知識、音楽、音声

 ぐったりとテーブルに項垂れるタカさんに代わって、シンク周りに積まれた食器を洗っていく。いやぁ、まさか行列が出来る程このサービススペースにフレンズさんが集まってたとは。タカさんだけで皆にお茶を出してたのは流石だと思ったけど、私達がカフェに来た途端に助けを求められた事を考えると、結構いっぱいいっぱいでやってたみたいだね。

 にしても、お茶のパックが尽きるまでフレンズさんが途切れないとは、本当に予想外だったよ……。最後の方は紅茶じゃなくてジュースやミルクで勘弁してもらったりしたしね。


「お疲れー。いやーこうざんチホーってこんなにフレンズ居たんだぁねぇ」

「いや、聞いたところに寄ると、どうやら半分以上は例の洞窟目当てでこのチホーに遊びに来ていたフレンズだそうだよ。洞窟は見れなかったが飲んだ事の無い美味しい飲み物が飲めて満足だという事だったね」

「あぁ、なるほど。……ある意味、調査前にあのセルリアンが出たお陰であの洞窟が保護されたって事にもなるのかなぁ」


 大勢のフレンズさんが洞窟に押し寄せたら、ガラスとか精密機器なんかは割られたり壊される可能性もあっただろうしね。まぁ、その洞窟が私の予想通りの何らかの施設ならって事になるけど。

 よし、食器洗い終わり。後は拭いて片付けよう、と思ったらそっちはアムールさんが手伝ってくれてすぐに終わった。ツンさんは私達がやってる事をまだよく分かってないみたいだけど、説明したらすぐ理解してくれるから助かる。


「はぁぁ……私が頑張ってる間にちゃんと情報は集まってたみたいね。頑張ったのが無駄になってなくて良かったわ……」

「お疲れ様です。ごめんなさい、話を聞いてすぐにこっちに来れば良かったですよね」

「そうしてくれてれば助かったけどね。けど代わりにビーバーやサイガちゃんは見つかったんでしょ?」

「見つけたは見つけたけど、まだ何があったかは聞けてないんだよねぇ」


 まだビーバーさんは眠ってるサイガさんと一緒に居るだろうから、とりあえず落ち着いた今の内に現状整理をしておいた方がいいかな。よし、こういう時こそメモの出番かな。


「んん? イエイヌ、今度は何始めたのさ?」

「あぁ、このサービススペースに来るまでに分かった事なんかを整理してるんです。頭で考えてるだけより、文字って形にした方が整理には便利なんで」

「ほぉ、君は文字を読めるだけでなく作れるのかい?」

「作るって言うか、文字の場合は書くって言うんですけどね。はい、書けますよ」


 機械型セルリアンの発生……推定パーク非認定施設、謎の洞窟の存在……セルリアンの集団行動、及び特定フレンズを執拗に狙っての行動、っと。うーん、書いてみると余計に繋がりが謎だね。そもそも繋がりがあるかも謎なんだからしょうがない、か。サイガさんが持ってたCDの出所も分からないし、そもそも人の居ない現在のパークでCDの使い道を知ってるのはコードホルダーの皆やラッキービーストさん、それに……居るかは分からないけど、私みたいに人の事を覚えているフレンズくらいだと思う。分からないフレンズさんからしたら、よく分からないピカピカした薄い丸いの、程度の認識がされれば良い方だと思う。……見つけても遊んで割られちゃうとしか思えないよねぇ。


「うーん! イエイヌが文字を作る……じゃなくて書くだっけ? 書くの早いね! どういう事なのかはさっぱり分からないけど!」

「むぅ……私にも読めない文字が殆どで理解出来ないのが少々悔しいところだね」

「これは私が見聞きした事をざっくり書いてるだけなんで、大した事は書いてないですけどね。でも、こうして形に残しておけば仮に自分が忘れてしまっても、このメモを読み返せば思い出す事も出来ますから」

