朝餉、緊急事態、白狼

 デジタル時計が表示している時間は朝6時。一応目覚ましは7時で掛けてたけど、必要無かったかな。昨日は結構遅くまでアムールさんが持ってたトランプで遊んじゃったからちょっとまだ眠かったりするんだけどね。いやぁ、ずっと持ってるの忘れてたから丁度良いと思ってババ抜きとかダウトとか教えたら皆凄く嵌まっちゃって、大富豪で完全にタカさんとアムールさんの勝負心って言うのかな? とにかく負けず嫌いな所に火が付いちゃって止まらなくなっちゃったんだよね……いやまぁ一番強かったのはビーバーさんだったんだけど。皆娯楽にも飢えてるというか、初めて触れたんだから時間を忘れて遊んでたのも仕方ないかもね。これからも時間ある時は遊ぶつもりだよ。

 さて、今日はサービススペースで機械型セルリアン発生についての聞き込みをしなきゃだし、朝ご飯もしっかり食べておきたいから用意しに行こうか。そのまま出られるようにいつもの毛皮の服にも着替えて行こうかな。

 うん、洗われてしっかり乾かされてるからか着心地はいつもより良く感じる。まぁ、いつもは服って言うより体の一部みたいな感覚だから、着心地は気にならないんだけどね。

 着替えも終わって向かうは食堂。多分作ってれば皆起きて来てくれるだろうし、眠ってるのを無理に起こす事も無いから今呼びには行かなくてもいいかな。

 さて、何を作ろう? 少ししっかり目に食べたいとは言え朝からあまり重い物は避けたい。冷蔵庫の中身と相談しながら決めようかと思って開けると、意外な物がある事に気付いた。まさか、お味噌? おぉ、お味噌まである。作るの大変だと思うんだけど、ビルダーさんの加工所ってこういうのまで作れるんだ……かなり大きい施設なのかな?


「うーん、これとアサリ……いや、お豆腐とワカメもあるのか。どうしようかなぁ」


 お味噌を見つけちゃって朝ご飯を作ろうとなると、あれを作りたくなっちゃうよねー。これに合わせて、今朝は和風な朝ご飯にしようか。思いつく献立は大体出来そうな食材は揃ってるしね。

 って事でちゃかちゃかと調理開始。和風とは言えアムールさん達にお箸を使えって言うのは多分無茶だろうから、スプーンやフォークで食べられるような物にしないとだね。

 あれこれとやってる間に食堂に向かってくる足音を私の耳が捉えた。ガードさんやラッキービーストさんの足音じゃないから、三匹の内の誰かなのは間違い無いかな。


「ふわー……良い匂いッスー」

「あ、ビーバーさん。お早うございます」

「おー、イエイヌお早うッス! それ、朝ご飯ッスか!?」

「はい。出来たら持って行くんでちょっと待ってて下さいね」

「分かったッス! ……あれ? イエイヌが毛皮に戻ってるッス」

「あぁ、食べたら出掛けるんで着替えたんですよ。あの服装じゃ、フレンズとしては違和感あって目立っちゃいますから」

「なるほど……っと、あたしも着替えて来なきゃッスね。こっちの服も過ごし易くて良いんスけどね」


 あ、結構ビーバーさんも着替えた服気に入ってたんだ。それなら貰っていっちゃっても……と思ったけど、入れて持ち運ぶ物が無いからダメか。ビーバーさんはハンターの仲間と合流出来ればそっちと一緒に行動するようになるんだし、そういう鞄なんかは持ち歩かない方がいいよね。思って少し寂しく感じるけど、ビーバーさんにはビーバーさんのやりたい事があるんだし、無理に私達と一緒に来ないか誘ったりは出来ないよ。

 とりあえずビーバーさんは食べてから着替える事にしたみたいで、私が料理してる所を見てみたいって事だから調理場の方に来てます。あまり見てても面白い物でもないんだけどね。


「おぉー、あちこちから色んな匂いがするッス! 特に濃いのは、このグツグツ言ってる水ッスね」

「熱いから気を付けて下さいね? それには、この鰹節って言うのを浸けて香りと味を出してるんです。出汁って言うんですよ」


 言いながら飲んでみて貰おうかと思って、少し冷ましながら小皿に取って渡してみる。おぉ、見た目は水とそう変わらないのにちゃんと味が付いてるのにビーバーさんは驚いてる。出汁は上手く出来たみたいだね。

 この出汁は、朝の定番としてお味噌汁になります。が、これを少し取って卵と一緒に混ぜて、出汁巻きも作ります。いやー、作り出すとなんだか楽しくなってきちゃうんだよね。懐かしいのもあるかな? 飼育員さんも私も、日本の出身だからね。まぁ、私が食べられるようになったのはフレンズになってからだけど。

 日本、か……今パークの外はどうなってるんだろ? 人がパークに戻ってないって事は、まだ何かトラブルがあるのかな? それともまさか、サンドスターがパーク外の陸地にも発生したとか? 昨日見つけた研究内容から考えると、可能性もありそうなんだよね……マグマって地球の内部で流れてる物だし、それがサンドスターになるとしたら、火山なら何処でも噴き出す可能性があるとも言えるし。ガードさんも確か、外部のインターネットに接続出来なくなったって言ってたしなぁ……。


「イエイヌイエイヌ! さっきの出汁、溢れちゃうッスよ!」

「おっと、危ない危ない……ありがとうございます、ビーバーさん」

「いいッスけど……考え事ッスか?」

「えぇ、ちょっと気になる事があって。パークの外って、今どうなってるのかなって」

「パークの外ッスか……確か、海って言うのが広がってるんスよね? その海が気になるんスか?」

「んー、私が気になるのは海の先にある、他の陸地ですね」

「他の陸地? あぁ、ごこくエリアとかの事ッスね」

「あ、そうじゃなくて、ジャパリパーク以外の陸の事ですよ」

「え!? このパーク以外にエリアがあるんスか!?」


 あーそっか、今居るフレンズさんはセルリアンの大量発生で、連れて来られた記憶も無くしてるんだっけ……パークの外に元居た筈の大陸もある筈なんだけど、そっちに居た記憶も無いから実質パークが故郷になるんだよね。海を越えた先の大陸なんかの事は、程々にぼやかして教えた方がいいのかなぁ……そもそもフレンズのままじゃ向こうには渡れないしね。


