第3話 青色ラバーのおかげで助かったぜ!(非売品)
……けれども、手ぶらで帰るわけにはいかない。
背中の鞘からするりと剣(安物)を抜いたアヤカは、ばくんばくんと高鳴る鼓動を必死に抑えながら、気を静めていた。
ここで帰ってしまえば、結局は同じだ。少なからず自身は手に出来たが、今、何よりも欲しいのは自信よりも……金だ。
この際、ランター・ウルフじゃなくてもいい。アメーバでも、何でもいい。せめて、往復の運賃と三日先の食事代を稼げれば、それだけで満足……ん?
――がさり、と。
アヤカから見て、右斜め前方。木々と雑草とで阻まれたその先で、何かが動いた。「――っ!」反射的にそちらを見やったアヤカは……油断なく、剣を構える。
へっぴり腰とはいえ、トレーニング(内容は厳しい)だけは欠かさず、男性並みの身体能力を維持しているアヤカだ。
度胸がなくとも、鍛え抜いた筋力は物理的な意味で安心感を与えてくれる。アヤカ自身の内面は腰が引けていたとしても、その肉体は安定して大地を踏みしめ、油断なく音がした方を見つめていた。
……そうしていると、再び草木の向こうで音がした。
だが、姿はまだ見えない。草木のざわつきからして、位置的にはそう遠くはない。壁のように繁茂する雑草のせいで、何が居るのかがまったく見えないのが……と。
再び、草木が揺れた。けれども、今度は先ほどよりも大きく、激しい。もしかしたら、こちらに気付いたのだろうか。
それなら、相手が気付く前に先制攻撃を仕掛けたいところだが……いや、相手が何者か分からない以上、迂闊は禁物。
ここは一旦引いて、何者なのかを確かめて――そう、思った瞬間。
がさり、と。草木を掻きわけて顔を覗かせたのは……ゴリラだった。
……ああ、いや、ゴリラといっても、あくまでアヤカの記憶の中にある『ゴリラ』とそっくりだからアヤカがそう思っているだけで、実際の名前は『ビッグブー』で……いや、それもいい。
とにかく、アヤカの前に現れたそのゴリラは、黒いつぶらな瞳をアヤカに向けた。自然と、アヤカもゴリラを見つめ……その、直後。
「――ぎゃあああああ!!!!」
アヤカは、逃げた。戦うとか、駆け引きとか、関係ない。己は今、逃げているのだとアヤカが自覚した時にはもう、アヤカはゴリラに背を向け、全力疾走をしていた。
……まさか、この土壇場で臆病風に吹かれたのか……いや、違う。
臆病風に吹かれたのは事実だが、アヤカがそうしてしまったのも、致し方ないことであった。
何故なら、アヤカの前に姿を見せた、このゴリラ……『ビッグブー』は、ランター・ウルフとは比べ物にならないぐらいに危険なモンスターであったからだ。
具体的になにが危険なのかと言えば、まず、純粋に体表が固い。
アヤカの知る『ゴリラ』とは比べ物にならないぐらいに分厚く発達した筋肉や皮膚は、生半可な刃ではまず通らない。体力も相当に凄く、獲物と定めた相手を小一時間追い続ける攻撃性も備えている。
しかも、このゴリラ……腕力が尋常ではない。
誇張抜きで、人の身体を雑巾のように絞り殺すことが出来るのだ。そのうえ、体長2メートル50センチの巨体より生み出される手足の連打は大木を砕いてへし折るともなれば……逃げるのが当然の相手であった。
「ぎゃあああ!!?? 何で付いて来るの!? 付いて来るのぉぉ!?」
――うほ、うほ、うほほほ!
「うほうほ止めろ! 俺なんか食っても美味しくも――ぽぁ!?」
――うほお!