「なるほど、文字を読んで思い出す……となると本とは、文字という形で知識を残した物、という解釈で良さそうだね」


 その通り。文字を読む事が出来るって条件はあるけど、それが出来れば本に書かれた知識を紐解く事が出来る。ツンさんの持っている図鑑もそのまま載っている動物の知識の集合体みたいな物だし、本を読むのは自分だけじゃ学べない事に触れるチャンス。見つけたら大切に扱いたいかな。


「ふむふむ……これは是が非でも君に文字の読み方を教わらねばならないな」

「あはは……結構大変なんで、ゆっくりお教えしますね」


 私が覚えてる物だけでも、一気に教えようとしたら流石のツンさんでもオーバーヒートしちゃうだろうしね。やっぱり私基準で教えるなら、平仮名からかなぁ。


「思ったんだけどさ? このカフェの中にある物にもいっぱい文字がくっ付いてるけど、これも読めれば何か分かるの?」

「そうですよ。今アムールさんが持ってる瓶のラベルに書かれてるのは砂糖。その瓶の中に入ってる物の名前です」

「さとー? この中って?」


 ふむふむ、大きめのコルク栓で蓋がされてるだけだから、引っ張れば開けられるね。説明して中の砂糖を舐めてみてって言ってみると、アムールさんは凄くワクワクしながらやってる。ツンさんはそれを興味深そうに隣で見てるね。


「ん? 砂糖? それってイエイヌちゃんが紅茶を淹れる時に少しだけ使ってる白い砂みたいなのの事よね?」

「あぁ、タカさんにはお茶の淹れ方をお教えする時に少し触れましたね。はいそうです、砂糖はお茶や食べ物なんかに振り掛けたり入れたりすると……」

「ふぉあぁぁぁ!? あ、あっまー!?」

「むぅ!? 見た目は砂のようなのに、口に入れたら甘みの塊だね!?」

「っと言うように、甘みを加える事が出来る物なんです。量は考えて使わないと、大変な事になっちゃいますけどね」

「なるほど……イエイヌちゃんの紅茶を飲むと少し甘みを感じるのってそれの味だったのね」


 それには使ってるシロップの甘みもあるけど、砂糖がその一助をしてるのは間違いないかな。あまり甘ければいいって物じゃないけど、ストレートティーって好みが分かれるし、飲み易くする為にちょっとだけ使ってたんだよね。


「い、イエイヌぅ……そうならそうって教えてよぉ」

「あはは、すいません。きっと舐めた事無いだろうなーと思ったら、アムールさん達がどんな反応するのかなーって、ちょっと悪戯してみたくなっちゃって」

「何ぃー? 全くぅ、そんな悪戯しちゃう悪いイエイヌは……とぅ!」


 ふぇ!? アムールさんが近付いて来たから何かと思ったら、何故か抱き抱えられた。いや、何故?


「罰として、しばらく抱っこします」

「い、いや、それって罰……なんですか?」

「んー……半分以上はあたしがしたいからです」


 したいからって……あらら、このまま椅子に座っちゃった。んまぁ、いっか。背中に伝わるアムールさんの温かさ、なんだかホッとするなぁ。


「ふふっ、仲睦まじいというのは君達にぴったりの言葉だね」

「そ、そう言われると、ちょっと照れちゃいますね」

「んぇ? 何そのなかむつまじいって?」

「あ、えーっと、とても仲が良いって言うのの言い方の一つですね。……けどツンさん、よくそんな難しい言葉も御存じですね?」

「私も方々を旅しているからね、その内に知り合った者の中にこういった言い回しをする者が居たんだよ」


 へぇ、なるほど。文字を知らなくても話してるフレンズさんって居るんだなぁ……言い回しが古風って言うのかな? 私が知らないだけで居てもおかしくもないのかなぁ。

 思えば、知らない言葉はあるにしてもタカさんやアムールさん、ビーバーさんなんかとも普通に会話は出来てるんだよね。改めて考えてみると、どうしてなんだろ? 人が居た頃の記憶が無いなら人が使う言葉は分からない筈なんだけど……フレンズ化に伴った事なのかな? なんとなく会話が出来るのって。改めて調べてみると面白い事が分かるかも?

