相乗り、野生、人工物

「……いや、楽だけど。これ凄く楽だけどね」

「いーじゃんタカー、まだ気にしてんの?」

「あ、アムールさんやタカさんのサンドスターは吸わないでって言ったら聞いてくれたんで、乗ってても疲れたりしない筈ですよ」

「それイエイヌちゃんに全部負担が行ってるって事じゃないの!? そもそもそこじゃない、そこじゃないの問題は! 私達が今乗ってるの、セルリアンなんだからね!?」


 バイクさん疾走の後、なんとか無事に戻って来れてアムールさん達と合流。で、大きさが変えられるなら皆で乗れるようになれませんかって頼んだらバイクさんが少し大きくなって三匹で乗れるようになってくれたんで、どうせなら乗せてもらおうって事になって移動中です。乗るって言っても跨るんじゃなくて横に腰掛けるようにだけどね。時々サンドスターの力は吸われるけど、ポーチの中のあの結晶が力をくれてるのか辛くなったりはしてないです。あれを持ってる私がやっぱりバイクさんにサンドスターをあげるのが一番良いと思うんだよね。

 行く先を指定するとバイクさんがそっちに進んでくれるから凄く助かる。あの疾走状態だと地図なんか見てる暇無いからね……。デバイスで地図を見れる今は本当に助かるよ。


「いやー、長い旅の中でもこんな移動方法をするのは初めてだわー。皆で一緒に移動出来るしいいよねー」

「こんな経験があってたまりますかって言うわよ!? なんであんたもイエイヌちゃんもそんなに寛いでるわけ!?」

「だって別に害は……イエイヌのサンドスターは吸われてるらしいけど、イエイヌが平気な程度だしさ。仮に本気で襲ってきたら倒して石割るだけだしいーじゃんかー」


 あ、今バイクさん震えた。やっぱり割られたくはないみたいだねー……。今までやっつけた青いセルリアンの様子からしてもキューブになるのはその……死んじゃうって事なんだろうね、セルリアンからしたら。幾ら放っておいたら襲われて食べられるって言っても、やり過ぎ……だったんじゃないかな?


「……イエイヌ。こうしてバイクとはなんと言うか、ちょっと分かり合えたかもしれないけど、それで他のセルリアンの石を割るのを躊躇ったりしちゃ駄目だよ。バイクも言ってたけど、セルリアンがフレンズを襲うって事に変わりは無いんだから」

「そう、ですね。ごめんなさい……」


 その代わり、バイクとは仲良くなったらいいってアムールさんは言ってくれた。フレンズ同士だって戦う事はあるんだし、仲良くなれるセルリアンが一匹くらい居たっていいから、って。聞きながら少しバイクさんを撫でると、心なしか震えが治まったような気がする。まぁ、エンジンの動きまで再現されてるから揺れるには揺れるんだけど。

 因みに今バイクさんに揺られながら目指してるのは、プロフェッサーさんが先に向かうといいって言ってたセキュリティターミナルってところです。どうもこのエリア内のあちこちの設備を警備してくれてるラッキービーストさんが、そこで整備されたり集合する場所になってるらしいけど……ラッキービーストさんってそんな事も出来たんだ。正直、ジャパリまんを配ってくれる以外の場面を見た事無いから分からないんだよね。まぁ、それも見せないように規則で決まってるんだろうけど。

 ふと隣のアムールさんを見ると、空を眺めながら少し何か考えてるみたいです。のんびり出来るとつい考え込んじゃう事ってよくあるよね。


「ん? どうかした?」

「あ、すいません。ちょっとアムールさん、考え事してるのかなーって気になっちゃって」

「あーまぁね。考えてるって言うか……思い出してる、って感じかな」


 ん? バイクさんが気持ちゆっくりになってエンジン音も穏やかになったかな? 話をしてるから気を使ってくれた、のかな。


「ほら、プロフェッサーからさ、パークの今のフレンズは皆一度セルリアンに食べられた事があるって聞いたでしょ?」

「ですね」

「それって、私もって事なのよね……本当なのかしら?」

「んまぁ本当にそうなのかはまだはっきりしてないけどさ、ちょっと思う事があったのよ」

「思う事、ですか?」

「うん。あたしが旅を始めた切っ掛け、って言うのかな? 漠然と旅をしなきゃーって思った理由にね、心当たりが出来たって言えばいいかな」


 アムールさんの旅を始めた理由か……そう言えば聞いた事無かったね。タカさんも知らないのか、気になってるみたい。


「あたし、今のこのフレンズの姿になって……いや、なる前からかな。何かを探さなきゃって感じてたんだよね」

「何かを探す……?」

「そ。でもそれが何なのか全然分からないんだよねー。だから、それの手掛かりを探す為にも旅を始めたって言うのがあったんだ。まぁ、今の今まで手掛かりなんてひとっつも見つけられて無かったんだけど」

