真実の断片4

勇人は夢を見ていた…。

矢城 勇人がまだ鈴木 勇人と呼ばれ、アインと初めて出会った頃の夢を…。

どうやら、前の夢の続きのようだ。


鈴木 勇人に、また人へと生まれ変わり、地球と宇宙を救うように頼むが、速攻否定により、絶望しうなだれるアイン。

だが、瞬時に復活するや、追いすがり勇人に聞いてきた。

結構タフである。


「何でですか?何がイヤ何ですか?

先程はノリノリで、

「俺が宇宙を救ったる~!!」

って自信満々に言ってたじゃあ無いですか!!」


「イヤ、んな事言ってねぇし…。

なにシレっと事実でもねえ事、捏造しようとしてんだよ…!?

お前は東ス○かっ!!」


ツッコミを入れ、勇人はウザそうに顔を横に振り、すぐさま否定した。


「人として連続で生まれるなんて、例えれば、竹やぶで宇宙人の死体とカッパの死体と、タモさんのサングラスを同時に見つける位の確率ですよ!?

こんなラッキーな事めったに無いんですよっ!!」


「何で死体なんだよ!!

そこは普通に宇宙人とカッパでいいだろ!?

で、何でタモさんのサングラスなんだよ!?

そこも普通にタモさんでいいだろがっ!!」


アインは必死に説得しようとするが、空滑りして効果が無い所か、勇人からツッコミを散々入れられるばかりだ。


「人間はもういいよ。

もし、生まれ変わるなら人以外になりたい…。

人なんて怖いだけだ…。

嘘を隠し通す為に人の人生を平気でぶっ壊す。

とにかく、もうイヤなんだよ人間はっ!!

人に生まれ代わってまで、宇宙助けなんて無理だ。

逆に俺だと地球の滅亡の方を望んじまう。

だから頼む、他を当たってくれ。」


気力も希望も何も無く、人への恐怖から自殺した勇人には…。

目に力も無く、死んだ魚の用にアインを見つめて断りの言葉で返した。


「随分と人間に対して否定的なんですね…。

人の世はそんなにイヤですか…?

そうですか…。

では、仕方がありませんね…。」


アインは、先程とは打って変わって、何かを覚悟した表情で顔を上げると、勇人に冷たく言い放った。


「勇人様…。

これからあなたどうするつもりです?

このまま、何もしないのであれば…。

アナタが一番、心底生理的に望まない存在へと、生まれ変わらせても良いんですよ。

自殺されたんですから…。」


「おっと…。

もしかしたら又、人へと生まれ変わってしまうかもしれませんね。

皮肉ですね。

それがイヤなら、どうです?

もし、事が全てうまく行ったなら。

あなたの好きなモノへと、生まれ変わらせますが…。」


それを聞いた勇人は、死んだ魚の目のまま虚ろにため息を吐くばかりだった。


『一番望まないとなると、また人生かもしれないか…。

受けるも人生、断るも人生…。

まるで悪魔の誘惑だな。

どうして、死んでまでこんな…。

一人すら救えなくて死んだのに。

全てを救う為に、人になれだなんて…。

こんな皮肉があるかよ…。

そうか…。

コレが自殺した者への…。

……罰なのかな?……。』


勇人が密かにそう思っていたが、アインはお構いなしにしゃべり続ける。


「例えば、そうですねぇ…。

ネコなんてどうです?

しかも、若いお姉さんの飼い猫!!

そのお姉さんから…。

頭が熱くなるまで撫で撫でされたり。

お腹をモフモフされたり。

可愛がられると思いますよ?

どうです?」


勇人はネコになって、お姉さんに抱っこされ、頭を撫でられてる姿を想像してみる。

なかなか悪くなさそうだ。


「確かにそれは魅力的だな…。

もう少しこう…。

ボリュームのあるおっぱいの女性の…。

飼ってるネコにはなれんかね?」


「もう、ワガママな人だなぁ…。

では、おっぱいの谷間で子ネコが挟めて持ち上がる程ボリュームのある女生の、飼い猫として生まれ変わらせましょう。

コレで文句ありませんねっ!?」


半ばキレ気味に、アインはそう聞いて来る。

勇人は、アインの言った事を頭の中で想像してみて、衝撃を受けながらも思わずツッコミを入れる事になった。


『どんなおっぱいだよっ!?

