ニュウ学式…こう書くと某ロボっぽい

小学校入学式当日。

桜も7分咲き、雲も少ない日本晴れ。

心地よい日差しは、生きる物すべてを温めていた。

勇人とアインの二人は、身の丈に不釣り合いなランドセルをゆさゆさ揺らしながら、幼稚園の入園式の時と同様に母親の両の手を塞いでいたが…。

今回はその後ろを父親も一緒に歩いていた。

小学校の入学式だけはどうしても、その目で見たかったらしい。

 

勇人とアイン、それに件のソナタは、同じ小学校へと入学する事になっていた。

学区も同じだからだろうが、神様もこれは分かっていたのだろうか?


入学式も滞りなく終わり。

二人は小学校の教室へと入る。

皆それぞれ思い思いに話しをする者もいた。

教室の後ろには、まだ保護者達が見学している。

アインから見たら、幼稚園からの見知った顔も多く。

印象として幼稚園の延長線上の場所に思えた。

ソナタの姿もクラスの中にあるのが、勇人とアインには、何よりもありがたかった。

 

ソナタが、二人にに話しかけてきた。

少しずつ積極性が出て来たようだ。

一年前のソナタからは、考えられない変化だ。


「アイちゃん、ゆうちゃん、良かった~。

おなじクラスでうれしいよ。」


「うん!

ボクもソっくんとおなじでうれしい~。(ニヘラ顔)

ゆうくんもでしょ?。(真顔)」


「うん!僕も嬉しいよ。」


勇人はそう答えたが…、

それは友達だから嬉しいのか?

神様の選んだ人物だから嬉しいのか?

そう心の中で自問してしまった。

ソナタはそんな勇人の、自責に近い疑念に気付く事もなく話しを続ける。


「コレからもよろしくね。

アイちゃん、ゆうちゃん。」


「うん!!よろしく!!ソっくん。」


「よ、よろしく…。」

 

勇人の方は自責から来る自問のせいで、一瞬の迷いから少し声がうわずった。


「もう、ゆうくんたら…。

ソっくんだって落ち着いてるのに…。」


「ボクだってコワイよ。

二人がいるから、なんとか大丈夫なんだ。

ゆうちゃん大丈夫?」


「うん、大丈夫…。」


二人には勇人が緊張しているように見えたらしい。

勇人は久しぶりの小学校に緊張感はあったが、我慢出来ない程の緊張では無かった。

アインとソナタは楽しそうに話しをしている。

勇人はそんな二人を見ながら、またも自責から自問した…。


『俺は…。

俺の存在は…。

ソナタにとって友と言えるのだろうか…?』


ほどなくして若い女性の先生が入って来た。


「ハイ!皆さん静かにして下さい。

皆さんそれぞれ自分の名前の書かれた席へ座って下さいっ!!」


蜘蛛の子を散らすように、皆席へと着いていく。

勇人はアインに、何か一言しゃべりたかったが…。

仕方なく席へ着く。


徐々に教室内は静かになり。

先生が一通り、子供達と親達の顔を見回してから、明るく大きな声でしゃべり始めた。


「今日から皆さんに、色々なお勉強を教える事になります。

若林珠美です。

皆さんがこれから、この小学校で学ぶのは、国語や算数や理科以外にも、色々と学ばなければなりません。

体育や音楽の事でもありませんよ~。

学校とは勉強する場所と同時に。

人と人。

君たちと、そのお友達が一緒に勉強し生活する為のルールやお付き合いを学べる場所でもあるんですよ。

皆さん、クラスメイトのお友達や、学校のお兄さんお姉さん達と、仲良くしましょうね。

先生の事も、よろしく仲良くして下さい。」


先生の自己紹介と軽い学校の説明を終えると、今度はクラスメートの自己紹介が席の順番で始まった。


教壇の前へと立ち、一礼し自分の名前と好きな事。

コレから小学校で何をしたいかを説明するだけだったので、比較的サクサクと早く進んでいく…。

ほどなくアインの番となった。


「矢城 アインです!!