 いやでも今はそれをゆっくり調べる暇も無いもんなぁ。あ、でもラボのデータにアクセス出来れば前にラボの人達が調べたフレンズのデータは見れるのか。それに何か関連した情報はあるかも……。その辺りはラボに帰ったらプロフェッサーさんに聞いてみるのがいいよね。

 っと? 談笑してたら外から誰かがこっちに近付いて来る足音がする。二人、かな? あ、もしかして……。


「カフェ、カフェ……あ、皆居たッス! お待たせしたッスー」

「ビーバーさん! じゃあ……」

「オーッス! アメリカビーバーが話してた皆ってここに居るフレンズの事かー?」

「そうッスよサイガ。皆サイガの事を見つけて、急いで助けに来てくれたんスからね」

「そうだったのかー、ありがとうだー!」


 おぉ、泣き疲れて眠っちゃったって聞いてたから大丈夫かと思ってたけど、思ったより大丈夫そうだね。サイガちゃん、なんか元気な子な予感だね。


「って、なんでアムール姉さんはイエイヌを抱っこしてるんスか?」

「ふっふっふ……何を隠そう、したいからです!」

「は、はぁ、そうッスか? イエイヌも寛いでるし、いいんスかね?」

「い、いやぁ……」

「まぁそれは置いといて、色々と聞きたい事を聞いてしまった方がいいんではないかい?」

「そうですね。えっと、サイガちゃん? とりあえず幾つか聞きたい事があるんですけど、いいですか?」

「おー! 分かる事なら聞かれるぞー!」


 って事なんで、まずはなんでセルリアンに追いかけられてたかを聞こうか。多分ついでにビーバーさんと別れた後の事も聞けるだろうしね。


「んーっと、皆と一緒にセルリアンに襲われてバラバラになった後、皆の事を探して色んなとこ行ってたんだー。その内にこの丸いのとピカピカを見つけて持って歩いてたんだけど、なんでか隠れてもセルリアンに見つかったりするようになっちゃって、逃げ回ってたらいっぱいセルリアンが寄ってきちゃってー……うぅ、怖かったぞー」

「となると、セルリアンの狙いは先程の丸い石、サンドスターの結晶と言ったかな? それかあのキラキラとした薄い物のようだね」


 そうなるかな。となると、次はどっちを先に拾ったか、それと拾った場所について聞いてみようか。


「先に拾ったのはこの丸いのだぞ! 何処に落ちてたかなー? なんか岩の影に落っこちてたと思う」

「そ、そんな適当な」

「あーでも確か、私達が持ってる結晶もラッキービーストさんが偶然拾った物らしいですし、それについてはなんとも言えないですね……」

「んで、こっちのピカピカはあれだ、噂になってるって言う変な洞窟にあったんだぞー。そう言えば、これを拾った時にでっかいセルリアンが出て来て大変だったぞー」


 まさかそれって、あのパワーショベル型? あれって噂の洞窟から出て来たの? あれが出て来るって……噂の洞窟って結構広いのかな? って聞いたら、サイガちゃんが見た限りだとフレンズが三人くらい横に並んで歩ける程度みたい。サイガちゃんが逃げる時に見たのは、どうやら基本の型というか、このサービススペースの前で見た中型セルリアンみたいなものだったみたいだね。変化をする前の素体って感じかな? となると、そこからパワーショベル型に変化する情報を得たって事? うーん……まだ判断するには情報不足かな。


「ふむ……直接サイガ君がセルリアンに狙われた理由に繋がりそうな話は無さそうだね」

「そう、ですね。まぁでも、可能性は少しありそうかなと思う事は分かりました」

「ん? 今の話からかい?」

「はい。……サイガさんの持っているそのピカピカしたの、実は本とは違う方法で知識、というか情報を保存しておく物なんです。それを拾ったらセルリアンが襲ってきたとなると、セルリアンは何かしらの方法でそれから情報を引き出してるのかもしれません」

