第25話すっぴん狂想曲

 年齢も50歳を過ぎ、半ばどころに差し掛かった今頃、私は何やらお肌の手入れに着手した。曲がり角はとうに過ぎているのに今更としか言えないのだが、もう少し自分を磨いてみてもいいのではと思うようになったのである。

 今まで自分に手をかける時間と手間とお金もなかったことから(あっ!お金は今も無い!)日常的にすっぴんで過ごしてきた。

一人目の娘が生後間もなくアレルギーを発症したことからアレルギー発症原因はわかってはいるものの、何かの拍子に発症するかもしれないという恐怖に駆られていたのも事実であり、私の顔を触った手を口に含んで発症するのが怖かった。そんなことは無いであろうことは今では理解できるのだが、その頃は恐怖のほうが勝っていたのだ。当時は旦那の病状も微妙な時期だったこともあり、世帯収入も不安定なことから、自分にかけるお金をブッタ切ってしまった。そう、意外と化粧品は高額なのだ。自分の中でも化粧品が占める優先順位はとても低かったのだ。

 独身の頃はそれなりに化粧もしていたのだが、亡父は化粧があまり好きではなかった。バッチリ化粧して帰省しても、すぐに落とせと言い放つ。自然と帰省時にはすっぴんで帰省するようになった。そう、母もすっぴんの人だ。子供の頃から家には化粧品というものがなかった。子供の頃から手荒れ肌荒れにはアロエを庭からとってきては塗られ、友達の家にお母さんの化粧品が置いてあるのが不思議な代物で輝いて見えたものだ。

 母は年季の入ったすっぴんの人で結婚式に出席するにもすっぴんで行こうとし、親族一同で羽交い絞めにされ口紅を塗られたという逸話を持つ人だ。母のお手入れは本当に、水道での洗顔のみなのだが、これが意外としわが少ない。そばかすはあるもののそんなに老けて見えるわけでもないのだ。この母を見ていた自分は”いけんじゃね?”などと思っていたんだよねぇ。

 娘が高校を卒業し、化粧をし始めたころに母が娘に聞いていた。

「お姉ちゃんは、誰にお化粧習ったの?お母さん?」

すると娘は「そんなわけないじゃん。グーグル先生だよ。グーグル先生は聴いたらちゃんといい具合に教えてくれるけん。」そういうとちょっと自慢気な顔をした。

「そりゃあ、いい先生だねぇ。」と何もわからずに納得した風の母に娘は、「おばあちゃん、これだよ。」とスマホを手に取って母に見せた。母は驚きながら「しゃん事も教えてごさいかね?」と目を丸くしていた。そんな母が今や何でもグーグル先生に相談しているのだ。ゲーマーは飲み込みも早いもんなんだと感心する。

 娘は私の事を”冠婚葬祭にしか化粧をしない母”と格付けをしている。

確かにそうだった。行事の時にしか化粧はしなかった。なので、必然的に化粧の腕は上がらない。そしてひと昔前のメイクなのだ。がっつりやりすぎて、私の目はおたぬき様のようになるのが定番だったのだ。ナチュラルメイクなんて知らなかったしねぇ。

 そういえば、独身の頃、地元に帰るきっかけとなったのは、県外で一人暮らしをしていたころに原因不明の発熱に長期間悩まされたことがあった。病院にかかるも何もわからず、業を煮やした両親によりアパートを引き払い地元のかかりつけ医の元へと行くと、総合病院への受診を促された。そして総合病院へ入院することとなったのだ。私はその時も(今思えば)何故かバッチリと化粧していた。発熱が日常化していた為に体がだるいというのも普通の感覚でいつも通りにに化粧をしていたのだ。病院からは、今、病棟から迎えの看護師が来ますのでと言われ、母と二人で待合で待っていると、車いすを押した看護師が現れ、「じゃぁ、病棟に向かいますのでこの車いすに座ってくださいね。」と言って母を乗せ出ようとしたところで、母と私が、「あのぉ、患者は娘(私)ですけど。」と言った。はっ!やばい!と思ったであろう看護師は「ごめんなさいねぇ。」と言いながら、私を車いすに乗せた。

 

 まぁ、病院にがっつり化粧していくことがそもそもの間違いなんですけどね。

あっ、推しに会いに行くときはきちんとナチュラルメイクして行きましたよ。

冠婚葬祭だから。




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