Live.03『MARiKAを探して何千里? ~WORLD ENEMY FOUND BY CHANEC~』

 一行はウィーチューバーMARiKAらと接触する方法を探すべく、調査を行っていた。

 海辺や開けた山の近くなど、LSBが行われた都内のあらゆる場所へ向かい、何かしらのヒントが無いかを探す。しかし、そう簡単に見つかるはずもなく、時刻はあっという間に夜になる。


「やっぱり無理だよ。LSBの場所なんて毎回違うし、そもそもこんなことするよりだったらMARiKAのSNSに直接言った方が早いと思うけど?」

「それはダメです。仮にもあの方は有名人。急遽作ったアカウントで接触してもまともに取り扱ってもらえないのは明白です。そんなことをするよりだったら、虎視眈々とチャンスを伺う方が得策かと」


 弱音を吐くカタリに厳しく言葉を返すトリ。インターネットの世界での話とはいえ、それもまた真実。正攻法が通じないのが今回の難点だ。

 トリの思惑はLSBの相手であるアウタードレスの捜索。もし見つけることが出来ればドレスを倒しに自ずとMARiKAたちは現れる、というもの。


 しかし──それもまた現実味の無い方法。そもそもアウタードレスの出現条件が分からない以上、ただ闇雲に探すだけだ。

 半ば諦めの感情に支配される中、その通知が届いたことをバーグが知らせる。


『カタリさん、MARiKA♡チャンネルに新しい動画が投稿されたようです』

「あ! そういえば今日緊急生放送だった!」


 すっかりMARiKA色に染まってしまったカタリ。報を聞き、急いでタブレットでウィーチューブを起動する。



《はいどうもー! グッモーニンアフタヌーンイブニナイっ☆彡 っても今は夜中ですけでねー☆

 改めまして今日も女装ウィーチューバー“MARiKA”でーすっ!》



「うおー、本当に生放送してるよMARiKA。どこにいるんだろう」

『生放送ですか……。場所を特定出来れば会えますね。コメント出来そうですから試しに聞いてみましょう』

「そ、そういうことはしちゃダメだと思うよ……? あああ」


 ついに始まった生放送。画面の奥からリアルタイムで送られる女装少年の姿に喜びを顕わにする。

 そんなライブ放送を見てか、バーグは現在地の特定を目的に勝手にコメントを送りつける。



 〉ここどこ? 東京?



