けものフレンズ True Explorer ~高山地方に眠るモノ~

フタキバ

環境、遭遇、疾走

 歩きながらプロフェッサーさんに貰ったサポートデバイスの機能を確かめる。自分で触ってあれこれ選べる分、パソコンよりは使い易いかな。今選べるのは通信、マップの二つ。通信は多分プロフェッサーさんとだろうから、用も無いのに使うのは控えよう。マップはどうやらこのデバイスがあるところを中心にしてその辺りの詳細が見れるみたい。パークの全体図を見るには今まで通り地図が必要だから、丸々交換とはいかないけどね。


「熱心に見てるけど、使い方は分かりそう?」

「あ、はい。今のところは大丈夫そうです」

「指で押したり色々してるけど、それでなんか出来るんだ」

「はい。ゆっくり出来る時に教えますね」


 通信はアムールさんやタカさんとも出来るようにしておいた方がいいだろうし、ラボに戻るまでにはある程度使える程度まで分かってもらえると思う。多分プロフェッサーさんもそれを見越して色々な機能は入れなかったんじゃないかな。画面の空白を考えても、まだまだ色々なアイコンを入れられそうだし。

 でも、そうなるとタカさん用のポーチみたいな入れ物が欲しいよね……高山地方にもサービススペースはあるだろうし、立ち寄った時に探してみようか。

 っと、見ながら歩いてきたら地方を区切るゲートが見えて来た。本来ならここも低周波パルスを壁みたいに張ってるから通れない、と言うか通りたくないようにされてる筈なんだけど……あのぞわぞわは感じない。ゲートの発生器は壊れてるか停止してるって考えた方が良さそうかな。


「イエイヌー、こっから先がこうざんチホーだよ。まぁ、しばらくは山じゃなくて平地だけど」

「はい。……初めてゲートを超えるけど、やっぱり植物が一気に減るのに違和感ありますね」

「本当よね。なんでこんな風になってるのかしら?」

「確か、これもサンドスターがこういう風になるように影響してる、らしいですけど……あんまり分かってないみたいです」


 確か、このジャパリパークになってる島が海底火山の噴火で隆起した後、表面がそれぞれ違う環境になっていったから急遽目安としてゲートが引かれたんだよね。まぁ、その後動物を放すのに丁度良かったからそのままゲートは地方を隔てる壁の役割をするようになったらしいけど。

 元々ジャパリパークの動物は、各地方の環境が本当に類似する他の場所の環境として機能出来るのかを調べる為にそれぞれ集められて連れて来られた動物なんだよね。それで上手く適応出来るなら動物を保護、繁殖させる広大な土地として利用するつもりだったとか、ジャパリパークの始まりはそうだったって聞いたよ。まぁ、予想外のフレンズ化って言う現象が起きちゃって計画は変わっちゃったみたいだけど。

 サンドスターは、各エリアの中央にある火山……って言えるのか分からないけど、時々サンドスターを噴火みたいに噴き出す山からパーク中に散らばるんだったかな。パークのエリアはその山を中心として環境の変換位置ごとに区切られてるそうな。サンドスターを噴き出す山、どうやら複数あるみたいなんだよね。

 その中でも私達が居るこのエリアはアンインエリア。あまり環境の偏りも無く色々な環境が生まれたエリアらしくて、各種研究に適してるからそういう建物も多く作られた所、らしい。多分ラボもその一つなんだろうな。


「あ、イエイヌ危な……」

「へ? ふぎゃ!?」

「あらら、考え事しながら歩くのはいいけど、前は気を付けなきゃ駄目よ?」


 ご、ご尤もです……足元にあった大きな石に躓いちゃったみたいだ。何処も擦り剥いたりはしてないけど、痛い……。

 確か高山地方は名前の通り高山、高い山みたいな環境になってるし実際高い山もある地方なんだよね。飼育員さんが何かで呼ばれて行った時、お土産話として話してたのは……すげーよアルプスだよハイジだよ! って嬉しそうに言ってたっけ。私にはよく分からなかったんだけどね。

