第4話 mend

彼は、プロフィールを見る限りは、イタリア人の4つ年下の男性だった。


でも、それすらも、この修羅の淋しさ溢れる人々の叫びと


それ故に、愛されたいが故に、嘘を平気で吐いてしまう


吐く事に罪悪感を、失くし、麻痺させてしまう、花園で。


悪意は無くても。


そんな、淋しくも切ない、哀しい愛の慟哭の、吹き溜まりの中の


夢かもしれない、不確かなもの、と、想いもせずに


その時の私は、そこに書いてある、彼の全てを信じた。


そして、彼から来たメッセージに


彼が、まず何を言って来たか、記憶が定かでは無いのだけれど


手の届かない人を追掛けるのに、疲れ切っていた私は


実家から持ってきた、古過ぎる、端も折れて、ページも煤茶けている


母の学生時代の、和英辞書を引きながら


(何故、それを持って来たのかも、記憶に無い)


「ありがとう。貴方の優しさは、私の心を、癒してくれます。」


と、辞書を引き引き、遠い記憶の彼方へ、消えかかっていた英語力を、振り絞って


想いを、正直に返した。


そして、その拙い私の英語の一文に、あまりに感動する、彼の反応に、逆に驚いてしまった。


「おお、君の言葉は、何て甘く、素敵な響きなんだ」


と、


多分、こんな様な感じの返事だった様に思う。


今、思えば「癒す」と言う単語を、


繕う、縫う、と言う意味もある「mend」と言う、耳慣れない単語を


使ったせいだ、と、勝手に想って居る。


辞書の古さ故か。馬鹿だったなあ、、と想いながら


多分、彼には、でもとても詩的に聴こえたのだろうと。


でも、きっと、それだけでは、無かったのだと


今は、想う。


そして、彼も、孤独で愛情に飢えた、似た闇と魂を


持つ人だった。




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