第9話 顔合わせ
「今日からうちのチームに入ることになった三浦繭ちゃんだ」
たかしが、グランドに整列した全メンバーの前で繭を紹介する。
「三浦繭です。よろしくお願いします」
初めて袖を通した真新しい赤いユニホームを着た繭は、整列する選手に向かって丁寧に頭を下げた。
「十七歳で代表に呼ばれたすごい逸材だぞ」
たかしは得意になってみんなに向かって言う。
「い、いえそんな」
しかし、その隣りで繭は、困惑するように本気で照れていた。
「これで、うちのチームも生まれ変わってだな・・、これからは優勝争いに絡むようなチームに・・」
そのまま、たかしは一人興奮し、熱い思いを語り出した。
「絶対に今年こそは・・」
たかしは理想に燃え過ぎて、目はどこか別の世界を見ていた。
しかし、その時、肝心の選手たちは、そんなたかしの熱い話など全く聞いてはいなかった。
「頭いてぇ」
列の後ろで宮間は頭を押さえ、顔をしかめていた。
「昨日飲み過ぎた」
「またですか」
隣りの野田が宮間を見る。
「大丈夫ですか?宮間さん」
その反対側の隣りではやさしい志穂が宮間を気遣う。
「やっぱ焼酎ストレートはダメだな」
「そういう問題じゃないでしょ」
野田の隣りにいた仲田が突っ込む。
「もう、やあね」
麗子がその後ろで、そんな宮間に顔をしかめる。
「こんなすごい子が来てくれたんだ。これで、うちのチームも変わるぞ。もう弱小チームなんて言わせない・・」
たかしの演説はそんな中でも続いていた。
「監督ぅ」
「ん?」
その時、熱く語っていたたかしの演説を遮るように野田が手を挙げた。
「あいつがうちのチームのコーチって本当ですか」
「本当なんですか?」
野田の隣りに立っていた仲田もそれに続いた。
「ああ、それは・・」
「あんな奴がコーチなんて私嫌ですよ」
矢継ぎ早に野田が叫ぶように言う。
「っていうかあいつは何者なんですか」
仲田が更に続く。
「う、うん、まあ、その事はまた後で・・・、そう言えば先輩遅いなぁ。午後から練習だって言ってあるのに」
たかしはグランドの入り口の方を見た。
「そうですね」
信子さんも、たかしの隣りで小首を傾げた。
「あ、あのう」
その時、繭がおずおずと口を開いた。
「ん?なんだい、繭ちゃん」
たかしが繭をやさしく見る。
「あの人なら、寮のおばちゃんと食堂で酒盛りしてましたけど・・」
「えっ」
「出がけにちょっと見えたんで」
「せ、先輩・・」
たかしはがっくりとその場に大きくうなだれた。
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