ビーバー、未知、守護者

 ……目を覚ましたら目の前にビーバーさんの顔があって無言で毛を逆立てました。ビックリした、本当にビックリしたよ。

 おかしい、昨日プロフェッサーさんに連絡を入れた後に横になったけど、その時はビーバーさんの頭は私の胸の辺りにあったはず。な、何故目の前に?

 ついでに手を繋いでるから無理には起きれない……これも寝る時はこんな風になってなかった筈。多分ビーバーさん、一度目を覚ましたんだろうなぁ。それでどうしてこうなったのかは分からないけど。

 まだすぅすぅと寝息を立てるビーバーさんの顔には、涙の跡は無かった。とりあえず、安心して眠ってくれたんなら良かった、かな。

 で、今のこの動き難い状況でとりあえず周囲を確認。辺りが明るくなり始めてるから、夜明けくらいの時間かな? 足の方から熱は感じないから焚火は消えてる。分かるのは、この辺りまでかな? 後はビーバーさんが起きてくれないと何ともって言うのが現状だね。


「ん、ぅーん……朝ッスかぁ……?」

「あ、お早うございますビーバーさん」

「んー? ……おわぁ!? い、イエイヌ!? 起きてたッスか!?」


 目を覚ました途端にビーバーさんはガバッと起きて凄く慌ててる。あ、繋いでた手にも気付いて離しちゃった。そんなに慌てなくても私は特に気にしてないんだけど……いや、気にしてるのはビーバーさんみたいだね。


「え、えっと、これはッスね? 別に夜目が覚めて心細くなったから身を寄せたとかじゃなくてッスね……!」

「あの、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ? 私も夜は少し……大分、かな? 怖いと思っちゃいますし、目が覚めたら心細いと思いますから」

「……イエイヌも、ッスか?」

「はい。ちょっと恥ずかしいですけど、ここ数日はタカさんやアムールさんに一緒に寝て貰って落ち着いてた所もあるんで、今日はビーバーさんが一緒に寝てくれて助かりました」

「そ、そうッスか? それなら……良かったッス」


 ふと視線を感じて気付いた。アムールさんが横になって頬杖突きながら満面の笑みで私達のやり取りを見てる事に。アムールさんも基本的に早起きだよね……。


「んふふー、ビーバーとイエイヌも仲良くなったようで何より何より。もぉ、イエイヌも自分で分かってるならもっとあたしに甘えていいんだぞぅ?」

「あ、アムールさん……」

「おわー! み、見てたんスかぁ!?」

「おうさ! もうバッチリと!」

「んん? もう何よ、朝から騒がしい……」


 あ、今のでタカさんもバイクさんも起きたみたい。というかバイクさんも寝てたんだ……というかまず眠るんだ。とすると、夜行性のセルリアンが居る可能性もあるけど、意外と夜はセルリアンの動きも減るのかもなぁ……。覚えておいて損は無いかな。

 で、また私達の傍にジャパリまんが置いてある……詰所の時から少し感じてたんだけど、これってもしかして……。

 そう思って周囲を見回してみたけど、辺りは平野。ラッキービーストさんが居れば間違いなく見える。けど、その姿は無い。……ずっと私にジャパリまんを持ってきてくれたラッキービーストさんが、今も傍に居てくれてるんじゃないかって思ったんだけどな。


 ――――僕ハイエイヌヲ守ル。ケド、君ガ僕ヲ探ス必要ハ無イ。時ガ来レバ、僕ハ約束ヲ果タスカラ……。


「ん? どしたのイエイヌ? なんか探してる?」

「いえ……なんでもないです」

「このジャパリまん……食べても良いんスか!?」

「何故か私達が野宿してると誰かが置いていってくれてるみたいなのよね……アムールトラ、本当はあんたが夜中に何処かから探してきてるとか?」

「だったらちょっとはカッコ良いかもだけど、生憎あたしじゃないんだなーこれが。ま、あたし達を助けてくれる誰かが居るって事なんじゃん? 有難く頂いとこーよ」


 そう言ってアムールさんは先にジャパリまんの一つを手に取って口に運んだ。するとそれを見てたビーバーさんも釣られるように食べ始める。警戒しなくていいって事を先に見せてくれてるんだよね。それにあの口ぶり……アムールさん、何か知ってる?

