ここ掘れブンブン

 ワンワンではありません。ブンブンです。


 学生の頃の話。まだ「いんたーねっと」という文明の利器がなかったころ。

 庭からおかしな音がするのに気づき音源を探りに外に出ました。


「ジジジジjj・・・・・」という音がかすかに、下の方から聞こえます。

 すると一匹の黒くて細長い虫が穴の中から出てきました。

 土をくわえて少し遠くにぺっと捨てると、またその穴にもぐって「ブリブリブbbbb・・・・・」と音を立てて土を少しずつ少しずつ、運び出しました。



 何だこの虫、やったら胸部と腹部の付け根が糸のように細くて長ーい。お腹の付け根はちょっと赤め。たまに見るけど何虫なんだろう??


 穴の付近に蟻が寄ってきました。するとその虫は「ちぇい、ちぇい」と蟻をまるで顎で突くようにして威嚇し遠ざけます。襲ったりはしないのね。


 そしてまた穴掘り作業へ戻ります。穴の中で羽ばたいている音らしく「ジジジ」とか「ブブブ」と音がするようでした。


 何度も、何度も土を運び出して遠くにペッっと捨てたのに、ある程度穴を掘ったら今度は小石をその辺から持ってきて、せっかく掘った穴を埋めてしまいました。埋めるというか蓋をする、という感じ。

 えーー、今掘った穴は何だったの??


 石を積むだけでなく、周りの砂を犬みたいに前足でわしゃしゃと掻いて蓋の上にかぶせます。なんて器用な奴ー。もうどこに穴があるかわかりません。



 そしてどっかに飛んで行ってしまいました。なので私もそこで眺めるのをやめてしまいました。

 もしそのまま根気よく待っていたら……今になってちょっと悔やまれますが当時はそんなこと知りもしないし。



 何だろうあの虫は、何で穴を掘ってたんだろう、と疑問に思う事数年。

 動物番組で偶然「ジガバチ」というのを知りました。


 この蜂は、おもに捕らえた芋虫に麻酔をかけ、掘った穴の中に卵と一緒に埋める習性があるのだそう。孵化した幼虫は、麻酔で動けなくなっているけど生きている新鮮な餌を食べて大きくなり、土の中から出て来るそうです。


 穴を掘る音が「ジガジガ」と聞こえるからとか、埋めた幼虫に「よ」とおまじないをかけているとか(後者は今知りました)面白い由来がありましたよ。


 人は襲わない蜂らしいですけど、結構大型(長さが特に)なので付近を飛ぶとびっくりします。

 イモムシを抱えて飛んでいる姿が運よく見れたら、子供のためにご飯を集めるお母さんですので、温かく見守ってやってください。


 YouTubeで穴を掘る様子がアップされていました。子どものために何て健気な……ものすごく丁寧な仕事でした。

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