それはっ!?』


しかし、逆に勇人には興味をそそられる提案でもあった。

だが、フとある落とし穴に事に気づく。


「前もって言っとくが…。

相撲の力士みたいな、スッゴいデブな女の人ってオチは無しだぞ。」

 

「あっ!?チッ…気付かれた…。」


アインはそう小声で舌打ちすると、バツが悪そうに目をそらした。

どうやら、そのつもりだったらしい…。


そんなアインの態度に呆れながらも、勇人は自らの要求の吊り上げにかかる。


「あ~。アインさん…?

どうせなら、女子高生で可愛い巨乳でお願い…。

出来ませんかね?」


「分かりましたっ!!!!

もうっ!!

注文の多い人だなぁ…。

では、宇宙崩壊の阻止を手伝って貰えるんですね。

そう捉えて良いんですね!?

勇人様…!!」


「何キレてんだよっ…!?

しょうがね…。

そこまで頼むんだったら、やってやるか…。」


勇人の目はまだ力無く虚ろで、仕方ないテイではあったが、その瞳の奥底にはフツフツとやる気が出始めている。

引くも地獄、進むも地獄なら…。

男ならおっぱいの為にっ!!

行動した方が得だと判断したのだ。


「では、コレからよろしくお願いします。勇人様。

宇宙の為に…。」


「ああ、よろしく。アインさん。

ウィルスのような地球の為に…。」

『そしておっぱいの為に…。』


二人は一応な握手をすると、それぞれ別々な理由で、宇宙助けをする事になったのだった。

そこでまた、視界がぼやけて来た…。

だが今回は誰にも呼ばれて起こされてはいない。

自然と目が覚めて来たのだ…。


矢城 勇人は自室の布団の中でふと目が覚めた…。

なんとは無しに二段ベッドから降りてみる。

アインはまだ寝息をたてて、スヤスヤと布団の中で眠っている。

相変わらず寝相が悪い…。

よだれも垂らしてだらしない寝姿だ。

フと外を見ると…。

辺りはまだ薄暗く日の出が近いのか、少しずつ明るくなっている最中だった。


「本当…。

変な事になっちまったもんだな…。」


そう呟く勇人は、その日の出を見ていると、ほんの少しだけ希望に思えてしょうがなかった。

なんの確信がある訳でも無かった…。

普段となんら変わらない日の出だった。

だが、勇人にはそう見えたのだ。

ただ、それだけで良かった。


まだ朝には早いので、勇人は二度寝する事にした。

アインが踏み抜いた布団をかけ直してやり、自らも布団に戻るのだった。

ほんの少しの幸せを、味わう事が出来た。


時は静かに流れていく。

時は自然と人を変えていく。

地球はまだ、滅びの危機から脱してはいなかったが…。

二度寝の幸せに変わりは無かった。


矢城 勇人が朝日を見て感動し、二度寝の幸せを噛みしめたその日。

日曜日。

その日は、カナタと仲直りをして1ヶ月近くが経とうとしていた。

公園での周りでは、夏が近づいている日の光を肌で感じる青空と風の下。

子供や家族連れがキャッキャッと遊んでいる。

そんな中、勇人とアインはまたも日陰のベンチで、カナタの事について話しあっていた。


「人間…。変われば変わるもんだな…。」


「そうですね…。勇人様…。」


二人は感慨深くしみじみとそう思っていた。

時間を少しばかり遡って見てみよう。

あのファミレスでの出来事まで…。


カナタが、パフェを食べ終わると、海心に質問してきた。


「あのさ…?

勉強ちゃんとしたら、アンタみたいな強い人になれるか?

オレの父ちゃんに負けないような…。」


その問いに海心は一瞬物憂げな表情になった。

自らも人の父親である以上、カナタのその言葉は少し堪えた。

だが、海心は明るく答える。


「僕は決して強くは無いよ…。

君のお父さんと話しあった時だって、虚勢を張って強がって見せてただけだ。

震える足を無理やり抑えて無理してた。

だから僕位の大人になんて、すぐになれるさ。

君がそうなろうと目標にするならね…。

追い抜く事なんてすぐだ。」


カナタはそれを聞くと、

少し笑った。

海心は皆が食べ終わったのを見届けると、最後にこう締めくくった。


「勇人、アイン、カナタ君。

暴力とケンカの違いは分かるかい?