好きな事はテレビゲーム。

昔懐かしのレトロゲームも好きです!!

特にファミコンジャンプが最強だと思ってますっ!!

私(わたくし)、給食という物に憧れてまして、何だかワクワクして来ました!!

よろしくお願い致します!!」


『アインのやつ…。

テンション上がり過ぎて、自分の素がモロに出てやがる!

しかし、あいつ趣味がレトロゲーって…。

ファミコンジャンプって…。

渋すぎだろ…。』


最近は勇人も、思考の切り替えにも慣れて来て、子供状態の意識になろうとした直前である。

何か違和感を、勇人は感じた。

思わずアインを見ると、アインも同じ違和感を感じたのか、勇人の方を見合わせ互いの目があう。

目配せをし、二人がその違和感を目で追うと、一人の男の子が教壇の前へと立っていた。

一礼して自己紹介をしようとする直前だ。


その男の子は、髪は短めで肌は日焼けしてるのか浅黒く。

見るからにヤンチャで活発そうな男の子だ。

無駄に大きく元気な声で自己紹介をし始めた。


「岩倉 カナタですっ!!

遊ぶのが大好きですっ!!

学校でやりたい事は、遊んで給食をいっぱい食べたいですっ!!

オわりますっ!!」


そう言って男の子は、ドタバタと駆けて自分の席へと戻り無駄に大きな音を立てながら着席した。

活発と表現するよりは

粗暴…。

と、表現した方がピッタリくる、そんな男の子だった。


『見つけた!

ハッキリと分かった!

神様の選んだ子供だ!!』


勇人がそう確信を得ていると、アインもまた勇人を見て頷いて来た。

間違いない。


『ヤンチャな男の子か…。

何となく…。

将来何をやらかすのか予想しやすいな…。

イジメっ子でなければ、友達になりやすいんだが…。

本当に友達になって、未来へと介入出来るのか…!?』


そう将来を不安に思って不安になっていると、勇人が自己紹介をする番となった。

席を立ち教壇の前へと進み、一礼して教室全体を見渡すと…。

またしても先ほどと同じ位の違和感が、勇人の背筋を走る。


『んっ…?

神様の選んだ子はもう見つけたのに…。

何で2回もこんな…。』


答えはすぐに分かった。

教室の一番後ろの隅の方。

席順の自己紹介の順番で、一番最後の可愛らしい女の子から、強烈な違和感を感じるのだった。


『そうか…。

あの子が3人目の…。

アインのヤツ…。

自己紹介でテンション上がり過ぎて、教室なんて全く見てなかったな…。

しかし、あんな可愛い子が、将来は極悪非道な犯罪者か…。

世の中いったいどうなっとるんじゃ!?』

 

そう考えていると、なかなか自己紹介を始めない勇人に、若林先生は怪訝に思ったのか、声を掛けて来た。


「どうしたの?君?

どこか痛いの?」


「あっ!ごめんなさい。先生。

何言おうか迷ってたら、頭がいっぱいいっぱいで…。

失敗、しっぱい!!

てへっ!」


勇人は慌てて誤魔化そうとして、カワイこぶって舌を出しながら、そう言ってしまった。

突発的な思いつきの行動だ。


「い、いっぱいいっぱいで…?

しっぱいしっぱいですか…?」


若林先生がそう聞き返して、しばらくすると教室中で…。


 ドッ!!


と、笑いが起きた。

先生も、ソナタも、親達も件の選んだ子達二人共、教室のみんなが笑っていた。

しかし何よりも、アインも同じように腹を抱えて笑っていた。

そのアインに勇人は一番頭にきていた。


『な、何言ってんだ…俺は…!?』


笑顔は引きつり内心泣きたくなるのを我慢し。

勇人は自己紹介の言葉を必死に絞り出す。


「や、矢城 勇人です。

好きな事はマンガを読む事です。

やりたい事はえ~と…。

クラス皆と仲良くなる事です。」


そう自己紹介を終えると、勇人は頭を掻きつつ、そそくさと自分の席へと帰ろうとしたが…。

恥ずかしさからだろうか?

