信用と信頼

アインは楽しそうに、2人の自室で真新しいランドセルを背負ったり、下ろしたり。

ランドセルを無駄に開けたり、閉めたりを繰り返している。

ハタから見てるとかなり怖い…。


「くふっ…うふふ…。

こんなに大きく口を開けて…。

いったい何を入れて欲しくて、こんなに開くのでしょうか…?」


「…教科書だろ…常識的に…。」


勇人の冷静なツッコミだ。


「アイン、その辺で止めとけ…。

見た目も言動もかなりギリだ…。

それにランドセルが痛むぞ。」


「おっとそうですね。

では、この辺で止めて、次は筆箱の開け閉めでも楽しむとしましょう。

ふっふっふっ。」


そう言って、ニヤリといやらしく笑うと。

次は筆箱に手をかけて、開け閉めを繰り返し始めた。

多機能筆箱で、パカッパカッっと開ける部分や、何を入れて良いのか分からない収納が、無駄にたくさんある筆箱だ。

こちらも本当に楽しそうに繰り返す。

それを勇人が見てると、思わず質問したくなってきた。


「アインお前、人生楽しそうだな?」


「実際楽しいですよ勇人様。

どれもコレも体験した事の無いものばかりですから…。

勇人様は楽しくないんですか?」


「俺は2度目だからな…。

ランドセルに目新しさは感じ無いんだよ…。

正直、お前のように感動が湧いて来ない。」


「なるほど…。

新しい事を経験する事は、面白い事でもあるんですね…。

今の私のように。」


そう言ったアインは、筆箱に鉛筆やら消しゴムを入れたり出したり繰り返し始めた。

勇人はほんの少し悲しい笑顔になって答える。


「新しい事は同時に怖いと思う事でもある。

自らが経験した事の無い事を、経験してくんだからな。

俺が小学校の入学の時は、不安でいっぱいだったよ…。」


何かを思い出しているのだろうか?


「モチベーションや考え方、捉え方の違いから来る、感情の感じ方の違いですね…。

簡単に言えば人それぞれ…。

更に言えば、知識で知っているのと、

体験で経験するのでは、随分と違いますからね。

勇人様。

前人生経験者のアナタの意見として…。

小学校で、絶対に気をつけなければならない事は何かございますか?」


アインは筆箱をいじる手を止めて、勇人に顔を向けると真面目な顔で聞いて来た。

それに呼応して勇人もひとしきり考えて、真顔で答える。


「そうだな…。

学校でトイレの大の個室に入ってはいけない。

ウンコに行きたきゃ、バレないように素早くこっそり行け。

コレだな。」


ズコ~~~~~~~~!!


思わずずっこけて、ボケとツッコミの立場を逆転しアインツッコミに入れる。


「な、何ですかそれは~~~~!?

それが小学校のアドバイスって…!?

んな、アホなっ~~~~…。

もしかして、何も知らない私(わたくし)をおちょくって…。

騙そうとしてませんか?

勇人様っ!?」


アインにツッコミを入れられても、勇人は表情一つ変えず、どこか冷めた表情で返答した。


「だって実際そうだったもんなぁ…。

馬鹿らしいと思うだろうが…。

イヤ、実際馬鹿らしいんだが…。

うっかり、トイレで大をしてるのを見られたら、あだ名をウンコマンとか言われかねんからな…。」


「そ、そう…なんですか…?

まるで実際言われたかのような口振りで…。」


そうアインが言いかけると、ハッと何か気がついてしまった。


「それでそのウンコマンは、ウンコを武器にするからウンコマンなのか?

ウンコで、自身を防御しているからウンコマンなのか?

どっちなんですかね?

ウンコマン様?」


「知るか!!バカ!!

俺のトラウマをえぐるなよっ!!」


勇人の心のトラウマをえぐり軽く泣かせ、ボケとツッコミが元に戻った所で…。

本来の対策の話しをする事にした。

 

「何とか、ソナタには友人として、介入出来始めてよかったなアイン…。」


「ええ、私たち随分仲良しになれました。

お互いの家を、行き来する仲にもなれましたし…。

初めてソナタ様の家に行った時の高揚感。

今でも忘れられませんよ。

ソナタ様の家で食べた手作りクッキー、美味しかったですねぇ。」


そう言われて、勇人もその時の事を思い出したのか、しみじみとしゃべり始めた。


「確かにな…。

キツい人かと思ったら、案外優しい良い人だったな…。

ソナタのお母さん。

ソナタん家で結構、俺達に気を使ってくれてたし…。」


「何と言っても、私達のお母様とソナタ様のお母様が、仲良くなられたのが助かりましたね。」


そうアインが言った所で、勇人が前々から思っていた、ある疑問を聞いてみた。


「アイン少し聞きたいんだが…。

あんだけソナタが素直になったんだ。

もう未来じゃ、事件も起きてないんじゃ無いか?