「これが? 見た所文字も何も書かれてないようなんだが……」


 読み取る機械が必要……って言っても流石に言葉だけじゃツンさんも分からないだろうし、これはセキュリティターミナルに戻るまでは説明が難しいかな。どの道サイガちゃんが持ってるCDは割れちゃってるから、どうやっても情報は引き出せないけどね。


「って事は、割れてなかったらイエイヌちゃんなら何とかして中の情報を見れるって事?」

「設備があればって事になりますけどね。……いや待てよ? ひょっとしたらここにもあるかも……」


 アムールさんに拘束を解いてもらって、カフェの事務室に向かう。多分店内BGMとか流してただろうし、何かしら残ってる物があるんじゃないかなと思ったんだよね。棚とかの中を荒らされてなかったらだろうけど。


「えっと……ん、あった。後はプレイヤーが無事なら大丈夫だと思うけど」

「何々? イエイヌ、何が始まるのさ?」

「さっきのピカピカの使い方、お見せ出来るかもと思ったんです。別の物でって事には、なりますけどね」


 見つけた、音楽のCDだ。曲名は……ようこそジャパリパークへ? なんだったっけ、ジャパリパークのウェルカムソングだったかな? お店でも流してたんだ。てっきりセントラルの港で流してる曲だと思ってたよ。

 これを据え付けになってるプレイヤーの電源を入れて、セット。お店の設備のメンテナンスも出来てるのは、ラッキービーストさん達の努力に感謝だね。これでカフェの方で曲が……よし、流れた。


「おぉ!? なんか音が聞こえてきた!?」

「これは……イエイヌ君がやったのかい?」

「はい。さっき私が動かした機械でさっきのピカピカ、コンパクトディスクって言うのの中に入ってるこの音、歌を読み込んで流してるんです。と言っても、多分難しいですよね?」

「うーん、何をやったのかは分からないけど……なんだか楽しくなってくるわね、この歌。この歌があのピカピカしたのに入ってたって言うのには、ちょっと頭がついて来ないけど」


 機械を使わなきゃならないから、流石にそうだよねぇ……けどこれでCDがどういう物でどうやって使うかは分かって貰えた筈。割れたらどうやっても使えないから、見つけたら出来るだけそっとしておいてもらうよう説明出来れば今は十分かな。


「しかし、イエイヌ君は凄いな。よく分からないその……箱? を動かせるとは」

「あたしには何やってるかさっぱりだぞー!」

「本当よねぇ……前のおんだんチホーのカフェでも、やろうと思えば出来たのかしら?」

「見た限りだと同じ機械なんで出来たと思いますよ。あの時はラボに行かなきゃって考えしかしてなかったんで触りませんでしたけど」


 今は優先事項が何処かに行くよりこのパークの調査だからね。動かせる物は把握しておいて損は無いだろうから、調べられるだけは調べておこう。まぁ、ミュージックプレイヤーが調査にどう役立つかって聞かれたら、首を傾げちゃうけどね。


「ねぇねぇイエイヌ? これってさっきイエイヌが機械に入れてた奴と一緒だけど、これにも歌が入ってるって事?」

「ん? あ、そうですね。聞いてみます?」

「聞きたい聞きたい! どうやんの!?」


 あっと、アムールさんは聞くついでにプレイヤーの使い方も聞きたいみたいだね。まぁ、難しいものでもないし、教えても大丈夫かな。

 それからはプレイヤーの使い方を確認しながら音楽鑑賞。結構色々なCDが揃ってるから、皆色々と気になるCDを代わる代わるプレイヤーに入れてる。CDは割らないように扱ってって頼んだのは皆守ってくれてるから、これからもCDを見つけたら割らないように扱ってくれそうかな。


「あ、この歌私好きかも」

「ふむ、私としてはもう少しゆったりとした歌の方が好ましいね」

「それならこのCDがいいかもしれませんね。歌ではないですけど、色々な楽器の演奏曲が入ってますよ」

「がっき? イエイヌ、がっきってなんスか?」


 あぁ、そこからか。楽器の説明……しようと思ったらどう言えばいいんだろ? 使い方によって色々な音がする物、かなぁ?


