ノベライリング
モニターが示す先、そこに今回の敵はいる。
先ほどは不意を突かれてやられてしまったが、サポートAI立案の作戦の下、再び討伐に赴く。
『いいですか。カタリさんは相手を牽制しつつ注意を引いてください。その間に私が準備を進めますので』
「分かってるけど……。その『他の機体の力を借りる』ってどういうこと?」
『まぁまぁ、それは追々分かりますから』
作戦の内容はあらかた理解している。だが、何故かバーグは切り札のことについて何も説明をしてくれない。余裕がある時なら結構だが、今の状況でしていいものなのかと疑問には思う。
何はともあれ作戦の通り相手を引きつけなければ。先ほどの戦いのことを理解しつつも再び拳銃を生成する。
「──! 文字化が始まってる。くっ、早くしないと……!」
目標に近い位置にまで移動すると、所々の大地が文字化の現象を起こしていることに気付く。まるで虫食い痕のように大小様々な大きさの穴があちこちに空けられていた。
やはり怪物体。美しい見た目でも世界の敵だ。早急に討伐しなければならないという使命感がカタリを突き動かす。
そんな中、巨大な影をモニターが捉えた。目標のエターナルに間違いない。
翼を羽ばたかせて空を飛ぶ度に、軌道には大量の鱗粉と文字化した虚無の世界が確認出来る。
このまま放っておくなど当然出来るはずもない。照準を定め、数発発砲する。
命中はしたが、距離が先ほどよりも離れているからか効いている様子はない。あちらも倒したはずの相手が戻ってきたと言わんばかりに嘴を大きく開けて威嚇をする。
翼は美しくても顔は怪獣然とした凶暴さを持つ。恐ろしさに怯みそうになるのを我慢し、相手との距離を取りつつ攻撃を重ねていく──そんな時だった。
『な~~~~~~~~い!?』
「えっ、何!?」
突然の絶叫。その声は手前のモニターからだった。
『無い! ないないないないない! 何でぇ!?』
慌てた様子のバーグ。画面にはクラインボックスと書かれたフォルダを何度も行き来してはムンクの叫びが如く嘆く姿が。
「どうしたの? 何が無いの?」
『クラインボックスの中なら絶対無くさないと思ってたのに……。まさかリストの中から丸ごと無くなるなんて……。もうダメだぁ、お終いだぁ……』
「ちょ、そんなに落ち込む!?」
そのあまりの落ち込み様。とっておきとやらはそこれほど強力な物だったのだと分かる。
しかし、それも紛失していることが分かった以上、作戦は失敗。このまま戦闘を続行しなければならない。
「切り札が無くなったのは残念だけど、それ無しでも工夫して戦えば何とか──」
『アレにはノベライザーを強化するだけでなく、文字化した世界のデータの保存や修復に必要不可欠なんです。それを無くすだなんて……』
「そんな大切な物を無くしちゃったの!?」
衝撃的な事実が悄然としているバーグの口から伝えられた。
世界の修復に必要不可欠。その一文の追加はそう簡単に受け流せる物ではない。
絶対に無くせない物を紛失した。それはつまり、比喩ではなく本当に一つの世界の未来が危うい状況となっているからだ。
そんな非常事態が起きていても、敵の攻撃は苛烈さを増していく。
ふとした隙を相手に見せてしまった。巨大な翼から放たれた羽が雨の如く降りかかってきたのだ。
「うおおっ!? っと、危ない!」
危うく直撃を食らう所を寸でで回避。地面に穴を穿つ程の威力、命中していれば稼働に損傷が出てもおかしくない攻撃だ。
しかし、休む暇はない。同じ攻撃が続けざまに降り注ぐのを全速力で走って回避する。
「バーグさん! 落ち込む気持ちは分かるけど、今は目の前の敵に集中しよう!」
『分かってますよ……。分かってますけど……なんかこう……今、すごく死にたい』
「そんな大げさな!?」
本当にAIかを疑いたくなるほどに人間臭い発言に呆れるカタリ。
それほどまでの貴重物をどうやって無くしたかは分からないが、くよくよしていても仕方ないのは事実。切り札が使えなくなったのは残念だが、それだけが手段ではない。
何とかして敵に一矢を報いれるチャンスを見つけなければ。そう思った矢先、敵の攻撃が変化を起こす。
羽を飛ばす攻撃は急に数を激減させた。だが代わりにその精度は上がり、鋭い一撃がノベライザーの足を撃つ。
「しまっ……!?」
いきなりがくんっと移動速度が落ち、鈍くなったノベライザー。そんな隙を逃さず、エターナルは体当たりを仕掛けた。
吹き飛ぶ機体。遠くへ突き飛ばされた際の衝撃で機体各部にダメージが入ったことを知らせる表示とアラームが焦りとピンチに加速をつける。
このままではやられる。そう思ったのも無理はない。
