第3話
数日後…。
幼稚園に行く道すがら、勇人とアインは幼稚園児らしからぬ会話を繰り返している。
ごっこ遊びとか、大人のマネとか、そんなちゃっちなものでは断じてない。
「あいつ何だろアイン?
神様が決めた7人の内の一人は…。」
「ええ、そうですね。勇人様。
高松ソナタ様が、私(わたくし)達二人が探していた人物で間違いありません。」
勇人はそれを聞くと、手を横に振って否定しだした。
「イヤイヤ、私達じゃない。
お前が探していた人物だ…。
俺はあくまでも、お前の人生アドバイザーってだけだ。
これからやるべき事は、お前一人でやるんだ。
そういう契約だ。」
「それはちゃんと分かってますよ。
ご安心下さい。」
「しかし、考えられんな…。
あんなに弱々しくて、貧弱そうなのに…。
将来はとんでもない極悪人になるなんてな…。
人ってのはホント怖えぇわ…。
ところでアイン。
もし、ほっといたらあいつはどんな事を未来でやらかすんだろうな?」
何やらハタから聞いたら、電波でも受信してるか、頭の中にお花畑がありそうな、訳の分からぬ会話をする二人。
それは幼稚園児というより大人のようだ。
「では勇人様、ほんの少し見てみましょうか?」
「お前、そんな事できるのかよ?」
「ええ、見るだけでしたら、多少なりには…。」
そう言うと、アインは目を瞑り空に顔を向けてブツブツと小声で喋りだす。
まるでイタコか痛(イタ)子のよう。
しばらくすると、アインは目を見開きソナタの事を語りだした。
「ハイっ!
大概見終わりました~。
ソナタ様の将来はですね~。
家庭内暴力をバンバン振るわれてました…。
その時の会話から察するに…。
小学校に馴染めずに引きこもりになられ、家庭内で家族に八つ当たりするようになられたようです。
もし、マイ マスターが地球を滅ぼさなかった場合。
将来ではご家族を包丁で惨殺…。
そのまま自暴自棄でヤケを起こされてお隣に住居不法侵入。
そこで留守番されていた子供と奥さんを…。
更にはご帰宅なされたご主人を次々に…。
あ~~~~っと…これ以上は…。
18禁を遥かに突き抜けて飛び越えそうな勢いの行動まで、やらかしますので…。
説明するのはいささか…。」
勇人はそれを聞くと、顔をミルミルうちに真っ青にして、自らが鬱になっていくのが分かった。
勇人はそれを聞くと、顔をミルミルうちに真っ青にして、自らが鬱になっていくのが分かった。
「そ、それは何か?カニか?ネクロか?
それ以上言うなっ!!
た、頼まれても聞くかそんなもの…。
やっぱ人って怖えぇぇぇ~~~~~!
もう諦めて、また自殺してもいいかなアイン?」
「せっかく過去にまで来て、未来を変えようとしている時に…。
そんな弱気では困りますよ勇人様。
地球と宇宙の運命は、あなたのアドバイスに掛かってるんですよ。
がんばってください。」
アインはそうねぎらいつつ勇人の肩をポンポンと叩くのだった。
「俺は臆病者だから死んだってのに…。
……勝手なこと言ってくれるよな…。
本当に…。」
勇人は「頑張って」とは、ねぎらいの言葉だと頭では分かっているが、どうにも素直に受け止められないでいた。
何だか他人が押し付ける身勝手な言葉に思えるからだ。
二人話していると程なくして、幼稚園が見えてきた。
「ヨシっ!!
今日こそあのソナタって奴と友達になって来いっ!!
幼稚園で友達を作る為にやる事、最初にかける言葉と、次にかける言葉はおぼえてるな?」
「ええ、分かってます。
昨夜の内にシミュレーションを何度も繰り返してますから…。
突発的なアクシデントにも、即対応出来る自身がありますよ。
アチョッ!!」
アインはそう言うと、変なアクションポーズを次々にして見せるのだった。
「分かった!分かったから…。
とりあえずアイン、やる気の空回りでソナタを傷つけるなよ。
人ってのは、第一印象で友達になれるかどうか決まる事もあるんだからな…。」
「ハイ!承知しております。
人生初めての私(わたくし)ですが。
精一杯宇宙の為に精進します。
では、意識を幼稚園児モードへと戻しますね。」
その言葉と共に、既にそこには普通の感覚の普通の幼稚園児しかいなくなっていた。
「ゆうくん。いこう。」
「うん、あいくん。」
二人は仲良く互いの手を取り合うと、幼稚園へと駆け入って行くのだった。
さて…。
遊具やボールのある外で遊ぶか?