 そう疑問に思ってるのに気付かれたのかどうか分からないけど、アムールさんは静かに微笑みながら、きっと何時か分かるって言ってくれた。何時か、か……もし私の予想通りだったなら、すぐにでもお礼を言いたいんだけど、こっそりジャパリまんを置いて行くって事は会ったら不味い理由があるのかもだし、焦ってもいけないよね。


「美味しかったッスー!」

「うん、ご馳走様」

「私もご馳走様でした」

「ご馳走様っと」

「……食べ始める時にも何か言ってたけど、何スかそれ?」


 タカさんが頂きますとご馳走様についてビーバーさんに教えてる。こうやって段々食前食後の挨拶が広まっていくのは……良い事だって事にしておこうか。

 っと、私達だけ済ませるのもバイクさんに悪いから、いつものようにバイクさんに腰掛ける。どういう事か分かったのか、今日初の脱力感が来ました。緩やかにだから大丈夫大丈夫。


「イエイヌちゃん、本当に真面目ねぇ……」

「ま、そうやってイエイヌが真面目に約束を守ってるからバイクも大人しくしてるのかもだけどねー」

「今日もお世話になるんですし、これくらいやらなきゃって思いますから」

「サンドスターを吸われるって、これくらいの一言で済ませて良い事なのかあたしはまだ疑問ッス……」


 タカさんは同意するように頷いて、アムールさんは苦笑いしてる。ま、まぁ? サンドスターはポーチの結晶を使わなくても自然と回復する物でもあるから平気平気……だといいなぁ。

 ともかく朝ご飯も食べたし、今日はちゃんとセキュリティターミナルに着きたいから地図だけ確認しなきゃだね。それに、ビーバーさんがどうするかも確認したいし。


「さてさて、目的の……えれべーた、だっけ? そこまではあとどんくらいさ?」

「えっと……バイクさんの進む速さなら、お昼前には着けそうですね」

「歩くよりは全然速いものねぇ。ちょっと悔しいけど」

「……そう、ッスよね。三匹とも、やりたい事があるし、行くところもあるんスよね」


 んー……ビーバーさんのこの反応は、一緒に群れの仲間を探してくれるかもって期待してたって事だよね。残念だけど、私達にもピンポイントで特定のフレンズさんを探すような力は無い。けど、コードホルダーさんが私が思ってる通りのラッキービーストさんなら、可能性はあるんだ。それに、ここでサヨナラなんて……寂しいもんね。


「……ビーバーさん、もしよければですけど……一緒に行きませんか?」

「え? あたしもイエイヌ達が行こうとしてるとこにッスか? ……残念ッスけど、ダメッスよ。あたしは逸れちゃったハンターの仲間を捜さないと」

「んー聞き難いんだけどさビーバー? 捜す当ては?」

「そ、それは……うぅ……」

「ま、三日も彷徨う事になったんならある訳無いわよね……」

「うぅぅ……ぐすっ……」

「あぁぁ、泣かないで下さい。私が一緒に行かないかって提案したのも、上手くすれば捜し回るよりも見つけられる可能性があるからなんですよ」

「んぇ? イエイヌどういう事?」


 今から向かうセキュリティターミナルにはプロフェッサーさんと同じコードホルダーさんが居る。そして、コードホルダーさんには他のラッキービーストさんに指示を出せる権限もあるみたいだから、力を借りられればそのままラッキービーストさん達がビーバーさんの仲間を捜してくれるようなもの。私達四匹で捜すよりもずっと見つけられる可能性は上がると思う。


「なるほど……ラッキービーストがどのくらい居るのかは分からないけど、確かにその方が見つけられるかもしれないわね」

「はい。って事なんですけど……ビーバーさん、どうですか?」

「うぇ、あ、えっと……仲間の皆を捜すの、手伝ってくれるんスか?」

「ま、倒れてるのは助けて困ってるのは助けないじゃ後味悪いっしょ。面倒見るなら最後までってね」


 アムールさんの言葉に私もタカさんも頷く。また潤んできていた目を拭って、ビーバーさんはお世話になりますって言ってくれた。うん、良かった。……これでコードホルダーさんの協力が得られなかったら一大事だけどね……そこはこう、なんとか頑張ってお願いしよう。

