第2話

羽ばたきを止められた僕は、彼女の前で何故か正座をさせられ、怒られていた。


「まったく!一体何してるの!?もう少しで死ぬところだったんだよ!何があったかは知らないけれど、こんなところで死なれたら困るの!わかった!?」


「は、はい。ごめんなさい」


邪魔をされたから文句の1つでも言おうと思ったが、あまりの剣幕とぐぅの音も出ない正論を言われ、素直に謝罪するしかなかった。

まぁ、怒られるのは仕方ないとして。

少し冷静になったところを見計らって、少し聞いてみることにした。


「と、ところでここで君は何を?もう下校時間だし、屋上には何も用があるとは思えないけど」


謝罪はしたし、目の前で死のうとしたことにも罪悪感もあるが、同時に疑問も残る。


彼女は一体ここで何を?


屋上の入り口には誰もいなかった筈だ。もしかしたら、建物の影に隠れて見えなかった可能性もある。

しかしだ。例え、僕よりも先に来ていたとしても彼女はここで一体何をしていた?


結局のところ、そこなのだ。


偶然で片付いてしまうモノだが、それでも聞かずにはいられなかった。

僕の質問に対して彼女は、一瞬バツが悪そうな顔をしたが、少しして決心したような顔をして言った。


「確かに君の言う通り屋上には何も用がないよ。まぁ、単純に言えばーー君を跟けてきた」


え?今、なんて?

僕を跟けてきた?

それはつまり、最初から僕が屋上に行くところを見ていた?

一体、何故?わからない。

僕と彼女とは初対面だろうし、繋がりもない筈だ。なのに、どうして。

彼女の返答に対して、いろいろと 疑問は尽きなかった。

そして余程、僕自身が相当困惑していたのがわかったのか、先程まで怒っていた彼女は気まずそうな顔をして話を続けた。


「わかってる、自分でも変な事を言っているのはね。でも、廊下ですれ違った時、君私の存在に気付かなかったでしょ?目も虚ろで、なんていうのかな、存在が曖昧だった。哲学的に言えば、そこにいるのにいないような感じがしたから。だから、跟けてきた。変なことをしないかね」


「そう、だったのか。僕はそこまで」


そこまで内に沸く死への衝動が凄かったのか。いや、追い詰められていたと言ってもいい。

廊下ですれ違ったのも気付かない筈だ。

彼女は話していないが、誰が見ても普通の状態ではない僕に対して、多分話しかけてもいる筈だ。そして、数歩後ろから跟けていた筈。


それらに全く気付かなかった。

ヤケになりすぎていたようだ。笑えてさえくる。

この失敗を次の糧としよう。

今はとにかく彼女に感謝を伝えておこう。

邪魔をしないでほしかったと思うが、それでも一応助けてくれたのだから。

少し余裕が出来た気がする。だから。


「ありがとう。感謝するよ。迷惑かけたね」


素直に感謝されると思っていなかったのだろう。少し驚いた顔をした後、清々しい笑みを浮かべて彼女は言った。


「そうだね。迷惑かかっちゃった。同じ学年の見知らぬ誰かを助けたんだしね。一人で解決したような顔をしてるけど、ここまで来たんだよ?話してもらうこと、山ほどあるんだけど?」


要はここまでに至った経緯全部話せと言っているようだ。

正直怖い。死よりも彼女が怖い。

僕は少し顔を引きつらせながら、渋々了解した。

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モノクロの世界 うみひこ @umihiko

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