そして、これまた当然の結果だが……討伐に慣れていないアヤカが、ゴリラを相手に逃げられるわけもなく。背後に迫っているとアヤカが認識したその時にはもう、アヤカの身体は空高く宙を舞っていた。
地を蹴って飛んだ……わけではない。
文字通り、ぶん殴られて、ぶっ飛ばされたのだ。
誰に……って、ゴリラに。世界広しといえど、ゴリラにぶっ飛ばされて宙を舞う全身青色ラバーウーメンはアヤカが初めて……ああ、いや、そうじゃない。
とにかく、アヤカはぶっ飛ばされた。けれども、彼女は生きていた。
常人なら即死している威力だったが、渾身の青色ラバーのおかげだろう。
多少なり衝撃で気持ち悪くはなっていたが、ほとんどダメージを負うことはなく、放物線を描いて空を進んでいた。
「ひえええええ!!!??? おち、落ちるううううう!!??」
しかし、何時までも空を飛ぶわけもない。放物線を描いていた身体は徐々に重力に引っ張られて、地面が近づいてくる。
この程度ではダメージを受けないのは分かっていたが、それでも本能がもたらす恐怖に、アヤカは固く目を瞑った――その、直後。
硬い何かにぶつかる衝撃が、全身を走った。
このまま続けて物理的に二転三転するのだと思ったアヤカは……だが、不思議な事が起こった。
何かといえば、確かにそこから二回ぐらい転がったのだが、三回目で……ずぶりと、身体が地面に沈む感覚を覚えたのである。
これには、アヤカも固く瞑っていた目を開いたー―途端、気付けば、アヤカは叫んで……いや、叫ぼうとした。
(――っ!?)
だが、出来なかった。何故なら、アヤカが落ちた場所は、領土内どころか外からでもその名が知れ渡っている、有名な巨大底なし沼。
別名、『闇沼』と呼ばれている場所だったからだ。
アヤカが目を固く瞑っていた目を開けた時にはもう、遅かった。
既に口元にまで身体が沈み込んだ彼女が、そこが『闇沼』であることに思い至った時にはもう、頭の先まで沈んだ後で。
そこから何とか腕だけを空へと伸ばすことは出来たが……その腕が掴まれるなんて奇跡が起こるわけもなく、間もなく腕まで沼の下へと沈み……後には、痕跡すら残らなかった。
……。
……。
…………普通に考えれば、アヤカの人生はそこでバッドエンドである。
実際、これまで様々な要因で『闇沼』に足を踏み入れてしまった人間、モンスターなどは例外なく足を取られて沼底へ……そして、帰らぬ人となった。
……だが、しかし。アヤカは、生きていた。
視界不良(というか、ほぼ見えない)の沼底に着地した彼女は、シューッ、と気泡を吐いていた……いったい、どうやって?
答えは、アヤカが見に纏っている青色ラバーにあった。
詳細は省くが、アヤカが見に纏っているこの青色ボディ……彼女自身今の今まで気付いていなかったが、どうやら自動的に酸素等を外部より供給して補給してくれる、ある種のフィルター機能が有ったようなのだ。
そのうえ、目の部分のガラスも曇ることはなく、特殊な作用やらバリアが働いているのか、限られた部分ではあるが、はっきりと遠くが見える。
さらに、ガラスが割れて目に泥が入ってくる様子もない。氷のように冷たい沼底の冷気も防いでいてくれているようなのだ。
おかげで、アヤカは……ゆっくりとではあるが、着実に地上を目指して沼底を歩いていた。
不幸中の幸いというべきか、アヤカが見に纏う青色ラバースーツの本来の機能は、対衝撃&パワーアシストだ。
見た目の良し悪しは別として、全身に圧し掛かる泥の圧力の中でも何とか動けているのは、紛れもなくこの機能のおかげであった。
(よ、良かった……! 何だか知らないが、助かった……! 天はまだ、俺を見放してはいなかった……!)
