003

 市街地から離れ、畦道をとぼとぼ歩いて行く。山の輪郭がはっきりしてくる。麓の木々の間から、灰色の尖塔が突き出ているのが見える。

 鬼の城。

 鬼は鬼でも、マントの吸血鬼とかが棲んでいそうな欧風の外観。

 門前に到着する。あまり怖いとは思えない。ジオラマでも見ているみたいで、現実感がさっぱりない。

「こんにちは」

 振り向くと、私と同じ制服を着た子が立っている。

 秋生さんだった。明るい声で話しかけてくる。

「珍しいね、冬馬くん。こんなところで」

「ちょっと、寄り道。……秋生さんは今帰ったの?」

「そう。買い物で遅くなっちゃってね」

 お茶でもいかが。いただくわ。

 柔和な笑みを浮かべた秋生さんに、私はふたつ返事で館内へ招き入れられる。

 館の中から埃っぽさは少しも感じられない。古びているようにも見えない。書割みたいというのだろうか。

 階段を上り、長い廊下に出る。

 秋生が尋ねる。

「冬馬さん、どうしてうちに?」

「なんでかな……わからないんだ。いやな夢を見てね」

「夢?」

「私はぶよぶよの肉塊になっていて、すごく大きな屋敷で目覚めるの。そこで誰かに助けられるんだ。その屋敷が、もしかしたらここなんじゃないかと思って」

「大きな屋敷なんて、ここ以外にそうないしね」

「だから、なのかな。中に入ったことはなかったんだけど」

 もっと決定的な理由があった気がする。

 私は話題を変えて尋ねる。

「この屋敷には入学を機に引っ越してきたの?」

「そうだよ。掃除が大変だった。まだ埃が溜まっていて、とてもじゃないけど入れないところがたくさんある」

 秋生さんの部屋は廊下の突き当りにあった。

 私を室内へ残して、秋生さんは紅茶を入れに台所へ向かう。

 ベッドと洋服ダンス、本棚、テーブルとソファ。

 簡素な部屋。

 私は迷いつつソファに腰を下ろす。

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