第12話 熊田権造
「今日からうちのコーチをやってくれることになった熊田権造さんだ」
たかしが改めて熊田をみんなの前で紹介した。
「クスッ、権造ってすごい名前」
熊田の直ぐ隣りに立つ繭は、思わず少し笑ってしまった。
「熊田先輩とは高校、大学、社会人とずっと一緒にプレーしてきた仲なんだ」
たかしがうれしそうに言う。
「ええ!サッカー選手だったんだ。見えない」
繭は驚いて、隣りの熊田を改めて見上げた。どう見ても、住所不定、職業不詳の犯罪者予備軍といった感じだった。
「こう見えても、先輩は日本代表にも呼ばれたことのあるすごい選手だったんだよ」
「えっ」
繭は更に驚いた。
「本当はすごい人だったんだ。ごめんなさい。名前を笑って」
繭は人知れず反省し、首をうなだれた。
「???」
その時、隣りに立つ熊田は、そんな一人奇妙な動きの繭に、何だこの子は?、と首を傾げていた。
「あいつが代表までいったサッカー選手かよ」
一方、選手たちの列の中では、野田が怒りを込めて呟いていた。
「監督の先輩だって」
志穂が野田を見る。
「でも、変態に変わりはねぇよ」
仲田が一人、気合を入れる。
「そうだそうだ」
野田が賛同する。
「あたしなんかもろだよ。もろ。もろ見ちゃったからね」
野田が続ける。
「あたしもだよ」
野田と仲田は、真正面で、熊田の下半身をもろに見てしまっていた。
「私も・・」
志穂も顔を赤くして、恥ずかしそうに小さく言った。
「まったくあの野郎。ぜってぇ~、許さねぇ」
野田が息巻く。
「まじで むかつくな」
仲田が続く。
「でも、どうするんです」
志穂が言った。
「どうもこうもねぇよ。あんな奴がコーチなんて認めねぇよ。ねぇ、宮間さん」
野田が宮間を見た。仲田、志穂も宮間を見る。
「ああ」
しかし、宮間はやはり二日酔いで気のない返事だった。
「宮間さんしっかりしてくださいよ」
野田は呆れた。
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