第28話 成人式は着せ替え人形!?

今年の1月、息子が成人式を迎えた。

一生に一度の成人式、今持っているスーツは高校卒業時に購入したものだ。

だが、成人式の為にスーツを新調するのもいかがなものかと思っていたところ、息子から「今あるスーツで出るからいいよ」と申し出があった。

それは有難いと思っていたのだが、ネクタイだけでも新調してやったほうがいいのかもしれないと帰省中の娘と大型量販店へと出かけてみた。

 紳士服専門店でいい色合いのネクタイを見つけた。私も娘も気に入った色だったのだが、店員さん曰く「ご本人様とご一緒にいらっしゃったほうがいいかと思いますよ。」との一言で私と娘は早々に諦めてしまった。

 それは何故か・・・娘と私は淡いブルーのネクタイを気に入ったのだが、当の本人の息子さんは原色が好きなのだ。前シーズンのアメフトの練習、試合、着るもの履くもの小物まで全て蛍光イエローだったのだ。そして今シーズンの練習着は全身ブルー、まるで占いでいう「今年のラッキーカラー」状態なのだ。

娘と私の意見は一致した。「きっとあやつはこれを選ぶことはないだろう。」と。


帰宅すると、娘と私は本人抜きで息子のネクタイ問題で盛り上がっていた。

お互いの推しの衣装を照らし合わせてみたり、いいとこどりしてみたり。

息子のスーツは黒、ワイシャツも黒、ならば、ネクタイも黒っぽくしてネクタイの上からシルバーのネックレスしてみるのもいいかも!?などと、大盛り上がりしていた所に息子から連絡が・・・「ネクタイは持っとるやつをつけるけんね。」と。

高校卒業時に買ったのはワインレッド系の柄物のネクタイ。まぁ、本人がそれでいいのなら、まぁいいか。と娘と話していた所に母が割って入ってきた。

「黒のネクタイならあるよ。」と。

娘はすかさず食いついた。「どんなの?」

母は飄々と答えた。「ちょっとよさげな(よさそうな)織物の生地のやつ」

その言葉を聞いた瞬間、私の脳裏にあるものが浮かんだ。

私はテーブルに肘をつき手で頭を押さえながら言った。

「ばぁさん、それってもしかしてさ、黒糸で刺繍してあるやつだよねぇ?」

すかさず母は答えた。「そげそげ、般若心経!」

私が顔をあげると、母は眼鏡越しにいたずらっ子の様な不敵な笑みを浮かべていた。

母の顔にしっかり描いてある。

「してやったり(笑)」

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