「パークよりずっと広いタイリクッスか……本当に、そんな所があるんスか?」

「私も今は確かめる方法も無いんですけど、存在してる筈です。元々私はフレンズになる前はそっちに居た動物ですしね」

「そ、そうなんスか!?」

「はい。他にも私みたいに海を越えて来た動物は居る筈なんですけど、今の所は会った事が無いんですよね」

「はぇー……もしかして、そういう動物はイエイヌみたいに難しい事も分かるんスかね?」


 ……確かに、海を越えて来た事を覚えているフレンズが居るとすれば、それは私と同様なんらかの方法でセルリアン大量発生を乗り越えられたフレンズって事になるから、何かしらの知識を覚えたままの可能性は高い。前にタカさんが言っていた博士と助手を名乗るフレンズは、ひょっとすればひょっとするかもしれない。

 けど、そうなると私以外に禁止行為に抵触する事をしていたフレンズや人が居たって事になるんだよねぇ……果たしてそれが正しい事か、当事者の私にも分からないからなぁ……。

 なんて考えてる内にまた火に掛けてる出汁が吹き零れそうになってた。考えるのは後だね、今は朝ご飯を作っちゃおう。

 着々と手を動かして、料理を仕上げていく。と言っても、手間が掛かってるのは出汁巻きだけで、後は白身魚の切り身を焼いたりホウレン草でお浸し作ったりしてるだけなんだけどね。


「よしっと。後はお味噌汁をお椀に入れて……完成!」

「ふぉぉぉ! な、なんだかキラキラして見えるッス! イエイヌ、これも全部食べられるんスよね!?」

「勿論ですよ。冷めちゃうのも勿体無いですし、アムールさんやタカさんを呼んできて食べましょうか」


 なんて話ながら厨房を出たら、もうアムールさんもタカさんも食堂で座って待機してました。一声掛けてくれても良かったのにね。あ、どっちもいつもの毛皮服に戻ってます。


「おっはよー。まーた良い匂いしちゃってるねー」

「今度のはそれぞれで器が違うのね。作るの、大変だったんじゃない? イエイヌちゃん」

「お早うございます。シチューやサンドイッチよりは少し大変ですけど、結構楽しんで作ってるところもあったりするんで平気ですよ。あ、ビーバーさん、運ぶの手伝ってくれますか?」

「任せてッス!」


 ビーバーさんと一緒に料理を運んでいって、食べる準備はよし。それじゃあ早速頂きますだね。

 にしても、また白いご飯まで食べられるとはねぇ。炊飯器とお米もあったから実は炊いてました。普通の犬だった時はこのご飯にお味噌汁を掛けたご飯もよく食べたなぁ……まぁ、フレンズになってからねこまんまって呼ばれてるって聞かされて微妙な反応しちゃったけどね。


「んぉ! この卵焼きって言ったっけ、前に食べたのより美味しー!」

「凄いッス! どれも違う味がしてどれも美味しいッスー!」

「イエイヌちゃん、変わった物で食べてるわね? その二本の……棒? それで食べるのって食べ易いの?」

「あ、これは箸って言って、食べるのはスプーンなんかよりはちょっと難しいですね。けど、今のこの食べ物は元々これを使って食べられてたんですよ」


 箸の話をしながら、さっきビーバーさんにも話したように私が元居た場所……パークの外に広がる、広がってる筈の大陸の話をする。うん、やっぱりアムールさんもタカさんも驚いてるね。日本だけじゃない、このパークは世界各国の協力もあって出来たって聞いてる。それら全部と音信不通になるなんて、本当に起こりうるものなのかな? まぁ、私は日本語以外の言葉は殆ど分からないんだけどね。簡単な英語なんかは幾つか知ってるけど。


「パークの外、か。海よりも先に何があるか、なーんて全然考えた事無かったわ。イエイヌが言う通り、パークよりずっと広い所があるって言うなら行ってみたいけどねー」

「残念ながらフレンズは空気中にサンドスターが含まれてる所じゃないとフレンズの姿を維持出来ないですからね……海越えも他のエリアへ行くくらいなら多分大丈夫だと思いますけど、流石にサンドスターが無い……筈の他大陸に行くのは無理になっちゃいますね」

「うぇっ!? あたし達ってそうだったんスか!?」

「私達をフレンズにしてるのはサンドスターだからね。それが切れれば元の動物に戻るのは仕方ないのかもしれないわね」


 そう、だからこそセルリアンに食べられサンドスターを体から失うと、フレンズは動物に戻ってしまう……らしい。うーん、この中で私だけはその現場を見てないから、らしいとしか言えないんだよね。あの小さい青いセルリアンも襲い掛かってくるんだよね? あの体で一体どうやって食べるんだろう?

