10.道標

 ふしぎの森の入口には大抵看板が設けてある。今ちょうど彼女の前にあるものが、いわゆるそれであった。

 ふしぎの森は腕試しの場と言われる。なぜ生まれたのか誰も知らず、イタズラな神の仕業とまで嘯くものもいる。

「……ほんと、いくの?」

「そりゃ……まあそのためにきたわけだし?」

 中にはお宝があるとか、太古の秘密が眠っているとか……とにかく入って出てきた者の話によると、各々得るものは違うのだという。

 その時最も欲しいと思うものが手に入るという者もいる。

「……」

 彼女はじっと隣の相棒の顔を見つめた。最も欲しいものが既にある場合はどうなるのだろうか。二番目になるのか、それとも別のものになるのか、逆に失うのか。

 腕試しはしてみたいものの……。

「どしたの?俺の顔になんかついてる?」

「いんや。あんたは呑気でいいわね」

「なんだなんだ」

「さ、いってみよっか」

 理不尽な不平に顔をくちゃくちゃにしてみたものの、相棒は黙ってついてくるし、彼女もいつものように歩みを進める。

 さて何が出るものやら……答えはまだ、わからない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る