 それじゃ、ビーバーさんも一緒に行く事に決まったし出発しよう! ってなったんだけど、どうもバイクさんが大きくなれるのは三匹で座れる大きさくらいまでみたい。今私達は四匹……まぁ、ビーバーさんがバイクさんに腰掛けるのにまだ抵抗があるから、アムールさんが抱っこして乗るって事になったから大丈夫だったけどね。もしビーバーさんの仲間が見つかった時は、移動手段を考えないとだね……最悪、交代でバイクさんに乗るみたいな方法も考えておこうか。

 さて、皆は腰掛けてくれたし、私は跨って乗らせてもらおう。昨日の腰を捻ってハンドルを掴むの辛かったしね。まぁ、乗り方が変わるだけでアクセルとかブレーキとかの操作は無いから、乗ってるだけって事に変わりはないんだけど。せめてやって重心移動で曲がり易くするくらいかな? それも腰掛けてる皆が乗ってる間はスピード出せないから要らないけど。


「そういやバイクってさ、最初もイエイヌがそうやって乗ってたけど、跨って乗るのが本当の乗り方なの?」

「そうなりますね。バイクさんじゃない、本来のバイクには走らせる為に色々しなきゃならなくて、それをするには跨ってないとならないらしいですね」

「らしいって事は、イエイヌちゃんもそこまで詳しくはないって事かしら?」

「そうなんです。一応見せて貰ったり教えてはもらったんですけど……乗った事は無いんですよね」

「皆普通に話してるッスけど、そもそもバイクって何なんスか? このセルリアンの名前なんスか?」


 いやまぁ当然の疑問だよね。そういう乗り物があるって話をしたのはアムールさんとタカさんにだけだし。分かる範囲で色々話そうか。

 こうやって座ってると、話してる皆の顔が見れないのは少し困りどころかな? けど、皆が相槌を打ってくれるから話自体は出来るよ。


「そもそものヒトって言うのがあたしには分かんないッスけど、このセルリアン……バイクッスか? これがなってるみたいな物を作ったなんて、ビックリなフレンズッスね」

「あたし達はもっと凄いの見て来たからねー、こういうのもあるんだって感じだねぇ」

「ラボで動いてたあれね……誰も何も触ってもいないのにこう、グイングイン動いてたわね」

「何ッスかそれ!? あたしも見てみたいッス! 木で作れるもんなんスかね」


 木で作る? って私が疑問を投げかけると、ビーバーさんは木を組み合わせて色々な物を作るのが得意だそうです。一番得意なのは小屋らしいけど……動物の時の巣作りの延長にある特技みたいだね。私ってそういう動物の時の延長みたいな特技……無いなぁ。強いて言えば一応鼻が良い程度? 犬としての要素、ほぼそれだけなんだよなぁ……。


「ん、どうかしたイエイヌ?」

「あ、いえ……私、ビーバーさんみたいな動物の頃からの特技って無いなーと思って」

「そうかしら? 何か探したりが得意なのは違うの?」

「それもどっちかと言うと匂いとかよりも知識頼りなところがあるんですよねぇ……」

「え、イエイヌって凄く頭の良い動物のフレンズじゃないんスか?」

「イエイヌ以上に頭の良いフレンズなんて居なさそうだし、それでいいんじゃない?」


 いい、のかなぁ? まぁ、人と一緒に暮らしてた動物って言うのが私の特徴なのかな。イエイヌって言うくらいだし。

 っと、話してる間に大分進んできたけど、方向が間違ってないかも確認しなきゃだね。……いや、その必要も無さそうかな。このぞわぞわした嫌な感じ、間違いなく低周波パルスだ。バイクさんに一旦止まってもらおう。