 こう、口をガパッと開けてガブッと噛み付く感じ? なんて疑問に思ってるのがタカさんに気付かれたんで、折角なんで聞いてみた。うわ、三匹とも引き攣った苦笑いだよ。


「あれがフレンズを食べてる所、ねぇ……見た事はある、んだけど……」

「うぅ……思い出しちゃったッス……」

「そ、そんなにとんでもない感じ、なんですか?」

「とんでもない、わね……あの一番よく居るセルリアンって、体は小さいけど数は多いでしょ? だから、基本的に数匹に一度に襲われるのが殆どなのよね」

「イエイヌくらい戦えるなら一匹ずつやっつけるだけだからいいんだけど、戦う力がほぼ無いフレンズだとね、数で囲まれて、その……」

「あ、あー……」

「イエイヌも、想像出来ちゃったみたいッスね……」


 まずは一匹、それからどんどんと後続が襲ってきて最終的には体中をセルリアンに喰らい付かれた状態になるって事だよね……うわ、想像したら血の気が引いて行く感じがする。お、恐ろしい……ショッキング映像だよそんなの。

 皆に思い出させたのを丁重に謝って、話す前に食事を終わらせようって促したよ。このままこれ関連の話を続けるのは、食欲がピンチだよ。

 でも、皆思い出せるって事は、その現場を目撃した事があるって事なんだよね……旅をしてるタカさんやアムールさんは偶然出くわす事もあったんだろうけど、ビーバーさんは? やっぱりハンターの仕事で、なのかな。

 っと、いけないいけない。聞くにしても食べてからだ。また変な空気にしたら皆が気にしなくても私が多分居た堪れなくなる。


「ふぅ、ご馳走様でした」

「うん、あたしも御馳走様」

「こんなに美味しい物を食べられるのも、イエイヌちゃんと旅をしてる特権かもね。ご馳走様」

「うーん、他のフレンズの皆に知られたら羨ましがられそうッスよねー。ご馳走様ッス!」


 よし、それなら早速片付けを、と思ったらなんとタカさんが片付けを任せてと言って、アムールさんも手伝うのか二匹で食器を持って行っちゃいました。タカさんは片付けも手伝ってもらった事あるから大丈夫だろうけど、アムールさんは大丈夫かなぁ?

 心配しながら待ってると、厨房からはお皿が割れる音が聞こえて……きませんでした。終わったって言って二匹が戻ってきたんで軽くチェックさせてもらったら、完璧に綺麗になってそれぞれの所に仕舞われた食器を発見。おぉ、凄い……。


「もぉー、あたし達だってイエイヌがやってる事は見せて貰ってるんだし、これくらいなら出来るようになるってばさ」

「まぁ、ちょっと前までは片付けもこの水が出る蛇口って言うのの事も知らなかったんだから、イエイヌちゃんが心配する気持ちも分かるけどね」

「あ、あはは……余計なお世話だったみたいですけどね」


 うーん、これならこれからはもうちょっとだけお片付けとか手伝って貰っちゃってもいいかな。片付けだけでもやってもらえたら凄く楽になるんだよね。あんまり楽する事を考えるのもどうかと思うけど。

 と、少し談笑してたら何やらこっちに小走りくらいで近付いてくる足音が聞こえた。ここで私達以外に足音がするのはラッキービーストさんだけだから、ガードさんかな?


「ア! 良カッタ、皆揃ッテルネ!」

「んぁ? ガードじゃん。おはよってか、なんか慌ててるけどどったの?」

「アァオハヨウ! ッテソレドコロジャナカッタ、アメリカビーバー! 捜シテタフレンズノ目撃情報ガ来タヨ!」

「え、うぇぇぇ!? マジッスか!?」

「マジマジダヨー! 見ツケタフレンズハ、サイガ! 場所ハ、コレカラ皆ガ向カウサービススペース! デモ、ドウヤラセルリアンニ追ワレテ逃ゲ込ンダミタイナンダ。小型ト中型ノ混成デ、数ハ5! サービススペースニハフレンズガ居ル所為モアッテ警備ビーストモ動ケナイ、急イデ向カッテ欲シイヨー!」


 うわ、朝から一大事だよ! 各自急いで出発の用意をしなきゃって事になって、部屋に置いたままにしてたポーチを取りに向かう。ビーバーさんに至っては着替えなきゃだし、ポーチを身に付けてビーバーさんの着替えを手伝いに向かう。

 予想した通り、慌てたビーバーさんはこう、あられもない状態で服がこんがらがっちゃってた。これを一先ず落ち着いて脱いでもらって、洗って置いておかれてたビーバーさんの毛皮服をまた絡まないように着てもらう。よし、ビーバーさんの準備終わり!


「あぅー、ゴメンッスー」

「焦っちゃうのも分かりますし、そんなに時間も掛からなかったからよしとしましょう。お待たせしましたー!」

「お、流石イエイヌ、ビーバーの手伝い行ってたのね。こっちでバイクは呼んで来てるから、いつでも行けるよ!」


 おぉ、助かる! それならエレベーターに向かわなきゃだね。ガードさんには追って情報がありそうならデバイスの方に送ってって伝えて、ターミナルの扉をくぐる。動く床を小走りで抜けると、あっという間にエレベーター前だよ。


「サイガ、一匹でセルリアン5匹に追われるなんて、何したんスかもー!」

「多分だけど、ビーバーと同じで逸れた仲間を捜してたんじゃないかしら? で、今のこのこうざんチホーはセルリアンが増えてるみたいだから、鉢合わせしちゃったってところだと思うわ」


 タカさんの予想に耳を傾けてると、目の前のエレベーターの扉が開いた。あれ、つまりエレベーターは上に行ってたのか。ってそうだった、そう言えば私達が来た時に一匹のラッキービーストさんがエレベーターの方へ向かってたっけ。多分そのラッキービーストさんが乗って行ったんだろうな。

 スムーズに降りられるように、まずはバイクさんに乗ってもらってそのまま反転。来た時はバックで出て貰ったけど、今回は少しでも早く動き出したいからね。正面を向いてすぐに降りられるようにしてもらったよ。

 全員が乗るとエレベーターの扉が閉まって動き出した。2回目だけど、まだビーバーさんはちょっとビクッとしてるかな?


