第11話 ヒーローは遅れて現れる
「初めまして、三浦繭、十八歳です。大学生です」
「初めまして、大原かおり十八歳です。専門学生です」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
最後に二人揃って頭を下げた。その場にいた選手たちからぱらぱらと拍手が起こる。
繭は改めてみんなの前で挨拶をし、これで今日からこのチームの一員なのだという実感が湧いてきた。
「まあ、先輩も来る気配ないし、先に始めちゃおうか」
自己紹介も終り、たかしは気を取り直して信子さんの方を見た。
「そうですね」
信子さんも人の良い笑顔をたかしに向けた。
その時だった。
「死んだはずだよ~♪おとみさん~♫」
どこかで聞いた珍妙な歌声が、どこからともなく聞こえて来た。
「あ、あの声は!」
たかしと信子さんと繭の三人は同時に叫んだ。
「知らぬおとみさん~♪」
更にそれに連動するように、カラ~ン、コロ~ンと軽快な下駄の音が鳴り響く。
「まさか」
三人は顔を見合わせる。
「おっ、ここじゃ、ここじゃ」
グラウンドの入口に、あのぼさぼさ頭の熊田が上機嫌に鼻歌を歌いながら、ぬぼっと現れた。
「やっぱり」
三人はまた同時に叫んだ。かおりは何の事か分からず、初めて見る熊田を訳も分からず見つめていた。
「あっ、あいつです。あいつですよ。あいつが変態野郎です」
野田がグランドの入り口から歩いて来る熊田を指差し、慌てて隣りの宮間に伝える。しかし、宮間は二日酔いでそれどころではない。
「宮間さん。あいつですよ。言ってた奴」
野田や仲田、志穂が興奮し、宮間の隣りで大騒ぎするが、やはり、宮間はそれどころではない。
「お、みんなそろっちょる。グットタイミングじゃな。たかし」
たかしたちの下に来た熊田は、なぜか上機嫌でたかしに言った。
「い、いえ、思いっきり遅刻です。先輩」
たかしは少し遠慮勝ちにではあるが、はっきりと言った。
「何ゆうちょる」
「は?」
「ヒーローは遅れて現れるもんじゃ。がっはっはっはっ」
そう言って、熊田は豪快に笑った。完全にあっけに取られている選手たちの間に熊田の豪快な笑い声だけが響いた。
「確かに変態だ」
宮間がズキズキする頭を押さえ呟いた。
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