五話/鉈幽霊退治アフター

 ──ワタシニハ、ヤラネバナラヌコトガアッタ。


 ゾウオヲタギラセ、エモノヲフルイ、ショウガイヲナキニシタ。


 ──ワタシニハ、ヤラネバナラヌコトガアッタ。


 ウラギラレタ。フンヌヲアラワニ、タダヒタスラジャマモノヲシリゾケタ。


 ──ワタシニハ、ヤラネバナラヌコトガアッタ。


 ナニヲヤラネバナラナカッタノカ、ツイゾワスレテシマッタガ。


「きえろ」


 ──ソウダ。


 ワタシモソウダッタ。


「きえろ」


 ワタシも、そう、ダッタ。


「きえろ」


 。奪わレタのだ。この地に。あいつラに。消えるわけにハイかなかった。消させてはいけなカった。


「きえろ」


 霊能力者ハ邪魔だった。あいツヲ、この学舎に奴らを呼び込んだあいつを殺すためには。この小娘には悪いが、憎悪を託そう。


 そうだ。許さない。絶対に。消えてしまっても、憎悪を。私やあの人を、を亡きにした────


お前戸波 晴光のせいか」




 ── ユ ル サ ナ イ 。













「……知らない天井だ」


 俺は、目を開けて真っ先に右腕を見た。当然包帯で見えない。動かない。


 遅れて部屋を見る。誰もいない。


「……なんの事はない。俺のお陰で幽霊を一体天に返したということで、そりゃあ、誰かしら居てくれても良いじゃんとは思うけどさ。うん。いや、誰かしらの宛がなかったな。じゃあ仕方ない」


 独り言のなんと寂しいことか。静かな部屋。その響き。つらたにえん。


「なんかやっぱ、ダメだなぁ」


 結局のところ、俺には何も出来なかった。全部戸波さんが凪ぎ払ってくれただけ。まるごと全部投げただけだ。その上、戸波さんが斬られそうだったからといって、代わりに斬られるとか格好がつかない。


 戸波さんは女の子で、俺は男なんですけど。情けねぇよ、俺。もっとかっこよく立ち回れなかったのかよ。


「はぁーぁ」


 静かな病室に、俺の溜め息が響いた。なんだかなぁ。戸波さんとか来ないのかなぁ、と思って見回したら果物の盛り合わせがあった。


 寝過ごしたとは、やっぱりダメじゃねぇか。俺。











 私は。


 紗智さんと一緒に、実家に帰ってきていた。胸に張り付くような重く暗い感情が燃えているのを感じていたから。


「……衣澄か。今日は、だった」


 壮健な祖父──。どうしてだろう。この人を見ると、魂の底で感情が燃え上がるのを感じる。


 ────ハヤク、コ○サセロ。


 


「……どうした、衣澄」


 祖父の言葉で我を取り戻した。


 ………………今。何を? いや、何でもない。


 そんな事を考えながら、だったからだろうか。バックから折れた木刀と血塗れの大幣を乱雑に投げ捨てていた。


「ちょっと、いっちゃん? さっきから大丈夫?」


「ん、平気。というか紗智さん何でついてきたんだっけ」


「いっちゃんが心配だったから……」


「で、お祖父様、って知ってる?」


? それがどうしたというのだ?」


「何でもないよ。じゃ、紗智さん行こ?」


「え、えぇ? 良いんですか?」


「良いも悪いもねぇよ。じゃあな衣澄。紗智も、また来いよ」


「またね、お祖父様」


 戸惑う紗智さんを引っ張って実家を後にした。一応高校生になったら独り暮らしをする約束をしてるので、帰るべき家はここではないのだ。


「ねぇ、いっちゃん? おかしいよ?」


「まあ、紗智さんとはかなり久し振りだしね。変わったのかも」


「……何? 九峰って?」


「さぁ? お祖父様が知らなきゃ、私が知ってるわけ無いし」


「……やっぱり、つかれてない?」


 紗智さんは心底心配そうに私を見る。


「…………大丈夫。私は、大丈夫」


「……そう?」


 紗智さんは私の自宅まで着いてきた。殆ど会話は無かったけれど最後に「何かあったら」と連絡先をくれた。最近まで音信不通だったのに。


 それから自宅に一人になって、不意に耐えきれなくなって。



 ────一晩中泣いた。

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