「うぅー、まだ慣れないッスー」

「一度乗っただけで慣れるのは難しいやねー。タカもちょっとドキッとしたっしょ?」

「な、なんで分かるのよ! くぅぅ、イエイヌちゃんはともかく、アムールトラが平気にしてるのに納得が行かないわ!」


 別に危なくないのが分かればよゆーよゆーって言ってるアムールさんの気持ちの落ち着き、相変わらず凄いね。皆をリラックスさせようとしながら、少しキリッとした表情になってるのも、流石だよ。

 エレベーターが地上に到着すると、眩しい太陽の光が私達を照らす。今まで地下の蛍光灯の元に居たから、ちょっと眩しい……なんて怯んでる場合じゃないね。


「バイクさん、皆が乗り次第体の固定お願いします」

「えぇっと、セルリアンのバイクにこんなお願いするのも変ッスけど、あたしの仲間がセルリアンに襲われそうなのかもなんス! 急いでさ、サービス? スペースまでお願いッス!」


 おぉ、バイクさんの排気口が力強く鳴った。何処かに急いで向かうならバイクさんは凄く頼りになるね。

 皆が座ってバイクさんが固定してくれたのを確認して、デバイスを取り出してサービススペースの位置を確認。ん? ハンドルの辺りに何か出っ張りが……あ、ひょっとしてここにデバイスを置けって事? おぉ、置いたらバイクさんの体が伸びて固定してくれた。ど、どんどん便利に変化出来るようになってるねバイクさん。いや、助かるから文句は無いけど、想像以上にこの体伸ばし、応用が利くんだなぁ。


「バイクさん、ありがとうございます。逐一道は教えるんで、その通りに走って下さい!」


 同意の音が聞こえて、後方の3匹にも大丈夫か確認。よし、皆大丈夫そうだ。バイクさんに出発の声を掛けると、徐々に加速しながらバイクさんは走り出した。

 は、速い! フルスロットルのバイクさんのスピードは一度体験させて貰ってはいるけど、まだそれほどじゃなくてもやっぱり凄い!


「うっひょー! すっごいわーこれ! こーれは流石にあたしが走っても出せない速さだわー!」

「アムール姉さんなんで平気なんッヒュ!? ひらかんらー!」

「下手に喋ってると舌噛むわよー! って遅かったわね!?」

「バイクさん、右に15度ずらし! そのまま真っ直ぐです!」


 後ろは後ろで大変みたいだけど、こっちはこっちで指示出しに必死です。一体何キロ出てるんだろ? 固定してくれてなかったら後方に飛んでっちゃってるかも。そうか、最初の爆走の時も固定してくれてたんだろうなぁと今更思う。じゃなかったら多分あの時も振り落とされてたんだろうなぁ。

 うわぁ、広域状態のマップの現在地の点が凄い勢いで動いてる。残り距離がぐんぐん減ってくよー。これならそう掛からないで着けそうかも。残り23キロ、かな? 高山地方の主要な施設は山には作られてないのが救いかな。この状態で悪路走ってたら私はともかく、後ろの皆が降りた時に大変な事になってたろうなぁ。


「イエイヌ、聞コエル!?」

「っとぉ? が、ガードさん? どうしたんですか?」


 あぁ、通信が聞こえたのかバイクさんがスピードを落としてくれました。というか、そうじゃなくてもそろそろ減速しないといけなかったしね。耐えてたけど、正直風圧が辛かったです……。


「サービススペースノ警備ビーストカラ追加情報ガアッタカラ緊急デ通信サセテモラウヨ! スペースニドウヤラセルリアンガ集マッテキテルミタイナンダ! 正面カラノ突撃ハ危険ダヨー!」

「な……」

「セルリアンが集まってきてる!? なんで!?」

「原因ハマダ分カラナイ。ケド、サイガガ追ワレテタノニモ関係アルノカモ……」

「サイガ……だ、大丈夫ッスよね? まだそのサービススペースってとこ」

「ドウヤラスペースニ戦エルフレンズガ居タミタイダネ。マダ侵入ハサレナイデ、スペース前デ食イ止メテルミタイダヨ。警備ビーストデ他ノフレンズニハ建物内ニ隠レルヨウ誘導ハ完了シテルヨ」


 そうにしても、急がなきゃならない事態って事に変わりは無さそうだね。食い止めてるフレンズさんも、何処まで凌げるかは分からないし。けどセルリアンが集まってるか……まだ大型セルリアンは居ないみたいだけど、中型が来てるのは不味いね。急がなきゃ。

 再度バイクさんに急いでもらって、残りの距離を駆け抜ける。ただ、喋れるだけの余裕は残したスピードでね。予測での立案にはなっちゃうけど、無策で突撃は危険そうだから、ある程度の動きは考えておこう。


「アムールさん、タカさん、恐らくサービススペースに着いたらまずは集まってきてるセルリアンをやっつけないとならなくなると思います。どの程度が居るか分かりませんけど、準備だけはお願いします」

「応ともさ!」

「集団戦はあまり得意ではないのだけど、そうも言ってられないわね」

「イエイヌ、あたしはどうするッス!?」

「ビーバーさんは、アムールさん達を降ろした後に再度バイクさんに乗って下さい。バイクさんのスピードなら、恐らく集まったセルリアンをすり抜けてスペースに入れる筈……そこでビーバーさんはサイガさんを捜して下さい。セルリアンが集まってきたのがサイガさんがスペースに入った時からなら、何かしらの原因にサイガさんが関係している可能性があります。それを見つけてほしいんです」

「り、了解ッス!」


 本当は、バイクさんからはスペースに近付く前に降りて何処かに隠れてて貰いたかったんだけど……緊急事態だから仕方ない、申し訳無いけど協力してもらうしかないね。

 ビーバーさんを降ろしたら私とバイクさんはアムールさん達と一緒にセルリアン退治だ。中型は流石に私だけでどうにかする力が私に無い。けど、小型セルリアンならバイクさんに協力してもらえれば素早く数を減らせると思う。後は出たとこ勝負になっちゃうけど、なんとかするしかないね。

