第4話 堕ちる伝説と青春
ここからは淡くて懐かしい頃の事を書く、十人十色の如く青春も人それぞれだ。私の場合は、いろんな色を混ぜ合わせた黒だろう・・・。
当時の私は志望してた半田農業高校に無事入学し、「青山壮」で一人暮らしをしていた。青山壮は当時、祖母の親友の野口さんが管理していた小さなアパートだ。私が孫だということで、タダで住むことになった。一方波多野は別の高校に通うことになったので遠距離恋愛になったが、当時の私は自分の生活に満足していた。しかし生活する場所が変わっても、彼はついてきた。 そしてこの地域でも不幸を起こす・・。
内容を戻して、農業高校の同級生と体験した奇妙な話を書こう。それは高校一年の時の一月中頃、私の部屋に二人の同級生が訪問した。一人は細川勝で、もう一人は私より背が高い間田優斗だ。
「なあ、今日は例の話が嘘か真か確かめようぜ。」
細川が突然切り出した、細川は都市伝説やミステリーに関心のある青年だ。
「それって、写真に写る悪霊の事か?」
その話は地元の人しか知っていない噂話、この近所にある神社の裏庭にある大きなドーム型の墓の写真を撮ると、たまに悪霊が写ることがあり、撮影者に不幸をもたらすといった話である。
「お・俺は、やめといたほうがいいと思う。」
「間田、ビビッてるな?」
間田は小さい頃からお化け屋敷などの怖いものの類が苦手で、それが背の高さとのギャップになっているため、みんなからいじられている。
「ビビッてないよ!ただ、触らぬ神に祟りなしというから、余り関わらないほうがいいと思う。」
「でも霊が写るのは稀になんだろう、ほんの遊びだよ。」
「僕は行くよ、あの神社前から行ってみたかったんだ。」
「ほら、六蔵がいくってさ。お子ちゃまの間田は、おいていくとするか・・・。」
「なんだと、だったら行ってやる!」
「乗り気になったね、じゃあ午後六時に青山壮に集合だ。」
そして細川と間田は帰っていった。
「悪霊の出る神社か、面白そうだな。」
彼が現れた。
「一緒に行きたいの、いいけど。」
私は素っ気ない返事をした。
そして午後六時、細川と間田が来た。
「じゃあ行こうぜ!」
細川がやる気満々に対し、私と間田は冷めた表情で歩き出した。
「なあ、細川。あの神社にあるドーム型の墓が、どうしてできたかわかるかい?」
「いや、知らない。六蔵はわかるのか?」
「わかるさ、野口さんから聞いたんだ。」
「ああ、君が住んでるところの大家さん。」
それは野口さんが子供の頃、第二次世界大戦中の話。当時神社だった場所は空き地で、その近くの寺にいたある和尚が『ここに大きな防空壕を作ろう。』と言い出した。そして和尚は弟子たちと一緒に、穴を掘りだした。その時の土が積もってできたのがあの墓で、それを見ていた当時の近所の人たちも和尚達に協力した。でも防空壕が完成した日、空襲警報がでて和尚達や近所の人達が中へと入ったが・・・、なんと焼夷弾が防空壕を直撃、和尚達と中へ入った近所の人達はそのまま埋もれ死んだ。実はこの時和尚の寺も、空襲で焼け落ちた。それでこの話を聞いた和尚の子孫が、今の場所に寺を建てて、積みあがった土を墓にしたそうだ。
「なかなか、深い話だな。」
間田が言った。
「なるほど、悪霊の正体は埋もれ死んだ和尚達か・・・。」
細川は含みのある笑みを浮かべた。
そして例の神社に辿り着くと、裏庭へとまわった。そこにはあのドーム型の墓があった。ちなみに近所の子供達からは、チョコパンや怪獣のウンコなどと呼ばれている。
「ついたぞ、確かにこれは何か出そうだな・・・。」
「なんか、凄く不気味。」
間田の言う通り、夜の暗さと周りの木々が相乗効果で、不気味さを高めている。
「よし、じゃあ肝試しスタート!まず僕のカメラで撮影する順番を決めよう。」
順番はジャンケンで決め、間田・細川・私の順番に決まった。
「何でこうなるんだ・・・、ついてないぜ。」
間田は細川からカメラを受け取ると、トボトボとした足取りで墓の正面に立った。
「間田、ピントを外すなよ!」
「わかってる・・・。」
間田はがくがくしていたが、一瞬体の震えを止めシャッターを切った。私と島田は間田からカメラを受け取って写真を見た。しかし、何も映っていなかった。
「よかった、俺に運があって・・。」
間田はほっと、胸を撫でおろした。
「じゃあ次は僕だ!」
細川は間田とは対照的に、ウキウキした足取りで墓の正面に立った。そしてすぐに撮影を終わらせ、戻ってきた。
「どうだ、写っているか?」
「うーん、おかしい所はないなあ。」
「なんだよ・・・、俺は悪霊に好かれてないのか?」
「悪霊に好かれて、どうするんだよ?」
間田の突っ込みに、私は吹き出した。そして私の番が来た、私はゆっくりと歩き墓の正面に立つと、何気ない感じに撮影した。そして間田と細川に写真を見せると、二人は目を丸くした。
「どうしたの?」
「六蔵君・・・・ここ見て・・・手が・・。」
「手?どこにあるの?」
「ほらここ!これこそ、悪霊だ。」
写真をよく見てみると、墓の真ん中辺りに、白い手が写っている。まるで、今にも土の中から人が這い出てくるようだ。
「六蔵君、君はラッキーだ!」
細川が言った。
「六蔵君・・・、困ったら俺に相談してもいいぜ。」