「それがどうやって一度食べられた事に繋がって……あ、そうか、そういう事?」


 タカさんは何か分かったのか、はっとした顔をした。正直、私はまだ考えが繋がってないんだよね。何かを探してて、その理由が分からなくて、一度セルリアンに食べられて……ん? それって……。


「タカもイエイヌも分かったみたいね。そ、あたしの探し物はさ、今は居ないもう一匹のあたしの探し物なんじゃないか、って事ね」

「今は居ない、アムールさん……」

「……思い出ってさ、誰かが歩いて来た道そのものなんだよね。それがあるから今の自分が居るんだし、それが無くなれば……居なくなったも同じだよなーって思ってね」


 ……セルリアンに食べられても、思い出だけを食べられて動物としての姿に戻るだけで命までは取られない。確かにそうは聞いた。でも、聞いてから私の中でもずっと引っ掛かってた事があるんだ。思い出を食べられて無くなった動物は、生きていたとしても今までの動物やフレンズさんと同じなのか、って。


「思い出を無くしても、新しくまた積み重ねる事は出来る。けど、いざ無くした事があるって分かるとさ……無くす前のあたしはどう考えて、何を思ってたのかな、ってさ。どうしても気になっちゃって」

「思い出を無くす前の自分、ですか……」


 少し考えて、怖くなった。もし、私が思い出を無くしたらどうなるのか。今皆と一緒に居る楽しさも、飼育員さん達を思う寂しさも、何もかもが無くなってしまったとしたら……。忘れてしまった自分はそれから先を生きていくんだと思う。けど、今それを感じてる私は、どうなってしまうんだろう。消えてしまう、のかな……。


「……全く、因果な事してくれるもんね、あんた達セルリアンは」


 そう言ってタカさんがぺちっとバイクさんを叩くと、バイクさんの排気口が申し訳無さそうに音を立てる。って事は、バイクさんにも思う所があった、って事なのかな。


「……ま、ちょっと湿っぽい空気になっちゃったけどさ。この探し物の答えも昔の自分からの挑戦だと思えば、挑んでみても面白いかと思ったのよ」

「昔の自分からの挑戦?」

「そ。大事な事なんだから他の事忘れても見つけてみせろ、ってな所かな。ぼんやりとでも残させる辺り、相当大事な事だったろうしね」

「あんたは昔からそんなに挑戦的なの……まぁ、何も覚えてない私よりはマシなのかもしれないけどね」


 ……やっぱりアムールさんて凄いな。くよくよ考えたりしないで、前を向こうとする。前に進もうとする。私も、そんな風になれるかなぁ……。

 っと? 急にバイクさんが止まった。どうしたんだろ? って、あれは、別のセルリアン!? 今度は赤くて丸い……風船? みたいな形のセルリアンだ。

 うわ! バイクさんが居るのにいきなり突っ込んできた!? バイクさんはスピードを上げてそれを避けてくれた。仲間、とかじゃないのかな?


「っとと、バイクが居るのも関係無しって、ちょーっと薄情なんじゃないの? バイク、あんたあいつになんか言ったり出来ないわけ?」


 うーん……なんか駄目そうかな? バイクさんと風船セルリアンの目は合うんだけど、すぐに風船セルリアンはバイクさんの背中の私達の方を見る。なんか、セルリアン同士って仲が良いとか悪いとかって無さそう、かな?