 そのまま快速を維持するバイクさんに乗って……見えて来た、サービススペースだ。


「おぉっとぉ……これはこれは」

「とんでもは居ないようだけど、大きいの6体が厄介ね」

「ちっさいのはもう数えるのも面倒だーねぇ。けど、この数を押し留めてるフレンズか。出来そうなのは何匹か知ってるけど、顔見知りかなーん?」

「まだ無事だといいんですけど……アムールさん、タカさん、セルリアンの退治も大変だと思うんですが」

「分かってるよん。ここまで凌いだフレンズも助けてみせるっさー」

「捜すのは私がやるわ。あんたはまず、あのセルリアンを減らすのに集中しなさいな」

「合点! スペースを守ってたフレンズが一匹とは決まってないから、がっつり捜しちゃってよん?」

「当然」


 うん、一先ずはアムールさん達に任せて大丈夫そうかな。よし、私とビーバーさん、それにバイクさんは敵陣突破だ。すり抜けながら可能なら小型の数を減らしたいし、バイクさんから鉄パイプは受け取っておこう。

 じゃあ、後で。そう言ってアムールさんとタカさんはセルリアン達に向かって行った。少なくとも10匹や20匹じゃ済まない数が居るんだし、私達も急がなきゃ。


「ビーバーさん、用意はいいですか?」

「だ、だだ、大丈夫ッス! サイガを見つけて、なんでセルリアンに追われてたか、聞き出してみせるッス!」


 うん、大分緊張してるみたいだけどやる気は伝わってくるよ。それなら……行ってみよう!

 バイクさんにお願いして、セルリアンの隙間を縫うように走り抜けて、スペースの入り口を目指す。食い止めてたフレンズさんが居るとしたら入り口前に居る可能性が高いから、それも出来れば確認したい。まぁ、飛び掛かってくるセルリアンを迎撃しながらだから難しいかもだけど。


「お、おわー!? 何スかここ、地獄ッスかー!」

「くっ、バイクさんは避けるのに集中して下さい! 迎撃はなんとかしてみます!」


 ビーバーさんに飛び掛かろうとするセルリアンはバイクさんが意識して回避してくれてるみたいだから大丈夫。私やバイクさんを直接狙ってくるセルリアンを叩き落とすのに集中出来るからなんとか抜けられそうだね。正直こっちに口開けて飛び掛かってくるセルリアンに、避けるとは言え向かっていくような状態だから生きた心地はしません。

 ん? なんだろ……セルリアンが、凍ってる? いや、氷に閉じ込められてるが正解かな? そんな様子のセルリアンが混じってるのに気付いた。どういう事だろ?

 考えながらもなんとか集まったセルリアンを、突破出来た! って、うわ!? 正面にフレンズさん!?


「くぅぅぅ!」

「あわー!?」

「ん?」


 バイクさんを寝かせるようにして急ブレーキ。あ、危ない……もう少し止まるのが遅かったらバイクさんがフレンズさんの向ける爪に当たる所だった……というかフレンズさんにぶつかる所だったよ。


「ふむ? 面妖な事もあるものだね? 高速で接近するセルリアンを迎撃しようと思ったら、まさかセルリアンにフレンズが乗っているとは」

「はぁ、危なかったぁ……だ、大丈夫ですか?」

「うむ、私には特に問題は無いね。寧ろ、君の連れと思わしきフレンズが目を回してるようだが?」

「え? あ、ビーバーさん!? 大丈夫ですか!?」

「おぉぉ……目の前がグルグルッス……」


 スリップした訳じゃないけど、無理矢理止まったから相当頭が揺れちゃったみたい……あ、でも気を取り直してくれた。ちょっと無茶が過ぎたかな?


「と、とりあえずあたしは急いでサイガを捜してくるッス~」

「お願いします! けど……む、無理はしないで下さいね?」

「そうも言ってられないッス~! が、頑張るッス!」

「おぉ、立ち直った。っと、聞きたい事は目白押しだがっ!」


 おっと、目の前に居た白い毛のフレンズさんが私達の後方に飛んで、向かってきたセルリアンを弾き飛ばした。いけないいけない、第一目標は達成出来たけど、まだ危機的状況なのは変わらないんだった。


「君は、援軍と思っていいのかね?」

「あ、はい! 外部からは私の仲間もセルリアンを退治しながらこっちに向かってきてくれてます!」

「僥倖だ。今までは私と数匹のフレンズでなんとか耐えていたんだが、私以外のフレンズはセルリアンの群れの中に消えてしまって安否不明でね、これまでかと思っていた所だよ」


 うわぁ、凄い極限状態だったみたい。ここを守っていたこのフレンズさん以外のフレンズさんの事も気になるけど、まずは押し寄せようとしてるセルリアンを何とかするのが先決だね。

 バイクさんへのお願いを変更して、小型セルリアンを減らすのに取り掛かる。白毛のフレンズさんには、私達の打ち漏らしが来たら迎撃するようにだけお願いしたよ。なるべく打ち漏らさないようにするつもりだけど、保険が出来たのは助かるね。

 再度セルリアンの隙間を縫いながら、今度はしっかりと倒す事を意識して、セルリアンのコアを狙って鉄パイプを振るう。申し訳ない気持ちはあるけど、バイクさん以外のセルリアンとは敵対関係にある以上、割り切らないと。


「やぁぁ!」


 一匹、また一匹と小型セルリアンを退治していくと、攻めてきていたセルリアンの動きに、逃げる素振りが見える個体が出て来た。よし、逃げる個体は再度向かってくる様子が無い限りは放置だ。とにかく攻撃意思があるセルリアンを減らすのが最優先だからね。


「はぁっ!」

「どっせい! ……へへっ、イエイヌの作戦大成功って感じじゃん?」

「アムールさん! 大丈夫でした?」

「もっちろん! とはいえ、デカブツは全部無視して来たから無事ってだけなんだけどね」


 うわぁ、アムールさんが来た方を見たら無数のキューブが転がってる……。セルリアン一匹から数個は出るのは見たけど、それでも相当数のセルリアンを倒してるね……頼り切りは申し訳ないけど、やっぱり頼りになるなぁ。


