お誕生日会?

「お誕生日会を開きましょう!!」


水曜日。

学校から帰って来るなり、何を思ったのか、アインがそう唐突に勇人に提案してきた。

あまりにも唐突だったので、3時のおやつのドーナツを、噛みそこねて空気を噛んだ。


ガキン!!


「痛っ!……何だよいきなり突然。

家の中で止めろよ。

母さんに聞かれたらどうすんだよアイン」


最近ようやく大人状態の思考になっても、天美(あみ)母さんの事を、母さんと普通に呼べるようになれてきた。


「大丈夫!

お母様は、買い物に行かれて誰もいません。ホラっ。」


アインはそう言うと一枚のメモ用紙を見せてきた。

そこには、買い物に出かける旨が一筆書かれている。


「今なら、インターネットでエッチなサイト見放題ですよ。

どうします?」


アインはそう言って親指を立てると、イタズラっぽくウィンクをしてきた。


「謎の架空請求が来るだけだから止めとけよなっ!」


勇人はそう軽めにツッコミを入れながら、今度こそドーナツをもそもそと食べ始めるのだった。

アインは後ろに振り返り手を組んでしゃべりだす。

 

「どうして今まで気づかなかったのか…。

女の子のお誕生日会に呼ばれるばかりで…。

こちらからお呼びする事を、失念するとは…。

私とした事が愚かでした…。

今度の我々のお誕生日に、ソナタ様とカナタ様をお呼びして、二人に親密な友好関係を築いてもらうのですよ。

勇人様。

幸いにも我々二人のお誕生日は7月7日で同じ…。

こんな偶然ございませんよ!!」


アインはそう言ってまた振り返って来たが、勇人はまたしてもつまらないツッコミを入れる。


「偶然も何もお前…。

俺達、双子として生まれて来たんだから当たり前だろ…。」

 

「あっ!?

言われてみるとそうですね…。

テへっ。」


勇人がドーナツを食べながらそう一言釘を刺さすと、アインは小さく舌を出して少し恥ずかしそうにした。

誕生日が近づいてるせいか、アインのテンションは妙に高い。

勇人はそんなアインに少しばかりムカついた。


「アイン…。

もう一つ言っても良いかな?」


「なんですか?」


「オレ、女の子のお誕生日会なんて一回も呼ばれて行った事無いんだが…。」

 

「えっ!?」


勇人は少しばかり涙を浮かべそう言うと、アインは途端に気まずい表情を見せる。

思いの他強烈な冷や水となった。効果はバツグンだ。


冷や水は浴びせたが…。

勇人自身、自爆した感がして仕方なかった。効果は絶大だ!!

だが冷静に考えて、アインのお誕生日会は、良いアイデアだと判断するのだった。


「まあ、それは良いアイデアかもしれん。

だが、こういうイベントは、上手く活用出来たら友達が一気に増えるが…。

反面リスクもかなりあるんだぞ。」


「どんなリスクなんです?勇人様。」


リスクが思いつかないのか、話しを変えるチャンスと見たか…。

アインは目をキラキラさせながら、興味津々に聞いて来た。


「呼んだお友達が全く来ないで、家族でお誕生日会の料理を、処理するハメにもなりかねんのだ。

そうなるとお前…。

ホントに気マズいぞ~~~~。

お母さんが変に気を使って来て、よけい傷つく事もあるんだって…。

まあ、今のソナタだったらそれは無いだろうが…。

カナタはどうだろうな。」


そうしみじみと話す勇人を見て…。

アインは空気も読まず、聞いてはならない事を聞いてしまった。


「まるで、誰も来なかった経験者のようなお言葉ですね勇人様。」


「その経験者なんだよ。

俺は…。

前回の人生で…。」

 

「あっ!?」


またしてもアインの特殊技、空気読めないが炸裂。

勇人はたまらずダウン…。

先程の攻撃と合わせて再起不能となった。

気まずい空気が二人にしれ~っとしばらく流れる。

が、その空気を仕方無く勇人が壊した。

ため息を一つ吐く。


「はぁ…。

だがまあ、もし来なかったとしても、傷つくのは俺とお前と…。

後お母さんだけだな。

母さんには悪いけど…。

やってみる価値あるかな。」


勇人はそう言って同意した。

その言葉を聞くと、アインは子供のように大はしゃぎしだした。

見た目が子供なのでおかしくは無いのだが…。

中身を知ってる勇人としては、顔が引きつってしまった。

アインが大はしゃぎで喜んでいると、アインと勇人の母親が帰って来た。


「ただいま~。

牛乳買って来たわよ~。

あらっ!もう、おやつ食べてたの?」


「お母さん!お母さん!