「これはやるしかないわね……バイク! 仲間がやられるの見たくなかったら目でも瞑ってなさい!」


 私も降りると、バイクさんは邪魔にならないようになのか、少し遠くに移動してくれた。目は、閉じないみたいだね。

 うわっと、いきなり風船セルリアンの下の紐みたいなところが私目掛けて振り回された!? 鉄パイプで防げるけど、鞭みたいにしなってる……受けたら絶対痛い奴だよあれ。


「イエイヌ大丈夫!?」

「はい、なんとか! あの細いところ、結構勢いあるんで気を付けて下さい!」

「あれに捕まりたくは、ないわね!」


 タカさんは飛び回ってあの……紐鞭とでも呼ぼうか。あれを避けてる。一本だけなのが救いかな、誰かが引き付けてれば後の二匹で石の位置は確認出来る。んだけど……。


「ぐるっと回ってみたけど見当たらない、となると……」

「あの頭の上っぽいね……飛べるタカに仕留めてもらうしかないか! おーいタカー! そいつの頭の上、見えるー!?」

「ちょっと、待ちなさいって! こいつ、私が上昇しようとすると邪魔してくる、のよ!」


 って事は決まりかな。弱点を隠そうとしてると見て間違いないでしょ。となると、何とかタカさんを援護しないと。

 とりあえず落ちてる石を拾ったけど、相手の石は見えないから投げて狙えない。なら、狙うとしたら……あの目だ!


「そー、っれ!」


 うわ、私が目を狙って石を投げたのに気付いて、体を回した!? 目じゃないところに当たった石は回転で弾かれる。石投げは本当に効果がありそうな所に当てないと意味無いなぁ……。


「ほほぅ、なるほど。前も見たけど、届かなかったり遠くから何かしたいならそこらの石を拾って投げれば良い。名案だよイエイヌ」

「アムールさ……うわ!?」


 て、手の平にすっぽりな大きさの石を軽く手の上で弾ませながらアムールさんはニヤッと笑ってる。あれは、受けたら大変な事になりそう……。


「あ、アムールさん、タカさんに当てないで下さいね?」

「わーかってるって! って事でタカ―! 援護するから当たんないでよー!」

「援護って、きゃあ!? ち、ちょっとアムールトラ! 真っ直ぐ投げなさい真っ直ぐ!」

「ん、投げるって結構大変だな。どーっ……しょい!」


 う、うん、投げる動作って引っ掻いたりとかとは力の入れ方とか違うからね。大事なのは肩だって聞いた事あるし。なんとなくぎこちないアムールさんの投げた石は、風船セルリアンを捉えそうで捉えない。タカさんは流れ石をきっちり避けてるから大丈夫かな。

 どうやら不味いと思ったのか、風船セルリアンもアムールさんの投げる石を避けるのに集中してるみたい。なら私はタカさんにジェスチャーで上に行くように示す。バイクさんのお陰でセルリアンにも私達の言ってる事は分かってるみたいだって知ってるもんね。

 アムールさんが手頃な石を投げ終わると、今度はこっちの番だって感じでセルリアンが紐をアムールさんに伸ばして、振り回す。でも流石アムールさんだね。きっちり避けて、逆に捕まえちゃった。こうなれば、あと一手。


「タカさーん!」

「ビシッと決めなよ!」

「分かってる、わよ!」


 タカさんは野生開放してセルリアンの頭に突撃。野生開放を使うって事は見えないけど石、結構大きかったのかな? ちゃんと割れるといいんだけど……。

 なんて私の心配は杞憂に終わった。セルリアンはビクッと震えて……砕ける。うん、なんとかなって良かった。


「ふぅ、手古摺らせないで貰いたいものね」

「お疲れー」

「……アムールトラ、とりあえずイエイヌちゃんに石の投げ方教わりなさい。いずれ撃ち落とされるわ、私が」

「な、なんですと!?」


 うん、私も見てたけど……結構ヒヤッとするのあったからね。今度少し教えてあげよう。っと、折角色違いのキューブを拾えるんだから拾っておかないと。

 ん? バイクさんも終わったからか近付いてきた。と思ったらそのまま転がった赤いキューブに近付いていく……ん!? バイクさんのタイヤがキューブに触れたと思ったら、緑色になってくっ付いた!? そのまま馴染むように元通りになっちゃった……。


「ば、バイク? あんた今何やったの?」

「ひょっとして、今のがセルリアンの情報の継承……?」


 倒されたセルリアンのキューブにはそのセルリアンの食べた情報が詰まってて、それを他のセルリアンに残そうとしてる。確かプロフェッサーさんはそういう仮説を立ててたけど、これは間違い無いって見た方がいいのかな?

