第8話~聖拳~

聖門女子高校、ブラインドの閉められた暗い部屋で緊急の職員会議が行われていた。



モニターの映像を見ながら大和美佐は説明をしていた。


「西門の出現でこちら東門のGG《ゲートガード》に必要な人材が不足しています、現在東門には聖門と鯨森くじらもり女子が交代であたっていますが、ほぼ1日置きになっています」


会議室がざわつく中、総理事長の門松要かどまつ かなめが口を開いた。


「聖門も西門と他国への派遣を決定した直後で、OB組にも応援を要請しているが東門に回してくれそうにもなさそうじゃ」


会議室に長い沈黙が訪れた。


・・・・・


そして一人の女性が会議室に入ってきて沈黙は破られた。


南雲睦美なぐも むつみ戻りました」


170cmの長身に紺色のスーツ着て腰近くまである途中で束ねられた長い黒髪。


南雲が席に着くと門松が


「それで、西門の方はどうじゃった」


「規模は東門のまだ半分、丁度去年の東門と同じ大きさです」


「GBは出たのか?」


「まだGBの出現は確認されていません、ただ西門の管轄ですが・・開徳かいとく女子と菱条ひしじょう女子があたることになりました」


高名が出ると会議室はまたざわつきだし大和が口を開いた。


「てっきり開徳と九南きゅうなんかと思ってた、しかも聖服じゃなくて菱条の死服を使うなんて、政府も何を考えてるのか」


それに答えるように南雲が


「九南は西アジアのGBの漏れ対応として自衛隊と合同で東シナ海に展開するそうよ、噂では既にGBが門から外に出てる国があるらしいので」


「出てるなら数ヶ月もしないうちにバイオハザードが始まって大変ね」


大和が呆れた声で言った。


会議は行き詰まり解散となった。


会議室に大和と南雲の2人が会話もせず残っていた、先に口を開いたのは大和だった。


「南雲、私に話があるんじゃない?」


「菱条の死服なんだけど、リスク軽減に成功したらしいわよ」


「黒水晶使って白と同じ聖服作ってハイリスクハイリターンの死服ってナンセンスだわ、着てる女子高生を危険に晒すくらいならいっその事私が・・・そうだ死服って言えば神龍宮じんりゅうみや女子は動いてるの」


「あそこは独自で動いていて国に所属してないから何の情報も入ってこないわ」


「噂では海外に生徒を貸し出してるって大和は聞いた事あるけど」


「なるほどね・・それで大和の方は何かあったの?」


「まずね、来年の夏の聖夏祭せいかさいに聖門、鯨森、開徳、九南の4校に菱条、真城ましろが参加する事になったわ」


「菱条は今回の件で分かるけど、真城女子はまだ開校したばかりじゃない」


「あそこの財団は金持ちだから」


「大和、他には?」


大和は椅子を左右に回しながら不適な笑いを浮かべ


「うーん・・そうね・・」


「何もったいぶってるのよ」


「いい人材が見つかったって言ったらどうする?ちょっと教えればレート80は行けるんじゃないかな?」


「80!何年生の生徒?」


南雲は驚いていた、生徒最高位の天羽響子がレート90だったからだった.


「うちの生徒じゃないんだけど、来年受験させる予定」


「生徒じゃない・・なら手出しできない?」


「どこからか総理事長に圧力がかかったらしいんだけど失敗してね、総理事長の独断で聖門で預かる事になってさ・・折原遥って聞いたことあるでしょ?」


「折原遥・・・それって政府から来た排除リストにあった名前じゃない?」


「ビンゴだよ南雲、聖にも死にもなれる危険な存在、今ね、うちの合宿に来てて監視中」


そして、大和はここ数日にあった事を話した。


「私が直接調べたんだけど今のところは聖寄りで、合宿最終日に聖服着せてみようかと思ってるんだけど南雲はどう思う?」


「許可はでてるのか?」


大和はニヤっとすると


「南雲・・政府では無く・・聖門の聖拳として立ち会うか?」


南雲は少し考えてから「分かった」とだけ答えた。



合宿の最終日の朝


大和操は遥のお別れ会を夜食時間に食堂でやりたいと職員室に来ていた。


今日の担当は大和と仲がいい佐藤先生のはずだった・・


操は職員室に入ると佐藤先生がいなくて代わりに南雲先生がいた。


「南雲先生・・あのー佐藤先生は」


「急な出張で今日は南雲が当番だ、大和操、何か用か?」


「よりによって今日の担当は南雲先生か・・やっぱり昨日来ておけばよかった・・」そう思いながらお別れ会の事を南雲に話した。


南雲は少し間を置いて。


「1時間だ、それでいいなら許可する」


いつもの南雲なら「お別れ会?そんな時間があったら勉強しろ」などと言うはずだったが、操はすんなり許可が出て驚いていた。



その日の夜の食堂


食堂の端っこを陣取りささやかながら遥のお別れ会が行われていた。


・・・・


「それでは最後に折原遥の挨拶で閉めたいと思います」


操はそう切り出すと遥は立ち上がり


「えーと、2週間の間、色々ありましたがとても楽しかったです、もし聖門に受かったらその時はまたよろしくお願いします、ただ私は野球馬鹿なので弓道の道を歩むかは分かりませんが必ず顔を出しにきます・・・・・・ありがとうございました」


そして、1時間が経ち会はお開きとなった。


遥と片霧が部屋に帰ると片霧に大和美佐から内線電話があり、2人は指示のあった購買部に向かった。


2人が購買部に着くと既にシャッターが閉められていてシャッターの前に操が立っていた。


「あれ大和さんこんな所で何してるんすか?」


片霧がそう言うと操は不機嫌な声で


「美佐が折原さんにお詫びにここの制服を特別に試着させてあげるらしいそうよ、何か怪しいのよね美佐がお詫びなんて言葉使うなんて・・」


「ま、まさか、制服プレイ?」と片霧


「夢なら覚めて下さい」と遥


そんな会話をしていると購買部のシャッターが開き美佐が現れ。


「お前らアホか、制服プレイは教室でやるものだ・・・まぁーいい中に入れ」


言われた3人は購買部に入ると美佐はシャッターを閉め、奥のドアを開けて階段を下りて行った。


美佐の後を3人がついて行くと操と片霧が思い出したかのように同時に


「ここは聖服の試着室だ」


2人が驚いた様に言ったが遥には「ここは制服の試着室だ」としか聞こえなかった。


この部屋には全生徒が入れる訳では無く、能力を有し事実を受け止め承諾をした生徒しか入室が出来なかった。


部屋に入ると聖服が飾れていて遥はまさか試着とはいえ制服が着れる楽しみで目をキラキラさせていた。


そして操は美佐に近づき小声で


「美佐この部屋で何を企んでる?」


そう言われた美佐は


「試着してもらう、それだけだ」


「まだ何も・・」


「黙って見てろ操」


操を制しながら美佐は言った。


「じゃー折原さんそこの試着室に用意してあるから着替えて」


そう言われた遥は


「えーと私のサイズは・・・」


「大和は確認済みだ、サイズは上から・・」


美佐は嬉しそうに速攻で答えると。


言われた遥はアレを思い出して耳を真赤にしながら慌てて試着室に入った。


遥が着替え外にでると


「似合ってるじゃん」と操と片霧


「有りだな」と美佐


「無いです」と遥


美佐が咳払いをして


「では、折原さんretrieveと言ってくれ」


「ちょ、ちょっとそれは」と操と片霧が同時に騒ぐと


遥は言われた通りに「retrieve」と声に出した。


少しすると聖服の一部がうっすら光だしまた少しすると消えてしまった。


それを見た美佐はニヤっとしながら


「あっさり認証だな」


「もう認証したんすか?」と片霧


「ありえない位早い・・」と操


美佐はにやけたまま遥に。


「折原遥 制服(聖服)は預けておく、合格予定の前渡しだ、明日からちゃんと勉強して受験に合格して、来年これ着て大和美佐に会いに来い」


遥は何が起こったか分からなかったが、真面目に受験して聖門に入りたかったのもあり


「は、はい 頑張ります」


そう答えた


部屋の残った美佐は壁の鏡の前に立って鏡の裏の部屋にいる人物に


「南雲、聖服でやれそうだと思わない?」


「あの娘がここにこなかったら、来たとしても承諾しなかったら」


「必ず来る、そして力になってくれる」


「どこから来るのその自信は?」


そう聞かれた美佐は鏡に向かってドヤ顔で


「あの身体が私を欲するからだ」


「・・・・」


南雲はそれ以上は答えなかった。

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