「ふぅ、小さい連中は散り始めたけど、あれをどうするかね……あの連中、多分だけど」

「フレンズを食べちゃった、んですよね」

「気付いたの? イエイヌちゃん」

「それについてはこの子に私が少々説明させてもらったよ。勇敢にも戦ってくれたフレンズ達だ、どうにか助けてやりたいが……」


 あ、白毛フレンズさんも合流してきてくれたみたい。どうやら小型のセルリアンは追い払えたみたいだね。


「全く、我々7匹で凌ぐのがやっとだったものを、たった3匹で打開してしまうとは。何者だい君達は?」

「ちょーっと大冒険が好きなフレンズ探検隊ってとこかなー。ねぇ?」

「だとしたら大冒険好き過ぎでしょう……待って、7匹って言ったわね? となると……」

「白毛さん以外のフレンズさんは、やっぱりあの6匹に……」

「……敵討ち、という事になりそうだが、付き合ってくれるかい?」


 3匹で顔を見合って、同時に頷く。話を聞いてから推測するに、恐らく中型セルリアンが動かないのは、食べられたフレンズさん達に集中してるからだと思う。まぁ、こっちから手を出せば、こっちに狙いを変えるだろうけどね。


「一匹一匹、確実にやっつけましょう。4匹で掛かればなんとかなる筈です。もし他の中型が襲い掛かってきたら、私とバイクさんでなんとか撹乱してみます」

「今この中で一番速いのはバイクとそれに乗ってるイエイヌ、か……大丈夫?」

「無茶は……出来る限りはしないようにします」

「もしもの時はお願いするしかないわね。ところでそっちの、えっと」

「私はツンドラオオカミ。長ければ顔見知りからはツンと呼ばれているよ。好きに呼んでくれたまえ」


 ツンさんか……なんと言うか、独特な雰囲気のあるフレンズさんだよ。狼のフレンズさんなら、犬のフレンズである私とも少し近いフレンズさんになるのかな。


「じゃあツンで呼ばせてもらうけど、あなたもいけるのね?」

「敵討ちと銘打ったのは私さ。休むのは、それを終わらせてからとしよう」

「オーライ。んじゃま……仕掛けますか!」


 ざっと見たところ、機械型は居ないね。色は皆青、いや……薄ら紫色になり掛けてる? それに、セルリアンの中にサンドスターみたいな色をした玉が見える。あれは……コアではない? まさかあれが、食べられたフレンズさん!? え、セルリアンに飲み込まれるとあんな風になっちゃうの!?

 と、とにかくやっつけるのが最優先だ! 手近に居た一匹に狙いを定めて、4匹で包囲する。コアは、体の後方!


「一番乗りは、まっかしとけぃ! だらっしゃあ!」


 飛び掛かって、アムールさんの爪がセルリアンのコアに命中。あ、あれ? なんか思ったよりあっさり割れちゃった。あんまりにもあっさりだからアムールさんもキョトンとしちゃってるよ。キューブになってバラバラと崩れるセルリアンの中、飲み込まれていた虹色の玉も開放されて……動物の姿になっていく。手遅れ、だった……?


「あぅ……まだ吐き出されてないから間に合うかと思ったけど、遅かったかぁ……」

「これが、セルリアンに『食べられる』って事、なんですか?」

「そう、セルリアンに食べられたり飲み込まれたフレンズは、最初こそフレンズの姿を保ってるけど、サンドスターを食べられて、思い出まで食べられてしまうとあの玉みたいな姿になって吐き出されるわ。そして、動物の姿に戻ってしまうの」


 思い出を、記憶を失った状態で、か……目の当たりにしたけど、何と言うか……フレンズの体が溶かされてるみたいで、恐ろしい。徐々に形を失っていく様子とかは、ちょっと直視出来る自信無いなぁ……。


「……済まない、共に戦ってくれたと言うのに」

「ツンさん……」


 ツンさんは動かない動物の体をそっと撫でて、立ち上がって残る中型セルリアンを睨みつける。


「先の様子を見るに、どうやらこいつ等は石の強度も弱い。手分けして一気に仕留めていくのを提案したいが、どうだろう」

「あたしは異議無し! この子は間に合わなかったけど、ひょっとしたら間に合う子も居るかもだし!」

「そうね……どう? イエイヌちゃん」

「……全部のセルリアンの石、コアの強度が低いとは言い切れないと思います。一撃で割れないコアを持つセルリアンが混じっていたら、声を挙げて下さい。私とバイクさんで時間を稼ぐんで、全員でやっつけましょう」

「ほう、セルリアンに乗るとは不可思議なフレンズかと思ったが、なかなかどうして頭が切れる。あぁ、その方針で構わない。では、行こうか」


 中型は残り5匹。個別で対処出来れば残りは一匹になるけど、どうかな……やってみるしかないか。

 それぞれの受け持つセルリアンを決めて、駆け出す。とは言え、私も一匹なんとかしたいところだけど、鉄パイプが届くかが少し心配かなぁ……小型なら基本私達より背丈が無いから問題無く叩けたけど、残ってるセルリアンは私達フレンズより少し背が高い。コアが頭の上とかにあると、飛び上がれないバイクさんに乗ってだとコアを狙えないかも……いや、私だけだと近付けるかも怪しいからバイクさんには乗せて貰ってないと不味いんだけどね。

 いや、やってみる前に諦めちゃいけないね。とにかくまずはセルリアンのコアの位置を確認だ。にしても、大きいけどのっぺりした球体型かぁ……特徴が無いのが少し気になるかな? 今まであったセルリアンって、何かしら特徴的な部分があったし。確か、セルリアンは食べた情報を元に体を変化させるんだよね? その変化をしてない……何の情報も取り込んでないセルリアン? ……いや、違う!