「色々な音……って事は、音のするこれも楽器って事なんスか?」

「これは楽器じゃなくて、あくまで楽器や声を入れたCDを読み込む機械ですから楽器とは呼ばないですね。うーん、楽器自体があればこれが楽器って教えられるんですけどね」


 流石に楽器を売ってるお店はサービススペースには無いかなぁ……そう言えば水辺地方の方にコンサート会場なんてあったっけ。そっちならシンセサイザーとかならあるかも。あれも楽器だよね。

 っと、説明してたら私の持ってるデバイスから振動が。そうだ、セルリアンと戦い終わってからガードさんに連絡するの忘れてた。現状報告もしたいし、繋がないとね。


「はい、イエイヌです」

『モォー、モニターデ確認シテルトハイエ、終ワッタナラ連絡シテホシカッタヨー? コッチハ心配シテタンダカラネー?』

「そうですよね。ちょっとバタバタしちゃって連絡し忘れちゃってました……」

『セルリアンニ食ベラレチャッタフレンズヲ助ケテタミタイダッタカラネー。ドウ? 大丈夫ソウ?』

「それはなんとか。サンドスターの結晶で回復出来たみたいです」


 それから今までの調査の内容と、私達のメンバーに正式にツンさんが加わるって事を伝えた。ガードさんは大丈夫なのかって心配してるけど、今のところは概ね問題は無いと思う。ツンさんも知りたがりなフレンズさんみたいだし、言ったら不味い事は理解してくれそうだしね。


『了解シタヨ。ソレニシテモ、非公認施設カ……』

「LBN上にそう言った情報はありませんか?」

『残念ダケド、LBNハ基本ヲ僕等ラッキービーストノ見聞シタ情報デ賄ッテイルンダ。ダカラ、僕等ガ知リ得ナイ情報ハ無インダヨネー……』


 ―――繋ガリガアルカハ分カラナイケド、ガード、コレヲ。

 ―――コレハ……ナルホド、情報提供感謝スルヨ、イレギュラー。


『イエイヌ、今カラ一ツ音声データヲ送ルヨ。聞イテミテー』

「音声データ? あ、新しいアイコンが出来てる」


 一瞬ガードさんの音声が止まったと思ったら、急にどうしたんだろ。ミュージックプレイヤーって、また今皆が夢中になってる物がデバイスに表示されたよ。入ってるデータがガードさんが聞いてって言った音声データだけだから、曲なんかは聞けないけどね。

 皆にちょっと音楽鑑賞会を中止してもらうようお願いすると、デバイスで話してた私に疑問を抱いてたツンさんから説明を求められました。まぁ、当然かな。デバイスについての大まかな説明はタカさんやアムールさんも手伝ってくれてツンさんもすぐに理解してくれたかな。


「で、これからガードさんが送ってくれた何かの声を聞く為にちょっと音楽を止めてもらったんです」

「ん? デバイスってそんな事も出来んの?」

「はい。と言っても今ガードさんに出来るようにしてもらったんですけどね」

「へぇー、デバイスって出来る事を増やす事も出来るのね」

「ふむ、興味深い……私にも貰えたりはしないんだろうか?」

「後でプロフェッサーさん……えっと、私達に協力してくれてるラッキービーストさんにお願いしてみますね」


 おぉ、ツンさん嬉しそう……まぁ、探検隊に加入するって言ってくれてるんだから、連絡手段になるデバイスは渡しておいて損は無いよね。


「それで、何かの声ってどんなのなんスか?」

「あ、今流してみますね。えっと、これで……」


 デバイスに表示された再生ボタンを押すと、表示が再生中になった。ガードさんが私に聞かせようとしたのって、一体なんなんだろ?