ケンカと暴力は、ハタから見たら違いは分かりにくいが…。

そこには、ちゃんとした違いがある。

暴力で人は、決して仲良くはなれない…。

そこにある人と人の関係は服従だけだ。

だがケンカで人は、互いに分かり合えれば仲良くなり、友達になる機会に成りうる。

僕はね。

その違いの差が、ケンカと暴力を分けているんだと考えてる。

人が人として生きてれば、色々と衝突する事はある。

不満を持たない人間など、決してこの世にはいないのだからね。

ケンカは悪い事じゃないんだ。

だがケンカをしっぱなしで、仲直りすらしようとすらしないのであれば…。

そのケンカはただの暴力だ。

君達がしたのはケンカ…。

そうであって欲しい。」


勇人は気づいた…。


『そうか…。

海心父さんはやっぱり、大地祖父さんの息子だ…。

行動とやり方が違うだけで考え方は…。』


海心は続けて喋る。


「今日のこの食事会で、3人の仲直り出来るきっかけとなれたら…。

僕はとても嬉しく思うよ。

以上!

ご馳走様でした!」


海心がそう子供のように、ニッコリ笑顔で手を合わせご馳走様をする姿を見て。

子供達も又、同じようにご馳走様をするのだった。


「「「ご馳走様でした!!」」」


次の日から、カナタは少しずつ変わろうとした。

お勉強が分からなくても、必死に分かろうと頑張りだしたのだ。

それからは少しずつ、学力で皆に追いつきだしていった。


「以上、実録!!あの人は今…!?

を、お送りしました!!。」


「アイン?

お前一人で何ブツブツ言ってんだ?

まあ、カナタが変わったのは事実だけどな。

ただなぁ…、困った問題が一つ…。」


「そうなんですよねぇ…。

困った事に…ソナタ様が…。」


そう、もともとお互いの印象が悪いのか。

カナタが頑張り出したのに当てられたのか。

ハナからソリが合わないのか…。

カナタとソナタは、どうにも仲が悪かった。

あのファミレスに行った日以来。

勇人とアインは、カナタとは少しずつ仲良くなれていった。

だがそれと同時に…。

ソナタとカナタの間では、シーソーゲームのような状態で、あちらを立てればこちらが立たずとなりつつあった。

今日はその状況を打開する作戦を練る為、二人は公園で話しあっているのだ。


「結局…。

シーソーゲームにハマってしまったんだよなぁ。」


「ええ、困りましたねぇ。

どうにか二人を仲良くする方法を考えなければ…。

勇人様?

こういう時はどうすれば良いのですか?」

 

そう聞かれた勇人だったが…。

どうにも良いアイデアが浮かばなかった。

嫌いあってる者同士を仲良くさせるのは誰であれ難しい。


「良いアイデアがあればとっくに実行してるっての…。

無いからこうやって話しあってんだろ?

だいたい、たまにはお前もアイデアを出せよな!!

アイン!!」


「そう言われましても…。

う~ん…。

そうですねぇ…。」


そう言われてアインがアイデアを出そうと考えてウンウンうなっている時である。

バレーボール位の一つの赤いゴムボールが、二人の足元に転がってきた。

それを追って、可愛らしい女の子が笑顔で駆け寄って来る。

どうやら両親とボール遊びをしていたらしい。

年は二人と同じ位だろうか…。


勇人はそのボールを持つと、女の子の前まで駆け寄り差し出す。


「ハイっボール…。」


「ありがと!」


女の子は屈託ない宝石のような笑顔で、ボールを受け取ると、母親と父親の方へと駆けていった。

ボールを手渡した瞬間。

勇人はある違和感を覚えていた…。


『アレっ?何だこの感覚…。

もしかしてあの子…?』


だが、前の時のような、ハッキリとした分かる感覚に捕らわれなかったので、確認の為アインに聞いてみる事にした。


「アインあの子は神様が選んだ、4人目の子と違うのか?