 バタフライ効果か何かで、かなり変わったと思うんだが?」


「そうですね…。

もう一度、調べてみましょう。」


アインはそう言うと、目を閉じしばらく沈黙した…。

そして見終わったと同時に語り始める。


「ダメですね…。

随分変化はしていましたが…。

まだ、引きこもった状態からは抜け出せず結末は似た状況でした。

まだまだ、決定的な何かが足りないようですね…。

もしくはその逆、コレから決定的な何かが起きるから、ソナタ様は変わってしまわれるのかもしれませんね…。」


「そうか…。決定的な何かか…。」


勇人はそれを聞くと不安を覚えた。

経験上、人はふとしたちょっとしたキッカケで、ガラリと変わってしまう事を知っているのだ。


「しかしだアイン。

ソナタとも俺達と同じ学校に来る事は分かってるから、対応はしやすいよな…?」

 

勇人は不安感からか、少しばかりアインに同意を得たかった…。

だが、そんな事にアインは気づく訳もなく…。


「それはそうですが…。

油断は出来ませんよ勇人様。」


「…!?そ、そだな…。」


勇人の望む答えが返って来るはずもなく、ソナタの話題から変える事にした。

手短な話題に、ずっと疑問に思っていた事を聞いてみた。


「しかし、どうして又、神様はいきなり地球を滅ぼそうと考えたんだ?

誰かが何かをやらかしたのか?」

 

アインはそれを聞くと何とも言えない神妙な面持ちで、言いにくそうな表情になっていった。


「誰かが…と言いますか…。

皆さんが…、と言った方が適切なのか…?

勇人様はテレビの…。

と言っても、前回の人生でテレビでご覧になっていくつかご存知ないですか?」


「それは、あまり知らないな…。

自殺寸前の頃はテレビをつけてても、内容は右から左に聞きながされて…。

頭の中に内容まで入って来ないような状態だったからな…。」


勇人はそう言うと、思い出したのか暗い表情に変わった。

心も痛く辛くなる。

アインはそれすらも察する事なく勇人の質問に答える。

まだまだ人の心情を察し、空気を読むのは難しいのだろう。


「そうですか…。

誠に言いにくいのですが…。

育児放棄により、乳児の死者が複数出てしまいまして…。

そればかりか、死者や宗教を冒涜するような事件も多発。

さらに運悪く、地球規模での災害や環境汚染も重なりまして…。

世情は悪くなる一方で大変混乱しつつ。

嘘が真と通り、真が嘘と罵られるような状態。

そこで、今の地球とソドムとゴモラの都市を比べられ。

ソドムとゴモラの都市の方が、まだマシだったのかもしれないと、お考えになられたのです。

…テレビで、見られて…。」


「そうか…。人の業でそう判断したのか…。」


アインの話しを神妙に聞き、暗くなってた勇人だったが、ツッコミセンサーだけは敏感に反応した。


「って!

テレビで判断したのかよっ!?

神様が!?」


「だから「誠にに申し上げにくい」と言ったのです!

マイマスターがテレビの影響を受け易いだなんて…。

まあ、あの方もなかなか多感な方でして…。

前なんて、バイオハザードのゲームのやり過ぎで、寝不足になられて…。

世界がゾンビで埋めつくしてると、寝ぼけて地球を滅ぼそうとしてましから…。」


「お前んとこの神様は本当に大丈夫なのか?

てか中学生か?

執事のお前がいなくて大丈夫なのか!?」


勇人の迫るようなその問いに、アインはドンと胸を叩いて自信を持って答える。


「それは大丈夫です!!安心して下さい。」


「本当か…?

本当に本当か…?」


更に顔を近づけつつ問い詰める勇人。


「…た………たぶん…。」


アインが冷や汗をかき目線をそらしぼそりと返すと…。

勇人の不安は、別の方向からムクムクと沸き起こるのだった。


「話しを変えようアイン。

問題は残りの選ばれた人間だよ…。

俺達は本当にこのままで、そいつらに出会えるのか?」


「そこいら辺は、心配いりません。

マイマスターはノリで地球を滅ぼそうとしてましたが…。

出会え無いというポカをする程の方ではありませんよ。

そこら辺は、私が重々存じております。

ハイっ!!」


アインは今度こそ、自信満々に笑顔で答えた。その表情と態度から…。


「そうか…。

お前がそこまで自信があるなら…。」

 

勇人は、アインの言う事を信頼しだしていた。

逆にアインも、勇人の事を信頼していた。

疑う事も信じる事も出来る関係…。

二人の関係は徐々に変化していた。

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