くわこちゃん

 昔学生の時、アルバイト先に一匹の虫がおりました。


 小さい顎があり、体も小ぶりなので「コクワガタのメスだろう」とみんなして飼ってみようぜということに。


 サラダやお惣菜の入って居そうなプラカップにジュースをしみこませたティッシュをいれて、サランラップで蓋をしておきました。


 ちょこちょこ歩く姿が可愛いw

「名前つけよう」と誰かが言いだして、メスだから「くわこちゃん」と名前をつけました。



 バイトの時間中、カサカサ音がするとひっくり返ってないか確認しながら、その日一日を終えました。

 くわこちゃんはそのままバイト先で一夜を過ごします。



 しかし、翌日。

「あっ! いない!」


 くわこちゃんはどうやら、サランラップに呼吸のためにあけた穴を破り広げて脱走したようです。

 その辺に居ないかと探しましたが見つからず。もう外へ出ちゃったかもねぇ、と早々に諦めてしまいました。






 半年後。

 年末のため、バイト全員で掃除をしていた時の事。


「わー、ゴキが死んでる」

 部屋の隅、普段なら手を入れないような棚の足元から、ほこりにまみれた黒く細長い虫の死骸が。

「いやまて、これ、よくみて、くわこちゃんじゃない?」

「えぇ? ゴキだよー……あれ、ゴキじゃない!」

「くわこちゃんだ! こんなところに!」


 それは、変わり果てたくわこちゃん……みんな寄ってきました。

「餌が無くなって死んじゃったんだねぇ」

「まさか部屋のなかに居たなんて」


 バイト終了後、外の植え込みに埋めました。 合掌。

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