ゆうくんと相談したんだけど、今度の僕達のお誕生日に…。

お友達のソナタ君とカナタ君をを呼んでも良い?

もしかしたら、お友達全然来ないかもしれないけど…。

ね~いいでしょ~。

お母さん。

それでも呼びたいんだ。」


目をキラキラ輝かせながらアインは、天美母さんに懇願するのだった。


そんな状態の息子の願いを、むげにも出来る訳も無く、天美母さんは了解した。


「良いわよ。アイン。

お友達を呼んでらっしゃい。

お友達が来なかったら来なかったで、その時はその時よね。

ケーキを多く食べられるって、喜びましょう!!」


アインにそう言って同調する天美は、まるで母親という状況を楽しんでいるようだ。

勇人は心の中で感心した。


『やっぱり、良い母親だ…。

後々のフォローの事までちゃんと考えてある。

コレが普通なのだろうか…?

それとも今回の人生が異常なのだろうか?

生まれ変わりで、2度目の人生を経験してる以上、今回の人生が異常で…。』


そう勇人が考え巡らしていると乾きを感じ…。


「お母さ~ん牛乳ちょうだい。

ドーナツで口がパサパサしだした。」


その言葉を言い終わる前に、既に牛乳はコップに注がれ、勇人の目の前に置かれていた。


後々母親と相談してお誕生日会は、二人の誕生日直後の日曜日に開く事になった。


「あいちゃんとゆうちゃんのお誕生日会?

僕なんかが行っても良いの?」

 

小学校への登校途中に、アインがソナタを誘うと、本当に行っても良いのか聞き返してきた。

ソナタの気の弱さは、幾ら親しくなっても、どことなくよそよそしさと、遠慮しがちな性格を拭いきれずにいる。


「うん!良かったら来てよ。

変に気を使わなくて良いからね。」


アインがそう促すと、ソナタは恥ずかしがりな笑顔で、とても嬉しそうに返答して来た。


「うんっ分かった。

行かせてもらうよ。ありがとう。」


一方カナタの方は、勇人が誘う事になっていた…。

カナタの方は、最初のやんちゃが過ぎたせいで、クラスで少しばかり孤立していたが…。

それでも本人は気にしていなかった。


「お誕生日会?」


「うん、良かったら来てよ。

来週の日曜日だから、変に気を使わなくて良いからね。」


「う~ん…。

行けるかどうかわかんない…。」


それを聞いた勇人は、少し悲しげな表情で言葉を続けた。


「もし、来れるようになったら、来週の日曜の10時に、小学校の正門前で待ってるから。」


「………………!?」

 

それをカナタが聞くと、何も答えずにどこへとも無く行ってしまった。


「待ってるから…。」


勇人はそんなカナタの後ろ姿に、寂しげに言葉を投げかけるだけだった。


二人の誕生日会当日。

二人は小学校に向かっていた。

小学校の正門を待ち合わせにしたのは、

ソナタの為でもあった。

ソナタは何度も、勇人とアインの家に遊びに来た事があるので、直接呼んでも良かった。

だが、カナタが来た時にどう反応するか…。

勇人とアイン二人には予想出来なかった。

万が一を考えたら、小学校をワンクッションに待ち合わせに使い、家に向かった方が良いと判断したのだ。

二人は待ち合わせ15分前に小学校に着いたが、既にその前にソナタは着いていた。


「良かった。来てくれた!!」


ソナタが、二人を見て発した言葉であった。

予定より早く着き過ぎて、二人がいなかった事に不安を感じていたようだ。

パッと見ソナタは、普段とは違いそれなりに身綺麗に整えた格好と、リュックを背負っていた。


『気を使わなくて良いのに…。』


勇人はそう口に出そうとしたが、ソナタの思いを汲んで、口をつぐんだ。

もしくは、ソナタの母親の紗英さんが、用意したのかもしれない。

そう思ったのだ。

そんなソナタに、アインはまずは謝った。


「ソっくん。待たせてゴメンね。

もう、気を使わなくて良いって言ったのに…。」


安定の空気の読めなさだ。

ソナタは困った顔で愛想笑いをするしかなかった。


「それで悪いんだけど…。

まだもうちょっと待っててね。

もう一人来る予定なんだ。」


「うんっ分かった。

それで誰が来る予定なの?」


「…カナタくん…。なんだ…。」


勇人は少し言いにくそうに答えた…。


「僕、カナタくんちょっと苦手…。

何だかいつも、怒ってるような言葉で話すし…。」


口下手で遠慮しがちなソナタが、こうまで素直に話すとは…。

恐らく、口調よりも内心はかなり嫌っているのだろう。

そんなソナタに勇人が謝った。


「ゴメンね。ソっくん。」


「イヤ、謝らなくて良いよ。

こっちもゴメン。」

 

二人して謝りあっていると、直ぐに10時になってしまった。


「アイちゃんどうする?まだ待ってみる?」


「ソっくんもう少しだけ待っていい?