 木は少なくなって、草もあまり背の高い草は生えない。平地でも大きな石が露出してたりするし、やっぱり温暖地方とは全然違うんだなぁ。

 鉄パイプを杖代わりにして、立つ。毛皮に付いた砂とかを払えば、大丈夫そうかな。


「こっちはおんだんチホーより足元悪いからねー。来た事無いんなら気を付けなきゃだよ?」

「わぅ……分かりました」

「まぁ、イエイヌちゃんはおんだんチホーから出た事無かったんだから、これから色々知ればいいだけだしね。何か分からない事があれば遠慮無く聞いてね」

「ありがとうございます。あ、そうだ。聞いておきたいんですけど、タカさんが見に行こうとしてた珍しい物って何処にあるんですか?」

「確か、こうざんチホーで一番高い山の上の方だって聞いたわね。飛べるフレンズじゃないとちょっと辛いかも、かしら」


 となると、そこを調べる時はロープウェイを確認した方がいいかな。サービススペースがラッキービーストさん達に整備されてたんだから、そういう施設は同じく整備されてる可能性が高いと思うし、確認しておいて損は無いかな。まぁ、実物は見た事無いんだけど……。


「……おっとぉ? タカ、イエイヌ、ちょいストップ」

「え、どうし……!」


 隠れる場所が近くに無いから、迎え撃つ形を取る。私達が足を進めてる先、そっちからあまり会いたくなかったモノがこっちに向かってきてる。あの黒い一つ目……セルリアンだ。

 けど、色が違う。緑色のセルリアンなんて初めて見た。大きさは、私達の胸の辺りくらいまでの高さかな。けど、あの姿って……。


「自転車……? 違う、あれは!」

「結構足速いじゃん! イエイヌ、気を付けて!」


 タイヤ二つで地上を走る乗り物、バイク!? な、なんでセルリアンがバイクの、人の作った乗り物の姿に!? って、今はビックリしてる場合じゃない、しっかり見て避けないと!

 左右に跳んだ私とアムールさん、そして上に飛んだタカさん。皆とりあえず避ける事は出来た。石は……駄目だ、私は見えなかった。


「アムールさん、タカさん! 石、見えました!?」

「あたしは見えなかった! タカは!」

「上から見たけど見当たらなかったわ! となると……」


 私達全員から死角になるのは、下だ。なんとか石を確認、割る為にはあのセルリアンを横に倒す必要がある。見た所、あのセルリアンは少なくとも私が知ってるバイクと同じ姿だった。横から強い衝撃を与えれば、無力化出来ると思うんだけど……。


「どぉっふぅ! 避けられなくはないけど、速くて面倒な奴だなぁ」

「当たったらちょっと痛いじゃ済まないですよぉ! ひゃあ!?」


 アムールさんは結構余裕で避けれてるけど、正直私は横を通られる度にヒヤヒヤだよぉ! けど、小回りは効かないみたいで助かった。直線の加速が速過ぎて、曲がる時に制御出来てないみたいかな? セルリアン自身が、自分の速さを制御出来てない? ……ひょっとして、情報を元に体を変えたけど、その制御の仕方を理解出来てないって事かな?

 って分析してる内に私の方に来た! 突進しかして来ないから横に避ければいいだけなんだけど、そこからどうやって横に倒そうか……。


「ふわぁぁ! ……あ?」

「あ、あれ? なんか勢い付け過ぎて自分で転んだ?」

「みたい……ですね」


 倒れたセルリアンが凄い音を出してタイヤを回してるけど、起き上がる事は出来ないみたい、かな? これは完全にバイクに成りきっちゃってるって事、なのかなぁ……?


「えーっと……どうする? これ」

「う、うーん……」

「いやいや、相手が動けないんだから早く仕留めなさいって。上からなんとか仕留められないか隙を探ってた私が馬鹿みたいじゃない」


 あ、タカさんも降りて来たんだ。いや、脅威が脅威じゃなくなったんだから飛んでなくてもいいよね。確かタカさん、飛んでる間は少しずつだけどサンドスターを使っちゃうみたいだし。

 で、目の前で倒れてるセルリアンに視線を落とすんだけど……虚しくタイヤを回してるのがなんと言うか、凄く可哀そうなんだけど……あ、石は体の下側に見つけたよ。これを割ればこのセルリアンはキューブになる。なるんだけど、いいのかなぁ?

 なんだか見てたら目も潤んでるように見えて来ちゃったなぁ……うぅ、石を割るのに罪悪感が……な、なんとか話とか、出来ないかなぁ?


