては、真実などどうでも良かった。

志摩本が「万引きをした」とみんなに公言しているその既成事実さえあれば…。

真実など…。


「山田さん…。

本人がやったと言っていても…。

やってない事例なんていくらでもあるんだ。

自らに都合が悪い事でもね。

それにやって無い証拠ならある!!

ソっ君!!」


ソナタは呼ばれると、不敵な笑みの決め顔のまま立ち上がる。

まるで、秘密兵器の隠し玉!

エースの切り札!

ダークホースのような逞しさを携えていた。

パッと見、いつもより格好よく見えるのは、気のせいではあるまい。


「昨日、アイちゃんに頼まれまして…。

家に帰ってから二人でその証拠を撮る為。

その駄菓子屋さんに行ってきました。

とりあえずは、この録画映像を見て下さい。」


そう言ってソナタはランドセルの中から…。

液晶付き携帯ポータブルハンディカムを取り出し若林先生へと差し出した。


「矢城あい君、ソナタ君…。

学校に関係無いもの持ってきたらダメでしょっ!!!

没収します!!!」


「「えっ!?ウソっ!?ぞんな!?」」


まさかの若林先生の発言に、アインとソナタはショックを受ける。

二人の立場もエースの切り札、ダークホース的立ち位置から一転。

タダのかませ犬のような、ドラゴンボールのヤムチャのような存在に…。


「と、言いたい所ですが…。

今回ばかりは大目に見た方が良さそうですね…。

特例を認めますが、次は没収します。」


…ならなかった。

流石に若林先生も空気を読んだようだ。

若林先生はハンディカムを、クラスに据え付けられてある液晶テレビへと繋ぎ、再生を始める。


まず映し出されたのは、駄菓子屋全体の景観の映像だ。

もちろん件の駄菓子屋だ。

映像の中のアインが撮影者を招き入れる形で、駄菓子屋へと入って行く。

撮影者はおそらくソナタだろう。


『アインのヤツ。

家に帰ったらすぐドコか出かけたと思ったら…。』


勇人がそう思いながら映像を見ていると、駄菓子屋のおばさんが出てきた。

見た目はお世辞にも良くはない。

眉間には怒りシワがクッキリと残り、見た目だけで怒ってるように見える。

アインが駄菓子屋のおばさんに、一枚の写真を見せた。

クラス写真での志摩本ヒナタの写真だ。

 

「スミマセンちょっとお聞きしたいんですが。

この写真の子は、ココでいつも何を買って行くか覚えていませんか?」


アインは前振りも何も無く、いきなり質問しだす。

いきなりそう聞かれた駄菓子屋のおばさんは、ブスッとしながら言葉を返した。

当然だろう。

あまりにも、不躾で失礼な質問の仕方だ。

おばさんもそう感じたのだろう。


「ちょいと、駄菓子屋で駄菓子買わないで、いきなり質問するなんて失礼じゃ無いのかいっ!?

どうすんだいっ!!最初はっ!?

えっ!?」


「…あっ…!じゃあコレ下さい…。」

 

「僕はコレを…。」


二人は適当な袋菓子を手にとり、おばさんへ渡す。


「60円と120円だよ。

チッ!ケチくさいね……。」


舌打ちされながらそう言われると、おばさんから不審者でも見るような視線を、アインは浴びていた。


「あ~………?

この子かい…。

良く見かけるドケチな子だね。

友達と来る時は、普通に駄菓子を買ってくけど…。

一人で来た時は、いつも10円のあめ玉しか買いやしない。

見栄っ張りで貧乏なんだろね。

身なりは良いのに…。

ドケチでセコいしみったれた子だよ!!

もっと高いモンを買ってもらいたいよ。

まったくっ!!」


アインは、その言葉を待ってましたと言わんばかりに、グイグイ食いついた。


「それは本当なんですね!?

間違いありませんね!?」


「あっ!?

間違いないかって…?

一人で来た時は、どこか変によそよそしくて怪しんだよ。

まるで物でも盗みそうで…。

アタシャこの目でいつも、物を盗まないか見張ってんだっ!

間違やしないよっ!!

それよりアンタ達、駄菓子は数売ってなんぼなんだっ!

質問に答えたんだから、もっと高いモン買ってきなっ!

クソジャリ共っ!!」


そこで映像はブツリと切れた。


映像を見終わるとソナタが…。


「正直、スッゴい怖かったよ…。

本当に子供を相手にした、客商売なのか疑いたくなりました。」


そう言いながら、思い出したのか半泣きになりかけてた。

一拍間を置いて、アインが話しだす。


「僕も出来ればもう少し穏便に済ませたかった。

志摩本さんと山田さんにだけ、この映像を見せて、静かに話し合いがしたかった。

コレを見せる事で、心を傷つけて嫌われるかもしれないと、覚悟もした。

だからこそ、今なら言える。」


そう言うとアインは、志摩本と山田 華に向き合い.