間田は私に同情するように言った。しかし私はこの時、自分が悪霊に憑りつかれているのかどうか、ピンと来ていなかった。そして私は青山壮に戻り、細川・間田と別れた。
そして深夜、私は大きな音で目が覚めた。襖の向こうからまるで、そこだけ地震が起きているような音がした。
「何だよ、こんな時間に‥。」
私が襖を開けると、彼が白い浮遊物を追いながら、部屋中を走り回っていた。そして彼は浮遊物を、ガッチリと手で捕らえた。
「なにそれ?」
「六蔵、これがお前に憑りついていた悪霊だ。捕まえるのに手間取ったよ。」
彼は悪霊を、私に見せた。
「それ、どうするの?」
「もちろん、こうする。」
彼は悪霊を持っている手を強く握り、悪霊を潰した。
「さて復讐の時間だ、私は細川の所へ行ってくる。」
「僕は君を止めないけど、細川の住所わかるの?」
「大丈夫。お前に付いていったときに、奴の記憶を見た。問題ない。」
彼は窓を開けると、細川の家を目指して飛び立った。私は大きなアクビをして、布団の中に入った。
そして翌朝、私は学生服に着替えているとインターホンが鳴った。これはもう確実に、野口さんだ。
「六蔵君、モーニングしていかないかい?」
「いいですよ。」
私はカバンを持つと、野口さんについてきた。野口さんは青山壮の一室に仕事をしながら暮らしている。私はカバンを置いて椅子に座ると、野口さんが用意したトースト、ゆでたまご、サラダが置いてあった。
「六蔵君は何にする?」
「じゃあ、カフェオレ。アイスでお願い。」
「わかった、私はブラックのアイスね。」
野口さんはコーヒーの準備をした、といってもインスタントではない。野口さんは青山壮の管理人になる前、地元の田原で喫茶店を営んでいた。昔取った杵柄で、野口さんの入れるコーヒーは本格的で美味い。
「さあ、できたよ。」
野口さんはカフェオレを私の前の置いた、野口さんは一見すると怖いばあさんだが、根はやさしく私以外にもモーニングを振る舞う、ちょっと変わり者のおばあさんだ。
「野口さん、あなたのコーヒーはいつも美味しいです。」
「そうかい。あっそうだ、昨日事件があったんだ。」
「どういう事件ですか?」
「あの大きな墓のある神社があるだろ、その神社の鳥居のすぐわきにある地蔵様が、誰かに壊されたらしいんだ。」
私はこの時、彼の仕業だと直感した。
「地蔵様を壊すなんて、罰当たりなことを・・・。」
「本当じゃ、なんでも神社の藪の中からトンカチが見つかった、だから何者かが夜のうちに破壊したことは確かだ。」
私は疑問を抱いた。もし彼が仮に地蔵様を破壊するなら、なんでトンカチを使ったのだろう?
「住職さんも、心を痛めていた。まったく気の毒じゃ・・・。」
私は頷きながら、カフェオレを飲んだ。そして私は青山壮から学校へと向かって行った、学校について教室に入ると細川の姿がない。遅刻でしてるのかと思って待っていたが、とうとう始業のチャイムが鳴ってしまった。そして担任の稲田が入ってきた。
「みんなおはよう、早速出席を取るぞ。」
稲田が出席を取り終えるタイミングで、私は稲田に質問をした。
「先生、細川は休みですか?」
「ああ、何でも一身上の都合で休むらしい。」
これは、『なにか大ごとがあったので休みます』という意味だ。細川は彼に一体、何をされたのか?昼休憩の時間、人気の無い所で彼を呼び出した。
「ねえ、きのうの夜中細川に何をしたの?」
「お前、勘がいいな。実は夜中、細川に悪霊を憑りつかせた。といっても私が作ったものをな。」
「悪霊を作れるの!?」
「俺ぐらいの悪魔になると、朝飯前だ。」
彼は得意そうに言った。
「じゃあその悪霊のせいで、細川は狂いだして・・・。」
「いや、狂ってはいない。ただ呻きながら苦しむだけだ。」
そういうと彼は『ここから先は自分で考えろ』というように、消えた。細川の身に何が起こったのか、その日の間私はそればかり考えていた。
そして翌日、登校するために玄関を開けると、野口さんが新聞を持って現れた。
「六蔵君、ちょっとここを見てくれ!」
野口さんが指さす所を見ると、私は唖然とした。そこには昨日の深夜、例の神社であった地蔵様破壊事件の犯人が自首したとの記事が載っていた。しかもその犯人は、細川だったのだ。
「どうも農業高校の学生だけど、あんたもこの高校に通っているのかい?」
「うん、僕とは友達同士で付き合っていたから、驚いたよ。」
「しかし、とてもワルにはみえないねえ。」
確かに細川は、地蔵様を自ら壊すほどの度胸はない。でももし、彼が何かしたとするなら・・・。その日も細川が来る前に、始業のチャイムが鳴った。稲田は教室に入ると、生徒全員に言った。
「実はみんなに残念な知らせがある、細川がこの学校を退学することになった。」
稲田の言葉に、私以外の生徒はざわついた。
「昨日、細川は両親に地蔵を破壊したことを打ち明け、警察へ行ったそうだ。しかしなぜか動機が『悪魔に脅された』という意味不明なものだそうだ。」
私はこれで全て理解した。彼は自分が作った悪霊で細川を脅して、地蔵様を破壊させたのだ。でも私に新たな疑問が浮かんだ。なんで細川を殺さずにわざわざ、地蔵を破壊させたのだろう?その日も人気の無い所で、彼を呼んだ。