――作ったお前が、何で知らねえんだよ。
仮に、第三者が一連の流れ(その胸中も含めて)を目にしていたら、おそらく誰もが同じことを口走っただろう。
けれども、この場には誰もいない。
それ故に、運が良いのか悪いのかよく分からない状況に陥っているアヤカに物申す者はおらず、アヤカは油の中を泳ぐかのような感覚と共に、必死になって手足を動かし続ける。
えっちら、おっちら、えっちら、おっちら。
……何か、影が見える。
なんだろうと思ったアヤカは近づき……離れた。何故かといえば、影の正体が死体だったからだ。それが、何時頃の死体なのかは、アヤカには分からない。
光一つ通らない沼底(おそらく、雑菌自体がほとんどいないのだろう)故に、死体は腐り切ることなく原形を留めている。
ただ、あくまで留めているというだけで、分かるのは骨格から『人間の男』であることが推測出来る程度であった。
えっちら、おっちら、えっちら、おっちら。
……何か、影が見える。
なんだろうと思ったアヤカは近づき……離れた。何故かといえば、影の正体が死体だったからだ。それが、何時頃の死体なのかは、アヤカには分からない。
光一つ通らない沼底(おそらく、雑菌自体がほとんどいないのだろう)故に、死体は腐り切ることなく原形を留めている。
ただ、あくまで留めているというだけで、分かるのは骨格から『モンスター』であることが推測出来る程度であった。
えっちら、おっちら、えっちら、おっちら。
……まだ、沼の端に着かない。
えっちら、おっちら、えっちら、おっちら。
……まだ、沼の端に着かない。
えっちら、おっちら、えっちら、おっちら。
……そろそろ、不安になってきた。
魔力はまだまだ持つが、体感的には小一時間ぐらい歩いた気がする。
実際には5分と歩いていないのだが、このまま出られないのではないかという不安を覚え始めたアヤカは、一旦立ち止まって、辺りを見回した。
(……ん?)
そうして目に止まったのは……沼底にてぽつんと突き刺さっている、一本の剣であった。
もしや、先ほどの男が持っていた剣なのだろうが。(そういえば、逃げる途中で剣を失くしてしまったな……)とりあえず、売れば三日分の食費にはなるだろうと思ったアヤカは、えっちらおっちらと足を動かし……ん?
……何だろうか。アヤカは、首を傾げた。
沼底に突き刺さる剣へと足先を向けた途端、グイッと身体を押されている感覚を覚えた。例えるなら、両手で胸元を押し退けられたかのようだ。
幸いにも、この青色ボディのおかげで何ともない……ん、何だか押される感覚が強くなった気がする。
まるで、突き刺さっている剣が拒絶しているかのような……止めよう。
そういうオカルトは、この世界のモンスターと……アヤカの青色ラバーで十分だ。
――とりあえず、剣を頂戴したら帰ろう。
そう判断したアヤカは、えっちらおっちら、手足を動かす。当然、圧力は強まったが、何のそのと言わんばかりに押し進め……ついに、剣を手に取った……が。
(……い、意外と深いぞ)
思ったより、深く刺さっているのか。あるいは、何かが引っ掛かっているのか。定かではないが、見た目とは裏腹の手応えであった。
……けれども、今のアヤカは青色ラバーウーメン。
その気になれば、先ほどのゴリラ並のパワーを発揮する。故に、アヤカは特に気負うこともなく、まるで雑草を引っこ抜くかのような気軽さで……えいや、と思い切って剣を引き抜いた。
――その時、不思議な事が起こった。
まるで、剣の形をした太陽。そう錯覚してしまう程の強い光が、アヤカの視界を覆い尽くした。もしかしたら、熱量を伴っていたのかもしれない。
全身に圧し掛かっていた泥の圧力が、瞬時に消えた。合わせて、あまりの眩しさに堪らず目を瞑った彼女は、反射的に両腕で顔を庇った。
……。
……。
…………ん、庇った?