事件の核心を話し始めた。


「志摩本さんの罪は盗みじゃ無い。

本当の罪は必要以上に自分を、大きく強く悪く見せようとする、

見栄と虚勢と強がり。

それが罪だ。

山田さんの罪はイジメじゃあ無い…。

本当の罪…。

それは……。」


アインが持ち得ている情報を総合し。

導き出した、山田 華の動機の予想はこうだ。


『そもそもの標的は私(わたくし)じゃなく、ヒナタ様をクラス全体で仲間ハズレにする事。

私に対するイジメは、単なるヒナタ様を仲間ハズレにする為の口実作りでしかなかった。

ヒナタ様は明らかに男子に人気がある。

単に女子だけで無視を決め込んだとしても…。

悪者にされるのはヒナタ様以外の女子全員が悪者にされる。

それを回避するには…。

一端ヒナタ様と男子の間に楔を打ち込み、溝を入れる必要があった。

その為に利用したのがヒナタ様の偽装万引き。

そして全ては今日、学級裁判を起こさせ万引きを自白させるのが目的。

全ては、その為の布石…。』


アインがそれに気づいたのは、昨日の事だ。

標的の変わり方があまりにも手際が良く。

自分や勇人に対するイジメよりも、志摩本に対するイジメの方が厳しく本格的だとそう感じたからだ。


勇人は、過去の見えない真実と、余計な邪推の推理から答えを導き出し。

アインは、単純な疑問と現実から答えを導き出した。


そしてある意味…。

勇人とアイン二人の読みは…。

お互いが正解であり。

お互いが不正解だった。

アインは語る。


「山田さんの罪はイジメじゃあ無い…。

本当の罪…。

それは…。

志摩本さんに対する 嫉妬!!

それが本当の罪だ。」


それを聞くと志摩本は、感情が関を切ったのかポロポロと泣き始めた。

少しずつヒナタは語る。


「最初はみんなが私の事。

マジメだ、良い子ぶってるって言って茶化してきて…。

私はマジメじゃ無い、みんなと同じ普通だって証明したかった。

それだけだった!

それだけのウソだったの!!

でも、いつの間にか、話しが子供か大人かって、変な話しになってきて…。

私…。

私…。

…私…。」


それを聞いた山田 華は、歯を食いしばり泣くのを必死にこらえ。

顔を赤くしながら怒り口調でヒナタを怒鳴りだした!

 

「何よっ!!

アンタが見栄張って嘘つくから悪いんでしょっ!!

何、自分だけ被害者面してんのよっ!!

アンタのその態度が!!

その存在がムカつくのよっ!!

牛乳拭くのにハンカチなんて使って…。

可愛い子ぶって、男に媚びる卑怯者のっ…!!」


それを聞いた若林先生は、山田 華を一気に止めに入った。


「そこまで!!山田さんっ!!

それ以上言うと、アナタもあの駄菓子屋のおばさんみたいな、イヤな性格になってしまいますよ…。

それともアナタは、心の醜い人になりたいの?

それ以上は志摩本さんを攻めないで…。」


そう若林先生に諌められた山田 華は、我慢していた涙が少しずつ溢れ出し…。

ついには幼子の様に大声で泣き出した。

プライドで必死に止めようとするが、なかなか止まらない。

若林先生が一つため息をつくとまとめへと入る。


「さて…。

では今回の件の罰を、当事者それぞれに与えます…。」


そう言うと若林先生は、まずは志摩本の方を向いた。


「まずは、志摩本さん…。

あめ玉は盗んでなかったとはいえ、友達に対して悪い見栄を張りましたね。

自らが、周りに悪い影響を与えた事を認め…。

これを改め改善する事…。

及び、一昨日のイジメはアナタに原因があります。

苦手な算数と漢字のプリントを追加で課しますので。

一人できっちりやってきなさい。」

 

次に山田 華の方を向いた。


「次に山田さん。

アナタは志摩本さんの何に対して、どう思っているかは…。

アナタ自身がよく分かってるはずです。

今回の件を心に刻み、自らを悔い改め改善する事。

それと今回の件はアナタが主導した事は明白です。

アナタにも追加でプリントの宿題を出します。」


そう言うと今度は、クラス全員に向かって語りだした。


「次に、このクラス全員!!

志摩本さん、山田さんアナタ達にもです。

罰を与えます。」

 

若林先生のその言葉を聞くと、クラスの皆が一斉にブーたれた。


「「「ええぇえぇ~~~~っっ!!」」」

 

若林先生は、生徒達の不満の声を聞き流し、生徒達の罰を述べだす。


「え~~~っと言わないの!!

え~って!

アナタ達も充分に当事者です。

まずは今回の件に向き合い…。

自分達の今回の件での罪は何か考え、自らの今までの行いを改める事。

次に「 罪 」とはそもそも何かを考える事。

そして「 罰 」とはそもそも何かを考える事。

その3つがこのクラス皆さんへの罰ですっ!!

及び、今回の件でコレ以上ちょっかいを出したら、先生は本気で怒りますよっ!

本当に拳骨を課しますっ!!