 口で言うのが間に合わないと思って、咄嗟に体を右に寝かせた。すると、バイクさんがそれに合わせてくれて曲がる事が出来た。ほぼ同時に、私達が居たであろう場所に何かが振り下ろされてた。これは、鼻? 記憶の中を探って出した答えは、象の鼻だ。動き方はそれに近い器官がセルリアンから生えてきた。これが意味する事、それはつまり……。


「皆気を付けて下さい! このセルリアン達、食べたフレンズさんの情報を元に体を変化させてます!」

「うぉっとぉ!?」

「どうやら……!」

「その、ようだね!」


 ふぅ、どうやら皆が深く踏み込む前に気付いて教えられたみたい。うわ、羽みたいなのが生えたり、口が長くなったようになってたり、それぞれのセルリアンが変化を終えたみたい。最初の一匹を倒したタイミングが丁度終わる前だった、って事なのかな。とにかく、油断ならない状態になったのは間違いないね。

 私が相手にしてるのは象の鼻みたいな……触手でいいのかなあれ? とにかくそれが生えただけだからまだなんとかなりそう。バイクさんのスピードなら、油断さえしなければなんとかなりそう。


「おわっ!? こいつ飛んだ!? た、タカー! チェンジ、チェンジで!」

「その方が、良さそうね!」

「私のは足が生えた程度だ、問題無い」


 タカさんの相手してる大顎セルリアンも、アムールさんの力ならなんとかなるかな……象鼻セルリアンの動きを躱しながら様子を見たけど、大丈夫かな。

 けど象の鼻か……となると、食べられたフレンズは、そうなるよね。仮にセルリアンを倒せたとして、動物の姿に戻る前に離脱しないと潰されかねない。気を付けなきゃ。

 問題は、フリーにしてる一匹だ。どんなフレンズを取り込んだのか分からないけど、他のフレンズより時間が掛かってる。情報のフィードバックに時間が掛かってるのかな? 何にしても、動き出す前に他のセルリアンを何とかしないと!


「バイクさん、なるべく急いでこのセルリアンに対処したいんです。力を……貸して下さい」


 私の声の返事に、バイクさんは強く音を立てて答えてくれた。……不思議だな、バイクさんにサンドスターを分けてる筈なのに、力が抜けていく感じはしない。寧ろ、力が増してる気さえする。……行こう!

 流石にこっちを認識した象鼻は、私達の動きを目で追って、後ろを見せようとしない。これであの鼻を私が撥ね退けられるくらい力があれば、すぐにどうにか出来るんだけど……そこはバイクさんのスピードでなんとかしてもらうしかないか。

 狙うのは、象鼻が鼻を振り被った時。律儀に目の下に鼻を生やしてくれてるから、鼻を振り上げた時に一瞬とは言え私達から完全に視線が切れる。その一瞬で加速して、後ろに回り込めれば……いける!

 凄い、何も指示は出してないのにバイクさんが私が思うように動いてくれる。どうなってるかは分からないけど、これなら気兼ね無く象鼻のコアを狙えそう。よし、今だ!


「回り込んで……そこだぁ!」


 よし、届いた! 確実に鉄パイプがコアの中心を捉えて、打ち砕く。バイクさんの反転の勢いも乗せられたから一撃で割れたみたい。って、割ったからって安心出来なかったんだ、元フレンズさんが動物の姿に戻る前に離脱しなきゃ。

 うん、思っていた通り、セルリアンから解放された玉は、成体の象さんに戻った。下敷きになんかなったら潰されちゃうのは間違い無いだろうなぁ……。


「……ふぅ。バイクさん、助かりました。ありがとうございます」


 うん、バイクさんも絶好調みたい。って、まだ終わった訳じゃなかった。戦況は……タカさんが翼の生えたセルリアンとまだ交戦中、だけど押してるのはタカさんみたい。アムールさんは……うわ、大顎セルリアンの顎を閉じるように掴んで投げ飛ばした。負ける姿が想像出来ないなぁ。となると、援護に入るべきは、ツンさんか!


「ツンさん、大丈夫です……か?」

「ほう、私より君とそのセルリアンの方が退治が早かったか。こちらも、もうすぐ終わるよ」


 な、何? 対峙してたセルリアンの足が、凍ってる? そうだ、さっきも氷漬けにされてるセルリアンが居た。これをやったのって、まさか?


「ツンドラの、永久氷土の冷気か。使っている自分が言うのもどうかと思うが、なかなかどうして便利なものだよ。サンドスターとは珍妙な物で、単なる狼でしかなかった私がこんな芸当が出来るようになるのだから驚きだよ」


 そう言って、野生開放の輝きを放つ爪がセルリアンに突き立てられた。同時に、その部分からセルリアンが凍っていく。凄い、これがツンさんの力……。

 全身が凍ったセルリアンは、コアも体も砕け散っていった。な、なるほど、これだけ強くて凄い力があったんならサービススペースを最後まで守れてたのにも納得だね。


「ヒッパリオンと名乗っていたかな……君達が開放したのはマルミミゾウと言った筈だ。せめて、動物に戻った2匹が穏やかな生活をこれからおくれるよう祈らせてもらうとしよう……」

「そう、ですね……本当に」


 目を覚ましたのか、起き上がったマルミミゾウさんは私達に警戒してか、足早に去っていきました。あ、ヒッパリオンさんも目を覚ました……と思ったらこっちも逃げて行っちゃいました。動物に戻ってるんだから、それで当然、なんだろうな。


「ったく、多分なんかワニのフレンズが食べられてたっぽいけど、危うく齧られるところだったわー。ツンドラオオカミとイエイヌのが早く片付けてるとは、あたしもまだまだだねぇ」

「アムールさん!」

「私から言わせれば、大型ではないとは言えセルリアンを投げ飛ばす君の胆力に驚愕させられたがね?」

「あら見てた? ガブガブガブガブ面倒だからエイヤー! ってね」

「全く、とんでもない速さで走り回るイエイヌちゃんとバイク、セルリアンを凍らせるツンドラオオカミ、いつも通りトンデモなアムールトラ。このメンバーの中じゃ飛べるってだけの私がインパクトが薄過ぎて霞んで見えるわね」