「うぅ? な、何スかこの感じ……イエイヌ、この先……進んじゃいけない気がするッスよ」

「うーん、二回目だけどこの感じは慣れないって言うか、これを無視して進むのってきっついわー」

「影響の少ないイエイヌちゃんが居なかったら絶対にこれ以上進もうとは思わないわよねぇ……」

「えっと、ビーバーさんの事はアムールさんにお任せします。バイクさん、なんとかアムールさんとタカさんを落ちないよう固定出来ますか?」


 そうバイクさんに頼むと、後ろのアムールさんとタカさんがビックリした声を上げた。どうやら足首の辺りと腰の辺りに体を伸ばして固定ベルトみたいにしてくれてるみたい。うん、これはいきなりやられたら驚くね。タカさんが不満そうにバイクさんをぺしぺし叩いてるけど、体に異常は無いみたいかな。それなら、一気に抜けちゃうとしようか。

 私もバイクさんのハンドルをしっかり握って、止まるよう言うまでスピードを上げて進むよう伝える。ぐんっとスピードが上がって……うわ、すぐに影響下から抜けちゃった。流石バイクさん。


「うぉぉぅ……バイクって本気出すとめっちゃ速いの忘れてたわ」

「び、ビックリしたッス……あれ? 嫌な感じがしなくなったッス!」

「ラボの時と同じね。って事は……」

「はい、この近くに目的のエレベーターがある筈です」


 ――――エレベーターヲ守ルホロプロジェクターノ解除ヲ申請スルヨ、ガード。

 ――――了解ダヨー。久シブリダネ、イレギュラー。イヤー、アノ日カラヨウヤク、ダネ。イエイヌチャンハ皆ガ託シタ通リ頑張ッテル?

 ――――頑張リ過ギテ僕ノ予想ヲ超エル結果ヲ絶賛生ミ出シ中ダヨ……トニカク、エレベーターヲコッチニ寄越シテネ。

 ――――ンー? ヨク分カンナイケド了解ダヨー。オ迎エノ用意シテオクネー。


 あ、ラボの時と同じようにホロプロジェクターが消えていく。大きな岩に見えていた物が、明らかに人工的に作られた建物に変わった。建物って言うより、四角い小屋、かな?


「な、ななな何スかこれ!? 岩が変なのに変わったッス!」

「まぁ、こんなのフレンズが見たら混乱するだろうから、あの嫌な感じとか見た目変えるので隠してる訳ね」

「これ使えばあたし達の姿を別なフレンズに見せたり出来たりするのかね?」

「うーん、出来なくはないかもですけど……そういう物ってあるのかなぁ?」


 なんて小屋の様子を見てたら音がして、目の前の扉が開いた。エレベーターって確か中で上下に昇降する部屋が動いてるんだよね……初めて乗るからちょっとドキドキだよ。

 広さはバイクさんも入れるくらい広かった。ついでにバイクさんは一人乗りの大きさまで小さくなってるから十分乗れそうだね。多分これがバイクさんの小さくなれる限界なんだろうね。

 皆で乗り込むと、扉が勝手に閉まって動き出した。多分、ここのコードホルダーさんが確認して動かしてるのかな? あ、皆部屋が揺れ始めたのに驚いて私にしがみ付いてます。凡そでも分かってる私はとりあえず平気です。


「ど、どうなってるんスか? 大丈夫なんスかこれ!?」

「う、動いてる? この部屋自体が動いてるのこれ!?」

「……いきなりでビックリして抱き着いちゃったけど、だいじょぶイエイヌ?」

「私なら平気ですよ。それにしても、こんな部屋が動いてるなんて凄いですよね」


 あ、皆からの返事の代わりにバイクさんの排気口が鳴った。そうか、バイクさんもこれは多分初めてか。心なしか、目が好奇心でキラキラしてる気がする。楽しそうで何よりかな?

 暫くそのまま乗ってると、また軽い振動がして皆がキュッと力を込めたのを感じる。何が起こってるか分からないとやっぱり怖いよね。

 扉が開くと、そこはさっきまで居た高山地方の風景じゃなくライトが照らし出す明るい廊下でした。あ、これ足元が動いてる!? これは初めて見たなぁ……動く床ってところなのかな?


