第3話煉獄の日誌
さて手記の続きにとりかかろう、これから中学時代のことを書く。私は十三歳の時に、酷い過ちをしてしまった。そのせいでまた不幸なことが起こってしまった。それは、絶対に作ってはいけないものをつくってしまったのだ。しかも意図せずに・・。
それは中学へ入学した日のこと、私のクラスにごつい感じの男が入ってきた。男はもちろん教師なのだが、スキンヘッドで無精ひげを生やしていたためとてもヤバイ感じがした。サングラスをつければ、ヤクザかマフィアに見えてしまう。
「これから皆の担任になった、上珠政男だ。これから厳しく指導するつもりなので、みんな覚悟するように。」
上珠は厳しい声で言った。上珠は国語の担当で、規則に厳格で「廊下を走るな!」とか「不純異性交遊は厳禁だ!」とかいう、昭和末期から平成の初めの頃の先生だった。そのため生徒からの人気は皆無で、「ジョーズ」というあだ名でよばれ恐れられた。しかし私は不幸があまり起きなければ、そんなことなど気にしなかった。上珠はどうやら、このクラスの担任になった時に決めていたことが、あったようだ。
「早速だがクラスの規則を作ってきた、みんな絶対守るように。
規則一 放課の時間、トイレの中では、喋らずに静かにすること。
規則二 友達関係は認めるが、校内での恋愛関係は厳禁。
規則三 日誌を毎日書くこと、内容はその日最も印象に残ったことを書くこと。
以上」
上珠の突然の取り決めに大部分の生徒が文句を言ったが 、上珠の三白眼を見た瞬間、ビビッて黙り込んでしまった。
「そしてこれが規則で言った日誌だ。」
上珠は赤い表紙のノートを見せた、これが後に不幸の引き金になろうとはこの時、誰も思わなかった。
「日誌は出席番号順に書くことにする。よって天野六蔵、君からだ。」
私は上珠から日誌を受け取った。
「あいつ、早速ここを支配しはじめたぜ。」
彼が現れ、私の耳元で囁いた。
「そんなのどうでもいいさ、今はこの日誌に何を書くかを考えないと。」
その日の夕方私は、川野と一緒に下校した。
「六蔵って、運が無いよな。あんな訳の分からないのが担任だなんて、正直気の毒だぜ。」
川野が言うのも無理はない、中学になってから私と川野は別々のクラスになった。
川野の担任の先生は宇垣隆夫といって、見た目は普通だが器用で優しいため多くの生徒から慕われている。
「他人事みたいに言って・・・・、担任の先生をかえられたらなあ・・。」
私は本気で思った。川野と別れて家に着くと、日誌に取り掛かった。だがすきま風が強いせいか、パラパラとページがめくれてしまう。なにか小さくて重しになりそうなものを探していると、カバンについているお守りが目に付いた。
「あれを使おう。」
私はカバンからお守りを外し、日誌の端に置いた。おかげで日誌がスラスラと書くことができた。
「あーあ、やっちまったな・・・。」
ふと彼の声がしたが、気に留めることはなく、お守りをカバンに付け直した。そして翌日、私は上珠に日誌を提出した。上珠は「まあまあだな。」としか言わなかった。そして放課後、彼は突然私を呼び出した。
「お前、何故日誌を渡した?あの日誌はもうお前しか、使えないのに。」
「あの日誌はみんなが使うものだし・・・そもそも僕しか使えないって、どういうこと?」
「なら教えてやろう、昨日日誌を書くときにお守りを使ったよな?」
「うん、ページがめくれないように。」
「あれがいけなかったようだな、お守りにある不幸を招く力が、日誌に染み着いてしまったんだ。お前以外の者が書き込むと、その者は不幸なめにあうぞ。」
「そんな・・・・、そんなことになっていたなんて・・。」
私は愕然とした、ただみんなのことが嫌いなわけじゃないのに・・・。私がショックを受けていると、私の耳に聞き覚えのある囁き声がした。
「六蔵君、あれは何?」
「波多野さん!もしかして、みえているの?」
「ほう、契約者以外にも我が見られるとは、これはうっかりしてたな。」
彼は波多野を、物珍しい顔で見た。
「これって、悪魔・・・!」
走りだそうとする波多野の肩に、私は手を置いた。
「落ち着いて、この悪魔は僕の味方だ。彼は君を襲わない、だろ?」
私は彼に念を押した。
「仕方ない、契約者の頼みとあらば襲うのをやめよう。」