寝坊したのかもしれないし…。」


勇人とアインは内心諦めかけていた。

幾ら仲良くなりかけているとは言え、カナタの性格を考えると…。

もう来るとは到底思えなかったのだ。

待つ時間が5分、10分となっている内に、とうとう15分となりかけた…。


その時!!


「…寝坊した。」


カナタは遅刻したにも関わらず急がずやって来て、3人に対して謝罪するでもなくそう言った。

短い髪に寝癖のまま、顔も眠そうで、パッと見で普段着だと分かる、ぶらっと出歩いて来たような格好だ。

本当に寝坊したのだろう。

ソナタはそんなカナタの格好と遅刻に、少しイラっと来ていた。

だが、アインはよほど嬉しかったのか、満面の笑みでカナタを歓迎する。


「良かった~~~~。

来てくれたんだ。

ありがとう。

じゃあ、早速家にいこう。」


アインはよほど嬉しかったのか、心の底からはしゃいでいるのが一目で分かった。

それを見ていた勇人は、少し羨ましく思えたた。


『あいつみたいに素直に楽しめれば、人生楽しめるんだろうが…。』


本来、カナタとソナタを友達にさせる為に、勇人とアインのお誕生日会を開いたのに…。

これではアインのお誕生日会の為に、ソナタとカナタを呼んだようなモノだ。


『アインのヤツ…。

二人を仲直りさせる事は口実に、ただ単にお誕生日会開きたかっただけじゃあねえのか?

お誕生日会やりたくて仕方なかったのか?』

 

だが、基本的に目的と手段は、どっちにしろ同じ事なので、勇人は気にしない事にした。


4人が家に着くと母親が出迎えてきた。


「いらっしゃい。

よく来てくれたわね。

準備は出来てるわよ。

さ、上がって!」


母親に促されて、子供達がリビングに着くとソコには、バースデーケーキと、小さく一口大で手で掴めて食べられる軽食類と、お菓子。

数種の紙パックのジュースが準備されていた。


『流石は母さんだっ!

子供の事を良く分かってるっ!!』

 

思わず、心の中で賛辞を送る勇人。

手を抜き過ぎず、かつ気合いを入れ過ぎず…。

子供に対して恥を欠かせ無い程の、絶妙なサジ加減の準備の仕方に、思わず勇人は感動し…。


ポロリと一粒涙を流した。


前回の人生での3度の誕生日会では、気合いを入れ過ぎて、作った事の無い料理やお菓子に挑戦したり…。

手作りのケーキを出して微妙な味だったりした経験が彼にはあった。

だが、母親の悪意なき善意ゆえに、何も言えずなんとも後味の悪い。

薄暗い灰色の思い出から、彼を感動させたのだ。


テーブルの周りに並べられた座布団の席に着くと、ソナタはともかくカナタまでも、借りてきたネコのようにおとなしくなっていた。


どうにも、二人共に互いの存在を意識しているようだ。


「カナタくん、あんな一面もあるんだね。」


アインが小声で勇人に囁いてきた。

その声はどことなく嬉しそうだ。

不意にソナタが何かに気づき、自分のリュックから小さな箱を取り出すと…。


「コレ、二人にプレゼント。

お母さんの手作りなんだ。」


「あっ!ありがとー。

開けても良い?ソっくん?」


「うんっ。イイヨ。」


小さな箱の中身は、チョコケーキだった。

見栄えはかなり良い。

ケーキ屋で売られていてもおかしくない程、よく出来ていた。

流石は凝り性の紗英さんと言った所か…。

カナタがそれを見ると、何かに気づいたのかフラッと立ち上げり…。


「オレ、帰る…。」


と言い出し帰ろうとしだした。


「「えっ?、えっ!?」」


不意を突かれて、呆気にとられるアインとソナタ。

だがそんな中で、勇人だけは冷静に状況を理解出来た。


『カナタの奴、自分の格好と何も持って来なかった事を気にしてるな…。』


状況は理解出来た勇人だったが…。

どう対処して、どう引き止めれば良いのかは分からず焦る。


『ヤバい、このままじゃ本当に帰っちまう!?』


勇人がどうやって引き止めようか思考を巡らせていると、天美母さんがカナタを引き止めた。


「君、君?