教壇から自分の席までの距離感覚が、まるで変わっていた。

エラく遠く遠~く感じるのだ…。


『そうだった~…!

この席が遠くなるイヤ~な感覚。

思い出した。

久しぶりだ…!!』


ようやく席へとたどり着くと、勇人は頭を突っ伏して身悶えしたいのを必死に我慢した。


『ダメだ…!

今ココで恥ずかしがってるのを、皆に見せたら…!!

ダメなんだ!!』


勇人は前回の人生の経験から、ココで恥ずかしがれば、周囲がする自分へのキャラ付けが、完全に面白いヤツとみんなから思い込みで決められてしまうが…。

平静を装おい続ければ、とっさの機転の利くデキるヤツで治まる事を知っているのだ。


『平静を装え、平静をっ!

え~い心臓よ!

静まれ…、静まれ~いっ!!』


心の中は水戸黄門の助さん角さん口調。

太ももを爪が食い込む位に鷲掴みにして、そう自らの心臓に言い聞かせた。

どうにか、早鐘のように鳴っていた心臓も、徐々に落ち着きを取り戻し始めた頃には、クラスの自己紹介も終わりに近づいていた。

そして、自己紹介も一番最後。

件の少女の自己紹介をする番へとなり、堂々と教壇へと立った瞬間。


「っ!!?」


アインがようやくその子の存在に気づいたのか、勇人を見て必死に何かをジェスチャーでアピールしだした。


『ゆ・う・と・さま!!

気づいて下さい!!この子!

この子が3人目ですよ~!!』


おそらく、そう勇人に伝えたいのだろうが。

勇人はとうに気づいているので、コレを完全に…。


 無視っ!!


先程笑われたのを根に持っての、ささやかな復讐だ。

勇人は改めて、件の女の子をじっくり観察する事にした。

その女の子は、髪は長めだが邪魔にならないようにゴムで束ねて、健康的で活発そうで、少し我の強そうな、可愛いい女の子だった。


『こんな子でも、将来は極悪人の犯罪者か…。』


勇人はそう考えながら見つめていると、

大きな澄んだ通る声で、自己紹介を始めた。

歌を歌わせると上手そうだ。


「名前は志摩本 ヒナタ!!

好きな事は自転車に乗る事。

やりたい事は、テストで百点をいっぱい取る事と…。

50メートル泳げるようになりたい!!」


そう自己紹介を終え一礼し、彼女が悠々と自分の席へ帰ろうとした時である。

彼女の席とは反対方向へと進むと、今だに勇人に向かって、ジェスチャーでアピールし続けるアインの前に立ちはだかり、一言文句を言うのだった。


「ちょっと!!キミ!

ワタシがしゃべってる時位、前向いてちゃんと聞きなさいよっ!!

せっかくワタシがしゃべってるんだから!!

先生!!この子がふざけてましたっ。

先生から注意して下さい。」


「!?…へっ!?…。」


アインはその一言を面と向かって言われ、ハトが豆鉄砲を食らったように驚きを隠せない。

自分が叱られるとは、全く予想していなかったのだ。

若林先生も同調する。


「そうね!!

お友達がお話ししてる時は、ちゃんとお話しを聞かなきゃダメです。

え~と…君は…。

矢城…。矢城アイン君!!」


「は、はいっ…ごめんなさい!」


必死になって勇人に向かってアピールし続けていたアインは、件の女の子と若林先生ダブルに怒られ。

一目で凹んでいると分かる程に落ち込んでしまった。


『や~い、怒られてやんの!

ざまぁ!アイン!!

