第九話 破壊光線

「ふー。何とか間に合った」


 コックピット内で、安堵のため息を吐き出すカタリ。言わずもがな、イジンの群に襲われかけていた神牙を助けることが出来たが故のものである。


『カタリ君……でいいのよね? その機体は……』


「うん。僕らもこのイジンを倒すのに協力するよ。ただ世界の欠片を集めるだけが、僕らの役割じゃないからね」


 イジンはアーマーギアや人を食らう。誰かが無意味に殺されるのは、二度と起こさせはしない。そう誓ったのだ。

 それはそれとして、ノベライザーを見たのは初めてではないはずなのに、何故困惑しているのだろうか。


 ──グルルルルゥ……!


「まだ残ってるのか……。なら、バーグさん!」

『はい! 今回は自ら美央さんを助けに行った勇気に免じて大出血サービスです!』


 考えをよそに再び海面から湧き出すイジンの群。それに対してカタリの反応は冷静だ。

 バーグの何度目かも分からない寛容さに甘え、文章を抽出する。短めだが、全てを片付けるには十分なものだ。


「いくぞ!

『両手に装備されているワイドクローの旋風が如き連撃により、次々と湧き出してくるイジンを裂いては斬り伏せ、おびただしい数の群はものの僅かな時間で殲滅されるのであった』──!」


 手早く詠唱を済ませ、詠唱通りに雑魚を一掃。何度も詠ずるにあたり、もはやこなれたものである。

 邪魔する敵は全員蹴散らされたので、神牙は超大型イジンから一度離れるために、水面に浮かぶイジンの遺骸を踏みつけるように着水する。


『……えっと、助けてくれたのはありがたいけど、今のは……何かしら? その文章を読み上げたのは』


「えっ、もしかして今の聞こえてたの!?」

『はい。今はほぼ全機に通信が繋がってる状態ですので、美央さん以外の方々にも今の読み上げは耳に入っていますよ』

「嘘ォ!? あ、いやあこれはその……こういう仕様でありましてその……、ああああああ!!」


 バーグの残酷極まりない回答に、カタリ、悶絶。

 まさか思うまい。技発動の詠唱が無線を通して全ての機体に丸聞こえだったことを。これには詠唱に慣れてきた本人も思わず羞恥に悶え苦しむ。

 一体何の目的があってそのような鬼畜の所業をと思っていると、エグリムがこちら側へとやって来た。


『美央さん! 大丈夫でしたか!?』

『ええ、なんとか。ノベライザーが助けに来てくれたから』

『え! それノベライザーなんですか? 最初に見た姿と全然違いますけど!?』


「あ、そっか。前に僕らを見たのはメディキュリオスフォームだけだったね。こっちが本来の姿なんだ」


 香奈の反応に、悶絶していたカタリはノベライザーの本当の姿が実は知られていなかったことに気付く。

 青色がメインカラーの余計な装飾の少ないこちらがノベライザーの本来の形態。美央の最初の困惑も納得だ。


『それと、今の文章みたいなのを読み上げたのも……』


「お願いだからそこに触れないでください……」


 思わぬ追撃に苦悶していると、今までろくな動きを見せていなかった超大型イジンに動きが。



 ──ゴオオオオォォォォ……!



 静かだが太いうなり声を上げ、神牙に削られた方の脚を動かす。一歩だけ動くと、次にまた別の脚を動かしていく。

 イジンは陸に向かって移動を開始したのだ。その歩幅は凄まじいほどに広く、数歩もしない内に上陸を許してしまう。


『飛鳥! イジンの脚に傷を付けておいたわ。陸に上がった今がチャンスよ!』


 だが、上陸はデメリットだけではない。陸には切り札のアーマイラがいるからだ。


『ああ、任せろ姐さん!』


 無意味とは知りつつも、戦陣改によるミサイルやガトリングガンによる牽制を行いながら、アーマイラはイジンへ接近。電磁鋭爪を射出する。

 裂傷だらけのイジンの脚部と捕らえると、すかさず電流を流す。


 バチバチッ! という放電の音と共に激しく瞬く閃光。通常のイジンならば黒こげになって倒れる威力だが、この個体にそれは効くのだろうか──?



 ──ゴアアアアアァァァァァァッ……!



