3.15 砦と狂信者達②
「……だが」
ブルーノの想いに引っ張られかけたトールの意識は、しかし当のブルーノの懸念によって元に戻る。
「どうやって、ヴィリバルト団長にここのことを知らせるんだ?」
「うん」
ルジェクの、ヴィリバルトの、狂信者達を一ヶ所に釘付けして一気に殲滅する作戦は、半分ほど成功している。問題は、この場所にルジェクが、狂信者達が居ることを、どうやってヴィリバルトに知らせるか。
「団長が気付くのを待つのか?」
先程、ルジェク達が乗ってきた馬に乗せてこっそりと送り出した伝令は、矢狭間から見守るブルーノ達の面前で狂信者達に切り刻まれた。念を押すように言葉を紡ぐブルーノの沈痛な表情に、震えが走る。
「そんな余裕は、この砦には無いぜ」
「分かってる」
普段、砦を守っている人員は、ブルーノと、正隊員三名、そして見習いが一人。食料も武器も、その人数分しか用意されていない。ブルーノの言葉に俯くルジェクを確かめ、トールはサシャには分からないように息を吐いた。逃げてきたつもりが、もっと大きなピンチに巻き込まれてしまっている。
「隊長!」
息せき切って部屋に入ってきた、サシャと同じくらいの影に、はっとして顔を上げる。
「外の奴らから、これ!」
サシャを倉庫に案内してくれ、砦のことを教えてくれた、砦の見習い隊員、ピオだ。トールがそう認識するより早く、ピオは筒状のものをブルーノに手渡し、そして現れた時と同じように素早く、部屋を去って行った。
「手紙だな」
筒状のものに付着している平たい封蝋を太い指で剥がしたブルーノが、苦虫を噛みつぶしたような顔をルジェクに向ける。
「封蝋に押された紋章は、デルフィーノが使っているやつだ」
そう言って手紙を広げたブルーノは、すぐにその羊皮紙をルジェクの方へと放り投げた。
「『
「え……?」
サシャを見下ろしながらのブルーノの言葉に、サシャが目を瞬かせる。何故、狂信者達がサシャを求める? サシャの震えが、トールの震えに変わる。つと矢狭間から離れかけたサシャに、ルジェクの鋭い言葉が降ってきた。
「行くなよ、サシャ」
同時に、ブルーノの太い腕が、サシャの肩を優しく掴む。
「どうせ、あいつらは、砦の中の奴ら含めて全員殺す予定にしてる」
「違いない」
のこのこと出て行ったところで、殺されるだけだ。静かなブルーノの声に、サシャが俯く。狂信者達は、自分達に敵対する者だけでなく、自分達の身内も、容赦なく粛正している。古代の神々へ捧げるために、捕虜にした人間を火炙りにしている場面は、何度も目撃されている。狂信者達が赴いた村や町では、狂信者達とは全く関係の無い人物までも消えてしまっているらしい。
「デルフィーノは字が書けない」
震えに震える一人と一冊の横で、手紙を手にしたルジェクが半ば悔しそうに笑う。
「この筆跡は、クラウディオのだな」
「ああ」
二人ともここに居るんだ。俯いたルジェクが、奥歯をぎりっと噛み締める。
「バルト団長に、知らせることさえ、できれば」
そのことが無理であることは、分かっている。半白髪頭を大きく横に振ったブルーノと、手紙を握り締めて俯いたままのルジェクに、トールは小さく首を横に振った。
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