《はいはいどれどれー。よし、コメント欄確認良好。みんなからのコメントは手元の端末から見えてるよー。質問等はまだ受け付けてないよ。もうちょい待っててねー》



「だってさ」

『仕方ありませんね。もう少し待ってから近いニュアンスの質問をしてみますか』


 まだ準備途中だったようで、質問が出来ない不満をふくれっ面になって表現。そんな訳でもうしばらく動画を視聴していく。



《チャオチャオー♪ エッチに聞こえるけど実際は全然エッチじゃない物の名前で一番好きなのはぁ……メスシリンダーかも。普段は黄色担当のモネでーすっ》



「へぇ~、今回のゲストってモネさんだったのか。でもこの人、女の人っぽいけど何となく男の人っぽくもあるよね。不思議な感じ」

『パイロットの中でもかなり人気ありますよね。ほら、コメントが雪崩のように流れてますよ。……ちょっと客層に偏りが見られますけど』

「この方の機体は確かゼスモーネ、と言いましたか。身軽な動きでテンポ良く動ける高機動型の機体で、タンバリンのような武器が印象的でしたね」


 動画の外から飛び出すように出てきたのは、先日の動画でカーニバル衣装を身に纏っていたパイロット。それがこの生放送のゲストとして呼ばれた模様。


 それぞれが独自の視点から星奈林百音をレビューしていくと、ロケ場所への移動のため準備中の待機画面に切り替わる。その間、コメント欄に大量の質問などが流れていく。


 それに乗じてカタリらもいくつか質問を投稿。MARiKAの口から自分たちの質問が読まれることがあれば幸いと祈って動画の再開を待つ。


『……ハッキングして場所を特定してみますか?』

「バーグさん、それモラルに欠ける行動だって!?」


 しびれを切らしかけたバーグの強行手段を止めつつ数分経過。準備中の画面が再び切り替わり、移動を終えたMARiKAらが現れてようやく生放送がスタート。

 MARiKAが無作為に選んだ質問を読み上げてはそれにモネが答える繰り返し、時折休憩に入りながらも、夜の路地を練り歩いていく。



《えーっと、次の質問。『モネさんはランマとどういう関係なんですか?』だって。そそれじゃあモネさん、この質問はNOorOK?》

《オッケーでぇ~す♪ 嵐馬くんは同じ会社のただの後輩だよ~。私が先輩としてビシバシとシゴいてるよ~☆》



「お?」

『読まれましたねぇ。ま、答えやすい質問だから選ばれたんでしょうけど』


 と、ここでまさかのカタリが出した質問が読み上げられた。これにはスナック菓子を摘んでいた手も止まる。

 これから出会う予定である彼らの情報を集めるための質問。無論、そこまで深い部分を知ることは出来なかったが、この質問で何となくではあるがパイロットの関係性が見えてきた。


「つまりモネさんがランマの先輩ってことは──」

『MARiKAさんはランマさんの後に入ったらしいので、その後輩ということになりますね。まぁ、ありがちと言えばありがちな関係性……。予想の範囲内です』


 三人の関係性を明らかにしたところで、動画の内容は偶然MARiKAの目に止まった一つのコメントから変わっていく。



《今日この緊急生配信をしたのは別に理由がありましてですねー》

《実はあたし、ちょっと前にその変質者にばったり遭遇しちゃったんだよね~☆》



 なにやら変質者というワードに反応を示すMARiKA。すると、モネはその不審者とやらに先日襲われたという告白をし、コメント欄をざわつかせる。


『変質者……はい、検索出来ました。どうやら都内で最近噂になっている話のようで、何でも夜中に人を襲っては衣服を奪っていくのだそうです』

「なにそれ? 財布とかの貴重品じゃなくて、服だけ?」

『はい。ずいぶんと奇っ怪な事件ですが、幸い怪我人が出るような事件じゃなさそうです。もっとも、被害は増えるばかりで捜査は難航しているみたいですが』


 瞬時の検索で例の噂とやらを調べてくれたバーグ。口頭で説明された内容に、カタリは首を傾げる。


 人の服のみを奪うなど相当変わった犯行である。衣服が目的なら服屋に行けば事足りること。まさか服を買えないほど貧困に困った者のしわざかと思ったが、それなら服を奪うくらいなら最初からバッグなどの貴重品を盗れば早い。犯行目的が全く想像がつかない事件である。


 もっともこの世界にはアウタードレスという巨大な敵がいる。前回の世界にいたイジンよりもファンタジーに寄った存在なのだから、多少不思議な事件が起きてもいたとしても不自然な話ではないのだが。