『条約を無視した違法研究?』

「! 今の声って……飼育員さん?」

「え!? それって、イエイヌが探してる?」


 驚いた、まさかデバイスから飼育員さんの声が聞こえてくるなんて。っと、今はアムールさんに頷くだけにしてデバイスの声に集中しなきゃ。


『あぁ、どうやらキナ臭い連中がパークのあちらこちらで動き回ってるらしい。ま、こことサンドスターはどの国にとっても垂涎のお宝みたいなもんだからな、どの国がって言うよりどの国も、他の国を出し抜いて研究したいんだろうさ』


 どうやら飼育員さんと話してるのはアランさんだ。声に覚えがあるから、多分間違い無いと思う。二人の話を聞いてると、どうやらアランさんは自分達、パークやサンドスターについて調べる事を許可された研究者以外のパーク関係の研究をしようとしてる人の存在に気付いてて、それをなんとか突き止めて、止めさせようとしてたみたい。その話はアランさんが信じられる人にしかしてなくて、どうやら飼育員さんはその一人に選ばれたみたいだね。


『今は表面化してないが、恐らくこのアンインにも手は回ってる。尻尾を掴めればいいんだが、なかなかどうしてかくれんぼが上手いみたいで何処に研究施設なんかを隠してるかがわっかんね。もたもたしてたら俺が動いてるのを逆に掴まれる可能性もあるからな、こいつ等は俺が居れなくなった時のセーフティって訳さ』

『バレたら怒られるなんてもんじゃ済まないぞ? 禁止事項を無視出来る上に自己思考出来るサポートユニットなんて……』

『だから内々の秘密で作ってんじゃんかよ。お前だって、自分が退去命令喰らった後にイエイヌちゃんの世話してくれるもんが居てくれた方がいいだろ?』

『そりゃあそうだけど……』

『そ・れ・に、イエイヌちゃんの存在は俺達の切り札だ。なんとしても守らないとならないしな』

「私が、アランさん達の切り札……?」


 どういう事なんだろ? 私、そんな切り札なんて言われるような事教えられたりしたっけ? 覚えは……ちょっと無いんだけどな? あ、音声データはここまでみたい。気になる事はいっぱいあるけど、とりあえず非公認の施設があってもおかしくないって事だけは間違いないみたいだね。


「なんか、よく分かんなかったけど……イエイヌ、どういう事なのさ?」

「えっと、このパークでやっちゃいけない事をやろうとした、やってた人達が居て、それを私が探してる飼育員さんやラボのプロフェッサーさんが話してたアランさんが止めようとしてたって事ですね。ざっくりと言うとですけど」

「ふむ、話の流れから予測すると、そのイエイヌ君が探してるフレンズが止めようとしていた連中の施設とやらが、あの噂の洞窟である。という事でいいのかい?」

「恐らくにはなりますけど、そういう事になると思います」


 そして、音声の中で作られてたのは多分、コードホルダーさん達だ。禁止事項を無視出来るサポートユニットなんて、現状コードホルダーさん達以外に思いつく物無いしね。


「んー、難しいッス……そもそもあたし達フレンズを調べて、何が知りたかったんスかね?」

「多分にはなりますけど、動物がこのフレンズの姿になる仕組みとか、特徴かもしれませんね」


 それと皆には言ってないけど、恐らくはフレンズと人の体に相違があるかもかな。動物から人の姿に変化したフレンズをどういう定義で扱えばいいかって、少なくとも人がこのパークに居た間はずっと議論されてる、されてたって聞いた事があるし。

 とにかく今は音声データを聞き終えたし、またガードさんに通信を送ろう。あ、すぐ出てくれた。


『ドウ? 聞キ終ワッター?』

「はい。けどこれ、多分コードホルダーの皆が作られる前の音声データですよね? 一体何処に残ってたデータなんですか?」

『ンー、データノ出所ハチョット特殊デネ、僕達コードホルダーデ一番最初ニ作ラレタ、プロトタイプトモ言エルラッキービーストカラノ提供ナンダー』


 ―――名前クライハ、言ッテモ構ワナイ?

