第三話 学園最下位と呼ばれた男

 反逆の意志を見せてしまった俺は、猿コンビに取り押さえられていた。

 二人組の一人は俺の背中に乗っかり、もう一人が俺の目の前にいる。

 前にいる方が短刀を取り出し、スッと俺の首元に刃を突き立てた。


「御影志騎。てめぇは俺の武器を笑った。だから殺す」


「……」


 このままでは本当に殺されかねないので、命乞いをしよう。


「待ってくれ猿岩石……これは誤解だ。俺は笑っていない。むしろその小さな武器に関心してんだ」


「あぁあん?? 小さな武器に関心だと? 嘘は寝てから言え! ガチで殺すぞ!」


「嘘じゃない。心の奥底から思っている。だってそうだろ。その武器は、動きやすくするために、わざと小さくしているのだろ? 無造作に霊力を流し込むのではなく、しっかりと要領を操作して、必要最低限の力だけを鉄器に込めて形を変えている。霊力の操作ができるなんて、繊細な人間でなくてはできない。さすがは猿岩石!」


 最初こそ仏頂面でこちらを睨みつけていたが、褒められたのが余程嬉しかったのか、彼の顔が怒りから喜びへと変わって言った。


「ようやく俺の真の力に気付いたか御影志騎。お前、なかなか見る目あるな!」


 彼は一旦短刀をしまい、嬉しそうな表情で俺の肩を叩いた。

 彼が自己評価の高い勘違い野郎で本当に助かった。

 こんな人間で霊力のコントロールができるわけがない。

 ヤツの武器が小さい理由は、単純に器が小さく、霊力が低いからだ。

 

「猿岩石さん。ニヤケてないで、僕らが来た理由を思い出してください」


「理由? ……あ。そうだ。俺が来た本当の理由!!」


 猿岩石の目が鋭くなり、彼は再び短刀を取り出した。


「無駄話は終わりだ。ここからが本題。おい、御影志騎。俺らがここに現れた理由、分かるよな?」


「いいや、分からない」


「分からないじゃねーよタコがッッッ! 分からねーなら教えてやるよ!」


 ヤツが短刀を地面に突き立てた。


「情報は全部、隠蓑るん平先輩から貰ってんだよ。てめぇは今、間違いなく、確実に言ってはいけない台詞を口にした。知らねーと言っても無駄だぜ。そんなウソじゃ誰も騙せねー。こちらには電子信号の履歴が残ってんだ。てめぇは二回も言った!」


 二回言ったことまで知られている。

 やはり誤魔化すことは不可能なのだろうか……?


「てめぇは知ってるよな? 反逆者がどうなるか?」


「粛清だろ。知ってる」


「それなら話は早い。それじゃ早速、てめぇが郷間様に逆らおうと思ないほど

ボッコンボコンに殴らせてもらうぜ。御影志騎、俺を恨むなよ。俺はお前のためを思って殴るんだ。すべてはこの学園の平和のために……。どうせ恨むなら、あの方に反逆しようと考えた自分のことを恨むんだな。んじゃ、今から殴るぜ!」


 先ほどまでちらつかせていた短刀を投げ捨て、彼が拳を高く掲げた。

 刀で攻撃せず、拳で攻撃してくるのかと、心の中でツッコミを入れた。 

 ――って、ツッコミを入れている場合ではない。このままでは殴られる。

 だから俺は彼に殴られる直前「それでも言ってない!」と叫んだ。

 すると彼は驚きの表情を浮かべ、勢いよく振り下ろしていた拳を止める。


「う、嘘つくんじゃねーよ!! このタコがぁああああああああ! 言っただろ! テメェは間違いなく、あの方を倒すって口にした! 証拠は揃ってんだよ!」


「言ってない」


 揺るぎない眼差しを猿岩石へと向けた。


「言っただろ!!」


「言ってない」


 絶対に譲らない互いの主張。


「何度も言わせるな猿岩石。俺は何も言っていない。言ってない相手を殴ることは郷間親衛隊的にどうなんだ? お前らにはルールがあるのだろ? 幹部の指示で粛清する相手を決めている。それはつまり、粛清対象ではない人間を殴れば、ルール違反になるのではないだろうか? 森の中ここで何も言っていない俺を殴れば、それはお前らの勝手な判断になるのではないか? 勝手な行動は親衛隊では許されるのか?」


「いや……でも、お前は間違いなく、反逆の意志を見せた」


「本当に? 本当に俺は反逆の意志を見せたのか?」


 質問を投げかけると、猿岩石は難しそうな表情をする。


「本当か嘘かと言われれば……本当だと思う。俺らはさっき隠蓑先輩から電話を貰い、森の中にいる御影志騎を粛清してこいと言われた……と思う。たぶん」


「俺を殴る前に、しっかりと確認した方がいいんじゃないか?」


「……んー……確かに……。確認は必要だよな……」


 すると彼は携帯電話を取り出し、誰かに電話をかけ始めた。

 

「……クソッ、出ない……」


 しかしどうやら相手は電話に出なかったようだ。


「おい、猿滑。お前の所にも電話言ったよな。隠蓑先輩は『森にいる御影志騎を粛清してこい』って言ったんだよな?」


「え……覚えてないっす……」


「ハァ? あぁああクソッ使えない野郎だな……」


 お前もな。お前も相当使えないヤツだと思うぞ。

 この二人が三歩歩けばなんでも忘れる鳥頭で良かった。


「確認できねーんじゃ……お前をボコボコにする訳にはいかねーな。幹部の指示で粛清しろと言われた以外の生徒を殴れば、それは親衛隊のルール違反だからな」


 彼は「クソッ」と吐き捨て、渋い表情のまま武器をしまった。


「間違いなくお前が何かを言ったと思うけど、証拠がないのでどうしようもできない。どうしようもできないなら、俺らはもう何もしない。俺はお前を殴らない」


 それは良かった。ようやく解放してくれるようだ。

 一時はどうなるかと思ったが、案外あっさり簡単に解放してくれたな。

 

「「……」」


「……ん?」


 猿岩石が見逃してくれると言うのに、猿滑が背中から下りてくれない。

 俺は彼の方へと視線を向け、「下りてくれなっか?」と尋ねた。なのに彼は小さく首を横に振った。次に俺は猿岩石へと視線を向け「下ろしてくれないか?」と尋ねた。だけど彼も首を横に振った。なんでお前俺の邪魔をするんだ?


「御影志騎。反逆の件はコチラの勘違いだってってことで解決だ。だけどよ、お前、大事なことを一つだけ忘れてないか?」


「……」


 このまま気づかれずに話が終わると思ったが、痛いところに気付いたな……。

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