ヤッフ~~~~~~♪!!』


こうして勇人のささやかなる復讐は、成功したのだった。

本当にささやかに…。


入学式が終わり学校から帰る道すがら、二人はずっと黙り込んだままだった。

自室に戻り自分達の机に座っても、まだお互いに黙ったまま…。

そのまま30分が過ぎた。

あまりの沈黙に耐えきれずに、アインからしゃべり始める。

こんな時、黙り続けるのはおしゃべりにはつらい。


「酷いですよ…。勇人様…。

ヒナタ様の時の事。

私(わたくし)のジェスチャーに気づいてらしたでしょ!?

それをワザと無視される何て…。

必死にアピールしていた私が、馬鹿みたいじゃないですか!

オマケに先生と女の子、二人から同時に叱られるなんて…。

こんな…。こんな…。」


アインはそう言いつつ、手をふるふると震わせているとハタと何か気づいてしまった…。


「考えてみると…。

別な意味ではおいしい状況だったのかもしれませんね。」


ガタタ~~~~~~~~…


アインのその一言を聞き、勇人は盛大に自分の机から滑り転がり落ちてしまった。


「あ、アイン…、お前っ!?」


「じ、冗談ですよ。

冗談。

真に受け無いで下さいよ。

勇人様~。

も~やだなぁ~。」


そうアインは言っているが、何故か頬は赤らみ、少しばかり妙な笑顔になっている。

それを見て勇人はあきれながら自分の不満も言いだした。


「たくっ…!

だいたいな、アイン!!

お前オレの自己紹介の時に、腹抱えて笑ってただろうが!!

あれはムカついたぞ!!」


「えっ!?

笑ってはダメだったんですか…?

私てっきり、クラスに対する勇人様の懇親のツカミのギャグかと…。」


「…………ツカミのギャグって。

お前………。

オレの事をどうゆう風に見てんだよ?」


素でそう思ってるのか、アイン特有の皮肉なのかは、勇人にはわからなかったが…。


「どうと言われましたら…。

人生アドバイザー兼私専用のボケツッコミ製造機…。」


「本当にロクな目で見てねえな!!」


スパ~~~~~ン!!

明らかにおちょくらている。

勇人は半泣きになりながら、ツッコミチョップでアインをはたくのだった。

とにもかくにも、この話題は勇人のツッコミで打ち切り。

件の選ばれた子の話題へと移す。


「ようやく見つけたな…。

2人目と3人目…。

今度は男の子と女の子か…。

犯罪に性別はあまり関係無いんだろうが…。

何か悲しいな…。」


「そうですね…。

特に今の…。

まだ純粋さと未来に対する希望に満ちている状態を、見知ってしまうと…。

むなしくなってしまいますね…。」


「それに俺達は男として生まれたからな…。

同性に接する方法と、異性に接する方法じゃ変わってくるしな…。」


勇人は、アインとお互いに同意出来る事柄から話題を始め。

先ほどのケンカしていた事を薄めてから、本題の話しへ切り変えていった。


「それでアイン。

二人の…。

あのカナタとヒナタさんは、未来でどんな事をやらかすんだ?」

 

「では、早速見てみましょう…。」


アインはそう言って目を瞑り未来を見ようとしたが、ハタと何か疑問に気づいたのか、途中で止めてしまい勇人に質問した。


「フと気づいたのですが勇人様。

未来を知ってどうしようというのですか?

私達が介入すれば、自然と犯罪をしない未来へ変わる訳ですし…。

勇人様が無理に知って、また人に対して絶望する事もございませんでしょ?」


アインはそう勇人に提案してきた。

勇人は仕方なく情報というモノの重要性を説明する事にした。


「それはだなアイン…。」


「ハッ!?まさか、勇人様…!?

ヒナタ様が変わるさまを知って、

ニヤニヤニタニタと、背徳的に楽しもうとするつもりなんじゃ…!?」


「誰がそんな事するか!!」


アインはボケとツッコミを入れ合う事で、勇人との仲を修復しようとしているようだ。


「良いかアイン?