「僕分かったよ、本当に地蔵様を破壊したのは君だってことだろう?」
「そうだ、俺はあの時自分で作った悪霊を、細川に憑りつかせ苦しめた。そして『この苦しみから逃れたければ、あの神社へ行って何かを一つだけ壊してこい。』と言った。そしたら案の定、トンカチを持って神社に行った。」
「でも珍しいね、君が復讐する相手を殺さないなんて。」
「もしかして、俺は細川に復讐していると思っているな。」
「えっ!?・・・違うの?」
「ああ、今回は神社への復讐だ。」
彼はそんなものにも復讐するのか・・・、私は驚きで言葉が出なかった。
三日後、私が買い物からの帰り道を歩いていると、野口さんと会った。黒くてしっかりした服装、葬式からの帰りのような感じがした。
「野口さん、誰か亡くなられたんですか?」
「ああ、あの神社の和尚さんがね亡くなってしまったんだよ。」
私はえっ!と思ったが、これも彼の復讐だということがわかった。
「それにしても、これで神社も終わりだね・・・。」
「どういうことですか?」
「実は、亡くなった和尚さんの跡継ぎがいなくて、近々神社を取り壊して児童公園に改修工事しよう、という計画があったんだ。和尚さんは『自分の目が黒いうちは、工事はさせない!』といっていたらしい。」
そんなことがあったとは思わなかった。彼は知っていたのか単なる偶然か,私にはわからなかった・・・。それから一週間後に改修工事が始まり、墓の不気味な都市伝説も風化した。
これで一つの思い出が幕を下ろした、しかしこれで終わりという訳ではない。次に書くのは、本物の伝説が消える瞬間だ。それはあまりに急で、見たのかどうかすらはっきりしない出来事だった・・・。
それは高校二年生の夏休みのある日、私は野口さんからの呼び出しを受け、応接室に入った。
「野口さん、話というのは何ですか?」
「折り入っての頼みだ、私の地元である田原へ行ってくれないか?」
「わかりました。私は田原で何をすればいいのですか?」
すると野口さんは、鮮やかな包装が施された箱を、私の前に置いた。
「この箱には湯たんぽが入っている、これを幼馴染の山尾哲平に渡してほしいんだ。明後日は山尾さんの誕生日だから、その日に渡してくれ。」
「なるほど、野口さんは行けないのですか?」
「その日は町内での慰安旅行と重なってしまって行けなくなった、本当は彼をお祝いしたいけどね・・・。」
「わかりました、山尾さんに言っておきます。」
「ありがとう。あと、これは田原までの旅費だ。」
野口さんは茶色の封筒を、私に手渡した。
「あと今日山尾さんに『明日来る』と連絡しておいた。田原駅に着いたら、茶色の車を探すんだ、それが山尾さんの車だ。」
「ありがとうございます。」
「くれぐれも気お付けてね、よろしく伝えてね。」
そして私は応接室から出て、出掛ける準備を始めた。
そして翌日の午前七時半、私は青山壮から半田駅に向かって行った。そして八時発の電車に乗った後、二回乗り換えた。そこから新幹線で西明石まで行き、さらに三回も電車を乗り換え、やっと田原に到着した。田原駅ではすぐに、茶色の車を見つけることができた。こちらに気づいた男が手を振った。
「君が昨日の電話で聞いた六蔵君だね、私は山尾哲平だ。よろしくな。」
「はい、よろしくお願いします。」
私は山尾の姿を改めて見た、布袋様のようなお腹におおらかな顔、それでいてじゃりじゃり生えた髭。まさに山男という感じだ。私は山尾さんの車で、自宅まで送ってもらった。到着までの間、山尾は野口さんの事について、私に尋ねた。
「野口さんは半田で元気にやってるかい?」
「はい、毎日お世話になっています。」
「野口さんのコーヒーは、凄く美味いからな・・・、ほらあそこ!」
「あれですか?」
信号で止まる車から山尾は、右側にあるコンビニを指した。
「あそこに野口さんの喫茶店があったんだ、あそこで飲んだカフェ・ラテはおいしかったなあ。そういえばよく言われてたよ、『ブラックはなんで飲まないのか?』とね。」
「今でも言いますよ。まあ、それは僕がカフェオレ好きだから・・・。」
山尾は車を走らせ自宅に着いた。その家を見たとき、私は驚いた。白く塗られた二階建てのきれいな家、山男にはとても似合わない家だ。
「さあ、どうぞ。」
「お邪魔します。」
家の中を見ると、自然を全身で感じることができる室内。壁にはなぜか、沢山の動物・植物・山の写真が入ったフレームが、飾られていた。
「いろんな写真がありますね。」
「僕はカメラマンなんだ、国内のみでの活動だけどよく美しい自然を、撮影しているんだ。」
「彼が六蔵君?私は董、よろしくね。」
山尾の妻が挨拶した。
「天野六蔵です。ところで哲平さんはよく、家を空けているんですか?」
「まあそれが仕事だからね。」
「家族の写真は撮らないんですか。」
私が山尾に尋ねると、山尾は何枚かの家族写真を見せてくれた。しかしなぜか、全て親戚の家か遊園地などで撮影されたものだ。
「ピクニックの時に撮ったものは、無いのですか?」
「あの人、自然の中にいると写真撮影ばかりで、私と娘のことはほったらかし。そして気づいたときには、家族写真を撮るフイルムすら残ってないの。」
「アハハ、職業病かな?」
