モノクロの世界
うみひこ
第1話
世界は色に溢れている。
それは青だったり、赤だったりと様々らしい。
誰もが認識し、最初は興味を持つだろう。この色は何色だろうか?この色と色を混ぜると何色になるのだろうか?
何作もの絵を描いてきた人は様々な色を扱い、至高なる芸術品を作成する。
従って色には人を魅了する力があるのだろう。
例え、見慣れた景色だとしても、ふと見返すと綺麗だと思い返すことも少なからずある筈だ。
そして、その景色を絵画やイラストとして描いて残してきた。それでなくても、今は写真というそのままの風景を未来永劫残す技術もある。
世界の絶景であろうと例外ではない。その景色こそ永遠に残したいと思うだろう。
逆に言えば、それほど色というのは今も昔も重要なのは変わらないものとしてある。
そうして改めて人々は思うだろう。
世界はなんて綺麗なんだろう、と。
僕にはそう思えなかった。
生まれつき、僕が見える世界は白と黒の二色だけ。
輝かしいモノはなく、あるのは白か黒の一色に塗り潰されたナニカ。
先天色覚異常。
医者はそう言った。
治療法はなかった。
綺麗とも汚いとも思えない。ただ、そこに在るだけ。視界に映るだけの世界。
そう見えるだけで、世界はひどくつまらないモノになっていった。
白と黒の単調な世界。何も面白くはなかった。気持ちの良い澄み切った青空も、夕暮れが思わせる切なさもそういった思いは抱いたことはない。
見慣れた景色も紹介される絶景も、何もかもがつまらなかった。
いっそ目を潰そうかなとも思った。だが、生活に支障をきたすだけなのでやめた。
ならばどうするか?
考えに考えた。
誰かと景色を共有できないなら、一人でいるような錯覚に堕とされるつまらない世界ならいっそのことーー。
気が付けば通ってる高校の屋上にいた。
時刻は夕方だろう。
部活動や帰る生徒でちらちらと見える。
やはり、答えはこれだった。
今の生活に不満はないし、色覚異常を除けばむしろ満足している。
ただ、変わり映えしない景色がただ耐えられなかった。
死ねば、見える世界は違うのか?
或いは、何も見えなくなるのか?
死後の世界がどうのこうのと語るつもりはない。
それは死ねばわかるのだから。
あぁ、心残りがあるとすれば、家族や学友達に迷惑をかけることぐらいか。
本当に申し訳ないと思うが、しかし死への衝動が、内から湧く興味がそれらを搔き消す。
さぁ、望む景色は目の前に。
ただ白黒の地平を見つめながら、一歩を踏み出せば良い。
それで世界は変わるのだから。
そして、一歩を踏み出そうとしたその時ーー。
「ストーーーーーップ!!」
誰かが叫び声を上げながら、お腹周りを囲むようにぎゅっと抱いてきた。
少女と思われる誰かに、僕の羽ばたきは止められたのだった。
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