レゴブロックや絵本のある部屋の中で静かに遊ぶか?
どうやって遊ぶかで勇人が思案していると、スッとソナタが一人で外に出て行くのが見えた。
それを追ってアインも外へと出て行く。
『少しはアドバイザーらしい事でもしてやるか…。』
勇人は遊ぶのを止め、二人がちゃんと友達になれるかどうか見守る事にした。
外に出て周りを見回すと、皆思い思いな方法で遊んでいる。
ただ走り回る男の子。遊具で遊ぶ女の子。
皆楽しそうに笑っている。
ソナタは砂場で遊んでいるようだ…。
そこにアインが静かに、肉食獣が小動物の獲物でも狙うように近づいていく。
「ナニしてるの?」
相手に対して興味を示す意思の言葉。
人にかける第一の言葉。
アインは勇気を出して、砂場で遊ぶソナタにそう話しかけてみた。
自分から何か話しかけるコレがまず一歩。
勇人は木陰から見守りつつ、グッと拳を握る。
『よしっ!話の切り出した方は良いぞアイン。』
一瞬、誰に向けて言われたのか理解出来なかったのか、ソナタはキョドって辺りを見回す。
自分に向けられた言葉だと理解すると、恥ずかしそうに視線をそらし、はにかんだ表情をしつつ声を絞り出す。
ソナタは多少恥ずかしがっているが…。
こういう時、好奇心旺盛な人見知りをしない小さな子は良い。
「…おやまをつくって…おミズをながすの…。イッショにつくる?」
最後らの言葉はほとんど聴き取れない程の小さなものだったが…。
元来、内向的なソナタには精一杯の勇気のいる誘いの言葉だった。
ソナタの側には象の形をした子供用ジョウロとバケツがある。
それらを使って砂山に水を流したいようだ。
アインはニッコリ微笑むと大きく明るい声で…。
「うんっ!!あ~そ~ぼ~っ!!」
子供最強の言葉で答えた。
友達を作る為に大事な二言めも言えたアイン。
ソナタと一緒に砂山を作る事になった。
勇人はそれを見て拳を再び握りしめ…。
『ヨシっ!!でかしたアイン。
コレで上手くいけば、今日中にソナタと友達になれる!!
って…、これじゃあ何か俺、父親のような立ち位置になってる…!?』
自らにツッコミを入れていると…。
いつの間にか砂山は大きく出来だしていた。
トンネルを掘ろうと、アインとソナタが両端から掘り出した時である。
それを見た一人のヤンチャな男の子が、急に走って来て砂山を…。
「どっかーん!!ガオ~~!バリバリ!ずぎゃ~ん!ギューーーン!ど~~~ん!!」
その男の子が砂山をメッタメタに蹴り壊してしまった。
明らかにワザとだ。
「ぎゃははっ!おもしれぇ~!!」
けたたましく笑う男の子。
一瞬、何が起こったのか理解出来ないアインとソナタだったが…。
ソナタは徐々に涙を浮かべ…。
「うぇわ~~~~ん!!…」
とうとう泣き出してしまった。
泣き出すソナタに、砂山を壊した男の子の方が面喰らった。
その男の子にとっては、砂山を思い切り壊す事が、楽しいと思えたから壊したのに…。
なぜ、ソナタが泣き出すのか理解出来ない。
まだ、幼きゆえに…。
「よわむしっ~!ナクなっバーカ!!」
泣き出したソナタに、どうして良いのか分からず、思わず大声で罵声を浴びせる男の子。
それを聞いて、ソナタは更に泣いてしまう。
ヤンチャな男の子は、泣き声が五月蝿いのと、泣き止めと言ったのに泣き止まず、思い通りにいかないイライラから…。
徐々にソナタに対して、腹が立って来つつあった。
それを見たアインはうろたえる。
『え~と…。こ、コレは…。
この場合どうしたら良いんですかね?
勇人様?』
オタオタしながら、アイコンタクトで勇人に助けを求める。
『どんなアクシデントにも即対応出来るんじゃ無かったのかよっ!!』
木陰から勇人はそうツッコミを心の中で入れながら、アインに必死に身振り手振りで伝えようとした。
『アイン何してんだ?
