真実の断片1

とある日の夜。

幼稚園児、矢城 勇人は夢を見ていた。


それは矢城 勇人がまだ、

鈴木 勇人と呼ばれていた時の夢であった。


鈴木 勇人という名の青年が、暗くうす汚れた自室でテレビを見ている。

ふっと思い立ち、笑顔で明るく自分にこう言い聞かせた。


「そうだっ!!自殺しようっ♪!!♪」


その日、鈴木 勇人は…。


前向きでポジティブな思考から…。


後ろ向きなネガティブな人生の結論を出し…。


まるで、京都に思いつき小旅行にでも行く感覚で…。

ふらっと外に出て行った…。

人生のあらゆる出来事が、どうしようもなくイヤになって、何かがフッと切れた…。


そして、数日後。


鈴木 勇人は自殺した。

田舎の山中にある廃ビルからの飛び降り自殺だ。


鈴木 勇人が、地面に当たる直前に見た走馬灯もロクな物は無かった。

走馬灯を見終わると、一瞬ブラックアウトし現実へと戻った。

死ぬほど痛い。

じわりと血が流れ出し顔を濡らした…。


『…コレで…楽に…なれ…。』


 


虫の息の鈴木 勇人は、赤く濁りぼやけた視界の中で、最後の思考を巡らせると、静かにゆっくりマブタを閉じていくのだった…。


だが…。


自殺したはずの勇人が、ふっと目を覚まし、体を起こす事が出来た。

自殺出来たはずなのに…。


『あれっ!?

自殺する夢だったのか?』


そう、思うと、ホッとした思いよりも、少し残念な気持ちが勝っている事に気づく。

だが、更に自分が、妙な所にいる事にも気づいた…。

霞がかかった、霧に包まれた何も無い世界。

地に足がついているので、上下という感覚はある世界。


『もしかしたら、ココは三途の川の手前か…?』


自殺に失敗して、病院に来てしまったので無い事は明らかだ。

そんな勇人の所に、黒のスーツに黄色の蝶ネクタイ、白い手袋を付けた見た目なかなかの一人の若い男が、爽やかな笑顔で近づいて来た。


前カゴのあるママチャリで…。


キコキコキコキコ…。


きき~!ガチャンガタッ!かちゃ!


その男が勇人の手前でブレーキを掛けて止まると、自転車の立脚スタンドを立て鍵まで掛けるのだった。

律儀な男である。


「どうも~♪!

はじめましてでコンニチハ。

死ぬには良い天気でしたね~♪」


その男は、鍵をポケットに入れつつ片手を上げて、妙に馴れ馴れしく爽やかな笑顔で近づいて来たかと思ったら…。

懐からスッと名刺を取り出し、勇人の目の前に両手で差し出した。


「鈴木 勇人様ですね?

はじめまして私(わたくし)…。

あなた方の概念で言う所の、神様のお側で執事をしております…。

アインという者です。

どうかお見知りおきを…。」


「あっ!?これはご丁寧にどうも…。」


アインという名前に、変わった名前だと感じつつ、両手で名刺を受け取ると、条件反射で自らも一瞬、名刺交換をしようとしてしまった。


『て、何やってんだ?俺?』


勇人が自らを自問してると、アインと名乗る人物は、もじもじと恥ずかしそうに顔を赤らめながら喋り出す。


「突然…。

見ず知らずの初対面のアナタ様に、こんな事を頼むのもアレなんですが…。

ちょっと宇宙を助けてもらう、お手伝いをしてもらえないでしょうか?」


本当に唐突…。

まるで、詐欺メールのような文言だ。

今しがた自殺した状況とはとても思えない…。


「あの~すいません…。

一つ聞いても良いですか…?」


勇人が申し訳なさそうにその男に質問をする。


「あっ?ハイどうぞ。

私に答えられる事なら何なりと!!」


さっきとは打って変わって、無駄にハキハキと答えられたのが鼻につくが、勇人は構わず質問をする。


「申し訳無いが、もう一度言ってもらえませんかね?

ちょっと耳の調子が悪いのか宇宙が…。

なんですって…?」


「あっ!ハイっ!ではもう一度…。」


えふんっ!


アインは軽く咳払いをすると…。


「お願いします!

私と一緒に、宇宙を救って下さい!!」


アインという男はいきなり土下座して懇願してきた。


「な、何ですと~~~~!?!」


思わず勇人は絶句するが、どうにも冗談ではなく真剣に言ってる事は伝わってくる。

悪い夢でも見ているのだろうか…?

そう思いつつ勇人は更に聞いた。


「あの~~?アインさん?でしたか?

自分、いつの間にかこんな所にいて困惑してて…。

いきなり、そんな事を言われても困ります。

だいたいまず、ココはドコ何です?」


そのアインという男はウンウン相槌を打ちながら答えだす。


「言われてみるとそうですよね。

混乱するのも分かります。

ココは…。そうですね…。

未来と過去と現代の狭間の世界…。

確定と不確定の狭間…。

と、言った所でしょうか。」


言ってる事はチンプンカンプンだが勇人はそれを聞くと…


「へぇ…、狭間の世界…。

て事は、やっぱり自殺には成功したって事かな…?

もしかしたら、自殺に失敗したのか?」


アインはあっさりと答える。


「いいえ…。

滞りなく死なれましたよ。

廃ビルから、飛び降り自殺をされましたよね?