彼は仕方なしに頷いた。私は波多野に、彼との会話の一部始終を話した。
「じゃああの日誌に六蔵君以外の誰かが書くと、その人は不幸な目にあうということ?」
「そう、実は大森や草薙の件も、彼が関わっていたんだ。」
「その通り、あの二人は我が力で裁いてやった。六蔵を侮辱した罰でな。」
「じゃあもし私が、六蔵君に酷い事をしたら・・・、命はないということ?」
「そ、それは・・。」
私は戸惑ってしまった。その時、チャイムが鳴った。
「あっ、戻らないと!じゃあまた帰りにね。」
彼は消え、波多野と私は教室へと駆け込んだ。そしてその日の下校中、私は再び波多野と会った。
「話の続きだね・・・。」
「うん、私六蔵くんに近づきずらくなっちゃった。だってその気になれば、あの悪魔が抹殺するんでしょ?」
「波多野の言う通り、でも僕は決して君を恨まない。だからこれまで通り僕と、僕と友達でいてほしい。」
僕は波多野に、自分の気持ちを訴えた。波多野は十秒ほど沈黙すると、笑いながらこう言った。
「わかった、六蔵君のことは忘れないよ。そのかわり一つだけ教えてほしいことがあるの。」
「何?」
「六蔵君はどうやって、あの悪魔と出会ったの?」
私は波多野に、彼との出会いと契約した経緯を話した。
「そうだったんだ、じゃあ六蔵くんは悪魔より立場が弱いの?」
「そう、彼の宣言は死亡通告だからね。」
その後私と波多野は、さっきまでの微妙な空気を忘れるほどの楽しい会話をした後、それぞれの家へと帰っていった。
そして翌日、私は教室に入って机に座ると、伊ノ森進の机の方を見た。伊ノ森は私とは違う学校から来た、太めな少年である。声がいつも大きいので、元気の塊が服を着て歩いているという感じがした。やがて伊ノ森が教室に入ってきた、しかし暗い顔をして落ち込んでいる。これは何かあったに違いない。そして上珠がきて朝礼が始まった、上珠に呼ばれた伊ノ森は重い足取りで進み、上珠に日誌を渡した。日誌に目を通した上珠は伊ノ森に質問した。
「元太が死んでしまったとあるが、元太は友達か兄弟か?」
「違います、飼っていたゴールデンレトリーバーです。昨日の夜に散歩していたら、車にはねられてしまいました。」
伊ノ森はその時のことを思い出しすすり泣いたが、上珠の方は「慰める程のことじゃない。」という顔で、伊ノ森の方を見た。しかしこの時はまだ「これは偶然だ」と、私以外のみんなが思っていた。
そして次の犠牲者は、宇島塔子。彼女は松葉杖をして、教室に入った。上珠に日誌を渡す時も、おぼつかない足取りで歩いた。上珠は日誌に目を通すと、宇島に質問した。
「松葉杖をみればわかるが、どうして足を捻挫したんだ?」
「私は柔道を練習する時に受け身から始めるのですが、昨日受け身に失敗して足を捻挫してしまいました。昨日は昇段試験の日だったので、とても残念です。」
「それは残念だったな、早く治して次を目指せよ。」
上珠は昨日とはうってかわって、励ましの言葉を言った。この時はまだこのクラスの、一部の噂にしかなっていなかった。
三人目は太田三次郎、彼はケガこそしてはいないが顔が暗い。何かしらのショックがあったことは確かだ。日誌に目を通した上珠は、太田に質問をした。
「空き巣に入られたとあるが、カギはちゃんとかけていなかったのか?」
「おふくろがかけ忘れたそうです。それにしても、その空き巣頭おかしいでしょ!どうして現金だけじゃなくて、俺のマンガももっていくんだよ・・。」
太田は悔しそうに教卓をたたいた、それが上珠の怒りに触れた。
「くだらないことでめそめそするんじゃない!むしろこれで勉強に身が入ると思ったら、幸運じゃないか。」
太田はトボトボと、自分の席に戻っていった。そしてこの日誌は呪われてると、この時からみんな思うようになった。
四人目は、小野。あの広瀬と一緒にいた二人のうちの一人だ。彼女は学校にこなかったが、日誌はちゃんと提出したようだ。上珠の話によると、小野は部屋の花瓶の水を変えようと一階にある洗面所に向かおうとしたとき、足を踏み外して転げ落ち左足を骨折してしまった。日誌にはこの話は書かれていなかったが、みんなは不幸に怯えていた。そしてこの時、私に疑惑の目が向けられるようになった。