 とりあえず大丈夫なのかバイクさんに尋ねると、元気に排気口が音を立てた。大丈夫、みたいだね。


「なんと言うか……セルリアンなんてまじまじと見た事無かったから気にしなかったけど、こうして見てると不思議なものね」

「いつもは見掛けたり襲われたりしたらすぐに石探してドーンだったからね。なるほど、セルリアン倒した後の石が無くなるのってこういう事だったのか」

「多分中にはラッキービーストさんが片付けたのもあるとは思いますけど……凄いですね」


 私達に見つめられるバイクさんは、何処か不思議そうにこっちを見てる。……最初は襲われた筈なのに、こうして落ち着いてお互いを見合うような事が出来るなんて、ちょっと変な感じかな。

 ま、もうしばらくは連れて行ってみますかってアムールさんが言って、またバイクさんに乗った。タカさんも半ば諦めたような感じだけど、バイクさんに乗る。バイクさんはバイクさんで、私が乗るのを待ってくれてるみたい。いや、約束を持ち掛けたのは私だけど、バイクさん予想以上に色々聞いてくれてちょっとビックリ。セルリアンが皆バイクさんみたいに話を聞いてくれるならいいんだけど……ほんのちょっと前にそんなに甘くないって現実を突き付けられたばかりだもんね、仲良く出来そうなバイクさんとは、せめて襲い襲われの関係に戻らないように頑張ろう。

 うっ、ん。バイクさんに腰掛けると早速脱力感が……サンドスターを分けてあげるって約束だもんね。すぐに調子は戻るけど、サンドスターが体から抜けるって負担もあるものなんだって教訓にしよう。

 そこでふと思う。アムールさんもタカさんも、野生開放した後ってこんな感じなのかな……。聞いてみたら教えてくれるかな?


「……タカさん、アムールさん。ちょっとだけ聞いてもいいですか?」

「ん? どしたの?」

「野生開放って、するとやっぱり疲れるものなんですか? 確かサンドスターの力を多く使うんですよね?」

「野生開放ね。普通に走り回るよりは疲れるかなー? けど使ってる間は逆に体にこう、グアー! って力入るからあんまり気にならないかな」

「そうね、私もアムールトラと似たようなものかしら。一度危なかったのは、野生開放したまま戦い続けなきゃならなくなった時、かしら」

「野生開放したまま、ですか?」

「あー、確かにそれはヤバい。セルリアンに囲まれた時とかでしょ? あたしもやらかした事あるわ。セルリアンと戦ってて、一匹に止めと思って野生開放使ったら後から出て来たーっての。下手に解いて動きを鈍らせたらやられるかもしれないから解けないし、そのまま続ける事になるんよねー」


 タカさんもうんうんって頷いてる。けど、それがどうして不味いんだろ? 聞いてみると、二匹とも首を傾げて唸ってる。不味いのは分かるけど漠然としてるって感じかな?


「感覚で言えば、今のフレンズの状態から動物の時に近付いて行くって感じかしらね。セルリアンを倒すって思ってた筈が、獲物を狩るんだって気持ちにすり替わってたりね」

「そうそう。襲われたから迎え撃とうとした筈なのに、襲い掛かろうとして襲ってる感覚になってくって言うの? 倒したら仕留めた、あたしの方が強いんだーって妙に興奮したりとか。あたしもそれで不味いと思って無理矢理野生開放を解いたりってのはあるわ」

「……感覚が動物の時に戻っていく、って事なんでしょうか」

「えぇ、多分そういう事なんでしょうね。……うっ、思い出すとちょっと恥ずかしい思い出が……」

「あぁ、そう言えば前にタカが無茶し過ぎて、危うく戻れなくなりそうになった事あったっけ。あん時は鳴きながらあたしにまで襲い掛かってきたし、押さえつけて気絶させて戻したんだっけ」


 あ、タカさんが恥ずかしそうにしてる。野生開放にそんなリスクがあったんだ……野生を開放する、だからかな? 理性が失われて野生、本能に忠実な状態になるって事? 実際なってるのを見てる訳じゃないからなんとも言い切れないけど……アムールさん達がそうなったら私じゃ止められる気がしないなぁ……。