『効いた!』


 ここで初めて、超大型イジンが悲鳴をあげる。流石の図体でも電撃に耐性はないらしい。

 だが、それでもイジンの進撃を止められるまでには至っていない。何度も繰り返す攻撃を食らいながらも、イジンは陸を目指す。


 だが弱点が分かれば後は簡単だ。アーマイラはこのまま電磁鋭爪での攻撃を続け、ノベライザーは電撃系統の武器を作る。


「電撃を出す武器……、となればこれか!」


 ノベライザーの特殊能力により、想像から武器を生成。作り出したのは長い砲身の銃。


『バーグさん、それレールガンですか!?』

「そうだよ。これなら威力もあるし相手に大打撃を与えられるはず!」


 カタリが創造したのはレールガン。SF物ではよく見かけられる武器である。

 早速イジンへ向けて構え、狙いを頭部に定める。……が、しかし。


「……っぐぅ!?」


 引き金を引き、撃ち出した。その衝撃でコックピットが僅かに揺れる。

 超高速で放たれた弾丸は、機体が揺れた衝撃で狙いが若干ずれ、右肩を撃ち抜いた。

 だが、それだけである。イジンは変わらず何の反応も見せていない。


「……あれ?」

『バカ! カタリさん! レールガンは『電磁投射砲』、つまり電気の力で物体を高速で発射する装置のこと! 電気の力を持ったSFの銃じゃないんですよ!』

「え、ええ──!? そうだったの?」


 ここでまさかの出来事が発生。あろうことかカタリは、レールガンがどういう物なのか間違った認識をしていたのが発覚する。

 画面の奥で頭を抱えるバーグ。よもや思うまい、イジンが上陸するという状況下で青いが故の無知を晒してしまうなどとは。


『とりあえずレールガンそれは分解して別のにしますよ! ほら、例えば……』

「ああもう、あのアーマイラ? と同じ武器にするよ。確か電磁鋭爪……だっけ?」

『えっ、既存兵装を創造するのはおすすめ出来ませんけど……』


 とやかく言われながらも、カタリは絶賛活躍中のアーマイラの武装を元に、ほぼ同じ形状の色が違う電磁鋭爪を創造。近接戦闘へ移行する。

 超大型のイジンの足下で戦っているだけに、その巨躯は圧倒させられる。


「えっと、飛鳥、さん? だっけ。僕も手伝うよ!」


『ああ、頼む! そろそろ限界が近いもんでな』


 飛鳥からの通信に出た限界という言葉。それを指す物とは、本家電磁鋭爪の状態のことだ。

 素人目で見ても激しく損傷しているのが分かる。流石に短時間で何度も酷使してしまえば、こうなるのも無理はない。


 どうやら有効打を与えられる攻撃には限度がある模様。ノベライザーの電磁鋭爪があるとはいえ、一機分だけではさして状況は変わらない。大破して使い物にならなくなる前に、決着をつけなければ──。


「威力はいつでもフルパワァ──!」


 生成した電磁鋭爪をイジンの脚部へと撃ち込む。本家同様、最大出力の電撃を浴びせる。

 野太い悲鳴は腹部の口から漏れ出す。このままさっさと倒れて欲しいが、ここでまたしてもハプニングが。


「……っ!? 電磁鋭爪がっ!?」


 電撃を放っている最中、突如としてノベライザーの電磁鋭爪はぼろぼろに砕け、無に還元された。

 あまりの出来事に唖然とするカタリ。だが、一方のバーグはそれを予期していた様子。


『今いる世界の武器と同じ物を創造しようとすると、必ず模造品が出来ます。模造品は耐久力がとても低くて、使うとすぐに壊れてしまうのです』

「それ早く言ってよ!」


 またしても初めて耳にする情報である。すでに存在する武器を創造すると、質の悪い物になってしまうデメリット、それがノベライザーにはあるという。

 まさかすぎる事態に焦るカタリ。こうしている間にも超大型イジンは侵攻を続けている。


『はっ!? カタリ、避けろ!』


「え──って、うおわぁッ!?」


 すると、突然思わぬ方向から攻撃が襲う。巨大な尻尾がこちらへ向けて大きくしなったのだ。

 アーマイラからの通信で何とか直撃は避けれたものの、この攻撃はイジンが移動している間は延々と繰り返されることだろう。もはや海で待機している神牙とエグリムは近付けまい。


『……ちっ、電磁鋭爪が限界だ。これ以上使うとぶっ壊れちまう』

『ああ、戦陣改もそろそろ弾数が底を突きかけてる。ガトリングガンにはまだ余裕はあるが、効果が無いのは明白だ』


「うぬぬ……、どうすれば……」


 迎撃に追われる他の二機も武装に限界が近いことを知らせてくる。

 このままではイジンを街に着かせてしまう。そうなれば通常のイジンよりも大幅な被害が出るのは予想に容易い。


 運良く引き返してくれれば助かるのだが、そう上手くいくはずが──


『……! 見てください、イジンが止まりました!』

「え、ほんとだ」


 そう思った直後、あろうことかイジンは侵攻を止め、その場で沈黙を決め込んだ。

 途端に尻尾の先までぴくりとも動かなくなり、それが逆にパイロット一同に不安を募らせる。


『死んだ……んですかね?』

『もしかして疲れたのかしら? これだけの大きさで歩くのはエネルギー効率が悪過ぎるはずだし』

『可能性としてはゼロではないな。真実はどうあれこいつはまだ生きている。今の内に出来る攻撃を仕掛けるべきだ』


 アーマーローグらのパイロットによる無線越しの予想。それらもまた、ありえなくもない話。

 だが、突如として動かなくなった真相を真っ先に掴んだのは、他の誰でもないノベライザーだ。


『……! 体内に高エネルギー反応!? しかも、このパターンは……! ──皆さんっ!』

「なっ、まさか……!」


 バーグが気付き、それの警告をする。その意味を理解しているのはカタリ以外に存在しない。



 ──ゴオオオオオォォォォッ!!



『うぐううぅぅッ!?』

『なんて……、馬鹿デカい咆哮こえだっ……!』


 その瞬間、今まで動きを止めていたイジンは、腹部の口を大きく開いて咆哮を放つ。周囲の木々を折り曲げ、あまつさえ鋼鉄の塊であるアーマイラ及び戦陣改を吹き飛ばす。

 そして──、無機質な肉仮面が開かれる。



『あれは──エターナルですっ!!』



 瞬間、開かれた頭部から紫色の光線が放たれた。

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