第23話”やぐらみがき”ってなんぞや?

私にはここの所思い出せない言葉があった、コロナ過の間に7回忌を迎えた父の言葉だった。「わしの仕事はな・・・・」と昔からよく聞いた言葉だった。

それが何故か私の心に引っ掛かり、一緒に住む母に夕食を摂りつつ聞いてみた。

「じーさんの仕事でさ、俺の仕事って言ってたのはなんだったっけ?」

「昔に聞いたはずなんだけど、言葉が出てこらんでさ、なんかすごく気になってさ」

と、聞くと・・・母は

「あ~なんだったかいね?私にもよく言っとったわ。」

「そ~そ~あれあれ。”やぐらみがき”」

ん?

私の頭脳がフル回転しだす!ビールを飲んでいるから少し動きは鈍いものの徐々に脳裏に生前の父が居間でグラスを片手に笑っている姿が浮かんできた。

”やぐらみがき”!!

「そげだわぁ~!それそれ!!」

父は、私に昔から「わしの仕事はやぐらみがきだ!」と言って聞かせていた。

思い出した。そう、その言葉だ。

私の中で何かがスッと落ち、肩が楽になった気がした。

ここ何年の間、ずっとモヤモヤしていたものがパァーっと晴れた気がした。

すっきりした気分で母の顔を覗くとなにやら少し子供のように拗ねたような不貞腐れたような何とも言えない顔をしていた。

「なんだ?」

と、聞いてみると、ん~と言いながら話し出した。

「結婚前にさ、『休みの日は何されてるんですか?』ってじぃさんに聞いたらさ、『やぐらみがきしてますよ』っていうもんだから、へぇ~休みの日も仕事するなんてえらい働きもんだわって思ってさ、こんなに働き者だったら結婚してもいいかもしれんて思ったらさ、『やぐらみがき』ってこたつにはまってこたつの足を上下に擦りながらテレビ見とるってことだったに!!!」

「テレビ見とるだけだがや!!って、もう、おらんけん言うけどさ。どげ思う?」

やばいっ!母がヒートアップしてきた。だが、その言葉を発する父も目に浮かんできて、笑いが止まらない!腹が痛い!思わずビールでむせ返る!

「もったいないことするだないわね。大丈夫かね?」

と、冷めた顔で母が言う。

そういえば子供の頃に父に頼み事をすると、

「今、忙しいけん無理だわ。やぐらみがかないけんけん。」

と返答した姿が目に浮かんできた。そう言って私の頼みごとを回避してたよね。

じぃさんや。

あんた、いつからそれを言い続けてたんよ。

じぃさんや、あんた生きてたら今度米寿よ!

一発芸じゃないんだから。

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