五人目は、加藤誠。この時は例外で不幸が連続で続いていた。まず昨日の下校中にカバンをひったくられ、追いかけている時に転倒。その後親に報告するために家路を急いでいたたら、カラスの糞が頭を直撃。そして家についたら母親に内緒で大人の雑誌を買っていたことがバレてしまい、怒られてしまった。そしてやっと母親にカバンを取られていたことを伝え、警察に通報。幸いカバンは見つかったが、財布だけ取られてしまったということのようだ。加藤は上珠に「昨日は人生の中で最も不幸な、一日でした。」と言った。日誌を読み終えると、上珠は生徒たちに言った。
「この日誌は後で私が採点するとして、一つ言いたいことがある。今日までの内容の大半が、不幸な事ばかりじゃないか。印象に残っているとはいえ、朝からこんなことを言っていたら気分が重くなるだろ?来週からは明るい話題を書くようにするんだ、わかったな?では以上だ。」
みんなはきっと、「明るい話題なんてそうあるわけないだろ!」と、思っていただろう。そして放課後、図書館へ向かう私にみんなが、「お前、日誌に呪いの呪文か何かかけてないだろうな?」と執拗に迫られ、嫌な気分になった。
「ふひひひ、上珠のやつ。来週はちゃんと学校にこれるかな?」
彼が現れた。
「どういうこと?」
「日誌の中の呪いの力は最高潮に達した、もしかしたら犠牲者が出るかもしれんぞ。もしそうなれば・・、ムヒヒヒ。」
彼は幽霊もドン引きするほどの、気持ち悪い笑みを浮かべながら消えた。私はその日、上珠の無事を祈りながら、眠りについた。しかしこの祈りは天に通じなかった。翌日の土曜日、私はテレビのニュースを見ていた。その中のある一報に、私は目を丸くした・・・。
「昨日午後十一時半頃、犬山市のマンションで火災が発生しました。出火元は705号室のごみ箱で、原因はタバコの不始末と視られています。この火災で、出火元の部屋に住んでいた42歳の男性で教師の上珠政男、706号室に住んでいた女性の伊藤薫、そして606号室に一人で住んでいた最年長の男性の後藤悠太。計三名が、焼死体で発見されました。」
私は驚きのあまり、持っていた箸を落としてしまった。花之も目を丸くしている。
「上珠政男って、あなたの担任だよね・・・。」
「うん。」
「先生は死んでしまっても、あなたは頑張っていきるのよ。」
花之は私を励ましたつもりのようだが、上珠の悪い印象のせいであまり、死を悲しむ気にはなれなかった。
「ひゃっほーい、俺の予想どおりになった!どうだ、嫌いな奴が死んで清々しただろう。」
確かに上珠は厳しすぎて教師としては最悪だったが、意図せず殺したことに複雑な気持ちになった。その日は川野と平野と一緒に、買い物に行く約束になっていた。出かけようとすると、インターホンが鳴った。もう二人とも来ていたようだ。
「六蔵、早く行こうぜ。」
「わかったよ。」
私はさいふを手提げ袋のポケットへ入れると、家を出た。そして歩いてから二十分ほどするとスーパーマーケットに着いた。まず平野の新しいカメラを買いに行ったが、なかなか決められず結局この日は、カメラを買うことは無かった。次に本屋に寄った、川野は大好きなマンガの単行本を三冊買い、私は気になる小説を五冊ほど買った。
「君相変わらず、小説が好きだね。マンガとかに興味ないの?」
「僕は小説のほうが落ち着くんだ。」
そしてお昼になったので、レストランエリアのラーメン屋に入った。私と川野は豚骨ラーメン、小食な平野はギョーザを注文した。そして料理が来るまでの間、こんな会話をした。
「そういえば今日、ジョーズが火事で亡くなったってニュースで言っていたの、知っている?」
「知ってる。」
「マジで!全然しらなかった・・。」
「六蔵くんは、このニュースどう思う?」
「僕は・・・、なんかあっけなく死んでしまってから、どう感想にしたらいいのかわからない。」
「俺は六蔵らが、ラッキーだったと思うぜ。おれ国語の授業中にジョーズに、怒られまくったからな。思い出しただけでもイラっと来るぜあいつ。」
「まあ硬派というか頭が古いというか・・、上珠先生は先生の間でも浮いていたからな。」
「そうそう、特に世話焼き石が愚痴ってたぜ。なんであんなのが、教師になれたんだって。」
「世話焼き石って、誰?」
「ほら、保健室の岩関雄先生だよ。」