せっかく来たんだから…。

せめてバースデーっの歌の後に、クラッカーくらい鳴らしてくれないかな?

それだけでも…。

ねっ?お願い!」


カナタはそう引き止められると、鳴り物のクラッカーを手渡され、仕方なしに席へと戻り、静かに座った。

バースデーの歌が終わり。

勇人とアインでケーキのロウソクを吹き消すと…。

カナタとソナタ、天美母さんもクラッカーを鳴らし…。


パンッ!パパンッ!!


「おめでとう!

ゆうちゃん!!アイちゃん!!」


「おめでと…。」


「「ありがとー!!」」


ソナタは普段とは比べられない程に明るく、祝福の言葉を出してきたが。

カナタはぶっきらぼうに又、帰ろうと立ち上がりだした。

天美母さんがまたカナタに近づく…。


「キミ、今ケーキを切るから…。

ついでに、ケーキも食べていきなさい。

バースデーケーキは、誕生日を迎えた人と祝った人が食べれる特権よ。」

 

「……ん。」

 

カナタはどうも甘い物が好きなのか、天美に促されるまま、また席へとつく。


天美は更に間髪入れずに…。


「喉渇かない?ジュースつぐわね。」

「お菓子を食べて減らしてくれると、片付け易くて嬉しいんだけどな。」

「あっ!?お昼過ぎたわね。お腹は空いてない?ピザでも取るけど…。」

「そうだ、4人でやれるゲーム有るんだった。1回だけでも皆でやったら?。」


少しずつあの手この手でカナタを引き止めていった。

なかなかのやり手である。

そうこう時が経つにつれ…。

カナタとソナタは遊ぶ内に、互いに少しずつ打ち解けていってるようだ。


「いっ!?バナナの皮が当たってきたっ!?

そんなバナナ…!」

 

「ヤッタ上手くいった!

ソッ君、バナナの皮を制すモノがマリカーを制すんだよ。

偉い人も言ってた。」


「あっ!?ソッ君にスターが出てるっ!?

みんな逃げてっ~!!」


「よし今が使い時っ!

キノコターボ発動っ一気に逃げる!」


「大丈夫あいちゃんカナタ君っ…。

僕が狙うのはただ一人…。

ゆうちゃんだからっ!!

絶対に許さないっ!絶対にだっ!!」


「バナナの皮で根に持つなよ…。」


しばらくマリカーで遊んでいると、天美お母さんは何か用事があるのかその場を離れた。すると…。

不意にアインが、ある遊びを提案しだした。

 

「よしっ。

このレースが終わったら。

ポッキーもある事だし…。

裸の王様ゲームやってみようっ!!」


どた~~~っ!!