「あ、あの……セルリアン、さん?」

「って、ちょっと、イエイヌちゃん?!」

「うぇ!? 話し掛けるの!? セルリアンに!?」

「い、いや、こんなチャンスもうある気がしないんで、試してみようかなーって」


 自分でもどうかと思うけど、これもセルリアンってどんなモノなのか知るチャンスなんじゃないかって思ったの。倒すだけがセルリアンについて解き明かすって事じゃないと思うし。

 で、話し掛けたセルリアンさんはタイヤの動きが止まって、目はこっちを見てるみたい。声、聞こえてるのかな?


「えっと、私の声って、聞こえてますか? 聞こえてるなら……うんと、タイヤを一回だけ回してみて貰えますか?」


 そう話し掛けてみると、予想外に素直にブルンとタイヤが回った。う、嘘ぉ……。


「……え、えぇ!? イエイヌちゃんの言った通りにした!?」

「ど、どうなってんの!? セルリアンってこっちの言ってる事分かるの!?」

「そー……みたいですね。いや、少なくともこのセルリアンさんは、ですけど」


 正直、今まで会った青いセルリアンは怖くて話し掛けようなんて思わなかったけど、この緑のバイクのセルリアンさんからはそんな嫌な感じがしなかったんだよね。私が変なのかもしれないけど。

 とりあえず、ハイとイイエくらいなら答えられそうかなと思って、ハイならタイヤを一回回して、イイエなら少しの間回しててくれますかって聞いてみたら、またタイヤがブルンと一回回った。これは、完璧に聞こえてるね。タカさんとアムールさんはビックリした顔のまま固まってるよ。

 さて、話を聞けるようにはしたけど、どうしよう? 何を聞けばいいのかな? とりあえず……私達を襲った理由とか?


「それじゃあ、まずは石を割ったりしないんで、私の質問に答えてくれますか?」


 答えは、ハイ。よし、なら聞いてみよう。


「あなたは、私達を食べようと思って向かってきたんですか?」


 しばらく止まった後、なんだか元気無くタイヤが一回回る。まぁ、この状態で食べる為なんて答えたら割られるだろうと思うだろうから、答え難いだろうね。けど答えてくれたって事は、正直なセルリアンさん、なのかな?


「ほ、ほら! やっぱり私達を食べようとしたんじゃない! 早く割って……」

「ちょいちょいタカ、落ち着きなって。それを馬鹿正直に答えたんだし、もうちょっとイエイヌにやらせたげなって。なんかちょっと私も気になり始めたし」


 タカさんは不満そうだけど、私ももう少しお願いしますって言うと渋々納得してくれたみたい。なら、もう少し聞かせてもらおうか。


「ならえっと、それはあなたが食べたいからですか?」


 あれ、この質問にはイイエが返ってきた。別に私達を食べたい訳じゃないって事なのかな? どういう事かって聞きたいけど、それじゃあ答えられないもんなぁバイクさん。……なんかセルリアンさんって言うとしっくり来ないし、バイクさんって呼ぼうかな。

 私達を食べたい訳じゃないけど食べる為に襲ってきた……なんと言うか、矛盾してるよね? どういう事なんだろう?


「食べようとしたのに食べたくないって……どういう事さ? しなきゃいけないからしたって事?」


 あ、バイクさんのタイヤが動いた。アムールさんの言ってる事も分かってるんだね。で、一回だけ回ったからハイ。つまりしなきゃいけないからしたって事なんだ。私達を、というかこの場合フレンズを、かな? 食べる事がしなきゃいけない事、か。


「バイクさん、それってセルリアン皆がそうなんですか?」

「あ、回ったわね。一回だから、ハイって事よね。つまり、セルリアンはフレンズを襲わなきゃいけない物って事?」

「なんでさ? フレンズを襲わないと消えるとか?」


 あ、イイエみたい。フレンズを襲わなくても別にセルリアンは消えたりって事はしないんだ……食べるって言うところから、てっきりサンドスターか思い出がセルリアンの栄養源みたいな物なのかなーと思ってたんだけどな? そうじゃないなら一体何故……?


「んあー! わっかんない! ならえっと、バイクだっけ!? あんたは何がしたいのさ!」

「え、あ、アムールさん?」

「正直あたし難しい話は無理! 考えるのはタカとイエイヌに任した! で、どうなのバイク! ってイエイヌが呼んでたからそう呼ぶけど、あんた別にあたし達を食べたい訳じゃないんでしょ!? だったらあんたは何がしたいのよ!」


 いや、その質問にバイクさんは答えられない……って言おうとしたらバイクさんのタイヤが凄く回ってる!? 凄くイイエって事!? ……いや、違う。これって、もしかして?


