Live.04『戦う相手は僕じゃない! ~AIMING AT YOUR BACK IS A FOUL OF BEING A WARRIOR~』
翌日、一行はエターナルの反応跡から場所を特定し、昨日の撮影場所へと急行する。
そこには昨日の放送の後に自力で場所を特定したと思われるMARiKAファンらしき人々と警察関係者が数名いた。当然そこにMARiKA本人はいなかったわけではあるが。
『取りあえずカタリさん。警察の方に話をしてみましょう。あしらわれるかもしれませんが、負けないで!』
「うん。頑張ってみるよ」
トリを頭の上に、バーグはインカム越しにいつもの行動スタイルで情報を収集しに行く。陽気の下、退屈そうにあくびをする警官におずおずと声をかける。
「あのぉ、ここ何かあったんですか?」
「ん? はい、昨日ここで例の変質者による犯行が行われたらしく、たまたま近くにいたウィーチューバーのMARiKAさんが通報したんだそうですよ。なんでも生放送中に出くわしたそうで、多くの視聴者が犯行現場を見てしまったのが災いして、こうして見張り中なんですが」
警官からの情報は昨日の生放送にあった通りの内容に違いなかった。もっとも犯人の姿については知らされてないのか、それ以外の情報は何も得られなかったが。
映像の再確認をしようにもあの配信は動画として投稿されておらず、MARiKA側から無かったことにされているのは明白。ある意味では予想通りといった結果だ。
『さて、手詰まりですね。一応ノベライザーのレーダーは稼働させていますが、やはりエターナルの足取りは掴めないままです。変に周囲をうろつくと警察の方に怪しまれますし、どうしましょう』
「他のファンの方々にも聞き込み──したところで何も変わらないのは周知の事実ですね」
場所を変えて路地の出口にて話し合う三人。現場へ無理に押し通ろうとすれば補導されかねない上に、人通りが少なくないこの場所で
となると、ここは警察関係者らが立ち退くまで待つのが最善手か。時間をかけてしまうのは間違いないが、どのみち当日中には出入り出来るだろう。そう思ったところで、バーグはある反応をキャッチする。
『……? 都内の上空に謎のエネルギー反応を検知しました』
「えっ、まさか、エターナル!?」
『あ、いえ……エターナルの反応ではありません。おそらくこの世界特有の物かと。カメラに映すのでタブレットを出してください』
謎の反応とやらが現在地の近くから検出されたという情報。エターナルではないらしいが、一体何なのか。言われたとおりタブレットを出してハッキングしたカメラの映像を繋ぐ。すると──
「──!? こ、これって……!」
「間違いありません! アウタードレスです!」
タブレットに映し出されたのは巨大な登山服。動くたびに様々な箇所にぶら下がっている登山用具を揺らしながら近付くそれは、まるで透明人間が着込んでいるかのよう。
一目見てそれがLSBの敵、アウタードレスであることは理解した。場所もそう遠くない。
「良いタイミングで現れましたね。では最初の通りアウタードレスの撃破に向かいましょう。もう間もなくMARiKAらも来るはずです」
「うん。じゃあトリさん。
「……! あ、そこの君! 今避難警報が出た! 近くに緊急避難所があるからそこへ行きなさい!」
街中が喧騒としている今なら堂々と
確かにこの非常事態宣言下ではそうせざるを得まい。だが──ここにいる三名には関係ない話。
「警官さん。僕らのことは大丈夫です。他の人たちを先に誘導させてください」
「何を行っているんだ? いいから君も──」
「いえ、本当に大丈夫です。僕らがあの怪物を……倒しますから」
その瞬間、トリの
突然の出来事に驚きを隠せない警官。すると、そのすぐ側にアウタードレスの他に巨大な物体が現れた。
青色の人型。きらりと日光を反射する『カクヨム』と投影されたバイザー。それがアウタードレスの前に立ちはだかる。
「新しい……ロボット!?」
それの正体を知る者がいないこの世界。人々にはそれが、全く新しい“アーマード・ドレス”に見えているのだった。
†
「よし、バーグさん、トリさん。やろう!」
『はい! MARiKAさんたちとの接触前にさっさとやってしまいましょう!』
気合い十分、やる気を込めて音頭を取る。
運良く現れたアウタードレス。もう間もなくMARiKAらがLSBをしにここへ来るだろう。その前に手早く片付け、安全に対話を試みるのだ。
『そうですねぇ……登山服のドレスなので個体名を“ロッキー・クライマー”と名付けましょうか』