「も、もうなんか色々な事が起こり過ぎて頭クラクラしてきたッス……」

「これはまた……ラボの時もビックリしっ放しだったけど、それ以上だわね……」

「おーこれすっごい! 地面が動いてるよイエイヌぅ! 乗って大丈夫これ!? あ、反対側のはこっちに向かってくるように動いてる!」

「多分乗っても大丈夫だと思います。わぁー、こんなのは私も初めてです。私、地面の下に居るんだなー」


 私の一言にビーバーさんとタカさんは凄く驚いてる。まぁ、説明は追々にしてまずはセキュリティターミナルの建物自体に向かわないとね。

 足元の動く床に乗ると、その動きに合わせて私達も運ばれていく。こんな通路、どうやって作ったのかな? 気になるなぁー。コードホルダーさんに聞いたら教えてくれるかな?


「ん? おっ、ラッキービーストだ。やっほー」


 反対側の動く床に乗ってるラッキービーストさんにアムールさんが手を振ると、体を揺らした後にいらっしゃいって言ってくれた。と言う事は、もうコードホルダーさんから私達は話し掛けていいフレンズだって事は伝えられてるって訳だね。なるほどなるほど。

 そうして動く床に身を預けてると、目の前に扉が見えて来た。あそこがセキュリティターミナルの入り口かな? あ、私達が近付くと勝手に扉が開いた。自動ドアみたいだね、これも。

 で、扉を抜けるとそこには一匹のラッキービーストさんが居た。なんだろ、体の横に何か……浮いてる? 違う、背中の方から固定具みたいな物が伸びてる。横に浮いてるのは、板かな?


「ヨーコソーセキュリティターミナルへ。ウンウン、君ガイエイヌチャンダネー。一緒ニ居ルノハ君ノ友達ー?」

「え、あ、はい。あの、あなたがひょっとして?」

「ソウソウ、僕ガコードホルダーノ、コード:ガーディアン。他ノホルダーカラハガードッテ呼バレテルヨ。ヨロシクネー」


 やっぱり。ガードさんか、覚えておこう。アムールさん達も名乗って自己紹介は終わりかな。とりあえずは一休み出来るところに案内するって言ってくれたから、ガードさんについて行こうか。


「アノ従業員用ノエレベーターモ整備シテタトハ言エ、久々ニ動カシタカラネー。大丈夫ダッタ?」

「はい。皆ちょっと驚いちゃいはしましたけど、それ以外は特には問題も無かったです」

「ソッカ―、フレンズハエレベーターナンテ乗ッタ事無イダロウシネー。ゴメンヨ、ココニ来ルニハフレンズダトアレシカ方法ガ無インダヨネー」


 フレンズだとって言う事は、ラッキービーストさんだと他にも方法があるのかな? いや、エリアの各所に行く方法みたいのは多分あるんだろうね。そうじゃないと向かうのだけで一苦労だろうし。

 案内されてセキュリティターミナルの中を進んでるんだけど、やっぱりラボとは内装が違うね。ラボはガラス張りの部屋も結構あったけど、ここは皆壁。いや、これが多分普通なんだけどね。


「トコロデ気ニナッテルンダケド……」

「はい? なんでしょう?」

「イヤソコノ、緑ノ……マサカトハ思ウケド、セルリアン?」

「あー……はい、そうなんです。なんと言うか、ひょんな事から仲良くなれちゃって」

「セ、セルリアント?」

「やっぱコードホルダー的に言ってもセルリアンと仲良くなれるのはビックリポイントな感じ?」

「正直ネー……イヤデモ君達ト一緒ニ居ルノニ暴レテナインダカラ、大丈夫……ナノカナ?」


 とりあえず私がサンドスターを分けてあげるって言う約束をして一緒に居るって事を話すと、ますます大丈夫なのかって聞かれたよ。皆を安心させる為にも、ラボに戻ったら本当にプロフェッサーさんに調べてもらっておこう……。

 さて、ガードさんに案内されて一つの部屋まで来たよ。ここは、なんだろ? 休憩室……みたいかな?