 それから二匹の間では、野生開放は強敵とか厄介な相手に、止めとして使う事を徹底。もし無茶をしたら気絶させてでも相手を急いで治すっていう約束がされたんだって。まぁ、その約束がされてからそんな事になった事は無いし、暫くして別れる事にはなったんだけどって付け足されました。


「あの約束、また結び直しね」

「だーねぇ。イエイヌも、もしあたし達がおかしくなったらガツンとやって戻してよー?」

「も、戻せる気がしないですけど……頑張ります」

「とは言え、私もアムールトラもその辺りの見極めは出来るようになってるつもりだし、あまり気負わなくて大丈夫よ、イエイヌちゃん」


 そうである事を本気でお願いします……ただでさえ強いタカさんやアムールさんの野生開放を止めるなんて、私じゃ命が幾つあっても足りないよ。


「でもさ、そう考えるとイエイヌが野生開放出来ないのって、する必要が無いからだったりしてね」

「する必要が無い、ですか?」

「イエイヌって頭が良いから考えて色々出来るでしょ? ほら、さっきの変なセルリアンの時もそこらの石を投げてタカを手伝ったりさ」

「あー、力任せに解決する必要が無いから、危険もある野生開放をする必要が無いって事ね」

「そうそう! 使わないでいいなら、それが多分一番良いしね」


 う、うーん、私としてはもっとちゃんとアムールさん達の力になりたいから、寧ろしたいんだけどなぁ……。出来たところで、って思うところはとりあえず置いておくとして。

 あ、アムールさんの変なセルリアンの一言で思い出した。あのセルリアン、形状が変わってたよね。あれについての二匹の意見も聞いておこうか。


「アムールさんが言ったので思い出したんですけど……さっきのセルリアン、変わった形でしたよね」

「確かに。あんな形のセルリアン、初めて会ったわ」

「それを言ったらバイクもだけどね。イエイヌ、すぐにバイクって呼んでたけど知ってたの?」

「あ、はい。バイクさんは人が作った乗り物の一つの、そのままバイクって名前の乗り物にそっくりなんです」

「へー……って事は、何かフレンズを食べてそうなったって訳じゃないって事かしら」


 そうなるんだよね……一体、バイクさんは何処でバイクの見た目の情報を食べたんだろ? いや、見た目だけじゃないね。エンジンなんかの仕組みも精巧に写し取ってるんだから凄く詳しいバイクの情報を取り込んでるんだよね。このジャパリパークで、一体どうやって……。

 バイクさんに聞く事が出来ればそれが一番なんだろうけど、バイクさん喋れないしなぁ。排気口を鳴らして返事はしてくれるけど。まぁ、排気なんて出してないからもうバイクさんにとっての返事をする為の口って認識なのかもしれないけどね。

 それにあの赤いセルリアンがなっていた風船も、人が作った物だった。クラゲならもっと触手の数が多いだろうし、あんなに綺麗に丸いままじゃない。風船の情報、か……。


「おぉ、イエイヌが真剣に考えてる顔だ」

「茶化すんじゃないわよ……イエイヌちゃん、何か気になるのね」

「……まだ、なんとも言えません。ですけど、ひょっとしたら……この高山地方で起こっている事は、思っているより大変な事、なのかもしれません」


 風船もバイクも、情報が無いとは言い切れない物なんだよね。風船はパークの子供のお客さんに配ってるのを見た事があるし、バイクも確かパーク内の移動に従業員が使う乗り物の中にあった。だから、それらを情報源にした可能性はあると思う。どうやって? って疑問はあるけど……セルリアンについては分からない事が多い。ひょっとしたら情報を取り入れる方法は食べるだけじゃないのかもしれない。バイクさんがキューブを取り込んだ時の様子から、私は何となくそう考えてる。

 セルリアンが動物じゃない物から情報を取り込めるとしたら……とても、とても危険な形状変化を起こしてるセルリアンも居るかもしれない。出来ればそんな事にはなってないといいんだけど……まだ、分からない事が多過ぎる。一つずつ、それこそ私も、私達も情報を集めないと。

 だから、まずはセキュリティターミナルへ着かないとだね。デバイスの地図を見て、バイクさんに方向を修正してもらいながら進んでいく。まず最優先はこの地方に居るコードホルダー、ガーディアンさんに会う事だ。

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