第10話 もう一人の大型新人

「そういえば今日は、もう一人新人の子が来るんじゃなかったかしら」

 その時、信子さんがふと思い出して、たかしを見た。

「あ、そうだ」

 たかしは素早くうなだれていた顔を上げた。

「あ、あの子じゃないかしら」

 信子さんがグランドの入り口を指さした。見ると確かにちょうど入口の方から誰か走ってくる。

「あ、多分そうだね。赤いユニホーム着ているから」

 たかしが言った。

「はあ、はあ、はあ、すみません。道に迷ってしまって」

 その子はすぐにたかしたちのとこまでやって来ると、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。

「かおりちゃんだね」

 そんなかおりに、たかしがやさしく声をかける。

「は、はい、そうです。はあ、はあ」

 かおりは相当走って来たのか、息がかなり上がっている。

「ほんとにすみません」

「大丈夫だよ。今、丁度もう一人の新人の子を紹介していたところなんだ」

 たかしがやさしく言う。

「そうなんですか、良かった」

 その言葉に、かおりは、明るい笑顔で胸に手を当て、ほっと胸をなでおろした。そんなかおりを繭は見上げた。

「すごい、モデルさんみたい」

 繭は、心の中で一人嘆息を漏らした。かおりは目鼻立ちが良いだけでなく、背も高く痩せていてスタイル抜群だった。そして、背に流れるようなまっすぐな長い髪がスマートな体形によく似合っていた。

「ん?」

 でも、何かがおかしい。繭は首を傾げた。

「かおりちゃん背が高いわねぇ、身長いくつ?」

 その時、信子さんがかおりにその人の良い笑顔を向けた。

「一九〇です」

 かおりは少し恥ずかしそうに答えた。

「ひゃ、190!」

 繭は驚いた。確かによく見ると、尋常じゃなくかおりは背が高い。繭は、改めてかおりを見上げた。繭は野田や仲田ほどではないが、身長はどちらかというと低い方だった。だから余計に、そのギャップでかおりが大きく見えた。

「すごい」

 男でもこれほどの身長はなかなかいないし、実際見ることも殆どない。繭は、改めて嘆息を漏らし、かおりを見上げた。

「みんなからいつもすごく驚かれるんです」

 かおりは恥ずかしそうに信子さんに言った。しかし、そんなかおりを大概のことを受け入れてしまう信子さんは、全く動じることなくにこにこと見つめていた。 

 そんな二人の横で、たかしは繭に続いての大型新人に一人興奮していた。

「これはすごい戦力だ。今年こそ。今年こそ」

 たかしの目にはいつにない熱い光が宿っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る