「ココハリフレッシュルームダヨー。元ハココニ詰メテタ警備員ト観測員ガ休憩スル為ノ部屋ナンダー」

「けーびいん? かんそくいん? って、何?」

「ン、ンー……イエイヌチャンハ人ノ役職ダッテ言ワレタラ分カル?」

「あ、はい。警備員はパークの各所施設の警備を仕事にしてた人達ですよね。けど、観測員って言うのはちょっと分からないです……」

「ア、ソッチハチョット難シイカラネ。トリアエズ、ココニ居タ人達ヲソウ言ウンダッテ分カッテクレタラ大丈夫ダヨー」


 なる、ほど? 観測……だから何かを調べたり測ってたりしてたって事かな? そう言えばプロフェッサーさんが、ここはパークの地下を調べる施設でもあるって言ってたっけ。パークの地下か……そう言えば地面の下なんて気にした事も無かったよ。

 あ、ドリンクバーがある。ガードさんに確認したらこれも整備したり中身を定期的に交換してるから使えるって。で、ガードさんはこれを私が使えるのかが気になるみたい。うん、これなら使い方も分かるから大丈夫。これは教わったんじゃなくて、見て知ってるんだけどね。

 折角だから皆の分も用意しようと思って、何か飲みたいかを確認。と言っても、皆はどういう飲み物かなんて分からないだろうから、私が説明出来る限りでの味の説明で選んでもらう事になるけどね。

 タカさんは紅茶に近い飲み物が良くて、ビーバーさんは果物の味。アムールさんは私に任せる、か。んーと、なんとかなるかな?


「えっと、ストレートティーにオレンジジュースと、後は……あ、ミルクココアなんてあるんだ。じゃあこれと、私は……私もココアにしよっかな」


 カップはあるのを使わせてもらって、それぞれの飲み物が注がれるのを待ってから皆に渡していく。ガードさんに飲み物はどうやって補充してるか聞いてみたら、ジャパリまんを作ってる加工所でこういう物も今は作ってるんだって。その加工所が言わばパークの台所ってところだよーって教えてもらったよ。


「へぇージャパリまんを作ってる所なんてあるんだ。……おっ! イエイヌがくれたこれ、美味しい!」

「ジャパリマンハソコラニ生エテル訳ジャナイカラネー、パークニハ元々自給自足ガ出来ルヨウ各種設備ハ作ラレテルカラ、ソコガ稼働シテイレバ食ベ物ガ無クナル心配ハ無イヨー」

「そういった施設を管理してくれてるのも、今はラッキービーストさんやコードホルダーさんなんですよね」

「ソー言ウ事。マァ、僕ハパークヲ守ル役目ヲ主ニ任サレテルホルダーダカラ、生産系ニハ疎インダケドネー」

「うーん……似てるけど、イエイヌちゃんが作ってくれた紅茶の方が美味しいわね……気になっていたのだけど、貴方達コードホルダーってどのくらい居るものなの? あなたとプロフェッサーは知ってるけど」

「僕ガ知ッテルノハ僕ヲ含メテ7体カナ。パークノ治安維持系ガ僕トモウ一機、コード:ストライカーガ居ルヨ」

「ストライカーさん、ですか?」

「呼ブナラストルッテ呼ブト喜ブヨ。役割ハパークヤフレンズニ害スルモノ、今デ言ウセルリアンノ討伐ガ主ナ仕事ダネ」


 うわ、私以外の皆が飲んでる飲み物を噴き出した。いや、私もビックリしたよ。だって、ラッキービーストさんがセルリアンと戦うって、ちょっと想像出来ないからね。


「普通ノラッキービーストジャ無理ダヨー。僕モ付ケテルケド、専用ノアタッチメントヲ装備シテナイト無理ダヨー」

「あ、あたっちめんと? って、何っスか?」

「ひょっとして、ガードさんの横のそれが?」

「ソウ、コレガ僕ノアタッチメント、シールドユニットダヨ。コンナ感ジデ閉ジテ、盾ニ出来ルンダヨー」


 言いながらガードさんの横に付いてた板が正面でくっ付いて盾になった。おぉ、凄い。


「おぉー、そんなの付いたラッキービースト初めて見たけど、そんな事出来たんだ」

「警備用ヤ迎撃用アタッチメントハ基本的ニ平常時ハ身ニ付ケナイカラネー。僕ハ目印代ワリニ付ケテルケドネ」

「へぇー。あ、これ背中にくっ付いてるのね」

「ソウソウ。接続ジョイントガ背中ニシカ無イカラネー」


 今まで皆知らなかったから興味津々で見ちゃった。追加で説明して貰ったんだけど、このアタッチメントを脱着する為には専用の設備が必要で、シールドアタッチメントはこのターミナルでしか付けれないんだって。流石セキュリティターミナル。