どんなに些細な情報も、正誤正しく判断出来たら…。

武器であり盾にもなる万能ツールになりえるんだ。

これから、あの子らが変わる方向性を前持って知ってれば、そこに向かわないように誘導も出来るし。

対処も早くなる。

その為にはどんな情報でも知る必要があるんだよ。」


アインはその説明に納得したのか…。


「なるほど…。

そういう事でしたら合点がいきました。

では少々見て参りますので、しばらくお待ち下さい。」


また目を瞑り、未来を見始める。

すると、じっくりと未来を見てるのか、今度は独り言をなにやらブツブツと喋り始めた。


「ぬっ!?コレはっ!?

また、何ともはや…。

ああっ!?

ええっ!?ウっソっ!?」


『アインのヤツ…。

もしかしてヒナタが変わるさまを、ニヤニヤニタニタって自分が背徳感を楽しんでるんじゃねえのか…?』


疑惑の眼差しでアインを注視していると、アインは不意に目を開け、勇人と目がばったりあった。

そして、開口一番。


「人間って変われば変わるもんなんですね…。

人間ってコワいわぁ~…。」


そう勇人に言ってきたのだ。


「いったい何を見てきたんだよ?」


勇人は、アインの未来を見てる途中で上げていた驚嘆の声と、今のその口振りで、気になって気になって仕方がなかった。


「それでは説明致しますね。

まずは、岩倉カナタ様。

あのちょっと元気の有り余って、暴走しそうなヤンチャな男の子なんですが…。」


「う、うん…?」


勇人は固唾を飲んで聞き入る…。

まるで、中学生が猥談を聞くかのように…。


「彼、将来イジメっ子になり。

かなり悪どい事を、他人にもやらせるようになってましたね。

人を自らの腕力で操り。

自分の欲しい物は奪い、やりたいようにやる。

そんなタイプに成られてました。」


「そうか…。

アイツ腕力が強くなりそうだったから、なんとなく納得いくな…。

だが、そんな悪事だったら、神様に選ばれないんじゃ無いのか?

ソナタの場合が家族と隣人殺し何だし…。」


そうアインに聞き返すと…。

アインも静かに頷き…。


「ええ、そのイジメはほんの序の口…。

カツあげの対象にされていた子が、思い悩んで自殺を計ってからが転落人生です。

逃げて転校した先の高校は、ヤクザ予備校のような高校で…。

終いには本人がヤクザになって、やる事と言ったら、人を殴るか、怒鳴るか、脅すで…。」

 

「更に 底 からズルズルとですね…。

ヤクザが板につかれまして…。

闇金で借金を抱えた一家の娘さんを、真性サディストも見ただけで引く程の手込めに…。

更には他にも、肝臓や腎臓の取り立てに追い詰める為に借金を無理やりにですね…。」


一瞬聞いてはならない単語と、それにくっついては決していけない言葉が出てきたような気がして、勇人はアインの話しを一旦止めさせた。


「あ~アイン…。

ほんのちょっとタンマ…。

逆じゃないのかそれ?

それか少し疲れて、聞き違いをしたようだ…。

人間は、豚のモツか何かじゃ無いんだし…。」


「聞き違いじゃありませんって勇人様。

ほら、言わんこっちゃ無い…。

コレ以上聞かれますか?」


勇人はかなり悩んだが聞く事にした。

情報は虚実正誤正しく判断出来たなら、武器であり盾…。

その信念が、勇人に聞く事を促した。

アインは、その後のカナタの人生も事細かく説明しだしたが、勇人はアインの話しを聞いていて、自らが更に鬱になっていくのが手に取るように分かった。


「あ…アインそれ以上は言うな…。

頼む!!

言わないでくれ…。

闇金借金の取り立ての話しから、だんだん吐き気がしてきたわ…。

なるほど、最低最悪な人間だな…。

神様に選ばれた訳だ…。

臓器売買のドンか…。

極悪人だ。

バギーに乗りながら、ヒャッハーって言ってるヤツのがまだ可愛いぞ。」


アインも自らが説明してて、心配になって来たのか、勇人に質問した。


「あの~?勇人様…?