ソナタと仲良くなれるチャンスだぞ。「何するんだっ!!」って言って突き飛ばせ!!』
そう勇人が伝えようとするが、当のアインには伝わらない。
アインはどうしたら良いのか分からずに、ただただうろたえる。
そんな時である。
ある一人の女の子園児が、一人ポツリと木陰に隠れて怪しく動く勇人に気づき、勇人に近づき…。
「そんなところでナニしてるの…?」
勇気を出して恥ずかしげに質問の言葉を投げかけた…。
だが勇人は、アインにアイコンタクトを送るのに必死で、女の子園児に構ってられない。無視を決め込む。
だが、女の子は勇人が聞こえなかったと思ったのか…。
更に大きな声で勇人の袖をひっぱって質問し続けた。
「ねえ、ナニしてんの?ねえ?ねえっ?。」
服の裾を掴みブンブン振り回す。
「え~い五月蝿いっ!あっち行ってろっ!」
勇人は思わず手で振り払った。
女の子は思わず泣きそうになる。
ヤンチャな男の子の行動は、ソナタの視点からしたら、イジワルされたと感じるだろうが…。
ヤンチャな男の子の視点からしたら、イジワルしたつもりはまるで無かった。
砂山を怪獣ごっこのように、壊した方が面白いと思ったのだ。
思ったが最後、活発な男の子は面白そうと感じただけで、直ぐに行動に移してしまう。
それが大人からしたらどんなに危険な事であっても…。
やらずには…。
試さずにはいられないのだ…。
好奇心という本能は、幼き心では制御出来ぬ為。
幼稚園児の段階では、まだまだ理性よりも本能を優先する。
人としての常識や理屈は、まだまだ通用しない。
だが、ヤンチャな男の子がイライラから次に移そうとする行動は…。
イジメという分類に入ってしまう。
人の行動は自らが意図せずに徐々に変化していくのだ。
『ハッ!?そうか…!
そうすれば良いのですね。勇人様。』
勇人のアイコンタクトがようやく伝わったのか、アインは行動に移りだした。
人生は絶対的な誤答はあるのに、明確な正答の無い選択肢の連続だ。
ヤンチャな男の子の一連の言動に、周りがどう答えるかで…。
ソナタだけでなく、男の子人生すら変えかねない。
だんだん腹が立って来たヤンチャな男の子が、ソナタに対してイジメようと行動しだした瞬間!
少し怒った表情アインがつかつかと歩み寄り、ヤンチャな男の子に抗議して突き飛ばす…。
かと思ったら…?
「ナニしてんの!?ゆうくんっ!?」
ドンッ!!
女の子の手を振り払った勇人を、抗議と共に突き飛ばした。
「抗議は俺にすんじゃねぇよ!!
馬鹿アイン!!」
思わずコレには、ソナタやヤンチャな男の子、何より勇人自身が面食らった。
突き飛ばされた勇人は地面に突っ伏し砂埃を被ると、余りの痛さに泣き出してしまう。
演技ではない。
「いっ!痛って~~~!!
何でだ?
何でこんなに痛いんだっ!?」
幼稚園児の肉体で受ける痛みが、大人の時に感じる痛み以上に痛く感じるのだ。
それもそのはず、まだ痛みすら知らない体は、痛みを覚え慣れさせようとしているのだ。
「アレ?何か違うような…?
ハっ!!そうか…。」
痛みに悶える勇人を尻目に、自らのミスにハタと気づくアイン。
次にヤンチャな男の子方をゆらりと返り見る。
ニタっ~り!!
「もう、逃しませんよ…。」
アインは不気味な笑みを浮かべ、じりじりとヤンチャな男の子との距離をつめて行く。
端から見たらちょっとしたホラー映画だ。
ソナタもアインのその不気味過ぎる笑顔を見てしまい。
怯えて更に泣き出した。
『ヤ、ヤられる…?』
ヤンチャな男の子の本能が脳内でそう叫ぶ。
男の子はとっさに砂を掴むと、アインに向けて投げつけた。
砂がアインの服にバチャリと当たった
その時!!
「何してるの!!止めなさい!!」
遠くからこの騒ぎを聞きつけて、若く可愛い巨乳の保母さんが、二人を止めに駆け寄ってきた。
「いったい、何があったの?