山尾は、豪快に笑ってごまかした。その日は山尾の家に泊まり、明日開かれる誕生日パーティーに参加することになった。午後三時ごろ、山尾は私に「いい場所を見せてあげる、一緒に行かないか?」と誘ってきた。退屈だったので、行くことにした。車で向かう途中、山尾はその場所について話した。
「これから行くのは芦ヶ池といって、ここじゃ一番大きな池だ。ただの貯水池だけど、そこに写る夕日はとてもきれいなんだ。」
「そうなんですか。」
「それに、芦ヶ池には大蛇がいるという伝説があるんだ、アナコンダの五倍ぐらい長いのが。」
「本当ですか?」
「それはわからないけど、ロマンがあって面白いじゃないか。」
山尾はまた豪快に笑った。いい意味で前向き、悪い意味で楽天的だ。山尾の家を出て四十分後、芦ヶ池に到着した。しかし日がまだ高かったので、しばらく池の周りを散歩しようと思った。
「山尾さん、しばらく池の周りを散歩しててもいいですか?」
「いいよ、足を滑らせて落ちないようにな。」
私は池の周りを、ただ何も考えず歩いていた。広大に広がる池を見て、「確かにここに写る夕日は、きれいだろうな。」と思った。歩くのを一旦止めて腰を下ろすと、私から十メートル離れたところに、一台の軽トラックが停まった。そして二人の男が軽トラックから降りると、荷台からスクラップを運び始めた。私は身をかがめながらその様子を見ていると、二人の男はスクラップを池の中へと入れた。間違いない、不法投棄だ。
「あっ、不法投棄だ!」
私が言うと二人の男は、足早に軽トラックに乗って逃げた。酷いことを・・、と私が思っていると池の中から声がした。
「ダレダ、ワラワノイケヲケガスノハ。」
私が池の方を見ると、大きな泡の後に大きな水しぶきがした。私はずぶ濡れになって池の方を見ると、ビルのように大きく赤い目をした緑の大蛇が、私を見下ろしていた。大蛇は舌をチロチロさせながら、私を睨みつけた。
「キサマカ、ワラワノイケヲヨゴシタノハ?」
「違います、二人の男です。私は見ました、二人が池を汚すところを。」
「イイノガレトハ、ミグルシイ。キサマハバツトシテ、イケヲマモリシワレヘノクモツニナルガイイ。」
弁解が通用しない、とは言っても足が何故か動かない。私の人生もここまでか・・・と思った時!突然彼が現れて、大蛇にパンチをした。
「あっ、パラディン!」
「ふっ、本当はこんなことをするのは不本意だが、自らの契約者を守るためならやむを得ない。」
大蛇は倒れて、大きな水しぶきを上げた。
「早く、逃げよう。」
「待て、その前にやることがある。この蛇に、どう落とし前をつけさせるかだ。」
大蛇は巨体をゆっくりと起こした。そして彼に敵意の目を向けた。
「キサマカ、ワレヲナグッタノハ!」
「ああ、よくも俺の従者に手を出したな。その罪、どう償おうか?」
「ナントイウゴウマン、キサマサテハアクマダナ。」
「そもそも何故、こんなことをした?」
「オマエノジュウシャタルモノガ、ワガイケヲケガシタカラダ。」
「それは違うよ、二人の男が池に何か捨てたのを見たんだ!」
「なら、魔鏡の力で真実を見てみよう。」
彼は一枚の丸い鏡を呼び出した、それは巨人が使うかのように巨大だ。
「この鏡に真実を映し、それによりどちらかに悪魔の裁きを下す。」
丸い鏡は光だし、三分前の事を映し出した。鏡は私の言う事実を、彼と大蛇に見せた。
「コレハ・・・、ソウダッタノカ。」
「六蔵、お前が正しいようだな。というより大蛇よ、本当はわかっていただろう?六蔵は犯人じゃないと。」
「グヌヌヌ・・・。」
「どういうこと?」
「こいつは空腹のあまり、人を食べようとした。つまり誰でもよかったから、お前に言いがかりを付けて食おうとしたのだ。」
「え・・!?」
「ソウダ、ワガモクロミヲミヌクトハサスガアクマダ。ナラキサマカラ、クッテヤロウ。ワガカテトナレ!」
大蛇は彼に向って襲い掛かった。
「ああ!やられる・・・。」
「闇に堕ちろ、蛇が!」
すると大蛇の背後に、大穴が開いた。その穴から禍々しい闇が流れこみだした。そしてその闇は巨大な綱となって、大蛇を縛り上げた。
「グワーッ、ナンダコレハ!?」
「お前のすべき償いだ、悪魔王・サタンの元へ行き生贄として、サタンに尽くせ。」
そして大穴から巨大な悪魔の手が現れた、悪魔の手は大蛇の首元を掴むとそのまま大穴の中へと戻り、大蛇を池からごぼう抜きした。そして大蛇の全身が闇に消えると、大穴も塞がった。
「大丈夫か?次はこういうことがないようにな。」
そう言い残して、彼は消えた。そこへ山尾さんが現れた。
「大丈夫か!いま凄い声がしたけど、君の声か?」
「違う、僕じゃない。」
「そうか。なら今日はもう遅いから、家に戻ろう。」
私と山尾は車に向かって歩き出した。戻る途中、芦ヶ池に赤い夕陽が写っていたが、先程の光景が頭から離れないため、夕陽を見る余裕は無かった。車に乗り込み、走行中の車の中で私は、山尾さんに大蛇を見た事を話したくなり、口を開いた。
「山尾さん、実は信じられない物を見たんだ。」
「なんだい、それは?」
「芦ヶ池の大蛇だよ!」
「大蛇?なんのことかわからないなあ?」
「えっ!?いやだって、芦ヶ池に行く時に言っていたじゃないか。アナコンダの五倍はあるのがいるって?」
