【3】Ace May cry : Collapse day 5/5 (2)

 盛岡駅西口のペレストリアンデッキ、平時ならばここは昼夜問わず市外へ向かうバスがひしめく空間であり、駅から周辺施設へ向かう、またはその逆の人間たちにより人が絶えない空間である。

 その一画、市役所県庁の合同庁舎の前に「普通の日本人」の集団が来てから、入り口では市役所、県庁職員のバリケードでの押し合いが続いていた。

 「普通の日本人」の集団はガラスに投石を行い、花壇を踏み荒らし、「敵を出せ!」と連呼する。そんなものはいません!という公務員との応報は徐々に「普通の日本人」側が有利になっていった。

「みなさん、えーみなさん……。」

 爆発寸前の原爆同然の「普通の日本人」たちの前に新たに奥から人が出て来る、その人は藤谷市長その人だった。

「今市役所が優先避難させているのはマイノリティーの方々で、えっとその……。何らかの反社会的な人々ではありません。」

 「嘘だ!」フェミニズムに傾倒している「普通の日本人」が咆哮する。「萌え絵貼って私達女を差別したい人がいるんだ!」

「そんなにパチンカスが恋しいのか!」朝鮮人はパチンコから日本人を搾取していると主張してやまない「普通の日本人」達が問い詰める。

「弱者のフリした特権階級だろが!」

「金持ちは寄生虫だぞ!消毒しろ!」

 それぞれ、十人十色の「真実」を知り、誰かが正義の旗印のもとに立ち上がることを夢見ていた様々な「普通の日本人」たちが思い思いの理由で市長を問いただす。

「俺達の避難を後回しにして売国奴を逃がすんだろ!」

「あくまで、優先避難は我が市に割り当てられたバスを使います。貴方達の席を奪うものではありません!」

 嘘をつけ!という声はあちこちから津波のように市長という堤防にのしかかる。

「中の邪悪なバケモノ共を出せ!」

「差別はいけません!」

 彼らに負けじと市長は大声を出して反論する。

「差別じゃねぇ!区別だ!」

「差別です!」と市長は津波に一歩も引かず、大堤防として彼らの怒りを受け止め、押し返していた。

「じゃあ、身の潔白の証拠を出せ!」

「無いものは証明できません。だから、本当にないんです!」

「無いならば、空っぽの役所を見せろよ!」

 これには反論は難しかった。とにかく、無いんです。そして、そんな無法は許されませんと毅然と反論したが、「普通の日本人」達には「何か」を隠しているまぎれもない証拠だと断定する材料となった。

 疑わしきは、有罪。

「普通の日本人」が持つ午後や深夜のワイドショーで養われた「庶民感覚」が敵はこの中だと告げていた。

「見せないならやましい事をしている証拠だ。」

 ついに市長の前の男が模造刀を抜いて市長に迫った。

「本当に違います。いいですか、みなさん、暴力はいけません。おちついて、ね……。」

 「普通の日本人」達は思った。これは彼らがいつも使う手段だ。自分が不利になると隠蔽し、枝葉末節にこだわり始めて負けを認めない。そして何より「本題」たる質問に答えない。

「突入!」

 誰が発したのか、それは永遠に判らない。だが、その一人の狂気は一瞬で集団に感染して人間の津波は市長という名の堤防を乗り越え、合庁二階ホールに溢れかえった。

「ゲパルトオオオオォォォォォォォォォォー!」

「日本、ばんざああああああああああいいいいいいいいいい!」

 狂気が、炸裂した。

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