相手は前回の個体よりもレベルが高く、おまけにこちらのAIはショックで役立たずと化している。まだ戦闘経験の少ないカタリには無謀を極める戦いだ。
やはり策が必要だ。前回のような力でねじ伏せられる相手ではない。作戦とやらが破綻してしまったのは改めて考えても痛いと言わざるを得ない。
「ぐっ……、負けてたまるか……!」
何か。そう何か。ほんの僅かでもいい。何かしら反撃が出来る物がないかを探す。
空に、森に、大地に目を通す。そんな中、ふと視界に入ったノベライザーの指先に近い位置の人影に気付く。
「……村長!? それに村の人たち!?」
画面が自動でズームされ、そこにいた人々の正体が判明する。
突き飛ばされた先にはエターナル出現の影響か疎開していた村民がいたらしい。機体が地面に落ちた衝撃でパニック状態になっている。
そして、ここでふと見た先。村長の手持ちの
赤色は嘘、青が忘れた物を指していたはず。問いに答えている訳ではないのに青くなっているのかは分からないが、数時間前の助言を思い出す。
──お前はとても大事なことを忘れているようだ、と。後々にも関わるとも言っていた。果たして、それは一体何を示すのか。
もしかすれば、真の忘れ物は今この状況に必要な物なのではないか? しかし、今の状況で忘れている物など……と、思った時である。
ふと何かの記憶が引っかかった。自然と浮かび上がった謎は無意識の内に問いとしてバーグへと向けられる。
「そうだ、バーグさん! 無くした物ってどんな形してる!?」
『……栞です。表面に赤と白のロボットが描かれていて、『メディキュリオス』って文字が……』
「メディキュリオス……!? もしかしてそれって……コレだよね!?」
返ってきた回答。それを耳にした時、浮かんだ謎が希望に変換された。
おもむろにポケットから取り出したのは、今し方バーグが答えた条件に合致する物。栞状で、表面にはロボットの絵。そして裏面の『メディキュリオス』の文字。
『……あ──っ! それ、それです! 何でカタリさんが持ってるんですか!?』
「この世界に来る前にボックスから偶然取り出したんだ。色々あってポケットに仕舞ってたんだけど、今の今まで忘れててさ」
『そういうのはきちんと訊いてくださいよ! ああもう、無くしてなくて良かった──ッ!!』
間違いなく、失われた切り札その物であると判明。失意の底にいたバーグも見事に復活を果たす。
これで作戦は再び実行可能となる。ただのノベライザーでは攻略の難しい今回の相手に対し、この栞に描かれているロボットの力はどこまで力を発揮してくれるだろうか。
『ではカタリさん。その栞をそこのスロットに挿し込んでください!』
「こ、こう?」
説明の手順通り、コックピットの一部に備えられたスロットに栞を挿し込む。
すると、手前の画面には設計図のようなノベライザーの全身図が。しかし、形状が元の機体とはだいぶ異なる。見たことのないパーツが至る箇所に装着されていた。
『挿し込んだら『ノベライリング・メディキュリオス』と全力で叫んでください!』
「また叫ぶんだ……」
必殺技といい新たな力といい、言葉を司るロボットらしいと言えばそうだが、中々に喉を労らない能力である。
ともかく準備は整った。すでに二度、この機体に乗って叫んでいる。今更恥ずかしがる必要もないだろう。カタリは息を置いて叫ぶ。
「いくよ──……、ノベライリング・メディキュリオス!」
そのワードにノベライザーは応える。
栞に描かれているロボット『メディキュリオス』。その力が今、スロットを介してノベライザーへと継承されていく。
機体の全身に白色の装甲が装着、その上からさらに設計図に描かれていた紅色の外装甲が重ね着けられる。
言葉として言い表すならば、着せかえ式で姿を変えられるロボットの玩具のように、素体のようだったノベライザーの全身が換装されていく。
「これが……他のロボットの力を借りるってこと……?」
『はい。これがノベライザーの真の能力、その一つ。他の世界の
説明の間に換装はラストスパートを迎える。
オリジナルのメディキュリオス同様、腰部には六つに並ぶの棺桶のような形状のプレート。無装飾に近かった頭部は赤色の流線型へと再形成され、最後に『カクヨム』と投影されていたバイザーは『メディキュリオス』の八文字へと変換。
ノベライリングと称される姿の変化。それがついに終わりを迎える。
『──ノベライザー・メディキュリオスフォーム、完成! いざ
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