何か少し違和感を感じたんだが…?」


それを聞くとアインは女の子を見て悲しい表情で返してきた。


「残念ですが違いますね…。

ですが、勇人様が違和感を感じられたなら、恐らく推察ですが…。

将来、マイマスターの選んだ人物と近い行動をとるのではないかと…。」


アインは言いづらそうにそう言うと、勇人はがく然となった…。


「そんな…。

あんなに可愛くて幸せそうな家庭で…。何で…?」

 

「人は家庭のみで生きるものではありませんし…。

社会や周囲の人間、友人関係が、人を少しずつ変えていくのでしょう。

ましてや今、幸せそうな家庭に見えても、将来その幸せが続いているとは限りませんし…。

悲しい現実です…。」


アインには珍しく正論ではある。

正論ではあるが、勇人にはどこか小骨が喉に引っかかるような、不快感を感じてしょうがなかった…。

それと同時に、前の人生の時にも味わった。

自らの無力さとどうする事も出来ない社会への不満も…。

勇人はしばし考えると、フと何かを思い経ち、手をパンと叩いた。


「ヨシっ!!アイン!!

今日はアイデアが出そうにないからな。

考えるのはもう止めて、いっぱい遊ぶぞ!!」


「えっ!?

そんな…。

では、コレからいったい何をして…?

…あっ!?

そういう事ですね…。」


アインは勇人の答えを察した。

アインは最近、人の考えや意図を、ほんの少し先まで読めるようになっていた。

だがそれ故に、結論を出してはいたが、勇人の心配をするのだった。


「よろしいのですか勇人様…?

下手に彼女と遊ばれて、これ以上情が移ってしまうと、後々お辛くなるのは勇人様ご本人ですよ?」


アインの問いに勇人は答える。


「良いかアイン。

俺は全ての人を救おうなんて、そんな大それたうぬぼれた事を考えてる訳じゃないんだ。」


「ただなアイン。

人が自分と、自分の近しい者にしか、興味をやらなくなると…。

途端に他人の事など考えなくなる。

そして、利己的な事しか出来なくなる。

人の社会ってのは、他人に対して興味を無くし無関心になる事から、少しずつ荒廃してくんだ。

だからさアイン。

今やれるのなら…。

せめて今だけでも、やろうじゃないか…。」


アインは勇人のその答えを聞くと、嬉しそうに深く頷いた。


「そうですね。」


二人は意識を子供へと戻すと、その女の子の下へと駆けていき…。


「あ~そ~ぼ~!!」


子供最強の言葉を発した。


女の子はボールを持ったまま、どうして良いのか分からず、若い母親の方を見つめている。

その女の子の父親と母親が、女の子に向かって笑顔で言った。


「おっ!?

ナッちゃんモテモテだなぁ。」


「良いわよナッちゃん、一緒に遊んで来なさい。

お母さん達はベンチで休んでるから。」


「うんっ!

い~い~よ~!」


女の子はまたしても、みんなが幸せになりそうな笑顔を振りまきながら、勇人とアインと遊ぶ事にした。

女の子が二人に提案する。


「じゃあ、私がアンパンマンやるから~。

あなたたちは、バイキンマンとアナゴさんね。」


Σ『『えっ!?何か違うキャラ混ざって無い?』』


二人の心の中のツッコミに、気づく事も無く女の子は続ける。


「止めろ~バイキンマンっ!!

か~め~は~め~…。」


女の子はおもむろに赤いボールを両手で掴むと、あの必殺技のポーズで力を溜めるのだった。


Σ「「アンパンマンごっこじゃ無かったのっ!?!?」」


思わずコレには女の子にツッコミが入る。


「カメハメ波も使えるアンパンマンなんだよ~。って事で…。

波~~~~~~~!!」


女の子はそう言って、二人に赤いボールを両手で投げつけるのだった。


「危ない!?バイキンマンっ!!

ぐわぁ~~。あべしっ!?」


「あ、アナゴさ~~~ん!!。」


バイキンマンを庇い、ピッコロ並みに立ち往生するアナゴさんの設定で遊び続ける。

2人はその日、その女の子と一緒にクタクタになるまで遊んだ。


『このほんの少しの出会いで、少しは彼女の未来が変われば…。』


勇人はそう願いながら、楽しいながらも悲しい一時で、その日は流れた…。


今朝の朝日はあんなに、明るく見えたのに…。

今の夕日は、世界が少し暗く悲しく見えた…。

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