「アハハ、確かにそんな化け物がいたら面白いな。でも残念ながら、芦ヶ池はただの貯水池だ。」
これ以上言っても無駄だと思った私は、黙り込んだ。私は困惑した、おかしいのは私か山尾さんのどっちなのだろうか?山尾さんの家に付き、豪華な夕食を食べている時も、入浴している時も、何故大蛇伝説が忽然と消えてしまったのか、私は考えていた。しかし答えは見つからず、とうとう彼に尋ねることにした。
「ねえ、一つきいてもいいかな?」
「なんだ?」
「山尾さんがねあれ程面白そうに言っていた大蛇伝説を、忘れてしまったというか最初から無かったふうに言うんだ。どうしてなの?」
「それは闇に裁かれたからだ。闇に裁かれた者は、存在だけじゃなく存在していたという事も、失ってしまう。ちなみに六蔵、それはお前にも言えることだ。」
「どういうこと?」
「そのお守りを持つ者は、死ぬときに闇に召される。つまり、お前がこの世に生まれて生きた事も、いずれ消えてしまうのだ。」
「そんな・・・・、もっと早くいってよ。」
「今更悔いても仕方ない、死ぬときは私が案内してやろう。」
落ち込む私を、彼は珍しく慰めた。
「・・・ありがとう、こうなったら悔いが無いように生きてやる。」
私は人生の目標ができた。
そして翌日の午前十一時、山尾哲平の誕生日を祝うために、多くの親戚や友人、さらに恩師や山男仲間が訪れた。
「皆さん、今日は私なんかの誕生日に集まっていただき、ありがとうございます。どうか一日、楽しんでって下さい。」
「よっ、ひょうきん者!」
「早くやろうぜ!」
山尾家は大騒ぎ、アメリカのパーティーみたいに派手だ。山尾は自分が主役なのにも関わらず、参加者のためにバーベキューを振る舞った。
「みんな、じゃんじゃん食べてね!」
「お前が食べなくてどうするんだよ、お前もがぶりといけよ!」
「でも・・、みんなに悪いし。」
「あなたが楽しまないほうが、一番悪いわよ。ここは私に任せて。」
董にたしなめられ、山尾はようやくパーティーに参加した。
「山尾さんって、凄いね。どうしたらそんなに、顔が広くなれるのですか?」
私は山尾に尋ねた。
「私にもわからない。ただ生活していたら、いつの間にかこんなに知り合いがいただけさ。」
それは天性の才能というものである。私は山尾さんには、敵わないと思った。バーベキューの後、プレゼントを渡す時が来た。方位磁石やカメラのフイルムなど仕事で使うのもあれば、マフラーやドリームキャッチャーなど手作りのプレゼントもあった。そして私の番が来た。
「これは野口さんからのプレゼントです。」
「野口さんからか、なんだろうな?」
山尾は子供のようにワクワクしながら、つつみを開けた。
「これは、湯たんぽだね。冬の登山にとても便利だ!」
「使えるんですか、山の中で?」
「私は携帯のバーナーを持っているから、水さえあればいつでも使えるよ。」
山尾は得意げに言った。こうしてにぎやな時間は過ぎていき、私が半田へ帰る時が来た。半田駅まで車で送ってくれた山尾は、「野口さんによろしくね。」と言って私を見送った。帰りの電車の中で、私は田原での思い出に浸かっていた。
「どうした、そんなボーっとした顔をして?」
彼が現れた。
「ここでの思い出を、感じていただけだよ。」
「そうか、死んだら何もかも消えてしまうからな。」
「でも僕は、絶対に満足する人生を歩んで、見せるよ。」
電車の窓から見えた、地平線に沈む夕日に、私は誓った。
そしてこの話で最後に書くのは、波との一番深い思い出だ。私は波を危機から救い、そして結ばれるのだ。あれからどれぐらい時が過ぎたかはわからないが、内容は今でも覚えている・・・。
それは高校三年のゴールデンウイーク初日、昨日両親から「ゴールデンウイーク中は家族と一緒に過ごそう。」と言われたので、半田から帰省した。正直、一人で過ごしたかったが仕方ない。私がリビングでテレビを見ていると、インターホンが鳴った。寛助が出ると少し話た後、寛助と同い年の男性がリビングに来た。
「父さん、その人誰?」
「この人は波多野徹、波の父親だ。」
波の父と言われたのか、全身に緊張が走った。
「こ・・こ・・こんにちわ、天野・・六蔵です。」
「緊張しなくていいよ、今日は君に相談があって来たんだ。」
私と寛助と徹はテーブルに座った。
「徹さん、話しというのは何ですか?」
「波の事だ、実は八か月前に恋人ができたんだ。娘は浮かれて、その恋人とよく出かけるようになった。私は波の笑顔を見て、喜ぶのと同時に心配した。そしてその心配が当たったかのように、突然波は恋人と連絡が取れなくなった。悲しむ娘を見た私は記者のスキルで、恋人について調査した。そしたらその恋人が、とんでもない詐欺師だったということがわかった。」
「ホントですか!?」
私は波多野がそんなことになっていたなんて、一度も思わなかった。
「私は苦渋の決断で、波に調べた事を話した。波は彼氏の正体と私の勝手な調査にショックを受けて、塞ぎ込んでしまった。私にはどう波を慰めたらいいか考え、昔から波と信頼関係のある君に会わせることにしたんだ。」
「六蔵、行ってやりなさい。」
寛助に言われずも、私は波の元へと行くつもりだ。
「わかりました。」
「ありがたい・・・。」
徹はテーブルに頭をくっつけ、私に礼をした。