それで地面に頭を強打されまして…。

アナタ様は見事立派に死なれました…。

いやあ、本当に思いきりの良い見事なダイブでした。

私が自殺飛びの審判員でしたら、迷う事なく10点入れてましたね~。」


誉めてるのか、けなされてるのかよく分からないが、どうやら死んだらしい事は確かだと勇人は自覚した…。


「そうか…。やっぱり俺は死んだのか…。」


勇人は自らが死んだと自覚すると、後悔や恐怖に駆られるかと思ったが、それ程でも無い。

ただただ、ホッとしてる自分に少しビックリした。

それ程、人生に疲れていた。


「何だ…。

死んでるんだったら関係無いじゃん。

地球がどうなろうと知ったこっちゃ無い。」


そう言うと勇人は、その場にゴロンと横になった。


「あの~、世界の事だけの話しでは無いんですよね~。

 宇宙!!

良いですか宇宙全体の危機ですよ!

一つの宇宙、その存在が消失する危機ですよ!!

地球なんて、そんなちっぽけなウィルスみたいな存在のような、どうでも良い話しじゃ無いんですって鈴木 勇人様!!」


このアインという男…。

かなり地球と世界人類に対して、失礼な事を言っているのだが…。

気づいているのだろうか…?


「ハイっハイっ。

自殺が成功してヒマになったから、一応聞いてやる。

何がどうして宇宙の危機何だよ?

だいたい話しがおかしいじゃん。

ウィルスのような存在の地球に、更にそのウィルスよりちっぽけな存在の、俺のようなどうでもいい、ダメなヤツが、どうして宇宙が救えるっての…?

だいたい神様の執事を、やってるんだっけアインさん?

だったら神様に宇宙を救ってもらうよう、頼めば良いじゃない!」


横になり片手で頭を支え、空いた手で耳の穴をいじりつつ、アインという男からそっぽを向いたまま質問する勇人。


この鈴木 勇人という男…。

アインの話しを聞く気…。

全くのゼロである。

アインという男は正座したまま、勇人ににじりよると静かに語り始めた…。


「そうですね…。

信じ無いのも仕方ありません…。


では、少しずつ説明致しましょう。」


真剣な表情をしつつ勇人に言葉をかける。


「アナタハ、カミヲ、信じマスカ?」


まるで道すがらに突然、神の存在を聞いてくる外国人のような語り方で、アインは唐突に聞いてくる。

このアインという男…。

本気で説明する気が…。

全くのゼロであった。


「言う気が無いんなら別に良いよ…。」


勇人は呆れてため息をつくと、一気にふてくされ寝モードになる。


「スイマセン。

ちょっと場を和ませようとしたら…。

つい…。ホントすいません…。

イヤ、ほら!

勇人様、自殺されたばかりですから…。」


言い訳が言い訳になっていないが、アインは手を合わせつつ平謝りし、今度こそ真剣に語り始めた。


「私(わたくし)の仕事を言いましたよね。

あなた方の概念で言う神様のお側で執事をしてると…。

日本的な考え方の、八百万の神のような存在ではなくて…。

この宇宙と地球を作った、キリスト教的な神の存在なのですよ…。」


そうアインが語り始めると…。


視界が何だかぼやけて来た。


遠くで誰かが、鈴木 勇人でなく、

矢城 勇人を呼ぶ声が聞こえて来る…。


「勇人~。アイン~。

いい加減起きなさ~い。」


台所にいるのであろう母親の声で目が覚めると、姿形は幼稚園児の矢城 勇人だった。

場所は矢城家の、勇人とアインの自室で、隣りの布団で寝ているアインは、

まだまだいびきをかきつつ、ヨダレを垂らしてへそも出して笑顔でグッスリ眠っていた。

正直マヌケな寝姿だ。

その姿を見て、今朝見た夢を思い出し勇人はふと思った。


『自称神様の執事のアイン…。

コイツ本当に、神様の執事だったのかな?

だとすると、とんだダメダメ執事だったんだろな~。』


そう思いながらぼーっとしてると、勇人とアインの母親が痺れを切らし起こしに来た。


「はい、はい!二人共、早く起きなさい!

日曜だからって、お寝坊したらダメでしょ!!

早く起きないと、見たい特撮テレビ終わっちゃうわよ!!」


母親のその言葉を聞くやいなや、アインはガバッと起きると、寝ぼけまなこで何かブツブツと呟く。


「…ソドムとゴモラが…オオサカが…おしろが…。」


「アインほらぁ。

寝ぼけてモンスターの名前なんか言わない!

勇人も、起きたんなら早く顔洗って来なさい。」


「ふぁ~~~~い…。」


勇人はあくび混じりに答えつつ、洗面所へと向かった。

勇人は顔を洗いに洗面所に行きすがら、先程の母親とアインのやりとりを見て、少し思う事があった。


『やっぱりソドムとゴモラって聞いたら、普通、モンスターの名前だと思うよなぁ…。

ポケモンかウルトラマンか何かの…。』


今日は穏やかな晴れた日曜日…。

だが、そんな何気ない日曜日もこのまま行けば、永遠に来なくなると気づいている人間は、勇人とアインのみ…。

勇人は顔を洗いながら、幼稚園児のアインの姿を思い出し思うのだった。


『本当に未来…。変えられのか?。俺達で…?。』


時は静かにゆっくり流れる…。

地球はまだ、滅びの未来から抜け出せてはいなかった…。

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