【3】Ace May cry : Collapse day 5/5 (10)
TACネーム、セイバー。登録名はジュディオ・アイギス。
本人の弁では異世界出身の長命種族出身である。異世界や地球で、彼は長弓、ボウガン、投石機、大砲といった長射程の兵器が生み出される中、暇さえあれば剣の素振りをし、敵の弾幕をかいくぐり、代錯誤な剣一本の突撃をかまし続け騎士としての戦いを全うしたという変わり者である。恐るべきことに、一次世界大戦で航空機に乗り換えるまでそのスタイルだったという。
そんな彼の伝説は一時的になりを潜めることとなる。エースになった後の彼は一撃離脱を基本とする面白みのない飛び方をし、その異様な伝説らは忘れられていった。彼が再び歴史に現れたのは第三世代ジェット戦闘機以降の時代である。
三世代以降、急速に発達する長距離空対空ミサイルは、それまでの犬の喧嘩とも剣士同士の決闘ともいわれる空戦を大きく変えていった。
やがて、エースの条件も反射神経や天賦の勘といったものよりも正確な機械操作のほうが比重が大きくなった。昔ながらのエースたちはその度胸で空を駆け巡るやり方を大きく変容するか、大地に還っていった。
だが、そんな中で一人だけ例外が居た。それが彼だった。
「視界外戦闘が常識と化した現在でさえ有視界での戦闘を好むエースがいる。」という噂は直ぐに広まった、最初の時には時代遅れへの冷やかしも含まれていたが、彼が気にも留めず、かつてひたすら素振りを続けていたように超音速での一撃離脱のための射撃を黙々と鍛えている姿を見たものは、一様に考え方を改めなければならなかった。
彼は機械に抗った。ミサイルを回避し、接近戦に持ち込むために終わりなき訓練を一人で続け、やがてその技を習得した。
彼が参加する戦場は度々場違いな戦いが生じた。遠距離からのミサイルの打ち合いの後、異様な確率でドッグファイトが発生したのだ。
一時は時代遅れの最後の悪あがきだと誰もが思った。しかし、彼の剣士としての異様なこだわりは四世代以降、人が一昼夜かけて歩く距離からミサイルを打ち合う時代になっても維持され、更に狂気の機動を創造した。
彼は優秀な魔術師でもあった。縮小魔法を使った空気抵抗の除去とエンジンに導く酸素の増量を使った加速戦術はどこの国でもまともな飛び方として認識されておらず、無駄に魔力を使う狂気の沙汰として見向きもされていない。が、彼は視界外戦闘が当たり前になった現代に昔ながらの戦いをするためにこの異常な飛び方を戦術に取り入れた。
そして彼は今でも視界外戦闘兵器の一切を「稼ぎのための道具」と宣告し、高速機での一撃離脱の際の短距離AAM、そしてガンのみを頼れる武器とする異様なエースパイロットであり続けている。時代遅れと嘲笑の対象だったTACネームも、いつしか恐怖と畏怖の代名詞に変わっていた。
『時代遅れめ!堕ちろ!』
林の指示により、追従する学生パイロット二人の機体がミサイルを発射する。
しかし、ミサイルが投擲されたというのに敵機は回避行動はおろか一発のフレアすら出さない。
「当たる!」
ミサイルはそのまま接近し、誘導電波に従い、敵機に命中……したはずだった。
爆発はあった。しかし、相変わらず敵機は接近してくる。
『……嘘だよね……。』
『師匠、正気に!』
即刻狂気に身を乗り出していたメンタルを引っ込め取り戻した正気で即座に回避を指示。敵機の目の前にいた機体は旋回してその機体から逃れようとした。相手がマッハ2の化け物であっても恐れる必要はなかった。そんな速度では曲がれない。もしも亜音速の戦闘機についていこうと起動したのならば、一瞬で体が粉々になるようなGがかかるだろう。
学生パイロット達はその一撃は容易に回避した。
だが、ピョガリ5の機体は瞬く間に砕けた。だが、飛行は辛うじて可能であったため、戦場を離脱した。
敵機は振り返らずにそのまま飛行を続ける。
『敵機は、去っていった?』
中条安奈の声だった。
『そんなことあるわけない。』
もう一人の学生、TACネーム、ハジキが答える。
『あいつは鉄砲玉じゃない。無謀なようで、考えてやっている。』
そうだ、と趙はそれを肯定する。
『それがあいつの戦い方だ。』
趙がそう答えたとき、敵機は持て余した運動エネルギーを高度に変換し、次の攻撃の準備にかかった。
「つまらない相手だ。」
アイギスが感じたのはそれだけだった。
彼には視界外戦闘など、所詮はスコア稼ぎの手段にしか見えなかったし、そこで撃墜される敵も、その程度だと思っていた。
戦士なら、刃を交えて至近で切り合うべきだ。
それが彼の戦闘哲学であり、戦闘のすべてだった。
時代は変化する。それに抗うためにこの飛び方を彼は身に着けた。そして彼は戦法を熱心に研究し、一つの剣術として完成させた。
「面白い相手がいないな。」
中国軍が自分の好きなように戦ってほしい、むしろ、貴方のような人物が今必要なのだ。と、言われたときには嬉しかったが、いざ飛んでみると寂寥感のみが去来するのみである。撃墜した敵機を見ながら彼は溜息をついた。それは優しさではなく、、騎士道が発揮できない失望感から来る溜息だった。
(騎士道というのは人間の「格」に差があるからこそ存在できる。高い価値のある人間から低い人間に行われる「得」なのだ。)
全ての肌、全ての男女、全ての魂が平等の今、騎士の誇りに駆けて彼らに得を振りまく必要は無い。コラギ隊は良いエースだが、「格の差」はない。
ああ、と彼の騎士道精神は泣いた。この空に、弱くも価値あるパイロットは居ないのか、とF/A-50に恐らく乗っていたであろう「弱い」学生たちの死を嘆いた。
もっと、戦い甲斐がある相手がほしい。そう心で呟きながら彼は敵から攻撃を凌げる位置に達したこと理解し、上昇を開始する。
『日本人の学生二人……。』
敵のMiG-31が紅くエンジンを唸らせて上昇している中、趙は話しかけた。
『私は朝鮮人だ。君達の侵略の苦しみは忘れない。それでも、私と共に戦うか?』
話しかけられた二人は、勿論てす!と即座に返答した。よかろう、と彼は返答した。
『中条君、今から君はコラギ7だ。それから……。』
『一組飛行隊一番機、城ケ崎 由利子……。』腹の据わった切れ味の良い声が聞こえた。『一番隊隊長……小さい組のモノです。』
『君は今からコラギ8だ。』
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