岩関雄は保健室にいる先生で、とにかくあれこれあなたのためだと言ってくる。そのため、世話焼き石というあだ名がついた。
「でもどうして、世話焼き石はあんなこと言ったんだろう?」
「その理由、知りたい?」
平野が、私と川野の興味を誘ってきた。
「教えろよ。」
「じゃあ話すね、実はジョーズはヘビースモーカーだったてこと、知ってた?」
「えっ、本当!?学校で吸ってるところ、見たことないぜ。」
「まあ校内は禁煙だから知らなかったのは無理ないけど、それでジョーズは帰るとき、毎日必ず一本校舎の外で吸っていたらしい。それを見かねていた世話焼き石はある日、ジョーズに禁煙を勧めたらしいんだ。そしたらジョーズは一体、どうしたと思う?」
「まさか、殴ったとか!?」
「うーん、大声で怒鳴った?」
「違う、ジョーズは世話焼き石の胸ぐらをつかむと、お得意の三白眼でこう言ったんだ、『うるせぇ、俺の勝手にさせろ。』と低い声で。」
私と川野はその時のことを想像し、体をブルブル震わせた。
「ヤバすぎるだろ!」
「それで暴力沙汰にはならなかったけど、あの日以降世話焼き石は、ジョーズのことを避けるようになったそうだよ。」
「そりゃそうだよな、あいつはやっぱり教師のクズだ。」
川野は怒りながら、コップの水を一気に飲んだ。やがて注文した料理がきたので、三人は美味しそうに食べた。そしてそのあとはゲームコーナーで思いっきり遊んだ後、私は二人と別れて家路を歩いていた。するとそこへ、彼が現れた。
「あーっ、美味かったぜ。」
「なんか嬉しそうだね、何かあったの?」
「ついさっき、奴の魂を食べていたところだ。」
「もしかして・・・、ジョーズの?」
「そうだよ。」
「なんで食べたの?契約と話が違うじゃない!」
「悪く言うなよ、それに奴が死んだのは君のせいでもあるからじゃないか。」
それを言われると、私は彼に何も言えなかった。仕方なく今回は、彼を許すことにした。そしてもう、あの日誌を見ることはないだろうと思っていた。そして二日後の月曜日、クラスの大半が上珠に代わる新しい教師がくるのを、期待していた。しかしチャイムが鳴って入ってきたのは、教頭の真吾先生だった。
「えー、この度亡くなられた上珠の代理として担任になった、仁和真吾だ。私のことは教頭と呼んでも構わない。みんな担任が亡くなられて悲しいようだが、君たちは生きられなかった人たちの分まで、生きなければならない。そのためにも勉強を、がんばらないとな。」
真吾はかっこいいことを言ったが、生徒が上珠の死を悲しんでいるというのは、幻にすぎなかった。
「実はみんなに一つ話さなければならないことがある。昨日警察が学校に来て、警察からこの日誌を受け取った。なんでも火元だった上珠の部屋から見つかったものだが、見ればわかる通り焼けることなく新品同然だ。そこで、この日誌をどう処分するかを決めたい、皆の意見を聞かせてくれ。」
真吾は赤い日誌を見せながら言った。どうして焼けずに残ったのか、私は考えていた。すると生徒の一人がこう言った。
「その日誌は六蔵のせいで、呪われた。六蔵くんが責任をもって預かるべきだと思います。」
その言葉にみんなは私に、キツイ視線を向けた。私はその言葉に同意し、真吾に言った。
「教頭先生、その日誌は僕が預かります。いいでしょうか?」
「そうか・・、よし、じゃあこの日誌は六蔵くんに預けよう。異議はないな?」
クラス全員が頷き、日誌は私のもとに来た。そしてその日の帰りに、私は彼に聞いた。
「どうしてこの日誌は、焼けなかったんだろう?」
「魔力が付いたからさ、それでお前はその日誌をどうするんだ?」
「決まっているだろ、封印する。」
私は家につき自分の部屋へ行くと、いつの日かの旅行で買ったせんべいの缶をみつけてふたを開け、その中に日誌を入れふたを閉じ、ガムテープを長めに五回切って貼り付け、押し入れの最深部へと入れた。
しかし私はこの禁断の封印を、自ら解いてしまう。それこそが、第二の大火の始まりだった・・・。それは中学二年の時、夏休みも終わった九月の中頃のこと。幸福も不幸もないが、ありがたき平穏が続いていた。私が窓の外を眺めていると、伊ノ森が話しかけてきた。
「なあ六蔵、去年の四月に君に預けた「呪いの赤い日誌」って、まだ家にあるか?」
「あるよ、それがどうしたの?」
