【3】Ace May cry : Collapse day 5/5 (9)


 韓がベイルアウトした所は旧公官庁街だった。

(なんだ、これは……。)

 地面に着陸して周りの様子を見ると、あちらこちらから火の手が燃え上がり、それなのに火を消すわけでもない人々の喧騒がそこにあった。

「な、何をやっているんだ君達は!」

 とりあえず一番近い警察署の前の人だかりに接近する。

「あの……」

 話しかけると彼らの中の一部は韓の存在に気付いた。空から落ちてきた「来客」に、彼らは不信の目を向けていた。

「パイロットか?」

「敵じゃ無いか?」

 韓はこの時重大な勘違いをしていた。周囲の火災を空爆によるものと思い、目の前の暴動の原因も、ミサイルや爆撃機の攻撃で右往左往しているのだと、そう思っていた。

そして何よりこの混乱の中で自分が敵ではなくJ-フォースのパイロットであると証明できたのなら、彼らは警戒心を解くだろうと思っていた。

「私はJ-フォース、コラギ隊所属の韓、と申します。あなた方の味方です………。」

 覚えたての日本語で途中まで名乗りを上げて、彼は後悔した。そして、彼は今まで目にしたことのない光景を目にした。

 突然彼らの顔がほころび、口元には喜びのえくぼが現れた。それは最初味方兵士の帰還を喜ぶものだと思っていたが、その歪んだ表情がそうではないと告げていた。

 フラッシュバックする記憶があった。アフリカのテロ組織の支援の際にライオンの群れにヘリから落ちた男を取り囲むライオンの目、それから自然の雄大さを差し引いて人間らしい負の感情を追加したら、この顔になる。

 韓は周囲を見渡した。降り立った先は旧盛岡市役所前の堅いコンクリートだったが、本来石炭のような色の道路はあちこち血に赤く染まっていた。丁度「普通の日本人」による収容者の掃討が終わりかけていた。

「聞いたか?」

「チョソン公だ……。」

 敵だ!が次の言葉に来た。逃げ出そうにも目を光らせた「普通の日本人」は既に彼への包囲を完了しており、彼に逃げ場など無かった。

「待ってくれ、私は味方だ!」

 彼は必死に自分は敵ではないことを説明しようとした。だが、何故、どのような属性と内容で自分が恨まれているのかをついぞ推測すらできなかった彼はそのまま打ち付けられる角材を払う以外出来ることはなかった。

「待ってくれ!俺は味方だ!」

 嘘をつけ!と反論された。彼の話に惑わされてはいけない!彼は敵だと叫ぶ「普通の日本人」達はに粗っぽく削った竹槍で韓をめった刺しにするのを止めない。

 焼き肉店から奪ってきた肉切り包丁が腹へと打ち下ろされ、顕わになった腸を千本の手が我先にと引き抜き始めた。

 「やめて……やめてくれ!」

 韓は絶命した。日本語は最後まで流暢には喋れなかったが、工作員の兄から聞いた富士山の美しさにあこがれた男の死体の前で「普通の日本人」たちは雄叫びを上げて狂い踊った。

 重く横たわった彼の死骸を見た「普通の日本人」達は狂喜乱舞した。旧市役所、県庁、大学病院、警察に収容されていた仲間達も同じく歓喜を上げた。

「さあ俺たちも駅前に合流するぞ!」

 うおー、と声を荒げて「普通の日本人」たちは狂喜乱舞する。警察や旧県庁の建物からは煙が立ち上り、積み重ねられた死体の上には涎を垂らしたカラスが旋回し始めていた。

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