身動き一つ取るのに一苦労な泥の中で、どうやって……違和感に気づいたアヤカは、何気なく己が両腕を見下ろし……思わず、目を瞬かせた。
何故なら、辺りの景色が一変していたからだ。そのうえ、その景色には見覚えが……はっきり言えば、自室のソレだったのだ。
先程まで、視界全てが泥に覆われていたはずだ。けれども、今は違う。右を見ても左を見ても、上を見ても下を見ても……見覚えしかない、己が自室のソレだ。
……幻覚を見ているのだろうか。
そう、アヤカが思うのも無理はない。何せ、全身に纏わりついていた泥は無くなり、濡れた形跡すら無い。疲労感も無く、ともすれば今の今までぼんやり家の中でくつろいでいたかのような感覚だ。
……とりあえず、アヤカは青色ラバースーツを解いた。途端、露わになる、見た目だけは間違いなく最上位と揶揄される、半端ない美貌。
そうして……ふと、気になって窓から外を見やれば……西日が、差しこんでいる。光に手をかざせば、温かい。ベッド脇に置いてある時計を見やれば……数時間近くが経過しているのが分かる。
そのまま外を見ても……やはり、見覚えのある景色だ。これまで幾度となく目にしてきた、『引き出し家』からの景色であった。
……これは、いったい?
アヤカは、訝しんだままその場に立ち尽くし……ふと、気配を感じて振り返った。「――え?」直後、アヤカは……目を瞬かせた。
アヤカの視線の先に、黒髪の少女が立っている。女性というには若く、幼女とするには歳が……つぼみを思わせる年頃の少女だ。
その少女に対して、アヤカに見覚えはない。見覚えがない以上、アヤカの知り合いではない。
だが、知り合いではない彼女がどうやって家に入ったのだろう。鍵は閉めたはずだし、外観からして、この家に金目の物があるとは思わないだろう。何せ、『引き出し家』だし。
そもそも、そうだ、そもそも少女の恰好は……何だろう、痴女なのだろうか。
少女は全裸だ、肌色だ。文字通り、生まれたままだ。ぽつんと膨らむ乳房も、産毛一つ生えていない亀裂も、欠片も隠さない。
基本的に他人に裸を視られようが全く気にしないアヤカは別として、眼前の少女ぐらいの年頃は特に羞恥心が強いはず……なのに、少女は全く羞恥心を覚えている様子はない。
やはり、痴女……だが、どうして痴女が自室にいるのか……そもそも、どうして己が此処にいるのだろうか……と。
「……どうして?」
状況が呑み込めずに立ち尽くしていると、少女の方から話しかけてきた。「――えっ?」だが、それは状況を理解する為の材料には成りえなかった。
「どうして……ねえ、どうして?」
なのに、少女は構わず問い掛けてくる。これには、元々寛容とは言い難いアヤカも……少々、カチンときた。
「え、いや、え、どうしてって、言われても……そもそも、君は誰だ?」
「どうして? どうして? どうして?」
「いや、あの、ごめん、ごめんね、とりあえず、俺の話を聞いてね、ね?」
「どうして? どうして? どうして?」
しかし、ヘタレなアヤカに怒鳴るなんてのは、土台無理な話であった。
やばい、これはどうしたら……途方に暮れたアヤカは、困ったように室内を見回し……ふと、掴んでいたはずの剣が無くなっていることに気づいた。
「どうして……抜いたの?」
――その時であった。どうして、と繰り返していた少女の言葉に、初めて変化が生まれたのは。
「ねえ、どうして抜いたの?」
二度目は、一度目よりもはっきり尋ねられた。「ぬ、抜い……って、もしかして、刺さっていた剣のこと?」だから、アヤカもしどろもどろになりながら聞き返せば、少女ははっきりと頷いた……ふむ。
「いや、そりゃあ……刺さっていたから?」
「どうして、そのままにしなかったの?」
つぶらな瞳……正直に、アヤカは答えた。
「だって、剣を失くしちゃったし。売れれば、生活費の足しになるかなあって……」
「せ、生活……あ、ああ……」
「え、何でそんなにショックを受けているの?」
素直に答えた途端、少女の目から滝のように涙が滴り落ちた。正しく、号泣といえる有様だった。
さらに、立っていられないと言わんばかりに、傍のベッドへと倒れ込み……ぐすぐすと嗚咽を零し始めた。
――あの、鼻水とか汚いんで止めてもらいますか?