「今話題のミステリー番組、「不思議の支配者」って知ってるだろ?俺その番組に、日誌のことを投稿したんだ。そうしたらなんと、一週間後に取材に来ることになったんだ!」
「ホントか!?」
「ああ、しかも生放送だし、取材の後その日誌を使った検証をするらしい。六蔵君、よくとっといてくれた。ありがとう!」
「・・・あの、なんでもっと前に僕に知らせなかったの?」
「ごめん!気付いた時にはもう、ハガキを出した後だった。」
「そんな無責任なこと言うなよ・・・、正直あの日誌はページを開くのも嫌なんだ。」
私はため息をついた。
「本当にごめん、今まで無視したことも謝るよ。」
「もういいよ、なってしまったことは仕方ないから。」
私は伊ノ森を突き放すように、席を立った。それにしても、この手のひらの返しようには驚いた。テレビの力を改めて知った。そして家に帰ると、花之に相談することにした。
「母さん、言いたいことがあるんだけど、いいかな?」
「なに?相談なんて珍しいわね。」
「一週間後に、テレビがここに来るんだ。」
「えっ!?あなた、なにかに葉書出したの?」
「違う、クラスの誰かが勝手に応募した。それでね、あの日誌について取材するんだって。」
「去年預かってきた、あの赤いノート?」
「何で知ってるの!?」
「掃除してたら、押し入れの奥から見つかった。安心して、ちゃんと戻しておいたから。それにしても急に来るなんて・・、その誰かさんに言っておいてくれる?これからは前もって言っておくようにとね。」
「それでね、その日誌をテレビに映してもいいかな?」
「いいよ、それぐらい。」
「でももし、その日誌になにか邪悪な力があったら・・・。」
「なに言っているの?そんなわけないじゃない。」
そうだ、花之には彼のことを言っていなかった。しかしそのセリフからして、おそらく信じてもらえないだろう。私は相談する相手を間違えたと思いながら、自分の部屋へと向かった。そして私は、彼を呼び出した。
「なんだ、相談というのは?」
「あのね、あの日誌を使うかどうか悩んでいるんだ。」
「ほう、お前が意図せずに生み出したというあれを? 封印するほど避けていたのに、なにがあったのだ?」
「実はねその日誌を見に、人がやってくることになったんだ。しかもその日誌を実験に使うというんだ。」
彼はこの時、日誌をテレビの人に渡せば、魂を食らえると考えた。
「だったら渡せばいいじゃないか。」
「やだよ!そんなことしたら、君はまたその魂を食べるじゃないか。」
「何を言う、今回も自業自得だろう。」
「違うんだ、クラスメイトのある人が僕の許可を取らずに、勝手にテレビに教えてしまったんだ。それでこんなことに・・・。」
前回とは違う事を察した彼は、こう言った。
「だったら勝手にしたことについて、強く恨めばいい。そうすれば私の力が発動させれば、そいつに復讐ができる。」
「でも、それは無理があるよ。」
「いいか、この日誌を封印されたままにしておけば、死人が出ることはない。お前はそう思っていた。しかしそいつにより、自分の決意が崩されてしまった。そう考えれば、自然と復讐したくなるさ。」
確かに自分の決めたことを自分で破るのは、すごく不快だ。すると不思議と復讐心が、湧いてきた。
「なんか、君の言うことがすこしわかる気がする。そもそもそいつも、最初は私と一緒で日誌が呪われたことを、うらめしくおもっていたのに・・。」
「そうだろ?それで、日誌は使うのか?」
「使う。」
私はついに言ってしまった、私は自分の押入れから日誌が封印されている缶を取り出すと、ガムテープを強引に引きはがしてふたを開けた。
「やっぱり、みんなも自分も裏切れないよな。」
私はこうして、日誌を使う罪悪感をかき消した。
そして取材当日、私と両親は首を長くしながら、ディレクター達が来るのを待っていた。三日前から掃除をしたので、家全体が一段ときれいになっている。
「バラエティー番組だったのは少し残念だけど、六蔵がテレビに出れるのは、大変嬉しいことだ。」
「父さん、バラエティーもニュースもないよ。そもそも僕は、自分の意志で出演したいなんて、一言も言っていないんだから。」
「あっ化粧するの忘れてた。」
「母さん、しなくていいよ。美容の番組じゃないんだから。」
