深雨

砂月

第1章 深雨

どしゃ降りの雨が降りしきる、夕刻時。

わたしは一人、傘もささずに路地を歩いていた。周りには誰もおらず、わたし一人。

頭上からは、冷たい雨が当たる。

いまのわたしの心情を代弁するかのように、雨は強さを増していく。

冷たい、寒い、かなしい……。

わたしは歩みを止め、空を見上げる。雨雲がドス黒く、雨粒が顔に当たる。

涙なのか雨粒なのか、分からないけど、わたしの目から水が薄く流れ落ちる。

冷たい雨、かなしい雨。

雨は強さを増していくばかり。

わたしのかなしい心を埋めてくれ。

わたしの体ごとこの世から消滅させてくれ。

わたしを……。

わたしをどこか、遠い国へ導いて。


わたしは、自分の両手を首に持っていく。

指に力がこもる。わたしはわたし自身を追い込む。

指に力がこもる。雨が当たる。冷たい、かなしい、痛い、終わらせたい。

おねがい、わたしをーーーー*****


すると、誰かがわたしの手を離した。一気に肺に空気が入り、むせ返る。

誰?

「*****」

あ、そうだった。

わたしは、一人じゃなかった。

「***で」

この優しい声。

「**な、で」

わたしを崖っぷちから救い出してくれた人。

「しな**いで」

わたしの心に光を戻してくれた人。

「死なないでくれ!」

わたしの大切で、かけがえのない人。

「頼むから、死なないでくれっ……!」

温かい、こんなにも人の体温はぬくもりに満ち溢れてる。

「……まだ、生きてていいの?」

わたしは貴方に聞いてみる。

「ああ、生きてていいよ」

貴方の抱きしめる力がこもる。

「わたし、こんなに汚いよ?」

「そんな事ない、君は、君の心はこんなにも綺麗だよ」

また、貴方に救われる。

わたしのドス黒い魂を浄化させてくれる。

「……ありがとう」

雨は上がり、雲の切れ間から太陽の光が溢れ出す。

貴方と同じ光。貴方と同じ温かいぬくもり。

貴方と同じであろう優しさ。

「わたし、もう少し生きてみるよ」


わたしの心は晴々としていた。

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深雨 砂月 @kibana

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