この発言に、勇人は盛大にスッ転ぶ。

しかし、同時に疑問も浮かんだ。


『何か俺の知らない王様ゲーム出てきた!?』


襟首を掴んで、勇人はアインに小声で問う。


「アインそんな遊びドコで覚えたんだよ?」


「ドコと聞かれますと…。

マイマスターがたまにやっていたので、いつかは私もやってみたいと思ってました。」


「お前の所のご主人様はロクなヤツじゃないな…。」


カナタとソナタもやはりピンと来ない様子。


「何だよ?その裸の王様ゲームって。

ソナタ知ってっか?」


「僕も知らない。

あいちゃんそれってどんな遊びなの?」


アインはトランプを自室から持ってくると、そのゲームの説明をし始めた。


「えっとね。

まずトランプを用意して、キングとババのカード1枚ずつ。

それと、残り人数分のカードを準備します。」


カナタがトランプの準備し始める。

パーティーをやる前ならあり得ない光景だ。


「準備したカードを裏返しに置いて、みんなで一斉にカードを引いて王様を決めます。

王様だけ名乗り出てもらって、残りの人は服の仕立て屋です。」


皆でカードを引くと、アインが王様を引いたようだ。

自ら勢いよく手をあげ名乗り出る。

ババは誰が引いたかまだ分からない。


「仕立て屋は自分が引いたカードを王様の目の前に差し出して、それぞれどんな服かを言います。

例えば、シャツとか…。」


「じゃあ、王様。これは良いシャツです。」

「くつ下かな…。」

「なら、パンツ。」


三人はそれぞれ、アインの前にトランプのカードを差し出した。

どんなカードかはアインには分からない。


「王様はその内一つを選んで、普通のカードを選んだら王様の勝ち。

みんなのポッキーを一本ずつ貰うか…。

その部分の服を着てなかったら着る事が出来ます。

でも、ババのカードを引いた人の服を選んだらアウト。

その仕立て屋はバカには見えない服を持って来ました。

王様にはその部位の服をぬいでもらって、ポッキーは仕立て屋達のモノです。

誰かのポッキーが全部なくなるか。

下着姿かスッポンポンにしたら終わり。

裸の王様の誕生です。

ってゲーム。」


アインは差し出されたカードの一つに指をかける。

カナタのカードだ。


「なるほど…。

つまりちんちん見られたら負けって事だな。

なら、お前の負けだな。」


ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ

川ズロ~~~~ん川

 ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ


カナタは言うが早いが、有無を言わさずアインのズボンとブリーフもろとも引きずり下ろした。


「ぎゃ~~~~~っ!

パンツってズボンの事じゃなくてソッチ!?」


子供って下ネタ好きだよね…。

この後、ゲームは一進一退を極め皆半裸状態。

だが、アイスを買ってきてくれた天美お母さんに見つかって叱られた。

ゲームは、ドラマで見てマネをしたと言い訳し難を逃れた。


お誕生日会も終わり二人が帰る段になって、天美はカナタに質問した。


「今更だけど本当にごめんなさいね。

キミ…名前は?」


「かな…。

い、岩倉 カナタと言いますっ!」


カナタは顔を赤らめながらも、丁寧に頭を下げ名前を名乗る。


そして続けざまに天美に対し…。


「スきです。お付き合いして下さい…。」


なんと真顔で告白したのだっ!!


ドタ~~~~~~~!?


カナタのそのセリフに、勇人とアインとソナタは盛大にスッ転ぶと同時に、勇人は…。


『カナタお前はペタジーニかぁ~~!?』


心の中で思わず、同級生の友達の父親になった。

某野球外国人助っ人の名前でツッコミを入れるのだった。

 

分かる人には分かるのだが…。

この頃の子供は、異性の保母さんや先生に憧れる事がある。

大人からしたら他愛も無い事なのだろうが…。

だがその時期の子供には、精いっぱいの真剣な恋なのだ。

それを大人になって、本気でやらかしたのがペタジーニ。

そんなカナタに、天美は真面目に答えた。


「ごめんなさいねカナタ君。

私はもう結婚してるのよ。」


天美は左手の薬指の指輪を見せて諭すように語る。


「カナタ君には、他にもっと良い人が現れるわ。

だから、その時までに優しく強い子になってね。」


そう諭されカナタは少し泣いた。

カナタの初恋は敗れた。

小学校でのカナタを知る3人には、珍しい一面を見た感があった。


「カナタ君って、こんな一面もあったんだね…。」

 

まるで、デジャヴのようにアインと同じセリフをソナタが言ったので、思わず勇人は吹き出しそうになった。


「お家まで送りましょうね。」


そう言って天美母さんは、靴を履き始めようとしたが…。

二人は大丈夫だと丁寧に断った。

なにより、気まずいし。


「じゃあ、一つだけお願いして良いかな?

ソナタ君、カナタ君。

勇人とアインの事を、いつまでも仲良くしてあげてね。」

 

母親最強の言葉だ。


「ハイっ!!」

「うん…。」


ソナタは明るく元気に返事を返したが…。

カナタは先程の事もあり気恥ずかしさからか、節目がちに返事をするのだった。

まるで二人の性格が、入れ替わったかのような返答の仕方に、勇人とアインは面白さを感じて確信した。


「二人の仲、どうにかなりそうだなアイン。」


「そうですね。今回の事はお母様に感謝してもしたりません。」


「ああ、母さんすげえや…。」


もはや今日の主役は、二人では無く天美母さんになっていた。

二人の帰り姿も、もはやアベコベだ。

ソナタは何度も振り返っては手を振り、元気よく帰ったのに対して、カナタはチラリチラリと勇人達をを振り向きつつ帰った。

こうしてその日は、4人が仲良くなる、キッカケになっていくのだった。


その日…。

カナタとソナタの二人を見送った後…。

フと勇人が見た夕日は…。

あの日…。

少女と出会って見た悲しい夕日とはまるで違い…。

不思議な程、綺麗に見えた。

赤く、燃えているような夕日が…。

人の心にすら火をつけるような…。

そんな色に見えた。

天の美しさは、人の心すら変えていくような…。

そんな空に見えた。

同じ空にかわりは無いはずなのに…。


時は静かに流れて行く。

人は、何かのキッカケで変わっていく…。

人は、人と関わると変わっていく…。

人は、美しい物を見ても変わっていく…。

恋のように…。空のように…。

良い方へも、また悪い方へも…。

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