家族でガヤガヤ話していると、インターホンが鳴った。家族全員で玄関へ行ってドアを開けると、タキシード姿の二枚目の顔をした男が挨拶をした。
「はじめまして、幻守迷師です。今回は取材をしに伺いました。」
幻守は流ちょうにお辞儀をした。幻守は「不思議の支配者」の司会をしており、霊能者という触れ込みで、自らミステリーを調査している。顔と紳士的で不思議な立ち振る舞いで、当時多くの女性を虜にした人気者だ。私と家族と幻守はリビングへと向かった、その後を追いながらディレクターとカメラマンが家のなかへ入った。私と花之と幻守が、机に向かい合って座ると取材が始まった。
「では質問を始めます。赤い魔の日誌を持っているのは、あなたですか?」
「はい、元はなんの変哲の無い日誌だったのが、僕が書き始めたとたん呪われた物と、なってしまいました。」
「投稿者によると、その日誌に書き始めた日に、飼っていた愛犬を事故で亡くしたそうですが、他に不幸な目にあったは人はいませんか?具体的に覚えていたら教えてください。」
「そうですね・・・、柔道の受け身に失敗して足を捻挫したり、空き巣に入られてマンガを盗まれたという話などいろんなものがありますが、やはりジョーズが亡くなったことは今でも、強く頭のなかに焼き付いています。」
「ジョーズというのは、上珠政男のことですか?」
「はい、怖い先生だったので、当時はみんなからそう呼ばれていました。」
「ご両親は、この日誌のことについて、なにかお子さんから聞いていましたか?」
「いいえ、初めて知りました。」
「私も、日誌自体は見たことあるのですが、呪われていたとは思ってもいませんでした。」
「わかりました、では本題に参ります。日誌を見せていただけませんか?」
「いいですよ、持ってくるので少し待っててください。」
私は席を外して、二階に上がった。幻守は視聴者へのセリフを言いながら、待っている。私は日誌を持って、再び一階のリビングに戻ってきた。
「これが例の、日誌です。」
「では拝借します・・・・、むむっ!?・・これは・・・。」
幻守は目を丸くしながら、日誌を睨んだ。おそらくこれまでにない、強く怪しい何かを感じたに違いない。
「これは本物だ。手に取った瞬間強い力が、私の体に走りました。」
幻守は日誌をめくった。
「あっ、六蔵以外の誰かが書き込んだところが、血のように赤くなってる!」
「えっ!?ホントだ。」
私は日誌のページに顔を近づけた、これは私でも知らなかった事実だった。
「この日誌は今までの物と違う、本物だ。もしかしたら・・・、六蔵君は運がいいよ。」
幻守は私の肩をゆすりながら、満面の笑みを浮かべた。しかし私は、何が嬉しいのかわからなかった。
「六蔵君、この日誌を貸してくれないか?」
「いいけど、一つだけ約束して。この日誌に字を書きこまないことを。」
「カット!・・・君、その約束は困るな。」
ディレクターの男がチェックをいれた。
「なんで?」
「この後、検証のためにこの日誌に、書き込むことになっているんだ。だからお願い。」
ディレクターの男は、私に手を合わせてお願いした。
「そうだぞ六蔵、番組の邪魔をしちゃだめじゃないか。」
「・・・うん、わかったよ。」
私は幻守に日誌を渡した。
「六蔵君、約束するよ。僕はこの日誌に絶対、書き込んだりしない。」
「ちょっと、どうしてあんたが検証実験に、反対するんだ!」
ディレクターの男は幻守に向かって、怒鳴った。
「この日誌は本物です。本当に書き込んだらこの日誌に、殺されるかもしれません。」
「何を怯えている、所詮この日誌は偶然の重なりで、呪われているといわれているだけだ。いいか、我々は視聴者のためにこの番組を作っているだけで、ミステリーとはそのための素材にすぎない。とにかく視聴率を上げ人気を得るには、視聴者が望むことをするの。いいかね?」
幻守は怒りを拳に収めると、「わかりました。」と言った。私もこのディレクターの男のセリフが、ミステリー番組を作る人のものとは思えなかった。その後幻守とディレクター達は、車に乗ってテレビ局へと向かった。
「あの幻守という男、相当なものだな。」
「君には、彼が霊能者だってわかったの?」
「ああ、稀に見る奴だ。さて彼は、お前との約束を守ることができるかな?」
