第15話 手作りマスク

コロナの中、マスクが店頭から無くなった頃、県外に引っ越す娘に向けて手作りマスクを作り持たせた。少々不格好ではあったが、娘の気に入った柄の布地で8枚ほど作り、当分の間持つであろうと娘に持たせた。その頃はまだ3月末で緊急事態宣言前だったので、手作りマスクの型紙もあまりなく、ネットでダウンロードした型紙でせっせこと作ったのだ。娘がそのマスクを使っているのかどうかは知らないけどね・・・

 その話を母にした。不織布マスクも残り少なくなってきたことから、母も作ると言い出したので、私の職場のおじさまから、奥様自作の立体型マスクの型紙を分けてもらい母と私は手作りマスクを作り始めたのだが、100均の店からは、布地もゴムも店頭からは消えていた。どうにか自宅にあった布地とゴムを使い作り上げたのだが、家族には不評!布地の柄が気に入らないようだ。布地が手に入らないのだからしょうがない。わがままとは言わないが、少しくらい我慢せぃや!と心の中の私が叫びをあげながら、母の所へと、顔を出した。

 「できたわよ~」と嬉しそうにマスクを見せてきた母の手には、立体型のマスクが2枚。黒が基調のチェックのマスクと青が基調のチェックのマスクと2枚出来上がっていた。「いい具合にできとるがね」と私が言いつつよく見ると、どこかで見たことのある布地なのだ。「これってもしかして・・・・」と私が口にすると、母が、ん?という顔して薄笑いを浮かべながら私をみた。

「これって、黒はエプロンの生地だけど・・・この青って、どっかで見たことがあるけどさ、もしかしてじじいのパジャマじゃない?」と、私が言うと、「あらぁ、よう覚えとったわねぇ。そげだに」と母は笑いながら答えた。「おじいさんのパジャマのズボンのすそ部分。丁度マスクの型紙を大きさがいっしょでね。いいでしょ。」と、言う。「パジャマだで?嫌じゃないかね?」と私が聞き返すと、「だって穿いてないとこだよ。新品の時に裾上げで切ったとこだけん、きれいなもんだわね。」と答えが返ってきた。

そう、私の父はその昔、格闘技の経験者だった。相撲に柔道。完璧に格闘技系の体系だった。上半身はがっちり。下半身は短めでどっしり。まさに柔道着が一番似合いそうな体系だったのだ。普段の洋服を買うにも一苦労、上半身に合わせると下半身は、武士のようにズボン引きずる形になるのだ。母は毎回ズボンの裾を切り、ズボンの裾上げをしていた。全ての服においてそうだったので、十数年前父がモフモフのパジャマを買ったとき、裾上げをしたパジャマのズボンの端切れをそのまま端だけをまつって私の二人の子供のネックウォーマーにしたんだよな。服のサイズが大きいから子供の首にスポッと入るのだ。特に息子はじいちゃんとお揃いだって喜んで小学校へとつけていってたな。ズボンとも知らずに・・・・

物持ちのいい母は、父のズボンの裾の端切れを大事に取っておいてたんだよね。

まさか、この時期に役立つ時がこようとは誰も思ってなかったんだけどね。

母は、今も父のパジャマのマスクをして、仕事場へと向かう。職場でも「あら、かわいい手作りマスクね。いい柄だがね。どこで買った?」と聞かれ。

「亡くなった主人のパジャマの端切れなんですぅ」と照れ臭そうに笑みを浮かべて

答えているようだ。「あら、いいじゃない。すてきよぉ」って言ってもらえたのと

私に嬉しそうに話す母だが、パジャマだと聞いた人は何て思うんだろうか。

いくら未使用とはいえ…パジャマだで。ばあさんや。

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