02.森海の底

 深緑に揺蕩う巨竜の背中は、私だけの特等席。彼、あるいは彼女の機嫌の良い時に、そこでともに木漏れ日を浴びるのだ。

 ここは空の底。森の果て。深い緑と青の中を様々な竜や鳥たちがゆるやかに泳いでいる。

 ただこんなに大きな体をしているのは、きまって彼だけなのだった。

 長い時間を生きる存在である彼と、私の言葉は違う。けれど不思議と通じ合い、互いに怯えたり威嚇したりすることはなく穏やかに付き合っていた。

 一度彼が、森の底の更に底まで連れていってくれたことがある。

 私を待っていたのは、象牙色の、あるいは苔むした巨骨だった。

 彼の様子を見て骨に触れる。

 そしてわかった。

 横たわり森の一部のようになった大きな骨は、彼の父かあるいは母、もしくは先祖なのだということ。

 骨は所々朽ち果てて、小さな竜の巣になり、あるいは魚の寝床になっていた。森になっていた。

 私と彼がいずれ眠る時が来たら、おなじようになるのかしらと……徒然に思っていた。

 深い森の奈落の淀みは、波もない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る