彼はそう言いながら消えた。しかし私は、幻守のことが心配だった。翌日から私は、クラスメイトの注目になった。私はクラスメイトに、幻守は大丈夫かなと質問した。しかしクラスメイトの誰もが、「今までのは偶然で、二度と悲劇は起こらない」というばかりだ。そしてそれから五日後ついに、「不思議の支配者」の放送される日が来た。普段は両親とテレビのチャンネルでもめごとを起こしている私も、両親と仲良く同じチャンネルを見ていた。いつものコーナーの後、生放送の時が来た。
「さあいよいよ我らが幻守迷師による、世紀の検証実験が始まりました!場所はこのホテル「ニューホーム」です。果たして日誌に秘められた力は、本物なのでしょうか?」
レポーターの男が、派手に紹介している。
「おっと今、幻守が日誌に字を書き込みました。」
やはり視聴者のためならと、私の約束はあっさり破棄された。
「さあどうなるのか・・・、あっーーと!日誌が黒く輝き、ページが血塗られたように赤くなりました。おわわわっーーーーーと!大変だ、日誌から火が出た・・・・ぐわああーー・・・・うわあーーーっ・・・、ザーーーーー。」
私と両親はテレビの前で、顔面蒼白になった。やはりあの日誌には、呪いの力があった。偶然ではない、必然なものが・・・。その後、「不思議の支配者」がこの日、放送されることはなかった。翌日の丑三つ時、私は強い尿意に目が覚めてしまいトイレに向かった。そしてトイレから出てベッドに戻ろうとした時、誰かに肩を叩かれた。
「父さん・・・。」
と私が振り返った途端、私は目を疑った。そこにあったのは、火事に巻き込まれたはずの幻守だった。
「六蔵君・・・。」
「わわわ、幻守さん!」
「それは芸名だ、真と呼んでくれ。今日は君に言いたいことがあって、来たんだ。」
「もしかして、僕を呪いにきたの・・?」
「違う、君に謝らなければならない。君の約束を無視したばかりに、大惨事を引き起こしてしまった。これは君に預けておくよ。」
真は日誌を、六蔵に手渡した。
「ありがとうございます。」
「これで思い残すことはない、私は君を見守っている。」
そう言い残して真は、晴れるように消えた。
「ほう、日誌自身が所有者の元へ戻ったか。」
「今更戻ってきたところで、僕はもうこの日誌を使わない。やはり処分すべきものだ、これは・・・。」
私は自分の過ちに、ケリをつける時が来たと感じた。
「ねえ、この日誌を処分する方法を教えて。」
「いや、せっかくの日誌を・・・」
「教えないなら、死ぬ覚悟はある。」
私は真剣な顔で彼の目を見た。
「お前、本気のようだな。いいだろう、教えてやる。そのかわり今は寝たほうがいい。」
「わかった、後で必ずだよ。」
私はベッドへと戻った。
そして朝六時、テレビでは「ニューホーム」の火災についてのニュースが流れていた。内容によると火災の原因は不明、ニューホームは全焼し倒産。司会者とディレクターの死により、「不思議の支配者」の放送打ち切りが決定した。そしてその日の午後五時頃に、勝手にお宅の日誌について投稿したことで、伊ノ森とその母親が謝りに来た。そしてこの日から私はクラス内で「異形な存在」となり、伊ノ森は番組を潰した者としてしばらくみんなから無視されるようになった。そしてその日の夜に私は、彼から日誌を処分する方法を、伝授された。
「まず、十字架か聖書を日誌の上に置くんだ。」
私は物置に入って、亡くなった祖父が持っていた聖書を見つけた。それを持って自分の部屋へ戻ると、聖書を日誌の上に置いた。
「そしてこの呪文、『ノロカエリマ・ラクマンド』を十回唱えるんだ。」
私は「ノロカエリマ・ラクマンド」を十回唱えた。すると日誌は、青いオーラに包まれた。
「これで呪いの力は徐々に弱くなっていく、後は一年間置いておいて焼却すれば完了だ。」
「ずいぶん、面倒だな・・・。」
「確実にやるにはこれしかない。もっと早く終わらせる手もあるが、かなりの代償が必要だ。」
私は日誌を聖書ごと缶に入れると、再び押し入れの一番奥へと入れた。
そして季節は巡り、ついに一年が経った。中学三年になった私は、志望校である半田農業高校に入学するために、勉強に明け暮れる毎日を送っていた。だがその頃にはいいこともあった、私以外で一人だけ彼のことを知っている波多野波から告白された。その日私は波多野と一緒に下校した、付き合い始めてからの習慣になっていた。