「それ今必要かな?」
『何をおっしゃりますか。名前というのは付けてこそ意味を持つのです。名無しの敵なんてクミンやコリアンダーの無いカレーと同じ!』
「何言ってるのかよく分かんないよぉ……」
気分が良いのか敵の名付けをするバーグ。それはそれとして、ノベライザーは発進する。
刹那に作り出した剣を手に斬撃。しかし“ロッキー・クライマー”は提げていたツルハシで受け止める。
鍔迫り合いの最中、今度は懐中電灯のような物の照明部分を向けると、そこからビームを発射。至近距離からの攻撃が来る前に気付き、咄嗟に回避する。
「意外と厄介だね」
『はい。あの身体中に取り付けられた用具にどのような能力があるか分からない以上、迂闊な接近は禁物ですね』
冷静に状況を見る。相手は多彩な道具を用いて戦うトリッキーな相手。これまで戦ってきた敵は皆、身体一つで戦うタイプばかりだったが故に、このような敵を相手にするのは初めてだ。
しかし、だからと言って苦戦はしない。何故ならばノベライザーは元々あらゆる物を作り出して戦えるロボットなのだから。
『相手が武器を使うなら、それを封じてしまえばいい! カタリさん!』
「うん。遠距離から相手の自由を奪う感じの武器。となれば……!」
想像に創造を重ね、創り出す。
出来上がったのは大砲の如き太い砲身に拳銃のトリガーがついた銃。それを二丁創造した。この武器の使い方、それは……。
「狙いを定めて……
自動照準が定めた的に向け、弾を放つ。だがそれはツルハシに両断され無に帰す──はずだった。
切られた弾はなんと白い粘度の高い液体となってドレスを襲う、全身にまとわりつくそれは瞬く間に硬化していき、ツルハシや他の武器共々身体を固めてしまう。
「よし、これで動けないはず!」
『相手が相手なだけに、あんなのが服にこびり付くのは嫌ですね~。それはそれとして、チャンスです!』
隙だらけとなった相手に、カタリは新しい力を使う。ボックスから取り出した神牙の栞をセットし、叫ぶ。
「ノベライリング・神牙!」
刹那、きらりと輝くバイザー。ノベライザーから現れた神牙の影は獣の様に駆けていき、背後へと回る。そして、頭部を噛みつこうとした瞬間、影は鎧という実体を持って装着された。
青から黒へ。人型から獣人型へ。赤い文字の『神牙』をバイザーに投影し、その姿を変貌させた。
すかさず動けない“ロッキー・クライマー”に接近し、その豪腕剛爪で切りつける。硬化した物質を難なく砕き、その服に裂傷を負わせていく。
武器も使えず脚部は固められたままなので移動も不可。圧倒的な暴力の前に抵抗できず、ただ無力のまま攻撃を受け続ける。もはや瀕死であることは見るに容易い。
「よし、とどめだ。バーグさん、文章!」
『こういう余裕ある時くらいご自身で考えたらどうです? ってか前から言ってますよね?』
「いやそうだけどさ……ああ、もうお願いだって! この次は自分で考えるからさ!」
はぁー、と大きなため息を吐かれ、渋々文章を出す。恐々としながら出された文章をインプット、そして詠じていく……のだが──
「よし、
『バイザーの二文字は鈍く輝くと、神牙を神牙たらしめる暴力という名のエネルギーがその両爪に宿る。蒼の光が満ちる剛爪。身動きなど出来るはずもないアウタードレスに向け、その爪を』──」
詠唱を言い切ろうとしたその刹那──予想外のことが、否、ある意味では予測可能範囲で起き得ることが実際に起きてしまったのだ。
ノベライザーの背後に近付く何か。それは携える刀に手をかけていた。
《“抜刀一閃”──》
『っ!? カタリさん、後ろ!』
早く気付いたバーグの注意も空しく散ることとなる。
《“灘葬送”ッ!》
「なっ……!?」
音を置き去りにする一閃が、ノベライザーの背中を切る。
死角からの攻撃により詠唱は中断されただけでなく、機体は遠くに飛ばされた。
一体何が起きたのか分からず混乱するが、一つ気になることが。それは傍受した声にどこか聞き覚えがあったことだ。機体を起こし、攻撃してきた者の正体を見やる。
そこにいたのは、ノベライザーの本来のカラーリングにも似た色合いをした、セーラー服を来たロボットが竹刀を構えている。そしてどこか、という曖昧な記憶は直ちに答えを導き出す。この機体の名は──
「ゼスランマ……!」
《貴様……一体何者だ? まさか、新しい“ネガ・ギアーズ”の手先かッ!?》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます