時計の針が、夜中の零時を回るころ、

時計の針が、夜中の零時を回るころ、

カレーを煮込んでいたはずの鍋からスマホが出てきた。

一体何が。

どこの手順で間違ったらこんなことに。


(・・・・・・)

玉ねぎをあめ色になるまで、炒めた後、

一口大に切った豚肉、じゃがいも、ニンジンを

地獄の窯のように湯だったアルミ製フライパンへ投下する。


数分後、必死の抵抗むなしく彼らは、体液をほとんど外へと排出する。

色、形、国籍が様々な彼らも、分解されれば同じこと。

抽出されたエキスは交じり合い、もはや自己と他者の区別を無くす。


文学部の友人は、

ある春の夜に自分という他人が一番怖いと云って発狂した。


自分という存在が、植物細胞の細胞壁のように

外界から区分されていることを期待しない方がいい。


僕らは余りに弱く、自分で信じるほど自分のことを律しきれないんだ。

僕の中に眠っている、邪悪が、凶暴性が、僕らを飲み込むんだ、そうだろ?


「こないだ君に薦めた映画、あれは名作だ、見るといいよ」


君は夜に飲み込まれて、明日を見失った。

振り出しには戻れない。

あがり。


僕は。


夜食を求めて、彷徨った夜の最中、

見知らぬ誰かのスマートフォンのバックライトが

他人を思い起こさせる。


振り出しに戻る。


(・・・・・・)

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