 ―――マァ、ソレクライハ必要カナ。イイヨ。


『名前ハ、コード:イレギュラー。今ハ何処ニ居ルカ分カラナイケド、LBNデ繋ガッテハイルンダー』

「コード、イレギュラー……」


 飼育員さんの音声データを持ってるって事は、ひょっとしたら面識がある? 出来れば会いたいけど、何処に居るか分からないんじゃ難しいか……。


『マ、ソレハ置イトイテ、恐ラク見ツカッタ洞窟ハソウ言ッタパークデ暗躍シテタ連中ノ研究施設ノ可能性ガ高イネ。可能ナラ調ベテオキタイケド……』

「それにはあのパワーショベル型をなんとかするしかない、ですね」

「あれね……正直、ツンが一匹増えたとしても、あれを倒すのは難しいんじゃないかしら?」

「あれ、タカ知ってんの?」

「イエイヌちゃんとガードと一緒に見たのよ。……イエイヌちゃん、デバイスであれの姿を見れるようには出来ないの?」


 あぁ、見て貰えれば皆には説明し易いか。ガードさんも理解してくれたのか、デバイスのフォト機能を開放するよって言って、少ししたらデバイスにフォトってアイコンが増えた。あぁ、通信しながら画面を切り替えれるのに気付いて、話しながらでも操作は出来るようになりました。

 そのアイコンをタッチすると、もうガードさんが送ってくれてたのか管制室で見たパワーショベル型の画像があった。隣のカフェの大きさと比べてみれるから、皆に危険度を伝えるのはそう難しくなかったよ。


「これはまた……厄介そうな相手だね」

「普通のセルリアンもいっぱい居るッス、こんなのやっつけれるんスか?」

「んー、セルリアンである事に違いはないんだから、石を見つけて割ればいけるっしょ。けど、流石にあたしでもなんとか出来るか怪しいかなぁ?」

「セルリアンの事なら、リーダーに聞けばきっと何とかしてくれるぞー! リーダーはすっごく強いからなー!」


 なるほど、ハイイログマさんか。確かにセルリアンハンターをやってるくらいなんだから力を貸してもらえると助かるかも。となると、噂の洞窟を目指す前に残りのビーバーさんの仲間を捜した方が良さそうかな。


「サイガは居たッスけど、コクチョウもハイイログマさんも見つかってないんスよねぇ……」

『ウーン、コッチニモマダ目撃情報ハ来テナイヨー……』

「んー? コクチョウなら洞窟までは一緒に居たぞー? けど洞窟から逃げる時にはぐれちゃったんだぞー……」


 なんと。ならひょっとしたら洞窟からサイガちゃんが出て来た時の映像があれば何処に行ったか分かるかも? ガードさんに聞いて確認してみて貰ったら……あ、やっぱり映ってたみたいだよ。


『ナルホド、サイガトハ逆方向ニ逃ゲテルネ。ソッチニアル主要ナ施設ハ……ロープウェイ乗リ場周辺カナァ?』

「ロープウェイ乗り場ですか……山の上に向かう為にも一度確認したいし、行ってみた方が良さそうですね」

「ねぇねぇイエイヌ、そのろーぷうぇい? って何さ?」

「あぁえっと、乗れば山の上に運んでくれる乗り物ですね。動いてくれれば、山の上に行くのがかなり楽になってくれる筈です」

『ンー、ロープウェイハ確カ、動カスノ二厄介ナ認証ガアルンダヨネェ……マァデモ行ッテミル価値ハアルダロウネ。コッチデモ先ニ安全カートカ確認シテオクヨー』


 お願いして、ガードさんとの通信は終了。皆にも次の目的地はそこでいいか確認して、異論は無かった。よし、それなら準備をしっかりして、次のロープウェイ乗り場に出発するとしようか。あ、でもサイガちゃんはどうしよう? それに、バイクさんに乗って移動するにしても人数が多過ぎるかなぁ? うーん……。


 ―――独りで居るのは思考を巡らすにはいいが、少々退屈を持て余す。イエイヌ達は早く戻って来ないものかな……。

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