時計の針が、夜中の零時を回るころ、

時計の針が、夜中の零時を回るころ、

カレーを煮込んでいたはずの鍋からスマホが出てきた。

一体何が。

どこの手順で間違ったらこんなことに。


(・・・・・・)


あめ色になるまで炒めた玉ねぎ、豚肉、じゃがいも、ニンジン、

カレールウを割り入れて、軽く炒めて味を付ける。


彼らが炒むあいだ、

ただボーっと、彼らが焦がされるのを見ていた。

目が眩むような孤独の作業。


具材を一人で切って、一人で調理して、一人で食べる。

美味しい、とかそういう感想は出てこない。


悲しい気持ちでフライパンの上の兵士たちを眺めた。


ぼくは変わらないのだろうか?

こうして、今日のように、若い、取り返しのつかない一日を浪費させて、

老人になっていくんだろうか。


または、誰も救うことができないのに、誰かに救われることを期待し続ける

毎日を送るのも確定的に明らかで、とさつ場でときに裁断を待つ毛糸のように、

無意味

残酷な命乞い。


それでは真に他人という存在が。

あがきが、乾きが、救いが、

世界を満たしてくれないではないか。


不意に焦げた匂いが、僕を襲った。

豚肉も玉ねぎもニンジンもジャガイモも全部焦げている。


そう今、カレーを作ってるんだったな。


間違った記憶の中に僕は迷い込んだんだ。


だが。

煮込まれたカレーの鍋からスマホが出てくるのに変わりない。

結論は変わらないのだ。


(・・・・・・)

振り出しに戻れ。

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奇妙な生活 @bnpk

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