そう、言い掛けたアヤカは寸前で口を噤んだ。
さすがに、それを言うのは可哀想だと判断したからだ……とはいえ、何時までもコレでは話が進まない。
家出少女なのか、訳有り少女なのか。どちらなのかはさておき、とにかく、何者なのかが判明してくれないと、後々困るのはこちらだ。
ちなみに、裸の少女を前にしているアヤカだが……特に興奮を覚えることはなかった。それは、性的趣向がどうとかではない。
前世を持つ弊害……すなわち、両方の物理的に汚い部分を知っているからこそ、アヤカには性欲というものが微塵もないのであった。
……まあ、そんなわけだから、さっさと話を戻そう。
とにかく、埒が明かないと思ったアヤカは……率直に、尋ねた。
おそらく無視されるだろうなあって思ったが、意外な事に、少女は涙を零しながらも……あっさり、教えてくれた。
「あたし……貴女が抜いた、剣の精霊なのです」
「……は?」
「信じられないでしょうけど、本当なのです。抜いた人にお仕えする、けっこう有名な精霊なのです……信じられませんか?」
「い、いや、信じるよ。そういうのがあっても、今更だよ、こっちはさ」
ただし、少女の口からぶっ飛んだ『設定』が飛び出してくるとは、さすがのアヤカも思わな……ああ、いや、違う。
他の人がどう思うかはさておき、実際、アヤカは本気で『有っても不思議ではない』と思っていた。
何せ、アヤカ自身が前世(あるいは憑依なのかもしれないが)の記憶を持つ、第三者が聞けば無言のままに距離を置かれてしまうような存在だ。
この世界では当たり前な『魔法』ですら、当初は『え、マジで言ってんの?』という具合で半笑いし、欠片も信じていなかったのだ。
――それが、あの日。
掌から誇張抜きで炎を打ち出す人を始めて目の当たりにした、あの時を思えば……妖精だか何だか知らないが、『まあ、そういうのもあるよね』というのが、アヤカの正直な感想なのであった。
「あたしも、信じたくないのです」
「え、信じたくないって、自分の事でしょ? ていうか今、信じるって口にしたばかりだよな、わたし……」
「まさか、貴女のようなよく分からない青色女に抜かれる日が来るとは……一生の不覚なのです」
「こっちだって、抜いた剣に精霊がいるだなんて夢にも思わなかったわい!」
だが、まさか精霊という名のファンタジーの方からお断りされるとなれば、『まあ、そういうのもあるよね』とは、アヤカも思わなかった。
「あたし、これでも伝説の剣の精霊なのですよ。あの、伝説ですよ。魔王とか、そういうやつらと互角に渡り合えちゃう、凄い剣の精霊なのですよ、そこらへん、分かっていますか?」
「知らねえよ! ていうか、何でそんな大そうな剣があんな場所にあったんだよ! 普通、そういうのは山奥とか祠とか、曰くつきの場所があるでしょ!?」
「そんなの、200年も経てばボロボロですよ。それが、900年は経っているのです。900年ですよ、900年。そりゃあ天候やら何やらで沼に沈むってもんですよ」
「ああそう、凄いね、本当に凄いね! それで、どうして俺に剣が抜けたんだ? こういうのは、選ばれた者以外は抜けないようになっていると思うのだけれども……」
当たり前と言われれば、当たり前の疑問。
まあ、そう思うのはアヤカだからなのだろうが、「――そう、そうなのです」その疑問は運良く当たりだったようだ。
「普通は、抜けないはずなのです! 魔王にも匹敵する膨大な魔力を秘めているという類まれな素質が無ければ、剣に施された封印を解くなんて――解く……ん?」
「……何だ」
前触れもなく突如に涙を留め初めて見つめてくる少女に、アヤカは思わず一歩身を引いた。
「――何で魔王並みの魔力を持っているんですか!? やだー!? もうやだー!? 何で、よりにもよってこんなやつに剣が抜かれちゃうのですかー!!」
しかし、その直後……再び泣き喚き始めた少女を前に、アヤカは「あのさ、泣きたいのはこっちだし、ぎゃあぎゃあ喚かないで欲しいんだけど……」そう溜息を零して……すぐ
「……え、俺ってば、魔王とかいうやつ並みに魔力があるの?」
無視できない事実に気づいたのだが……その事について詳しく知るには、もうしばらくの時間が必要であった。
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