え~っと君は…?」
ソナタの胸に付けられていたネームワッペンから、名前をチラリと確認して…。
「ソナタちゃんどうしての?
どこか痛いの?」
保母さんはソナタに優しく聞くが…。
「うぉぇェェェェ~ん…ひぐっ…」
ソナタは泣きじゃくって言葉が上手くでず、説明できない事に更に悲しみ泣き出す始末…。
勇人は痛みから泣く事で手一杯。
保母さんは仕方ないので、アインとヤンチャな男の子から話を聞く事にした。
「き、キミ達、何があったか教えてくれるかな?。」
保母さんが二人の目線で優しく話しかけると、ヤンチャな男の子はだんまりと黙ってしまった。
口で説明するのは苦手なのだろうか?
アインの方に目を向けると、アインは幼稚園児の口調で、精一杯分かるように、今まであった事を説明しだした。
「えっとね、んとね…。
ボクとね、あのコでね…。
スナバでおヤマつくってたらね。
そのコがね…おヤマをドガって…。」
まとまり無く分かり難い説明であったが、保母さんは脳内で話を補正して、ヤンチャな男の子に諭すように語りだした。
一方的に言い詰めるのではなく。
ただただ優しく語り掛ける。
この時期の子供には、理屈や常識などほとんど通じない。
だが、あの子は聞き分けの無い子供だからと、諭す事も叱る事もやらないままでは…。
いつまで経っても理性的な判断が出来ないまま育ってしまう。
大人から、諭す事と叱る事を放棄された子供は…。
理性より感情と本能を優先し、倫理ではなく利害で善悪を判断する生き方に成らざる終えなくなる。
諭すその言葉と、叱られるその痛みが積み重なり、理解しようと考える事で…。
人の理性と倫理観はようやく少しずつ育つのだから…。
「ソナタちゃんと勇人ちゃんに、ゴメンナサイしないとダメでしょ。」
保母さんに謝る事を促されるが…。
ヤンチャな男の子は決して謝ろうとはしない。
男の子にも言い分があった。
一つ、自分は遊んでいただだけ。(ヤンチャな男の子視点で…。)
二つ、男の子から見て、ソナタは勝手に泣いただけ。
三つ、それを保母さんが分かってくれない事。
そして何よりも!!
四つ、勇人が泣いたのはアインのせいであり、自分は関係無いのに、謝罪させられそうになってる事の…。
その理不尽さ…!!
最後の四つ目以外は、幼さ故の客観的視点が出来ない為の発想なのだが…。
少しでも理不尽さがあれば、決して納得しないのが子供…。
我慢出来る多少の理不尽であれば、穏便に済ませようとする大人とは思考自体が違う。
自分を理解しない、保母さんが悪いと考えるのだ。
ヤンチャな男の子はそのモヤモヤを上手く言葉に出来ないので、イライラが少しずつ積もってくる。
「さあ、二人にゴメンナサイって。ねっ?」
保母さんにそう促されたが、ヤンチャな男の子は逃げ出し、保母さんや勇人やソナタらに向かって大声で叫んだ。
「バーカ!バーカ!!シんじゃえぇっ!!」
ようやく泣き止んで半べそ状態だったソナタは、その罵声にショックを受けたのだろう…。
「もう、ヤダ!おウチにがえるぅぅぅぅぅぅ!!。
おがあざぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁん~ん!!」
そう叫んでまた大声で泣き出し、幼稚園から帰ろうと園外の方へと歩きだして行くのだった。
それを必死に、なだめ止めようとする保母さん。
もはや友達になろうと出来る状況ではなくなった…。
「失敗かな…?
だが焦る事は禁物だ…。
まだまだ、時間はタップリ在るんだ。
ゆっくり、じっくり友達になって未来を変えていかなきゃな。」
アインはそう決め顔で呟くと、きびすを返して幼稚園に入って行くのだった。
一方勇人は…。
全てに対して後悔しだしていた。
『何が、「アドバイスをするだけの、簡単なお仕事です!」っだ!!
こりゃ下手したら、地球滅亡までに2回目の自殺も考えにゃならんぞ!!』
勇人とアインは何が目的でソナタに近づくのか…?
謎は深まり、時は静かに流れていく。
人は時として、フとした出会いで変わる事がある。
遊ぶ事で…。
叱られる事で変わる事もある。
地球はまだ滅亡の未来から逃れてはいなかった。
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