「マァ、ボディユニットガコノ通リダカラ、一匹デ防ゲルモノハ少ナインダケドネ」

「ラッキービーストが戦えるってだけであたしはとんでもビックリッス……イエイヌやアムール姉さん達はこういう事も調べてるッスか?」

「目的地がこういう所だから自然に教えてもらってる感じが正解かなー? って、姉さんとはなんぞや」

「あ、イエイヌはなんと言うか、友達って感じなんスけど、アムール姉さんやタカ姉さんはお姉さんって感じだと思ったからそう呼んじゃったッス! 不味かったッスか?」

「別に構わないけど……」

「ははっ、ちょーっと擽ったいかな」


 照れはあるけど嫌じゃないって感じだねアムールさん達。っと、少し話が逸れちゃったけどコードホルダーさん達が何体居るかの話に戻らせてもらおう。治安維持が2体って事だから、あと5体……体って呼ぶのなんか嫌だな。よし、人にしよう。人の代わりに色々な所で頑張ってくれてるんだもんね。


「ア、ソウダッタネ。治安維持ハ話シタカラ……生産系ダネ。コレハ3機。ファーマー、ディガー、ソシテビルダーダヨー」

「……言われてもあたし達には分からないとして、イエイヌ分かるっぽい?」

「大まかに予想で、にはなりますけど……ファーマーさんは主に食品生産を管理するホルダーさんで、ディガーさんは……鉱石なんかの採掘かな? で、それらを加工したりして物を作るのがビルダーさん。どうでしょう?」

「大正解! ウンウン、イエイヌハ賢イネ。此処ニ辿リ着ケタノニモ納得ダヨー」


 良かった、当たってた。けどそうだよね、そういうコードホルダーさんが居ないと食べ物は補充出来ないし、各所にある機械や建物の整備なんて出来ないもんね。本当にコードホルダーさん達が居てくれたから、今までパークはほぼ万全な状態で維持されてたんだなぁ……。逆に言うと、もしコードホルダーさん達が居なかったらもうボロボロになってた可能性もあるって事かな? うーん……なんで今まで見て来た建物の中で、私が居た詰所だけあんなにボロボロだったかとか、気になってる事はあるんだよね。けど、それはガードさんに聞いても分からないか……。詰所で私にジャパリまんを届けてくれたラッキービーストさんに会えれば、何か分かるかなぁ?


「イエイヌガ言ッタ通リダカラ、説明ハ省略スルネ。最後ニモウ二機、一機ハモウ会ッテルカラ分カルヨネー」

「え? あ、プロフェッサーね」

「ソウ。プロフェッサーハパークヲ維持、管理スル為ニ作ラレタ僕達トハ違ウ役割ヲ持ツコードホルダー、特殊系ニ分類サレルヨー」

「プロフェッサーさんの役割は、パーク内のフレンズやセルリアン、そしてサンドスターの研究を守り継続する、ですよね」

「ソウソウ。ダカラパーク内デ何カ起コッタ時ノ相談役モヤッテクレテルンダ。君達ガ来タノモ僕ガプロフェッサーニ報告シタ事ガ切欠デショ?」


 そうだった! 色々気になる事聞いちゃって忘れるところだったよ! 私達の目的、この高山地方で色違いセルリアンが多く見つかってる事の調査だった!

 その事をガードさんに言うと、やっぱりって言って納得してくれた。どうやらガードさんとしても悩みの種だったみたいだよ。


「正直、原因ガ分カラナインダヨー……ナントカストルニ協力シテ貰ッテ維持ハ出来テルンダケド、次々姿ノ違ウセルリアンガ出テ来テ、対応ガ後手ニ回ッテルンダヨネー」

「あたし等も会ったよね。って言うか、バイクがその内の一匹だし」


 返事としてバイクさんの排気口が鳴る。バイクさんが普通に喋れたらねぇ……事情ももっと分かったかもしれないけど、出来ない事はどうしようもないから、別方法で調べないとだよ。