「バイクさん、それって……走りたい、って事ですか?」

「いやまさかそんな……ってあんたも答えるの!? 走りたいの!?」


 バイクさんのタイヤが回ったの、一回だからそういう事だよね。ひょっとして、バイクの姿になった影響、とか? ……これ、もしかしたら質問と対応次第で倒すより上手くいく方法があるかも。


「……ねぇ、バイクさん。走りたいのと私達を食べたいの、今はどっちの方が強いですか?」

「イエイヌちゃん……?」

「私達を食べる事なら一回、走りたいなら……思い切りタイヤを回して下さい!」


 わぁ! バイクさんのタイヤが思い切り回った! これなら、上手くいきそう!


「う、嘘でしょ!? バイク、あんたそれでいいの!?」

「あっはっはっは! イエイヌがあんまり親身に話すからバイクが心変わりしたとか? 面白いじゃん!」

「走りたい……ならバイクさん、私と一つ、約束をしてくれませんか」


 あ、バイクさんの目が不思議そうに半目になってる。あぁ、これでちょっとは判断出来てたかもしれないんだ。気付かなかったよ。


「私の思い出は分けてあげられないけど……サンドスターなら、分けてあげられると思います」

「うぇ!? イエイヌ!?」

「だから、一緒に走りませんか。ほら、バイクって誰かが乗って初めて完成する物ですし、こうして……しょっと! 倒れた時に、起こしてあげられますから」

「えぇぇ!? ちょ、イエイヌちゃん触っちゃうの!? しかも起こしちゃうし!」


 起こしたバイクさんは、暴れたりせずにその場で動かない。いや、元のライトの所である目の所だけ動かして私を見てる。そ、そこ動かせるんだ……。これってつまり、乗れって事だよね。

 跨ってみると、少し私には大きい……と思ったら私に合わせて少し縮んでくれた? あそっか、元々がどんな姿だったのか分からないけど、形状はある程度自分で変えられるのかな? それを私に合わせてくれたって事か。優しいんだね、バイクさん。

 触れたところから少しだけ力が抜けていくような感じがするのは、約束のサンドスターを吸い取ってるって事かな……あ、でも止めてくれたみたい。うわ、目の所が光った!? って、これ元々はライトか! 光らせられるんだ!


「だ、大丈夫なのイエイヌちゃん?」

「なんとか、大丈夫みたいです。バイクさんもサンドスターを吸うの、加減してくれてるみたいなんで」


 一度バイクさんの……排気口、だっけ? そこがブォンって音を出した。喜んでるのかな?

 って、何か足に当たった? 見ると、足の辺りに棒が突き出てて、それがつんつん足を突いてる。乗せろって事? あ、腕の方はハンドルが持てって感じで動いてる。つまりハンドルを持って、ここに足を乗せると……!?


「ほわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「おわー!? イエイヌー!」

「バイクが走り出したー!?」


 物凄い速さでバイクさんが走り出したー!? ちょ、こ、怖いよー!

 あ、でもバイクさんが勝手に石とか避けてくれるから凄い安定はしてる! けど速いー!


「ば、バイクさん止まってー! ま、まだ私心の準備がー!」


 ……その後、暫くご満悦のバイクさんの背の上で私は叫ぶ事になりました……。けど、なんとか打ち解けられて良かった、かな? 速過ぎるこのスピードと仲良くなれるには、当分時間が掛かりそうだけど。

 ま、まぁこれでセルリアンについて知る切っ掛けとしては凄い一歩を踏み出せた……かな? 話が出来るって事は分かったし、こうして乗せてもらえたり出来るみたいだし。……サンドスターは吸われるけど。

 食べられないだけいいんだろうけど……バイクさんが言ってた、フレンズを食べたくなくても食べないとならないって、どういう事なんだろ? うーん……まだ答えを出すには情報が足りない、かな?

 とりあえず今は……バイクさんに言って、アムールさん達の所に戻らないと。このままじゃ高山地方抜けちゃうよー!


 ――――コウナル可能性ハアッタニハアッタンダロウケド……正直、物凄ク予想外デハアル、カナ? コレモセルリアンニ食ベラレタ事ガ無イイエイヌダカラコソノ可能性ノ一ツ、ナンテ言ッテイイノカナァ? トリアエズ、警戒値ヲ上昇サセテ様子ヲ見ヨウカ。アノセルリアンガイエイヌニ実害ヲ与エルナラ……僕ガ始末スル。

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