カナタ様の事…。

本当に将来を変える事は出来るのでしょうか…?」


不安そうな声だ。

ここは笑顔で答えざるおえない。


「安心しろアイン…。

力が強くてワガママなイジメをするのは、イジメの中でも比較的単純な構図だ…。

初期ジャイアン型イジメの段階だから。

発見して対処出来ればどうにでもなるよ。」


それを聞くとアインは、聞きなれ無い単語に疑問に思うのだった。


「勇人様?

ジャイアン型イジメ?って何です?。

聞いた事の無い言葉ですが…。

ジャイアンって、あのドラえもんのジャイアンですよね?

イジメって…人の…。

もとい生物の生存本能からの派生した、自己の優位性の確保でしょ?

イジメの種類ってそんなに複数あるんですか?」


勇人はそれを聞くと語り始めた。


「残念だがある…。

知恵のあるモノのイジメは、本能のイジメより複雑だ。

イジメは、快楽にも娯楽にもストレス発散の行為としても、人はしてしまうのさ。

一番単純なイジメがジャイアン型…。

力の強いヤツが、弱いヤツらを腕力でイジメるヤツだが…。

ジャイアン型ならまだ可愛いいもんだ。

指導する対象が少ない分、解決はしやすい…。」

 

「だが…。

イジメの行為に、人の知恵と経験と社会がくっつくと、複雑で厄介なイジメも生まれてくる。

例えば…。

好きな人であるが故にイジメる。

「ゴメン俺、お前に素直になれなくて…。」なツンデレ型とかな。」


ガっだ~~~~ン!!

アインは盛大に椅子からのずっこけをかますと、勇人に対して即座にツッコミを入れるのだった。


「な、何ですかそれは!?

ふざけてるんですか!?