「タカさんも! 大丈夫でした?」

「ま、私も空のハンターなんて呼ばれる動物が元だからね。飛べるとは言え、ペリカンの子には負けてられないでしょ」


 どうやらアムールさん達もセルリアンをやっつけて、中の動物さんも開放済みみたいだね。助けられなかったのは……凄く、残念だけど。


「……私達もなんでも出来るって訳じゃない。けど、そんな悲しそうな顔しないでイエイヌ。こういう時は、次は絶対助けるって誓うの。そうやってこれからも諦めないで頑張れば、次同じような事になった時、今より少しは良い状況に出来る筈だからさ。ね?」

「……はい」

「申し訳無いが、反省はもう少々待って貰っていいかい? 今ので君達が駆け付けて来てくれる前に戦ってくれたフレンズは残り一匹に搾れた。なるほど、どうして最後の一匹の変化が遅いのか理由が分かった。恐らくだが、純粋に抵抗力が強かったのだろうな」

「って、話し込んでる間に変化する前にドゴンとやっちゃった方が良いっしょ! ひょっとしたら助けられるかもー……だし!」


 う、うわ、インパラさんとの速さ比べの時にみたアムールさんのグッと力を溜めてから一気に加速するダッシュだ。これ、瞬間加速ならバイクさんに勝てるんじゃないかなアムールさん……そのまま動けないのか動かないのか分からないセルリアンが、弾けた。アムールさんを敵に回すのは自殺行為だって覚えておこう。


「んー……ん!? 皆、ちょいちょいこっちこっち!」

「ふぇ? アムールさんどうし……あれって」

「玉が動物じゃない、フレンズに戻ろうとしてるわ!」

「全く驚きだな。自らかなり強いと言っていただけはあると言った所か」


 アムールさんに呼ばれて急いで近付くと、今までの動物さん達とは違って、玉は人、フレンズさんの姿に戻った。玉になったらもう手遅れって訳じゃないのか、なるほど皆それを知ってるから玉の状態からでも戻れるかもって言ってた訳だ。


「聞こえるか、せめて君だけでも目を開けてくれ、二ホンオオカミ!」

「二ホンオオカミ!? それって……」

「え? まさかイエイヌの知り合い!?」

「ではないんですけど、知識としては知ってると言いますか……って、これは? 体からサンドスターの光が?」

「不味いわね、なんとかフレンズの姿は失わなかったけど、サンドスターがもう体に殆ど残ってないんだわ。このままじゃどの道フレンズの姿を保ってられなくなるわね」


 待って、それは多分不味い。二ホンオオカミは一度……絶滅した動物。噂では聞いた事があるけど、実験で保存されていた絶滅動物の毛なんかのサンプルとサンドスターを触れ合わせたらフレンズとして蘇ったって聞いた事がある。正直半信半疑だったけど、恐らく今目の前に居るこのフレンズさんは、そうして体の大部分をプラズマが肉体として再現されて蘇ったフレンズさんだ。そのプラズマ、元となるサンドスターが失われたらどうなるかは……あまり想像したくないけど、最悪消滅も有り得る。なんとか、なんとかしないと。でもどうやって?!


「って、おぉ!? イエイヌ、なんかポーチ光ってない!?」

「え? ……そうか、これなら!」


 光ってるって言われてポーチを見たら、何が光ってるかはすぐに分かった。そうだ、私は持ってた。現状を良くする可能性を。散々バイクさんに分けていた私のサンドスターを補ってくれていた、サンドスターの結晶!


「お願い、このフレンズさんを……ニホンオオカミさんを、助けて!」

「うぉっ!? まぶしっ!?」

「これは!?」

「光が、ニホンオオカミを包んでいく……」


 辺りを照らし出した結晶から放たれる水色の光が、段々とニホンオオカミさんを包む繭みたいになっていく。内心ちょっと持ってて大丈夫なのこれ? と思うけど、放り出す訳にもいかないから様子見しつつ維持しよう。

 暫くそのままになった後、ゆっくりと結晶の光は穏やかになっていって、止んじゃった。上手くいった、のかな?


「う、ん……」

「おぉ!? 喋った!?」

「体から漏れていたサンドスターの光も止んでる……これはひょっとしてひょっとするかもよ」

「聞こえるかい、ニホンオオカミ? 私だ、セルリアンに共に立ち向かったツンドラオオカミだ」

「うぅ……ん? あれ、私……確か、セルリアンに追い詰められて食べられた筈……?」


 おぉぉぉ、やったー! 目も覚ましたし体も起こせるみたい! 凄い! ありがとうサンドスターの結晶さん!

 ツンさんも一緒に戦ったフレンズさんが一匹でも助けられて凄く嬉しいみたい。ニホンオオカミさんに手を差し伸べて立たせてあげてる。ふふっ、尻尾が嬉しそうに振られてるのが嬉しい証拠だよね。

 まだ状況が分かってない二ホンオオカミさんを休ませたいし、周囲を確認するとセルリアンの姿はもう無さそう。あ、キューブは一部バイクさんが回収してるみたいだね。私も一応何個か拾っておこうか。と思ったけど結構嵩張るんだよね……数個だけ拾っておこう。

 ともかくなんとか緊急事態は収束かな。結局やっつけたらセルリアンは逃げていったけど、サイガさんは関係無かったのかなぁ? あ、ビーバーさんがどうなったかも確認したいし、とりあえずサービススペースに入ろうか。申し訳無いけど、絶対混乱が生まれるだろうから、バイクさんには外で待っててもらう事になるけどね。

 っと、そもそもの目的を忘れるところだった。機械型についての情報も集めなきゃだよ。何か知ってるフレンズさんが居てくれると助かるけど……どうなるかなぁ?

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