04.夜のかんばせ

 月の横顔は美しい。穏やかな夜の光に映えるステンドグラス。

 星星の光は恥ずかしがるようにささやかで、月に見下ろされた夜道を二人で歩いていた。

「「あの」」

 かける声が重なると、二人はそれぞれ口の中でもごりとなんでもないですと言ってしまうのだから、会話は続きようがない。

 運河に映った月は、可笑しがるように歪んでいる。

 暖かな夜だった。

 遠くで汽笛が聞こえて、なんとはなしにはっとさせられる。夜の海を渡って、一体どれほどの人やものが、異国の地へと運ばれていくのだろうか。

 薄ら霧が出てきた。夜霧が月の顔をベールで覆うと、二人はどちらともなく手を伸ばす。おずおずと伸ばされた手がもう片方の手をしっかりとつかむ。

 例え遠く異国にいこうとも、決してはなさないと言わんがばかりに。

 月のかんばせは、その横顔は、笑っているか。

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