人間の世界を、間違えて教えようとしてませんか?」


「だって実際あるんだからしょうがねえだろ…。

まあ、そんな優しいモンばかりじゃ無いけどな。

語り出したらキリがない。

暴力はふるうし、物は盗むし壊すし、その隠蔽工作はするし、バレないように口止めも強要する。

子供だろうと大人だろうと、ある程度の人の集団内に、精神的な大人が何人か居なければ、必ずイジメは起こると考えて良い。」


勇人は更にイジメの説明を続ける。


「そしてイジメの厄介な事は、イジメの主犯各の友達グループや無関心な傍観者が、組織的な集団行動を取り出す時がある。

すると、イジメは更に酷く陰湿に残酷に変わっていく。

それが、ヤクザ並みのモンスター集団に育つ事もあるのさ。」


「…で。

イジメを止めさせなきゃならない立場の教師達ですら…。

教師が教師や生徒をイジメる始末。

学校という限られた中だけでも、この社会の縮図として再現される。

大人になればイジメは無くなるか、少なくなるだろうと思ったが…。

ただの、勘違いだったよ。」


イジメを語りだしてた勇人だったが…。

イジメを説明している途中で、何故だか自らがほんの少し皮肉な笑顔になっている事に自身で気づいた。

勇人の心の歪みが垣間見える。

それを見ていたアインもかなり引いている…。

それに気づいた勇人は…。


「アイン…何か…ゴメン…。」


アインに先ずは謝った。

不思議と申し訳無い気持ちが生まれた。

何だか、彼が思い描く明るい未来図を、わざと汚してしまったような感じがしての謝罪だった。

アインはその謝罪に答える。


「イエ、構いません。

人の社会が、心と感情によって複雑だというのは前持って知ってましたし…。

しかし勇人様、そんなに何処にでもイジメがあるのに、何故イジメはなくならないんでしょうか?」


その質問に勇人はじっくり考えると、少しずつゆっくりと答えを出していく。

先程の、轍を踏まないように…。


「そうだな…答えは色々とあるんだろうが…。

基本、大人になろうとイジメは無くならん。

誰かや何かをイジメたい衝動は、己の心のバランスを保つ為の行為だからな。

だが…。

その始まったイジメを止める事は出来るんだ。

その止める人間がめったに居ないってのが問題なのさ。

イジメは、叱る者も止める者も誰も居なくて放置されると酷くなっていく。

イジメを目の当たりにしていたとしても傍観者を決め込み放置。

大概このパターンで酷くなる。

子供も大人も…。

イヤ、人自身がイジメを認識したくは無いんだと思う。

巻き込まれると面倒で厄介で、失うモノはあっても得るモノは無いからな。」


「イジメをする側の人間ですら、イジメとは認識しようとしない。

私、私達はあいつをイジメてはいない、遊んでいる、もしくは指導し教育しているだけだ。

彼ら彼女らはあれで良い仲で、イジメでは無い…。

私の子は良い子だから、イジメをする訳が無い。

私の子がイジメにあってる訳が無い。

子供達を信用しているので、私の教室、我が学校にイジメなど存在しない。

そうバランスを欠いて思い込む事で…。

自分の中途半端な良心と、平穏無事な立場を守りたいと自己保身に走っちまう。

普通の教師や親や大人ですら、自らの忙しさからそう思い込むから…。

イジメは止まらないのさ。」


それを聞いたアインは、核心を聞いてきた。


「ならば、そのイジメを止めるには…。

どうすればよろしいのでしょう勇人様…?」


その問に考え込む事もなく勇人は答えた。


「イジメってのは…。

イジメられる相手にも、イジメでストレス解消する当人にも将来的には損しかならないんだと、イジメを行う側が気付かないとなかなか止まらないんだよな。

その為に、罰や手痛いしっぺ返しを喰らわせてやるとイジメは止まりやすいんだが…。

アホだとそれでも気付かないから、拗らせて逆怨みでイジメが酷くなる事もある。


イジメをすれば、イジメを行う側も損をする事をどう分からせてやるか。

イジメを悔い改めさせる為、その動機を上手くやれるかどうか…。

それがイジメを止めるには必要なんだ。


そしてそれは早ければ早い程良い。

早期発見と早期対処…。

病気と一緒さ。

大丈夫だと、思い込み医者に行かないでいたら、いつの間にか手遅れになってて…。

手の施しようがなくなる…。


思春期までにイジメは損をすると、悔い改めて認識させれば後は楽だよ。

真性サディストでも無い限り、イジメにもブレーキをかけだし、イジメをしなくなる。

逆に、思春期過ぎまでに認識させれなかったら、ブレーキのかけ方も知らずにエスカレートしていくヤツが多い。

様々な例外はあるが、大概のイジメは早期発見早期対処で、イジメをすれば自分は損をすると認識させる。

その際の手段はケースばいケースで…。

ま、大丈夫さ。

カナタも何とかなる。

心配ないさっ!!」


経験からくる答えなんだろうか。

勇人が明るく言うと…。


「そうですかっ!

良かった~。」


アインは笑顔で安堵していた。

少しの皮肉のつもりでもあったが…。

正直、ホントに分かっているのか疑問ではある。

何に対してのその笑顔なのか…。


「それでは勇人様、次に志摩本 ヒナタ様…。

あのちょっとツンケンしてた、私を叱りつけてトラウマを植え込んだ。

元気のよい女の子の未来ついてなんですが…。」


アインがそう言いかけた時だ。

さんざんカナタの転落人生を聞かされ、人の負の部分を説明してきた勇人はウンザリしていた。


「なぁアイン…。

今日はもう止めにしないか?

コレ以上、人の転落人生聞かされると、こっちまでおかしくなっちまう…。

また、自殺したくなってくる…。」


「そうですね…。

その方が良いかもしれません…。

少し休みましょう…。

私もなんだか…。

疲れましたし…。」


そう言うと、二段式のベッドの一段目へと転がりこみ、二人はスヤスヤと寝息をたて出すのだった…。

まだ時刻は夕方の5時前…。

だが、二人にとっては余りにも濃い内容の1日であった。


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