05.五月はららら

 おかしな音色とお菓子な音色。

 例えば時折紡ぐ恋のメロディと、時折紡ぐ鯉のメロディ。


 彼女がこいのぼりの歌を歌いながら、待ち合わせ場所に現れたのは、五月五日のこどもの日だった。昔から菖蒲湯に入ったり、ちまきを食べたり、五月人形やそれこそこいのぼりを飾ったりする日である。

 今でこそその行事が励行されることは少なくなったけど、それでも部分的にしっかり引き継がれている。こいのぼりは唱歌で、言い回しは古いけど知ってる人は少なくない。

 そのあたりの話はおいといて。

 とにかく、まあ、歌詞を九割覚えていないこいのぼりをらららとうたいながら、頭にタンポポの綿毛をつけながら、彼女は現れたのだ。


 彼女はそういう奴である。

 初デートのとき、Tシャツを後ろ前にきてきた。自宅デートの時、丹念に掃除機とコロコロをかけた僕の部屋のカーペットに袋を大破させてポテチをぶちまけた。縁日にいった時はコケて綿あめに顔をつっこんだ。

 そういう間抜け……天然……というような、その類の人間なのだ。

 でも彼女は僕のうちのサボテンが嵐で飛ばされた時は夜まで一緒に探してくれたし、困ってるおばあちゃんをおんぶして横断歩道を爆走したこともある。笑顔はいつだってとてつもなく可愛いし、一生懸命さはひたむきで、優しくて……。

 とにかく良い奴、その類の人間なのだ。


「らららーらー…………待たせた?」

「今来たとこ」

 三十分前に来てたけど待ち合わせ時間は今が丁度だし。

 気の抜けた鯉のメロディを聞きながら、空に泳ぐ気持ちよさそうなこいのぼりを見上げる。

「柏餅あるよ」

「やったー!」

 五月五日、今日はらららとても良い天気。

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