くれぐれもコレ以上、事を荒立て無い事。

以上、コレで解散。

皆さん車に気をつけて帰るように…。」

 

そう言うと、先生はパンパン手を叩き、クラス全員に早く帰るよう促す。

皆が次々と蜘蛛の子を散らしたように一斉に帰っていった。


その後、勇人、アイン、ソナタ、カナタの4人が、げた箱で靴を履いて居ると、志摩本がテトテトとやって来た。


「何かよう?志摩本さん?」


アインがそう聞くと、ヒナタは頭をペコリと下げ。


「本当にありがとう、助かった。

色々と限界だったんだ。

何だか、一気に肩の荷が降りたみたい。

本当に、助かった。ありがとう。」


そう言ってきた。

アインがそれを聞くと嬉しそうだ。


「良かった、嫌われて無いみたいで…。」


「嫌うだなんてとんでもない。

本当に助かったんだから。

そうだアンタ達、私の事コレからは…。

しまぽんって呼んでいいわよ。

特別に許したげる!!

な~んてね…。

好きに呼んでいいから。」


そうイタズラっぽく笑うと、全員が一斉に意見が一致した。


「「「「じゃあ、しまぽんで…。」」」」


「そう、ありがとうみんな。

また明日ね~~~~っ。」


そう言ってしまぽんは手を振りながら帰って行った。

その帰り姿は、全身で軽さを表現していた。

根が真面目なのだろう。

もう、ウソをつかなくても良い、しまぽんはその事が何よりも嬉しかったのだ。


ソナタとカナタと別れて、勇人とアインが二人っきりになった時である。

勇人がしまぽんの話題を振り出した。


「なあ、アイン。

しまぽんのあの笑顔は卑怯だよな~~っ。

将来、男達を手玉に取るのも頷けるわ~。

あれじゃあコロッと騙されるって!」


「そうですねぇ…。勇人様…。」


アインは何か気が抜けたのか、生返事で返答するだけだ。

どうやら何か考え事をしてるようだ。


勇人はそんなアインが気がかりになり聞いてみた。


「どうしたんだよアイン?

今日は大活躍したんだ。

少しは嬉しそうにしろよな。」


「勇人様…。

今回の事で不思議に思った事があるのです。

人は何故…。

ワルっぽく振舞ったり…。

不良の存在に憧れるのでしょうか?」


アインはどことなく遠い目をしながら勇人に聞いてきた。

勇人にはその姿が夕日と相まってどことなく悲しく。

脆さと儚さを漂わせているように見えた。


「何だアイン。そんな事考えてたのか…?

そりゃお前…。

あれだ………。

どことなく、ワイルドで、野性的で、力強くて…。

危険な感じがカッコ良く見えるからだろな。

特に女は…。」


「ならば人は…。

いえ男は、ワルに憧れ自らそうなろうとするしかないのでしょうか?

異性にモテたい為に…。

優しく正直な事は、女々しく、弱く、カッコ悪い事何でしょうか?

ならば人が最終的に行き着く先は、退廃の街ソドムとゴモラでしか無いのではないのでしょうか?」


アインはそう結論を出したのか、少しずつ涙を流し始めた。

勇人は慎重に言葉を選びながらアインに答える。

地雷源を歩くかのように慎重に…。

 

「なあ、アイン。

海心父さんは優しいし腕力的には弱くても…。

けど、本当に弱くは無いよな?

カナタの父さんと対峙した時…。

オレ達に不安にさせない為に、自らにウソをついて…。

必死に虚勢を張って、強がって見せて…。

何でも無いフリをして…。

オレ達を守ろうとしてただろ?」


「ええ…。」


「虚勢や強がりや見栄ってのは、本来はそんな誰かを安心させ守る時に使う為にある。

オレ達は、そんな優しい強さと…。

自らにつくウソに憧れ、自分もそうなろうと目標にしてる人間を一人、知っているじゃないか。」


コクっ…


アインは静かにコクリと頷き、勇人に同意した。勇人はそれを見てとるとまた慎重に語り出した。


「そう…カナタだ…。

あの時にカナタは、海心父さんの優しい強さとウソってのを、目の当たりにした結果だ。

ワルや不良だけが憧れの対象じゃ無いさ。

今はそれで満足しろよ。

人間全てを変えるには、オレ達はあまりにも無力過ぎる。」


勇人はそう言ってアインの背中をランドセル越しに叩いた。

しかし、その感触あまりにも儚い。


時刻はもう5時を過ぎていた。

アインの涙は夕日でそれを目立たせた。

夕日に影を長く伸ばされ。

まるで誰かに影以外にも何かを引かれているような。


時は静かに流れていく。


罪悪感は人の心のブレーキ。

だがそれは、時と共に徐々に劣化していく。

時に、誰かに悪事を咎められ叱られる事でそのブレーキは治される。

人は叱られる事が少なくなり、罪悪感を忘れていく事で変貌していく。


人は時として、自らのウソや、他人の謀略で変わざる終えない事がある。

人は嫉妬や憎悪で、顔付きや見た目や言動すらも変わっていく事がある。

特に大人へと成長する過程では、怒りは眉間に、嫉妬は言動に、盗みは手癖として現れる。

 

人の世は幾ばくか明るくなったはずなのに…。

なぜたろうか…?

何故か、陰りがヒドくなって見えてしかたなかった。


この星はまだ、滅びの定めから逃れてはいなかった。

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