「六蔵君、勉強ばかりしてて大丈夫?」
「なんとかね、波多野さんはこれから塾?」
「もう大変だよ・・・、六蔵君は塾に行かなくてもいいなんて、羨ましい。」
「それは違う、家は金銭的に苦しいだけ。」
実はこの年の二月に寛助が働いていた会社が倒産、三月に再就職するも収入は以前の半分になってしまった。そこで花之がパートとは別にアルバイトを始めた、そのため以前よりも私一人だけの時間が増えたのだ。二人とも、私の入学のために苦労していると思うと、やる気が出る。
「私も家が貧しければ良かった。」
「そんなこと言うなよ、家は学費をひねり出すのに精いっぱいなんだ。」
「ごめんね・・・、あっもう時間だ!じゃあまたね。」
花之は大急ぎで走り出した。私はそんな波多野を、じーっと見つめていた。
「おい、聞こえるか?」
彼の囁きも、耳に入ってこない。
「聞いているのか!」
彼に体を揺すられ、私は我に返った。
「なんだよ・・・。」
「お前、明日が何の日かしってるか?」
「えっとーーーー、両親の結婚記念じゃないよね?・・・。」
「わすれたのか!日誌を処分する日だよ。」
私はハッと思い出した、私の行動が原因で生み出されてしまった恐怖の日誌、これまで五人も焼殺したやばいノートだ。
「そうだった、明日へのじゅんびをしないと。」
私は走って家へ帰った。そして寛助の部屋からライターを、玄関先から新聞氏の束を持って、自分の部屋へと向かった。翌日両親は用事で家にいないため、焼却するならその日しかない。私はいつもより二時間早く、床を取った。翌日、わたしは強く体を揺すられた。目を覚ますと、そこには怒った顔をした彼がいた。
「いつまで寝てるんだよ!もう、朝の八時だよ。」
私は部屋の時計を見た、彼の言う通り八時だ。今までこんな大寝坊はしたことがない、今までの勉強による疲れが原因だ。
「そうか、もうそんな時間か・・・。さてご飯を食べよう。」
わたしがドアを開けようとした時、異変に気が付いた。本棚の隣に置いたはずの日誌と新聞紙の束が無くなっていて、聖書とライターしかなかった。私は部屋の隅々を見まわしたが、見当たらない。私は一階にいる花之に聞こうと階段を下りたが、花之も寛助もいない。
「まさか廃品回収に出しちゃったのか?なんてことだ・・・。」
今日は廃品回収の日でもあることはわかっていた、でも花之が部屋を片付けに来るとは予想外だった。でも日誌を取り返す術は無い、私は茫然とするしかなかった。
「おい、大丈夫か?」
「ああ、あの日誌一体どうなるんだろう・・・。」
「おそらく、聖書が外れた時点で呪いの力は元通りだ。おそらく近いうちに、新たな事件を起こすだろう。」
彼の言葉に、私は絶望した。もっと早く処分すべきだったと自分を責める言葉が、頭の中で流れ続けた。もう勉強も手につかない私は寝ようと二階へ上がっていった・・・その時!インターホンが鳴った。私は面倒だという顔で、ドアを開けた。そこにいたのは近所に住んでいる竜司さんだった。そして竜司さんは右手に、日誌を持っていた。
「あっ、その日誌!どこにあったの?」
「玄関先におちていたよ、でもどうして濡れているんだろう?」
私は日誌を手に取った時、夕立にあったかのように濡れていることに気づいた。その後、竜司は回覧板を渡して去っていった。
「戻ってきたな、しかも濡れたせいで魔力が弱くなっている。処分するなら今だ。」
「でも、これじゃ火が付かないよ。」
「ライターを持ってくるんだ。」
彼の言う通り、私は自分の部屋からライターを持ってきた。
「そして火をともせ、そして私がこの火を強くする。そうすれば、日誌は焼却されるだろう。」
「わかった。」
私は裏庭へ行ってライターに火を付けた、その火に彼が力を与えた。そして私はライターの火を、日誌に付けた。すると不思議なことに火は、日誌だけを包み燃え上がった。そして私は後のニュースで収集車が火事になった事を知った。こうして人を焼殺した日誌は、最後に炎に焼かれて灰になった・・・。
これで中学時代の話は終わりです、次回はまた今度。
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