「ケド、君達ガ手伝ッテクレルナラ状況ハ変ワルヨー。助カル助カル―」

「でも聞いた限りだと、ガードも原因は調べてるのよね? 私達が手伝う事なんてあるのかしら?」

「ラッキービーストガドウヤッテモ出来ナクテ、君達ナラ出来ル事ッテナーンダ?」

「ラッキービーストが出来ない? うーん……? あ、フレンズに聞くのか」

「当ッタリー。避難誘導トカハ緊急時ニ出来ルケド、調査目的デ話シ掛ケルノハドウヤッテモ出来ナイカラネー。僕ハ一応禁止事項無視デ聞コウト思エバ聞ケルケド、仲間ノ報告ヲ聞ク為ニ此処ヲ離レル訳ニモイカナイカラ困ッテタンダヨネー」


 それに、いきなりラッキービーストに話し掛けられたら、最悪フレンズさん達を混乱させちゃうからってガードさんは付け加えた。確かに、幾らコードホルダーでも見た目はラッキービーストさんだもんね。配慮は必要だって事だね。


「フレンズガ思ワヌ情報ヲ持ッテル可能性ハ低クナイカラネ、ドウカ協力シテクレナイカナ?」

「元々そのつもりで来たんだし、断る理由が無いっしょ」

「当然ね」

「……あ、あの!」

「分かってますよビーバーさん。ガードさん、協力は勿論させて下さい。で、その代わりって言うのもなんなんですけど、一つ私達からもお願いしたい事があるんです」

「オゥ? 何々? 僕ガ出来ル事ナラ何デモ手伝ウヨー」


 話が早くて助かるね。って事でこっちの事情を説明。どうやらガードさんもセルリアンハンターをやってるフレンズさんの事は知ってるみたいだよ。危ないから本当は止めてほしいみたいだけどね。


「マァソレハ置イトイテ、アメリカビーバーノ仲間ヲ捜スノノ手伝イネ。ソレクライナラオ任セアレダヨー」

「ほ、本当ッスか!」

「嘘ナンカ言ワナイヨー。見ツケタイフレンズガナンテ名前カ教エテネー」

「はいッス! 見つけて欲しいのは三匹で、サイガ、コクチョウ、そしてハイイログマさんッス!」

「フムフム……LBN接続、フレンズ名ヨリデータ検索開始……」


 データ検索? それにLBNって何? と思いながら暫く待ってると、突然ガードさんの目が光ったと思ったら傍の壁に何か映し出された。え、ラッキービーストさんプロジェクターみたいな事も出来たの!? す、凄い高性能だったんだね……知らなかった。


「アメリカビーバー……長イカラビーバーッテ呼バセテモラウケド、マズサイガハコノ姿デ大丈夫?」

「ほぇ!? あ、えっと……うぉぉ、ハイッス! 間違い無いッス!」

「ど、どーなってんのこれ?」

「ウーン、トリアエズ説明ハチョット待ッテネ? 次ハ……コクチョウハコノフレンズ? ア、タカ? 気ニナルノハ分カルケド、ソレ映像ダカラ触レナイヨ?」

「え、映像……イエイヌちゃん、ホロプロジェクターみたいな物って考えればいいのかしら?」

「それで大体は間違ってない、かな? あれとはまたちょっと違うとは思いますけど」


 って話してる間にコクチョウさんの姿もビーバーさんに確認が取れた。最後に映されたのは、なんだか強そうなフレンズさんの姿だね。


「おぉー! そうッス、ハイイログマさんッス!」

「アリガトネー。容姿ノ確認ハ出来タカラ、エリア巡回中ノラッキービーストニ捜索指示ヲ出シテオクネー。見ツカッタラ僕ニ報告ガ来ルカラ教エルヨー」

「はっへー。何をやったかは分かんないけど、なんか凄い事が起こったって言うのは何となく感じたわ」

「色々気になり過ぎて、何から聞いたらいいのか迷ってるわ……こんな悩み初めてよ」

「説明スルト長クナッチャウケド……マダ色々話シタイシ、今日ハトリアエズ此処ニ泊マッテ行ク? 部屋ノ用意トカハ出来ルヨー」


 あ、これ皆気になってるみたいだね。私も諸々確認したい事はまだあるし、今日は此処で過ごさせてもらおうか。ついでだし、ターミナルの中とか少し見て回ってみたいしね。

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