 と、考えるだけ無駄だと判断して意識を動画に戻す。コメント欄はモネを心配するファンらの書き込みで埋まっていた。

 そして動画も終わりが近づき始める頃。それは唐突に起きた。



《──うわあああああっ!!》


《えっ……!?》

《……! マリカっち!》



「……!? ななな、何!?」

『人の悲鳴ですね……。一体何が起きたんでしょうか。あ、移動しますね』


 唐突にスピーカーが吐き出した謎の絶叫。これにはMARiKAもモネも、そしてカタリらも全員が驚きを見せている。

 謎の悲鳴が聞こえた方向へと移動するMARiKAたち。すると、到着した場所には半裸の男性が倒れていた。



《っ! 本当に人が……し、しっかりしてください! 大丈夫ですか!?》

《マリカっち、取りあえず警察と救急車! あとカメラ止めて!》

《うん……って、あれは……!?》



「ん!? えっ、なんだアレ!?」


 この非常事態にMARiKAのカメラがある物を捉えた。それは暗い路地の奥に見えた謎の塊が、中空に溶けてその姿を消す一幕。

 今のは明らかにこの世の物ならざる存在。そして、この不可解な物体の正体を暴ける者がここにはいた。


『ムッ! カタリさん、今の変な塊はエターナルかもしれません! レーダーが僅かにではありますが反応しました!』

「ええっ!? それ本当!?」


 あろうことかあの塊の正体はエターナルであることが発覚。思いもしない所で目標を発見してしまった。

 エターナルの反応が出たということは、その近くにいるMARiKAらが危ないということになる。もはや暢気に動画視聴をしている場合ではない。



《緊急事態なので放送はここで止めます!》

《みんなごめん!》



 動画もここで打ち止めとなり、不測の事態に困惑するコメント欄を眺める理由もなくなった今、やるべきことはただ一つ。


「バーグさん、トリさん! 今すぐMARiKAの所に行こう! みんなが危ない!」

『ちょっと待ってください。急ぎたい理由は分かりますが、すでにエターナルの反応は消失しています。行ったところで何も出来ずに終わるだけですよ!』

「バーグさんの言う通り、ここは一度落ち着くべきです」


 しかし、意気込むカタリに対しバーグとトリの考えは冷静そのものだった。

 世界の天敵の出現が確認出来たというのにずいぶんと奥手な二人。いくらMARiKAという人物が絡んでいるとはいえ、あまりにも消極的過ぎているような気がしてならなかった。


「私たちの判断が不満なのは重々承知しております。しかし、今回の相手はあまりにも厄介過ぎるのです。それに今、下手に現場へ向かうのは推奨出来ませんし……」

「厄介ってどういうこと……?」


 トリの言う言葉に疑問を抱くカタリ。レーダーの反応が薄いのはともかく、現に一度反応しているのだから、迷う必要はないはずだとカタリはそう考える。

 その疑問を解決させるように、バーグは追って説明をする。


『エターナルには様々ながあり、級によってエターナルの強さは異なるのですが、中には隠密さなどの非戦闘能力に特化した個体も存在します。そして今回のエターナルがそれなんです。

 ノベライザーでも見つけるのが難しく、一度見失うと次に現れるまで手出し出来ない。それを我々は『ミュウト級』と呼称しています』


「確かにカタリさんが言うように本来なら今すぐにでも向かうべきなのですが、今回は現場にMARiKAさんらがいるのです。それに避難の行き届いていない市街地ともあれば……ここまで言えば後の想像は容易のはず」

「そ、そうだったんだ……。ごめん、僕何にも考えてなかったや……」


 ミュウト級なるエターナルの特性が二人を消極的な姿勢にしているということ。市街地で戦えばMARiKAらに被害が出るということもようやく理解する。


 カタリはスッと冷静さを取り戻した。何も知らなかったとはいえ、二人が何も考えずに奥手のままでいる理由はないはずである。心の中で反省をしておく。


「では改めて状況をまとめましょう。現れたエターナルはミュウト級、この個体は現在都内に潜伏しており、現状での対処は難しいと思われます」

『……もしかしたら、あの場にいたのはただの偶然ではないかと。おそらく何かしら理由があって人々の服を奪っている可能性も考えられますね』

「服を奪う……。一体何が目的なんだろうね……」


 この数時間で判明した出来事をまとめる会議を開き、各々の意見を出し合う三人。そして例の噂はエターナルが発端となって起きた事件であると結論付けた。


 元々謎だらけな存在であるエターナルが何故に服を奪うのか。理由を考えれば日が昇りそうになるので、この話題は一度終わらせておく。


「とにもかくにも、まずは現場に行かないと分からないこともありますでしょう。明日は出現場所に行って何か手がかりになる物がないかを調べます。それで良いですね?」

『賛成です。もしかしたらばったりMARiKAらと出会う可能性も捨て切れませんしね』

「そうだと良いんだけどなぁ」


 そして、エターナルの撃破と栞の継承作戦の同時進行を今後の目的に設定し、会議は終了。明日に備えて今は就寝する。


 またも到着早々に色々なことが起き始めていると心の中で思いつつ、カタリはコックピットに身体を預けて眠るのだった。

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