「徹さん、早速行きましょう!」
「ああ、では六蔵君をお借りします。」
私と徹は実家をでて、波多野家へ向かった。中学の頃は行けなかったので、どんな家なのか興味が湧いた。波多野家に着くと、私は驚いた。以外にも私の家と変わらず、違いがあるなら庭の広さだけだ。私は徹の案内で二階の波の部屋に着いた。徹はドアの向こうの波に、声をかけた。
「波、今日は君にお客様が来ている。天野六蔵くんだ、彼と話してみたくないか?」
「えっ!?来ているの。」
波の大声が聞こえた後、十秒間の沈黙が続いた。
「どうした、波?」
「パパ、私六蔵君と話したい・・・だから二人きりにして。」
「わかった。」
徹は「一階のリビングで待っているから、終わったら声をかけてくれ。」と言って、一階へと下りた。私はドキドキしながらも、ドアを開けた。
「久しぶりね、入っていいよ。」
私は波の姿を見て愕然とした。以前の元気は跡形もなく消え、やけ食いをしたのかお腹が突き出ている。
「波・・ちょっと太ったね。」
「あはは・・・、食べ過ぎちゃった。」
波は自嘲気味に笑った。
「ごめん!からかったつもりじゃないんだ。徹さんから全てきいたよ、彼氏に裏切られたんだってね。」
「うん、私人が信じられない。このまま幸せになれると思っていたのに、なにかトラブルに巻き込まれたのかと思っていたのに、みんな彼の自作自演だった。すごく悲しくて、引っかかった自分が許せなくて、気づいたらこの有様。ねえ、私楽になりたいの、あの悪魔の力で私を消して。」
「ほう、ついに我を頼るとは相当絶望しているなあ・・。」
どこから来たのか彼が現れた。彼は波に手をかざすと、波から絶望を吸収した。
「あれ?なんだか気分が楽になった。」
「そなたの絶望を取り込んだだけだ、ついでに魂をいただくとするか・・。」
「待って!だったら、波をこんな目に合わせた奴に復讐しよう。それでいいか?」
「おもしろそうだな、その代わりに波を苦しめた者の魂をいただくが、構わないか?」
「もちろんいいとも、波はどうだ?」
私は波に尋ねた。
「そうね、楽になったらあいつが許せなくなった。協力してあげる。」
そういうと波は、携帯でどこかにメールを送信した。
「実は奴のことを知っている人と仲良くなって、メルアドを交換したの。奴の名は風間、そいつを知っているのがひとみっていうの。明日ひとみと会って、風間の事を聞き出すといいわ。」
すると波の携帯に返信が来た。
「OKが来た、明日はお願いね。」
「波、ありがとう。」
「それはこちらの言葉。私、六蔵くんと仲良くなれてよかった。」
私の顔は紅潮し、すっかり浮かれてしまった。その後私は一階にいる徹に声をかけ、実家へと戻った。
「お帰り、波は元気になったか?」
寛助の問いに私は「大丈夫だよ。」とだけ言って、二階へ行った。
翌日、私は「ちょっと買い物をしてくる。」と言って家を出た。昨夜、波から「待ち合わせは犬山駅だよ。」とメールが入ったので、そこへ向かった。
「六蔵、我に考えがある。」
彼が現れた。
「何?」
「女というのは嘘をついたり隠したりとすることが得意だ、しかも下手に突き止めると派手に反撃されこっちが負けてしまう。そこで私がひとみとやらに暗示をかけて、嘘をついてるかどうかをわからせてやろう。」
「それはいい考えだけど、どう反応するの?」
「嘘をつくごとに、腹痛を起こす。」
「それはいいね、じゃあ頼むよ。」
彼は消え、犬山駅に着いた。すると手を振る女子の姿が見えた、ショートヘアーの黒いスカートが似合う、小悪魔系の女子だ。
「私はひとみ、君が波の元カレの六蔵君だね?」
「あ・・・、はいそうです。」
元カレといわれて複雑な気分になった。
「ねえねえ、君お金欲しくない?だったらいい話があるんだ、そこの喫茶店で話さそうよ!」
「いいや、金が欲しいんじゃなくて聞きたいことがあるんだ。そのことなら、話してもいいよ。」
「ぶーっ、わかったよ・・・。じゃあ、早く行こう!」
ひとみは子供のように私の手を引いて、喫茶店の中へと入った。私とひとみが席に着くと、彼はひとみに例の暗示をかけた。
「聞きたいのは波のことでしょ?」
「うん、そうだよ。波と風間って男は仲が良かったんですよね?」
「そうだよ、風間はイケメンで女子のことがわかっていて、ホントに理想の彼氏よ。私は波の事、そんなに良く思っていなかった。」
「そうか、そんなにいい人なのか。風間って何か仕事してるの?」
「うーん、わからないけどとにかく収入が多い仕事なのは、確かよ。」
するとひとみはお腹に手を当てた。
「あれ?何だか少し痛いなあ。」
「大丈夫?」
「平気、ところでもう聞くことないよね?」
「まだある、風間はどうして波を振ったの?」
「ああ・・・、実はね私が嫌がらせをしていたの。だってずっと風間のそばにいるのが、許せなくてね。」
するとひとみは両手でお腹を押さえた。
「痛い、なにこれ?」
途中、店員さんが注文の飲み物を持ってきた。店員はひとみのことを気にかけたが、嘘の事情で店員は気にせず、話は再開した。
「ところで、もう私の話をしてもいいかな?」
「あと一つだけ、実は風間が詐欺師だという話を聞いたけど、本当かな?」
「そんな訳ないじゃない!風間はそんな人じゃないもん!
ひとみは大きな声で言った、しかも瞳孔が大きくなっている。
「でも波から聞いた話だと、風間は突然音信不通になったそうじゃないか。もし風間が悪い奴じゃなかったら、どうして波との連絡をたったの?」
「彼はね、波に飽きたの。彼はプレイボーイだから多くの女子と遊ぶことを楽しんでいたの。でも波が彼と結婚だなんて本気で言うから、彼の飽きを早めてしまったのさ。うっ!」
ひとみは急に倒れた。周りの人や店員がひとみに駆け寄った。
「痛い・・、早くトイレに・・。」
「わかった、じゃあ行こう。」
私はひとみの肩を持つと、女性専用トイレへと運んだ。
「ちょっと、これは効き目が効きすぎだよ。」
ひとみをトイレへ入れた後、現れた彼に言った。
「そうだな、それにも係わらず嘘を言うとは・・。ある意味大した者だ。」
「これで風間がワルだということがわかった。そろそろひとみにかけた暗示を、解いてあげないと。」
「もういいのか、復讐でもっと苦しめてもいいが・・・?」
「本当にもういいんだ。」
彼はトイレからでてきたひとみに、かけた暗示を解除した。
「ふーっ、助かった・・・。じゃあ今度こそ、私の話を聞いてくれる?」
「わかったよ。」
私とひとみは席に着いた。
「じゃあ話すね、実はこの後私とある場所で買い物をしてもらいたいの。」
「それって、デート商法ってやつでしょ?」
私は声を低くして言った、ひとみはぎくりと目を大きくした。」
「そんなわけないよ、タダ今日一日あなたと付き合いたいだけ。」
「じゃあスーパーでもいいか?あそこの方が買い物を楽しめそうだ。」
「そこはだめよ、あの場所でなきゃいけないの!」
「どうして?」
「それは・・・、そこにはスーパーの雑貨屋には無い品物が売ってあるからよ。」
「どんなの?」
「たとえば、アクセサリーとか安くてかっこいい服とか。」
「そんなの、どこのスーパーでも買えるだろ。」
「じゃあもういい!帰る。」
ひとみが喫茶店を出ようとした時、私はひとみに尋ねた。
「風間が波を振ったのは、飽きたんじゃなくてただ金がもうもらえなくなったからじゃないのか?」
私の一言に、ひとみの体は硬直した。喫茶店の人達が何事かと、私とひとみのほうを見ている。
「あなた、やるわね。」
「やっぱり風間は・・・。」
「でもここじゃ話せない、場所を変えましょう。」
ひとみは私に少し悲しげな顔を見せた、そしておあいそを済ませると私とひとみは喫茶店を出て歩き出した。小さなベンチを見つけると、私とひとみは腰かけて、ひとみは真実を語りだした。
「あなたの言う通り、風間は詐欺師よ。しかもデート商法やマルチ商法など、あらゆる手段で人を騙しては金を取っているの。もしあなたが詐欺に気づかなかったら、この後例の店で買い物させて、さらに商品の損壊を偽って三百万は取るつもりだった。」
「そこまでやるのか・・・。風間はいつから詐欺を始めたの?」
「もう四年まえかしら。風間は暴力団との繋がりもあるし、違法な店を十店も持っているの。私は風間に可愛さを買われて、デート商法のトップをやらされているの。」
「足を洗うつもりは無いの?」
「もちろんあるわよ、でも借金を作っちゃって今は返済のために働くしかないわ・・。」
「そうか・・、ならやはり風間を刑務所送りにするしかない!なにか証拠があればいいんだけど・・。」
「それなら例の店に行きましょう、実はあなたと同じ考えの人がいるの。」
「本当か!?なら早速行こう。」
私とひとみはベンチを立って、例の店へ向かった。そこは洋風のかなり目立つ、中くらいの雑貨屋だ。店の中へ入ると、二十代後半の店の雰囲気に合わない男性がいた。
「いらっしゃいませ。」
「中野さん、今日は仕事じゃなくて例の話をしに来たの。」
中野は表情を変えた。
「もしかして、君も風間にやられたのか?」
中野は私に言った。
「いいえ、やられたのは幼馴染の波です。だから風間に復讐したくて、ここに来ました。」
「そうか、実は私は風間を逮捕できる証拠を持っているんだ。」
中野は店の奥に入っていった。少し経つと、中野は書類の束を持ってきた。
「これは風間が、いろんな人と交わした違法な契約の書類なんだ、もちろん波のもある。風間は企画・経営担当で、売り上げの計算や書類の管理は私の担当なんだ。」
「これで風間を逮捕できる、ありがとうございます。」
「待て、ただ警察に届けてもダメだ。相手は暴力団が後ろ盾になっているから、何をしでかすかわからない。」
「じゃあこちらはこの作戦でいこう。」
私とひとみと中野は、今夜風間を逮捕する作戦を計画した。今夜風間に売り上げの金を渡すことになっている、そこで風間に今までの悪事を警察に話すと脅して強行に出たところを、彼に取り押さえてもらうという作戦だ。
そして午後七時半、店の前に風間がやってくる時間だ。ドキドキしながら待つ中野とひとみの所に、スーツ姿のキザな顔の男がやってきた、彼が風間のようだ。風間は上から目線な態度で中野に言った。
「売り上げの金を渡せ。」
中野はおとなしく金の入った封筒を、風間に渡した。ここで風間を脅すはずだったのだが、風間は予想外の事を言った。
「あと、今日の昼頃にひとみと誰かとで、よからぬことを考えていたよな?」
中野とひとみは、顔を青ざめながらその場で硬直した。
「やはりな・・・、用心のために店に監視カメラを付けてよかったよ。」
「そんな・・・、どうして教えなかったの?」
「俺は疑り深い性格でね、こうすれば仲間の裏切りもいち早く察知できるんだ。さて、裏切るなら相応の覚悟を見せてもらおうか。」
風間が指を弾くと、黒スーツで派手なシャツを着た強面の男達が五人現れた。
「ここまでか・・・。」
「もう、ダメ・・・。」
中野とひとみがあきらめかけた時、突然店の看板が風間の目の前に落ちてきた。風間は間一髪でかわした。
「なんで、看板が・・・。」
すると今度は強面の男の一人が、ナイフを振りかざして風間に向かってきた。
「貴様、何の真似だ!」
攻撃をかわす風間に男は何度も襲い掛かり、ついに風間は右肩を刺されてしまった。
「・・・、あれっ!俺は一体。」
ナイフを持った男は、自分が風間を刺してしまったことに驚いた。そして私はさっそうと現れた。
「誰だ、お前は!」
「僕は天野六蔵、お前が風間だな?波の仇を打ちに来た。」
「波・・・ああ、求婚してきたあの女か。あれは見た目も金払いもまあまな、イマイチなおんなだったよ。」
風間はため息交じりに、波を侮辱した。
「波を悪く言うな!僕は絶対あんたを許さないからな。」
「せいぜいほざけ!俺の力を見せてやる。いけ、お前ら!」
風間の号令に男達が私に襲い掛かった、しかし目の前に現れた彼の姿を見て男達と風間は腰を抜かした。
「うわわわあーっ!」
「ふひひひ、さあどうやって地獄を見せてやろうか?」
彼の不気味な言葉とオーラに風間は傲慢と余裕を失い、私にすがりついてきた。
「助けてくれ、あの悪魔を何とかしてください!」
「なら警察に行って罪を償え、もしそうするなら病院に連れていってやる。」
風間は力なくうなずき、その後病院に運ばれた。
「ありがとう、これで自由になれた。」
「私もこれで一からやり直せる、君には感謝しかない。」
中野とひとみは私にお礼を言った、私もお礼を言ってその場を去った。
その翌日、風間の逮捕がニュースで報じられた。風間はなんと中野と一緒に会社を起こしたのだが、ある日ヤクザの親分に助けてもらい組の管理下に会社を置くことになった。もちろん中野は抜けることを風間に勧めたが、風間はヤクザの持つ経済力の虜になり反対に、中野を脅したのだという。その後はヤクザへの運上金の支払いと私欲のために、詐欺を重ねたという。そのニュースを見た波は、大喜びで私にお礼を言い、夏休みに長島スパーランドへ行こうと言い出した。何のことだろうと気になったが、『お楽しみにね!』と言われてそれ以上は聞かなかった。
そして夏休みのある日、長嶋スパーランドに行った私は波が来るのを待った。そして波が手を振って、こちらにむかって走ってきた。
「お待たせ!どう、似合う?」
「ああ、痩せたね波。」
「私、頑張ったんだ!」
以前の波とは明らかに変わった、スマートな体が淡い緑と白のビキニによく合っている。
「じゃあ、泳ごう!」
「ああ、そうだね。」
それから時間も忘れて私と波は泳ぎを楽しんだ。そして夕方、帰ろうと着替え部屋へ向かう私に波が言った。
「私、ずっと言いたかったことがあるの。」
「何?」
「えーっと、・・・六蔵・・くんが・・・。」
波が叫ぼうとした時、昼食を忘れた波のお腹から「クウッ」と音がした。
「何でこんな時に・・!」
顔を赤面する波を私は抱いた。
「波、一緒に何を食べるかを決めよう、大好きな波とならなんでも楽しくなれそうだ。」
私と波はしばらく、互いを離さなかった・・・。
続きはまたいずれに書こう。
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